音楽

WONK『artless』初の日本語歌詞を含む、オーガニックな5thアルバム

WONK(ウォンク)の『artless』(アートレス)は日常生活に寄り添ったオーガニックなアルバム。
ドルビーアトモスで作られた立体的なサウンドや初の日本語歌詞を含むなど、進化しつつ肩ひじを張らない温もりにあふれています。

はじめに


2013年に結成された4人組エクスペリメンタルソウルバンドWONKのバンド名の由来は、ジャズピアニストのセロニアス・モンクThelonious Monk)。
エクスペリメンタルソウルつまり「実験的ネオソウル」と称して、音楽性の高いサウンドを展開しています。

  • 左→右:井上幹、長塚健斗、荒田洸、江﨑文武

長塚健斗


ボーカルの長塚健斗(ながつか けんと)さんは1990年6月16日生まれ、東京都あきる野市出身の料理人。

江﨑文武


キーボードの江﨑文武(えざき あやたけ)さんは1992年11月19日生まれ、福岡県福岡市出身、東京藝術大学・音楽学部卒業、東京大学大学院・情報学環教育部・学際情報学府・修士課程修了。
millennium paradeミレニアムパレードミレパ)の鍵盤奏者で、King Gnuキングヌー)の楽曲にも多数参加し、ソロ活動もしています。

井上幹


ベースの井上幹(いのうえ かん)さんは1990年9月15日生まれ、東京都町田市出身、慶應義塾大学・法学部卒業。
作編曲家、サウンドエンジニア、ゲームサウンドデザイナーとしても活動しています。

荒田洸


リーダーでドラムの荒田洸(あらた ひかる)さんは1992年5月22日生まれ、東京都世田谷区出身、慶應義塾大学・文学部卒業。
ソロ活動もしています。

ディスコグラフィ

WONK RADIO #61:artless

5thアルバム『artless』(2022年5月11日)は先行シングル1曲を含む、全6曲・約23分。

WONK RADIO #60:Dolby Atmos


立体音響技術(従来のチャンネルベースオーディオではない、オブジェクトベースオーディオによるサラウンド記録再生方式)ドルビーアトモス(Dolby Atmos)仕様で作られているので、対応機器を使い、導入されている音楽配信サービスApple MusicAmazon Music HDで聴くと、それぞれの環境に応じて、高さも含めた立体的な音を体感できます。


打ち込みが多く、コンセプチュアルに作り込まれた4thアルバム『EYES』に対し、『artless』では等身大の日常が取り上げられていて、歌に寄り添ったオーガニックなサウンド(打ち込みではない楽器演奏)が特徴的。
生活に溶け込む極上の音楽に浸りましょう。

【1】Introduction #6 artless


井上幹さんがディレクションした、WONKのなかでも異色な1分足らずのイントロ。
メロディやコードはなく、メンバー4人がステージやスタジオに立つ際の流れ(靴音やチューニングの音など)がオーディオで再現されています。
「ありのまま、素朴な」という意味のアルバム『artless』を象徴する導入という位置づけです。

WONKが語る「Introduction #6 artless」

【2】Cooking


料理人でもある長塚健斗さんらしい、ゆったりとした幸せな日常が描かれた「Cooking」。
朝はパートナーより早起きしてコーヒーを淹れ、ベーコンエッグを作り、夜はパートナーより早く帰宅してパスタをアルデンテに茹でています。
江﨑文武さんがローズピアノを弾いているのは、『artless』全6曲中この「Cooking」のみ。
従来のWONK的なネオソウルに、初披露となる井上幹さんのアコースティックギターが加わることで朝っぽいイメージのサウンドになり、アルバム序盤というポジションにも適しています。

WONKが語る「Cooking」

【3】Migratory Bird


実験的なサウンドが多いWONKには珍しく、メロディとコード進行がシンプルなデジタルシングル「Migratory Bird」(2022年4月27日)。
渡り鳥のようにどこかへ行ってしまった魅惑者に対する失恋の悲しみが、季節の流れや時間の経過とともに前向きな気持ちに変わっていく過程が描かれています。
前半は長塚健斗さんのボーカルと井上幹さんのアコギのみで、後半から木製スティックではなく、ブラシで叩く荒田洸さんのドラムと江﨑文武さんのピアノも加わる構成です。
ビートルズThe Beatles)の「Blackbird」(9thアルバム『The Beatles(White Album)』1968年11月22日)のような雰囲気も漂います。

WONKが語る「Migratory Bird」

【4】Euphoria


タイトルの「Euphoria」(ユーフォリア)とは「陶酔感、多幸感、幸福感」のこと。
長塚健斗さんにはアルコール依存症で苦しんでいる友人がいて、「大変なときは弱くてもいい、お酒に溺れてもいい、大丈夫」といった許しや救いが描かれています。
冒頭のこもった音に聴こえる長塚健斗さんのラジオボイス、井上幹さんのベースと荒田洸さんのビートによるレイドバックしたディラビートよれたビート)、ポストクラシカル的にフェルトを噛ませ(フェルトピアノ)、ワウを効かせ(クラビネットではない)、動き回るように鳴る、江﨑文武さんのアップライトピアノ、口笛など、聴きどころ満載です。

WONKが語る「Euphoria」

【5】Butterflies


「Butterflies」の歌詞のテーマは「夜の蝶」、いわゆる「夜の仕事」に従事する女性が描かれています。
WONKのメンバー4人は遊びに行かないものの、長塚健斗さんの友人が「夜の店」でスタッフの世話をしていて、心のケアが大変というエピソードが背景にあるそうです。
「夜の世界」のきらびやかな面とダークな面の両方が表現されていて、「夜の蝶」が舞うような江﨑文武さんの鍵盤、井上幹さんのシンセベース、荒田洸さんのブラシを使ったドラムが印象的に響きます。

WONKが語る「Butterflies」

【6】Umbrella


WONK初の日本語歌詞の「Umbrella」。
まるで「困りごとを抱えていない人はいないのではないか?」というくらい、混沌とした世の中になっているかもしれません。
だからこそ困っている人に対して「傘を差しかけるように、手を差し伸べたい」と願う、優しいバラードが心に染みわたります。

WONKが語る「Umbrella」

おわりに


ドラマ「アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~」(2021年1月~3月)の主題歌、香取慎吾さんの「Anonymous (feat.WONK)」(2021年2月1日)。


ジャズピアニストのロバート・グラスパーRobert Glasper)も出演した新世代ジャズフェスティバル「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022」(2022年5月14日~15日)への参加など、幅広く活躍しているWONK。


フジロックには2018年(Pyramid Garden)に続き、2022年の出演が決定しています。
そろそろWONKの魅力に気づく人が爆発的に増える頃ではないでしょうか。

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渡辺和歌
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