音楽

ファビアーノ・ド・ナシメント『Das Nuvens』ナウシカの影響を受けたLeaving Records移籍作

サム・ゲンデルSam Gendel)の盟友でもあるブラジル出身のギタリスト、ファビアーノ・ド・ナシメント(Fabiano do Nascimento)。
自身初のLeaving Recordsからのリリースとなったアルバム『Das Nuvens』は、浮遊感あふれるアンビエントとしても楽しめます。

はじめに


1983年、ブラジル・リオデジャネイロ生まれ、米ロサンゼルスを拠点とするギタリスト&作曲家&プロデューサー、ファビアーノ・ド・ナシメント(Fabiano do Nascimento)。

Das Nuvens


7thアルバム『Das Nuvens』(読み:ダス・ヌーヴェンス、英訳:From The Clouds、意味:雲から、2023年7月21日、Leaving Records)は、先行シングル2曲を含む、全11曲・39分あまり。
国内盤CD(PLANCHA)は、ボーナストラック1曲を含む、全12曲・約43分です。

マシューデイヴィッド『Mycelium Music』


鬼才マシューデイヴィッドMatthewdavid)が主宰するレーベルLeaving Recordsからのリリース。

エリック・クラプトン「How Could We Know (feat. Judith Hill, Simon Climie & Daniel Santiago)」


エリック・クラプトンEric Clapton)とのコラボでも注目を集めるギタリスト&作曲家&プロデューサーの盟友ダニエル・サンチアゴDaniel Santiago)と共に制作されました。

Lendas


イチベレ・ズヴァルギ(Itibere Zwarg)率いるコレクティヴとのコラボ作『Rio Bonito』(2022年12月7日、rings)、ヴィトール・サントス(Vittor Santos)率いるオーケストラやアルトゥール・ヴェロカイ(Arthur Verocai)とのコラボ作『Lendas』(2023年1月19日、Now-Again Records)に続くアルバム『Das Nuvens』。
ブラジル音楽を踏まえつつ、実験的な電子音楽の要素が強まり、幽玄の境地に導かれます。

クレジット

【1】Babel


旧約聖書の「創世記」に登場するバベルの塔にちなんだ曲名がつけられた「Babel」。
ミニマルなギターフレーズ、ダブステップっぽいビートが軸となり、重低音のシンセベースなどが重なる構成です。
「人間が神の領域に近づこうとすると混乱が生じる」という神話を連想したくなる浮遊感が漂っています。

【2】Thrdwrld


「Thrdwrld」という曲名は、ブラジルを含むラテンアメリカなどの第三世界をあらわしているのでしょうか。
エレクトロニカっぽいビートに、フォーキーなアコースティックギターなどが交ざり、「西と東」や「機械と人間」などの敵対関係ではない「中立の世界」が存在するような穏やかな気分になります。

【3】Train to Imagination


ミニマルなギターとベースのフレーズに、さまざまなビートやシンセのドローンが展開される「Train to Imagination」。
アンビエントという名の汽車に乗って、どこまで連れて行かれるのか、想像力をたくましくしたくなるようなイメージでしょうか。

【4】Das Nuvens


タイトル曲かつ第1弾シングルの「Das Nuvens」(2023年5月23日)。
音なしで再生していた宮崎駿監督のアニメ映画『風の谷のナウシカ』(1984年)の冒頭の映像などにインスパイアされたそうです。
アルバムジャケットから日本の国旗を連想できたり、日本語の曲名があったりするのもオマージュが込められているのでしょうか。
ナウシカのように架空の飛行具メーヴェに乗って、雲の上からコロナが蔓延する世の中を憂いているのかもしれません。

【5】Yûgen


第2弾シングル「Yûgen」(2023年6月20日)は、その曲名どおりの「幽玄」なサウンド。
「空を飛び続ける鳥」と「踊り続ける、水生植物を彷彿とさせる存在」が同列に並んでいるかのような不思議なビジュアライザーも相まって、幻想的な世界に誘われます。

【6】Aurora


アナログ盤ではB面の1曲目となる「Aurora」は、やはり曲名どおり「オーロラ」を想起させられるアンビエントドローン。
ブラジル出身のギタリストというより、実験的な電子音楽家といったほうがしっくりくるほど、Leaving Records主宰者マシューデイヴィッドへのリスペクトが感じられるサウンドになっています。

【7】Eterno


「永遠」を意味する「Eterno」を聴くと、結局ファビアーノ・ド・ナシメントはエクスペリメンタルなギタリスト&プロデューサーとして新境地を開拓し続けてくれそうな気がします。
ブラジル音楽と電子音楽の旨味がいい塩梅で融合されていて、残響を含む1音1音に悠久の時が凝縮されているかのような心地よさ。
いつまでも聴いていたいと感じるのではないでしょうか。

【8】Stranger Nights


「Stranger Nights」では、ギターとビートで紡がれるパターンに、キラキラきらめく高音のシンセと重低音のベースサウンドが展開されていきます。
星の輝く夜に、『風の谷のナウシカ』の巨神兵が現れるようなイメージでしょうか。
1曲目の「Babel」も、『風の谷のナウシカ』でかつて人が築いたという「天に届く壮麗な都市」だったのかもしれません。
いずれにしてもファンタジックな想像をかき立てられるサウンドです。

【9】Blu’s Dream


夢見心地のフュージョンっぽい「Blu’s Dream」。
リバーブのかかったギターとシンセが浮遊感たっぷりに響きます。
白い雲が点在する青い空を飛んでいるのか、はたまた水面に浮かんでいるのか、あるいはブルージーな夢を見ているのかもしれません。

【10】3 Pontas


「3 Pontas」という曲名は、ブラジル・リオデジャネイロ生まれのミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)が育った地区でもある、ミナスジェライス州トレスポンタスをあらわしているのでしょう。
ファビアーノ・ド・ナシメント流のMPBには、80年代エレクトロも含まれるのかもしれません。
ファンキーな重低音がノスタルジックに響きます。

【11】Amoroso


「愛する」という意味の「Amoroso」。
ニュージャズっぽいテイストで、ギターとパーカッションの心地いい掛け合いで締めくくられます。
混乱した現実に立ち向かうための幻想的な音楽そのものが、愛情のあらわれともいえるでしょう。

【12】Das Nuvens Live

ボーナストラック「Das Nuvens Live」は、4曲目「Das Nuvens」のライブバージョン。
2023年6月21日、ロサンゼルスのロッジルームLodge Room)にて開催されたライブの音源です。
盟友サム・ゲンデルらを迎えたカルテットによる演奏で、マスタリングはマシューデイヴィッドが手がけました。
実験的な電子音楽のようなサウンドを、生楽器で演奏する醍醐味が堪能できます。
ブラジル音楽、ジャズ、アンビエント、エレクトロニカなどがポップに昇華されていて、こうしたひかえめな実験音楽こそ、時代を反映した最先端の音楽ではないかと感じさせてくれる秀作でした。

おわりに


マシューデイヴィッドの『Mycelium Music』は究極の最先端すぎて刺激が強めかもしれませんが、実験的ながらも聴きやすいサム・ゲンデル&サム・ウィルクス(Sam Wilkes)の『Music for Saxofone & Bass Guitar More Songs』(2021年7月21日)もロサンゼルスのLeaving Recordsからのリリースでした。
ジャンルを問わず、心地いい音響を追求するレーベルとして、革新的かつバランスがとれていると考えられます。
こうしたLA音楽シーンの充実ぶりも反映されたアルバム『Das Nuvens』や『Mycelium Music』の国内盤CDをリリースした日本のレーベルはPLANCHA
アサ・トーン(Asa Tone)の『Temporary Music』(2020年1月31日)など、さかのぼって紹介したくなる傑作が山ほどあることにようやく気づいたところですが、新譜も目白押しなので、折に触れ追いかけていきましょう。

長谷川白紙「口の花火」


ちなみに日本人初の所属となった、長谷川白紙さんのフライング・ロータスFlying Lotus)主宰レーベル、ブレインフィーダーBrainfeeder)デビューシングル「口の花火」(2023年7月25日)に、サム・ウィルクスがベースで参加しているのも衝撃的です。

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渡辺和歌
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