音楽

野流『梵楽』オートハープやネイティブアメリカンフルートが雅に響く和アンビエント

楽器未経験者も参加できる野流(Yaryu)とは?
まずは1stアルバム『梵楽』(Bongaku)から聴いてみましょう。

はじめに


2022年、Hyozo(Hyozo Shiratori、白鳥兵蔵)さんと織川一(Hajime Orikawa)さんの2人によって、千葉県市原市五井で結成された不定形の音楽家集団(流動的な共同体、自由参加型音楽集団)、野流(Yaryu)。
アンビエント系の音楽制作のほか、ライブ(@ライブハウス、レコード店、アートギャラリー、カフェなど)、即興演奏ワークショップ(音の即売会)、セッションイベント(しらべ)、インスタレーションなどを行っています。

コアメンバー

梵楽


1stアルバム『梵楽』(Bongaku、デジタル・カセットテープ:2023年6月14日、LP:2023年11月3日、造園計画)は、全4曲・40分あまり。
Hyozoさんはサイケバンド煙客Yenkark、2015年~)、De Loriansデロリアンズ、2016年:結成、2021年6月:脱退)、シベールの日曜日Sundays & Cybele2018年~)のキーボード奏者でしたが、コロナ禍により音楽活動を辞め、地元の千葉で庭師として働いていたところ、店舗型スタジオ(カセットテープショップ)ゴヰチカgoichika)、アートギャラリー京葉画廊(keiyo garo)とつながり、東京・新高円寺の音楽教室&制作スタジオOTOlab(オトラボ)との縁もあり、幼なじみの織川一さんとの野流の活動やアルバム制作に至ったそうです。
そのため『梵楽』は創設メンバー2人によるデュオ作になっています。

増井ビル解体祭


『梵楽』のレコーディング後、君島結さんが運営するツバメスタジオ(東京・日本橋小伝馬町に移転)が入居していた増井ビル(東京・浅草橋)の取り壊しを悼む即興演奏の「増井ビル解体祭」(ビルの葬式、2022年9月10日、撮影:白岩義行さん)に、シベールの日曜日のベーシスト水野翔太さんとの3人編成で参加したところ、次々に音楽家が加わったことをきっかけとして、コアメンバー5人のほか、誰でも参加できるセッション集団へと発展したそうです。
さらにHyozoさんは5人組サイケバンドhYouU€a(phouca?)(読み:ヒョーカ、2023年6月~)としても活動中。
『梵楽』はこうした背景も垣間見える和アンビエント&ニューエイジ作品に仕上がっています。

【1】艸幻


」は「草」の本字(本来の字体、もとの漢字)なので、「艸幻」(Sougen)という曲名は「草原」の当て字、もしくは想像をふくらませた造語でしょうか。
『梵楽』は基本的にHyozoさんと織川一さんによるオートハープ、エレピ、パーカッションなどの即興演奏を編集して制作されました。
オートハープはハープではなく、ララージLaraaji)が演奏することでも知られる弦楽器ツィターの一種、ギターツィターやコードツィターとも呼ばれます。
ざっくり「ツィター+和音を出せるコードバー=オートハープ」という仕組みです。
ただし、カルロス・ニーニョ&フレンズ(Carlos Niño & Friends)のアルバム『Extra Presence』(2022年7月22日、International Anthem / rings)にも参加したララージも、野流の2人も、コードバーを外してオープンチューニングにしているため、どこを触っても美しい和音(コード)が響きます。
ちなみに、ミシェル・ンデゲオチェロMeshell Ndegeocello)がアルバム『The Omnichord Real Book』(2023年6月16日、Blue Note Records / Universal Music)で活用したオムニコード(およびQコード)は、鈴木楽器製作所によるオートハープのような電子楽器です。
8分半を超える「艸幻」のうち、7分まではエレピのキッチュな電子音とオートハープの美しい音色で盛り上がり、7分からは木製と鉄製のパーカッションによるプリミティブなセッションが展開されます。
このアンビエントでありながらもサイケデリックな音色は、イタリアのプログレバンド、ピッキオ・ダル・ポッツォ(Picchio dal Pozzo)を意識し、『梵楽』制作のきっかけとなり、レコーディングも行ったOTOlabの石倉夏樹さんがRoland JUNOオシレーター(OSC)で音作りしたそうです。
「幻のような草原」が目に浮かぶでしょう。

ピッキオ・ダル・ポッツォ『Picchio dal Pozzo』

【2】虹遊


約8分の「虹遊」(Jiyuu)は「虹で遊ぶように自由」といったニュアンスでしょうか。
くぐもったグリッチのようなミニマルなフレーズときらびやかなオートハープの残響の対比が印象的です。

【3】曲亭


14分におよぶ長尺の「曲亭」(Kyokutei)は、江戸時代後期の読本(伝奇小説)『南総里見八犬伝』の戯作者曲亭馬琴(滝沢馬琴、本名:滝沢興邦)さんの戯号(筆名)、もしくは由来となった中国の山の名前でしょうか。
織川一さんが奏でるネイティブアメリカンフルートは、邦楽とジャズの融合で知られる人間国宝の尺八奏者、山本邦山(Hozan Yamamoto、1937年10月6日~2014年2月10日)さんを彷彿とさせるかもしれません。
ただし、織川一さん自身が意識したのは、ジャズサックス奏者ファラオ・サンダースPharoah Sanders)のアルバム『Thembi』(テンビ、1971年、Impulse!)収録曲「Red, Black & Green」とのこと。
いずれにしても壮大な物語を連想できるでしょう。

1975年(昭和50年) 尺八・山本邦山 “Shakuhachi Master”


Chihei Hatakeyama畠山地平)さんがサウンドトラックを手がけたドキュメンタリー映画『ライフ・イズ・クライミング!』(2023年5月12日、シンカ)の監督でもある中原想吉さんが代表を務めるインタナシヨナル映画International Motion Pictures Co., Ltd、IMPC)のYouTubeチャンネルFilm Archive of Japanによる貴重な映像です。

ファラオ・サンダース『Thembi』

【4】空寛


オートハープ2台による即興演奏後、編集はしなかったという「空寛」(Kuukan)。
曲名は「ゆったりとした空間」をあらわしているでしょうか。
あるいは平安時代中期の真言宗智山派の僧、寛空(蓮台寺僧正、香隆寺僧正)が再興した上品蓮台寺(じょうぼんれんだいじ)のしだれ桜を連想できるかもしれません。
9分半を超える「ゆったりとした時間」も堪能できます。

しらべ


カセットテープにDLコードが付属している「極乙」は、野流主催のセッションイベント「しらべ」の一部を切り取ったもの。
東京・西調布の音楽スタジオStudio REIMEIスタジオレイメイ)で開催された第1回(2022年12月11日)には、コアメンバー5人のほか、De Loriansの野上宗也さんと石田健文さん、『梵楽』をリリースしたレーベル造園計画を主宰する2人組ロックバンド帯化の島崎森哉さんと須永大河さん、Studio REIMEIのSAGOさん(SAGOSAID)とYusuke Shinmaさん(VINCE;NT)も参加しています。

おわりに


野流は「平野を流れる穏やかな川、川の下流」という意味ですが、「循環を繰り返す川」に「参加者や演奏者が即興的に入れ替わる集団」の在り方そのものが重ねられていて、「ワイルドスタイル、我流」といったニュアンスも込められているとのこと。
そこには「コロナの3年間を経たZ世代による大変動」も含まれるかもしれません。


2ndアルバムには岡田拓郎さんも参加しているそうで、バンド経験者とはいえクラシックなどの音楽教育を受けたことがないHyozoさんと、野流以前は楽器未経験だった織川一さんによる『梵楽』以降の「我流」の展開も楽しみです。

メアリー・ラティモア『Goodbye, Hotel Arkada』


オランダのマルチ奏者&作曲家&プロデューサー、フェルボムFelbm)も影響を受けたという米LAのハープ奏者メアリー・ラティモアMary Lattimore)のアルバム『Goodbye, Hotel Arkada』(2023年10月6日、Ghostly International / PLANCHA)では、改修工事に直面するクロアチアのホテルに伴う喪失感が表現されています。
オートハープではなくハープ、「ビルの葬式」ではなく「ホテルの改修工事」、「我流」ではなく「ハープ奏者の母にハープを教わり、イーストマン音楽学校でクラシックを学んだ」という違いも含めて、どちらも堪能してみてはいかがでしょうか。

マシュー・ハルソール『An Ever Changing View』


UKマンチェスターのトランペッター&レーベルGondwana Records主宰者マシュー・ハルソールMatthew Halsall)のアルバム『An Ever Changing View』(2023年9月8日、輸入盤・国内流通仕様CD:2023年10月28日、Gondwana Records)もどうぞ。

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渡辺和歌
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