音楽

ジョシュ・ジョンソン『Freedom Exercise』ジェフ・パーカー一派!サックス&キーボード奏者のデビュー作

ジェフ・パーカー(Jeff Parker)『The New Breed』(2016年6月24日:International Anthem、2022年10月19日・11月30日:rings)、マカヤ・マクレイヴン(Makaya McCraven)『In These Times』(2022年9月23日、International Anthem・Nonesuch・XL / Beat)といった名盤にも参加しているジョシュ・ジョンソン(Josh Johnson)のデビューアルバム『Freedom Exercise』がCD化されました。

はじめに


ジョシュ・ジョンソンは1990年頃、米メリーランド州タコマパーク生まれ、イリノイ州ネイパービル育ち、シカゴ出身、2012年に西海岸に移り、ロサンゼルス(LA)を拠点に活動するサックス&キーボード奏者(マルチ奏者)、作曲家です。
インディアナ大学ジェイコブズ音楽院ではデイヴィッド・ベイカーDavid Baker)やカーティス・フラー(Curtis Fuller)やルーファス・リードRufus Reid)に学び、UCLAの音楽学部ことハーブ・アルパート音楽学校の敷地にある旧セロニアス・モンク・インスティテュート・オブ・ジャズ(2019年に名称変更、現ハービー・ハンコック・インスティテュート・オブ・ジャズ)ではウェイン・ショーターWayne Shorter)やハービー・ハンコックHerbie Hancock)に師事。
ジェフ・パーカー、マカヤ・マクレイヴンのほか、ジャマイア・ウィリアムスJamire Williams)、マーキス・ヒルMarquis Hill)、カルロス・ニーニョ&フレンズ(Carlos Niño & Friends)、マーク・ド・クライヴ・ロウMark de Clive-Lowe)、サラ・ガザレクSara Gazarek)、ルイス・コール(Louis Cole)、キーファーKiefer)、リオン・ブリッジズ(Leon Bridges)、ハリー・スタイルズ(Harry Styles)、ムーンチャイルド(Moonchild)、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)など、多数の作品に参加しています。

Freedom Exercise


初のリーダー作『Freedom Exercise』(フリーダム・エクササイズ、2020年10月9日:Northern Spy)は、先行シングル3曲を含む、全10曲・約37分。
国内盤CD(2023年3月23日:rings)は、ボーナストラック「Western Ave Mix (Extended Play)」を含む、全11曲です。
いわゆる「音楽雑食」な盟友3人をゲストに迎え、凄腕エンジニアも集結した名盤に浸りましょう。

クレジット

グレゴリー・ユールマン

LAのマスロックバンド、フェル・ランナーFell Runner)のフロントマン、ギタリスト(マルチ奏者)、SSW、プロデューサーのグレゴリー・ユールマン

アンナ・バタース

オーストラリア出身、LAを拠点に活動する女性ベーシスト(マルチ奏者)アンナ・バタース

アーロン・スティール

LAとナッシュビルを拠点に活動するドラマー&パーカッショニストのアーロン・スティール

ポール・ブライアン

ジョシュ・ジョンソン、マカヤ・マクレイヴン、ジャマイア・ウィリアムスらと共に、ジェフ・パーカー&ザ・ニュー・ブリード(Jeff Parker & The New Breed)のメンバーでもある、LAのプロデューサー、作編曲家、ベーシストのポール・ブライアン

デイヴ・クーリー

J・ディラ(J Dilla)『Donuts』(2006年2月7日、Stones Throw)、ジェフ・パーカー『The New Breed』、マカヤ・マクレイヴン『In These Times』も手がけたマスタリングエンジニアのデイヴ・クーリー

【1】Nerf Day


第3弾シングル「Nerf Day」(2020年9月22日)。
曲名の「Nerf」は「弱体化する、下方修正する、おもちゃ、ニセモノ」といった意味です。
グレゴリー・ユールマンの歪んだギター、アーロン・スティールのシャッフルする(ハネる)ドラムに、アンナ・バタースのベース、ジョシュ・ジョンソンのアルトサックスが重なり、絶妙にテンポが変化する後半に至る頃には、日常的な現実感が揺らいでいるのではないでしょうか。

【2】856


第1弾シングル「856」(2020年8月12日)。
その曲名どおり、ジョシュ・ジョンソンがルーパー&サンプルシーケンサーのMontreal Assembly 856 for Zellersasnを活用し、スティーヴ・ライヒ(Steve Reich)やフィリップ・グラス(Philip Glass)を彷彿とさせるミニマルかつ多層的な音のうねりを生み出しています。

【3】Western Ave


第2弾シングル「Western Ave」(2020年9月1日)。
シカゴとLAの両方にある大通りにちなんだ曲名ですが、マカロニ・ウェスタン(イタリア製西部劇)の劇伴で名を馳せたエンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone)へのリスペクトも感じられます。
アフロビートの進化系のようなドラムに、ギターとベースがユニゾンするリフやホーン、シンセが重なり、荒涼とした砂漠で紡がれる物語が目に浮かぶようです。

【4】Bowed


「お辞儀をした、弓(Bow)のように曲がった」という意味の「Bowed」。
即興的な始まりから渦を巻くように循環していくホーン、ギター、ベースとジャジーなドラムの組み合わせに引き込まれます。

【5】Eclipsing


「月食」の日に亡くなったという祖母に捧げられた「Eclipsing」。
バスクラリネットを含むホーンのループが印象的で、大地のリズムを刻むジャンベのようなドラムや力強いベースに、エッジの効いたギターや不思議な残響が重なります。

【6】New July


「New July」でイメージされるのは、サスペンス映画の緊張感に満ちた場面。
アンナ・バタースのベースのかっこよさに惚れ惚れします。

【7】False Choice


ジャズフュージョン、エレクトロファンク、ポストロックが「誤った選択」で融合されたような「False Choice」。
ジョシュ・ジョンソンの奏でるシンセベースやスリリングな展開に痺れます。

【8】Punk


「Punk」は進化したパンクの現在地といえるでしょう。
冷静に荒ぶるサックスとドラムの掛け合いが達観した境地に導いてくれます。

【9】Simple Song


約6分とアルバム中もっとも長尺の「Simple Song」。
全体的に穏やかながらも、6曲目「New July」から8曲目「Punk」までがやや不穏な曲調だったので、ここでノスタルジックな雰囲気に浸って落ち着く構成になっていると考えられます。
親しみやすいとはいえ、「シンプルソング」というには予測不可能なメロディーも繰り広げられているところがおもしろいでしょう。

【10】Return Recoil


ラストに戻るのは「反動」でしょうか、それとも「状態管理」でしょうか。
9曲目「Simple Song」ではなく、シカゴのポストロック(シカゴ音響派)の旨味が凝縮された薄明光線のようなサウンド「Return Recoil」で締めくくられるところに、「音楽雑食」らしい遊び心と美学を感じます。

おわりに


シカゴのポストロック(シカゴ音響派)とLAジャズが融合すると、現代音楽、電子音楽、ブラックミュージックの文脈からも楽しめる先鋭的な音楽になるところが興味深いです。


「リーダー作でも過度な自己主張がないのは音楽的に当然」といった様相の適度な脱力感が心地よく、手練れの4人が響かせる音そのものに没入できます。


エンジニアも含め、あちこちでコラボしているので、信頼し合う音楽仲間を追っていろいろ聴いてみたり、その絆から生まれる音楽的な進化に気づいたりできるところも醍醐味でしょう。

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渡辺和歌
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