Omni Gardensの『Golden Pear』は秋にリリースされたアルバムですが、季節がずれても部屋でゆったりくつろぎたいときなどにおすすめです。
Contents
はじめに
米オレゴン州ポートランドを拠点とするアンビエント作家&レーベルMoon Glyph主宰者(2009年~)&デザイナーのSteve RosboroughによるSoothsayer名義後のソロプロジェクトOmni Gardens。
♫ PREMIERE: Omni Gardens (@moonglyph) handles a trip-tunnel of "West Coast Escapism" off new @HOLODECKrecords release https://t.co/GtJvUQgX2b pic.twitter.com/5gBmCr2pH1
— Tiny Mix Tapes (@tinymixtapes) September 25, 2018
Golden Pear
Omni Gardens名義の1stアルバム『West Coast Escapism』(2018年9月28日、Holodeck)や『Moss King』(2020年9月18日、Moon Glyph)に続くアルバム『Golden Pear』(2023年10月27日、Moon Glyph)は、全12曲・35分あまり。
https://twitter.com/moonglyph/status/1717907657133326826
モート・ガーソン『Mother Earth’s Plantasia』
名盤『Mother Earth’s Plantasia』(1976年:Homewood Records、2019年3月22日:Sacred Bones Records)などで知られるカナダの電子音楽家モート・ガーソン(Mort Garson、1924年7月20日~2008年1月4日)を彷彿とさせるモーグ・シンセサイザーのほか、メロトロン・フルート、ビブラフォン、マリンバ、フィールドレコーディングによるポップなアンビエント。
Omni GardensことSteve Rosborough自身がアートワークを手がけたジャケットのボスク梨のように、芳純なリスニング向けサウンドが展開されています。
https://twitter.com/tobirarecords/status/1717691500300231081
クレジット
- Steve Rosborough:作曲、アートワーク
- ショーン・マッカン(Sean McCann):マスタリング
当店でも一番のロングセラーとなっている前作『Moss King』でみせたファジーで暖かく、浮き立つようなムーグの音色はそのままに、本作ではよりドリーミーでアルバムタイトルにもなっているフルーツのような甘美で優しい音作りがなされています。まさに当店のコンセプトにもぴったりな大推薦作品です。 pic.twitter.com/5mraN4tfIZ
— Kankyōrecords (@kankyorecords) October 30, 2023
【1】Rain Jacket
「Rain Jacket」(読み:レインジャケット)は「丈の短いレインコート」のこと。
雨粒が水たまりにピチャピチャ跳ねるだけで楽しく遊べる子どもを連想したくなる、かわいらしいサウンドです。
あるいは栽培中の果物を保護するために被せる果実袋(袋掛け)をあらわしているのかもしれません。
害虫、日焼け、激しい風雨などから守られつつ、すくすく育つ果物も目に浮かぶでしょう。
さまざまな想像がふくらむ、温もりのある素朴なモーグシンセの音色に癒されます。
https://twitter.com/moonglyph/status/1710310713011626098
【2】Wild Marionberries
「野生のマリオンベリー」という意味の「Wild Marionberries」。
マリオンベリーはアメリカの農務省とオレゴン州立大学による開発に伴い、広範囲に試験栽培されたオレゴン州マリオン郡にちなんで名づけられた、1956年発表のブラックベリーの品種です。
日本など世界各地ではジャムに加工されたマリオンベリーをパンやヨーグルトなどと食べるのが一般的かと思われますが、Omni GardensことSteve Rosboroughにとっては地元の名産なので、野生のものをつまむことも可能なのかもしれません。
いすれにしても甘酸っぱさがノスタルジックなサウンドで表現されているようです。
【3】Grassland
フィールドレコーディングによる鳥の鳴き声がアクセントになっている「Grassland」(意味:草原)。
部屋でくつろぎながら聴いていても、広大な草原に導かれ、穏やかな風に揺られる気分を堪能できます。
【4】Patchouli
「Patchouli」(読み:パチョリ)はアロマテラピーのエッセンシャルオイルなどに用いられるシソ科のハーブ。
エフェクトの効いたノスタルジックなモーグシンセのフレーズがミニマルに繰り返され、まるで瞑想を体験したかのように心が落ち着く気がします。
https://twitter.com/moonglyph/status/1712843379137290608
【5】Salt Lamp
「Salt Lamp」(読み:ソルトランプ)は「ヒマラヤ岩塩のランプ」のこと。
ヒーリンググッズ(癒しグッズ)としておなじみでしょうか。
波の音も入っているので、海の塩で清められつつ、ランプの温もりに包まれる雰囲気が漂います。
【6】Our Backyard Fern
エモーショナルなメロディーラインが印象的な「Our Backyard Fern」(意味:我が家の裏庭のシダ)。
「湿気を好む植物シダ」に「涙を流すことで癒される心の傷」を重ねることもできるかもしれません。
勇気を出して裏庭のような深層心理に向き合うと、浄化の涙があふれることもあるはず。
内省的な時間にも寄り添ってくれる優しいサウンドです。
Albums of the Year 2023https://t.co/vMpHfzrNY6 pic.twitter.com/28GUzQbAQu
— New Commute (@new_commute) November 27, 2023
【7】Paperback Book
「Paperback Book」(意味:文庫本)で外から家に戻るイメージでしょうか。
それでも想像の旅は続くかのように、ビブラフォンとモーグシンセの掛け合いが美しい浮遊感の漂うサウンドになっています。
リラックスしながら、お気に入りの物語の世界観に没入できるはず。
Nice list! Cool to see @futuremyth and Omni Gardens on here https://t.co/hr9nUHCM6b
— Moon Glyph Records (@moonglyph) January 2, 2024
【8】Plant Shop
続いて「Plant Shop」(意味:植物ショップ)に出かけた模様です。
フィールドレコーディングによる会話や足音で臨場感が高まり、植物の息吹まで伝わってくる気がします。
It's been an incredible year for ambient music. From a heartrending farewell to Ryuichi Sakamoto to the fuzzy warbles of Omni Garden on @MoonGlyph, @tim_hecker & the delicate experimentalism of @foldthehorse, here are the 10 best ambient albums of 2023.https://t.co/kqZYnRmYFy
— j simpson (til dawn edition) (@for3stpunk) December 21, 2023
【9】Lucky Rosemary
「Lucky Rosemary」のローズマリーもシソ科のハーブ。
香辛料やアロマテラピーのエッセンシャルオイルのほか、宗教儀式などで魔除けとして用いられてきた歴史があります。
あるいはローズマリーなどの植木鉢に生えると幸運が訪れるという俗説のある金色のキノコ(コガネキヌカラカサタケ)も連想できるかもしれません。
モーグシンセのベース音、マリンバ、メロトロン・フルートがミステリアスに響きます。
Here's my best records, eps, singles and reissues in no particular order for yr listening pleasure and enjoy the visual representation of my Twitter vibe: https://t.co/6EWP8ysYpG pic.twitter.com/ucssRPi43v
— Joe Trainor (@joetrainorjunk) November 30, 2023
【10】Honeywisp
「Honeywisp」(読み:ハニーウィスプ)は任天堂のAIアクションゲーム「ピクミン」シリーズに登場する原生生物「ピキマキ」のことでしょうか。
あるいは漠然と「ハチミツの妖精」をあらわしているとも考えられそうです。
想像上の存在がもし実在したら、このようにリバーブ(残響)の効いたアルペジオを響かせながら飛び跳ねているかもしれません。
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『R Plus Seven』
OPNことワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(Oneohtrix Point Never)の6thアルバム『R Plus Seven』(2013年9月30日、Warp)で用いられているアルペジオに対する反応という指摘もあります。
https://twitter.com/wipeoutbeat/status/1720543286702846253
【11】Sunday Robe
低音の響きが印象的な「Sunday Robe」(意味:日曜日のローブ)。
想像から現実に戻ると、休みの日に部屋着でくつろぐリスナー自身も、妖精よりは重力を感じつつ、心が飛び跳ねるように軽くなっているといった展開かもしれません。
Omni Gardens :: Golden Pearhttps://t.co/5BtI4pNHcF
Like previous releases, the foundations of these instrumental compositions are the burbling tones of the Moog, played with the gentle grace of Mort Garson.
— aquarium drunkard (@aquadrunkard) November 3, 2023
【12】Autumn Haze
ラストを飾る「Autumn Haze」(意味:秋のかすみ)。
アーティスト名は「Omni Gardens=すべての庭」、アルバム名は『Golden Pear=金色の洋梨、ボスク梨』なので、やはりイメージするべき季節は秋のようです。
ただ「秋のかすみ」で締めくくられているので、春夏冬に秋を想像することもできるのではないでしょうか。
実りの季節を思い描かせてくれる瑞々しいアルバムでした。
OUR BEST OF OCTOBER LISTS ARE UP!
best 10 albums
best 5 EPS
best 20 trackssee it all + BNDCMPR/SPOTIFY playlists here⬇️ https://t.co/UwPqcBQqug pic.twitter.com/LdNuXHQMSS
— SMALL ALBUMS (@SMALLALBUMS) November 1, 2023
おわりに
苔に特化した前作『Moss King』に続く、梨がテーマの『Golden Pear』ということで、植物のように穏やかなアンビエント作に仕上がっていました。
2020年以降、「音楽はライブで楽しむのが醍醐味」という従来の考え方がままならない現状もあり、リスニング向けのアンビエントを求める人は増えていると考えられます。
アンドレ3000『New Blue Sun』
米アトランタ出身のラッパー、アンドレ3000(André 3000)がラップをせずにフルートを奏で、カルロス・ニーニョ(Carlos Niño)やマシューデイヴィッド(Matthewdavid)らとコラボしたアンビエント、ニューエイジ、スピリチュアルジャズのアルバム『New Blue Sun』(2023年11月17日、Epic・Sony)が話題になっているのも象徴的な現象といえそうです。
Ahead of the release of Andre 3000's 'New Blue Sun,' Matthewdavid talked to Rolling Stone about being a part of one of the year’s most surprising records.
More:https://t.co/gv90C0vAKf pic.twitter.com/Vu2OQABVH0
— Rolling Stone (@RollingStone) November 18, 2023
とはいえ、アンビエントに商業音楽らしい派手さはないため、コアな少数ファンのあいだで地味に浸透している印象を受けます。
そのなかでも米オレゴン州ポートランドのレーベルMoon Glyphは、日本のKankyo Recordsに通じる先鋭的な穏やかさを放っているといえるでしょう。
https://twitter.com/moonglyph/status/1583472691688116225
Atoris『Sea & Forest』
実際、Kankyo Records主宰者H.Takahashiさんが所属する3人組ユニットAtorisのアルバム『Sea & Forest』(2022年10月21日)はMoon Glyphからリリースされました。
アンビエントのなかでも細分化、多様化、深化が目覚ましく、(混乱もあるようですが)Bandcampやカセットテープを軸としたリリースもレーベルも数が多いため、過去の名盤に続いてどれを聴いたらいいのかよくわからない人もいるはずです。
もちろん好みの違いはあるものの、環境音楽の概念そのものを体現しながら現行アンビエントシーンを牽引する存在としてKankyo RecordsおよびH.Takahashiさんに注目すると、Moon GlyphおよびOmni Gardensにもつながります。
少しずつじっくりと良質なアンビエントを追いかけていきましょう。
H.Takahashi、Yudai Osawa、Kohei Oyamadaによるユニット・Atorisの新作『Sea & Forest』が米ポートランドのアンビエントレーベル【MOON GLYPH】から本日発売されました。徐々に海や森の深部に潜っていくようなストーリー性と没入感のある作品に仕上がっています。是非聞いてみてください。 pic.twitter.com/6kNaWyFrOz
— Kankyōrecords (@kankyorecords) October 21, 2022
ディスコグラフィ
- Soothsayer『Keynes Utopia』2012年2月13日、No Kings
- 『West Coast Escapism』2018年9月28日、Holodeck
- 『Field Recordings: Hawaiʻi』2018年12月3日、Slyme Records
- 『Field Recordings: Oakland』2019年3月28日、Slyme Records
- 『Moss King』2020年9月18日、Moon Glyph
- 『Divine Mother』2020年12月15日、Longform Editions
- 『Field Recordings: Oregon Rain』2022年3月4日
- Omni Gardens & Zen Monk Jogen『New Directions in Meditation Tonalities』2022年8月5日、Crash Symbols
リンク
- AllMusic:Omni Gardens、Golden Pear、Moon Glyph、Steve Rosborough
- Discogs:Omni Gardens、Golden Pear、Moon Glyph、Steve Rosborough、Soothsayer
- Linktree:Moon Glyph
- X(Twitter):Moon Glyph
- Instagram:Omni Gardens/Steve Rosborough、Moon Glyph
- Facebook:Omni Gardens/Steve Rosborough、Moon Glyph
- YouTube:Omni Gardens/Topic、Golden Pear、Moon Glyph
- Tower Records:Omni Gardens
- disk union:Omni Gardens、Golden Pear/輸入盤LP
- Jazzy Sport Shimokitazawa(東京・下北沢):Omni Gardens、Golden Pear/輸入盤LP
- Kankyo Records(東京・三軒茶屋):Omni Gardens、Golden Pear/輸入盤LP
- 芽瑠璃堂(埼玉・坂戸):Omni Gardens、Golden Pear/輸入盤LP
- Tobira Records(兵庫・加西):Omni Gardens、Golden Pear/輸入盤LP
- Spotify:Omni Gardens、Golden Pear、Moon Glyph
- Apple Music:Omni Gardens、Golden Pear
- Bandcamp:Omni Gardens、Golden Pear、Moon Glyph
- SoundCloud:Omni Gardens、Moon Glyph