音楽

サム・ゲンデル&サム・ウィルクス『Music for Saxofone & Bass Guitar More Songs』

新世代ジャズジム・オルークJim O’Rourke)周辺のエクスペリメンタル(実験音楽)好きなど、コアな音楽通が大騒ぎしている、サム・ゲンデル&サム・ウィルクス(Sam Gendel & Sam Wilkes)。
『Music for Saxofone & Bass Guitar More Songs』は2人の入り口として一般的にも聴きやすく、多彩な音楽的才能が凝縮された代表的な名盤といえるでしょう。

はじめに

  • 左→右:サム・ゲンデル、サム・ウィルクス

サム・ゲンデル


サム・ゲンデル(Sam Gendel)は1986年(?)、米カリフォルニア州バイセイリア生まれ、南カリフォルニア大学(USC)ソーントン音楽学校出身(2005年入学、ジャズ専攻)、ロサンゼルスを拠点に活動する、サックス奏者(エフェクターを活用、マルチ奏者)&プロデューサーです。

サム・ウィルクス


サム・ウィルクス(Sam Wilkes)は1990年(?)、米コネチカット州生まれ、USCソーントン音楽学校出身(2009年入学、ポピュラーミュージック→ジャズ専攻)、ロサンゼルスを拠点に活動する、ベーシスト(マルチ奏者)&プロデューサーです。

KNOWER


サム&サムの2人は、同じくUSCソーントン音楽学校出身(2009年卒業)で友人のドラマー(マルチ奏者)&SSW&プロデューサーのルイス・コールLouis Cole1986年生まれ?)と、ボーカルのジェネヴィーヴ・アルターディGenevieve Artadi)によるユニット(デュオ)、KNOWER(ノアー、ノウワー)のバンドメンバーとしても活動しています。

Clown Core

Clown Core(クラウン・コア)は正体不明の覆面ユニット(ルイス・コール&サム・ゲンデル?)です。

サム・ゲンデル&サム・ウィルクス


さらにサム&サムの2人は、サム・ゲンデル『Double Expression』(2017年12月)、サム・ウィルクス『WILKES』(2018年10月)、『Live on The Green』(2019年11月)、『”Sings” (2014-2016)』(2020年5月)、他アーティストの参加作品などでも多数コラボしています。

Music for Saxofone & Bass Guitar More Songs


参加作品を除き、ソロ名義を中心にさらっとディスコグラフィを紹介しただけでもこの情報量(かつそれぞれ濃密)なので、2人の音楽沼がどれほど深いか、想像できるでしょう。
そのなかで何も考えずに聴いても圧倒的に心地いい名盤を選びました。
サム・ゲンデル&サム・ウィルクス『Music for Saxofone & Bass Guitar』(2018年6月)に続く、デュオ2作目『Music for Saxofone & Bass Guitar More Songs』(デジタル:2021年7月21日、カセット:2021年8月20日、LP:2021年10月15日、CD:2022年9月21日、Leaving Records / astrollage)は、先行シングル2曲を含む、全9曲・約28分。
じっくりご堪能ください。

【1】Theem Prototype


「Theem Prototype」は、サム・ゲンデル&サム・ウィルクス『Music for Saxofone & Bass Guitar』(2018年6月)の2曲目「Theem And Variations」、サム・ゲンデル『Satin Doll』(2020年3月)の6曲目「The Theem」、サム・ゲンデル『Fresh Bread』(2021年2月)の3曲目「Junk_Theem」の原型(プロトタイプ)です。
この1曲目のほか、4曲目「Cold Pocket」と7曲目「Flametop Green」の計3曲で、ロサンゼルスの兄弟デュオ、インク・ノー・ワールドInc. No World、Inc.)の弟、ダニエル・エイジドDaniel Aged、1986年3月20日生まれ、USC出身)のベースが加わっています。

サム・ゲンデル&サム・ウィルクス「Theem And Variations」

サム・ゲンデル「The Theem」

サム・ゲンデル「Junk_Theem」

【2】Welcome Vibe


「Welcome Vibe」は、ジョン・コルトレーンJohn Coltrane)「Welcome」(アルバム『Kulu Sé Mamaクル・セ・ママ)』1967年1月)のカバー。
サム・ウィルクスの1stアルバム『WILKES』(2018年10月)の1曲目「Welcome」ともつながっています。

ジョン・コルトレーン「Welcome」

サム・ウィルクス「Welcome」

【3】I Sing High


第2弾シングル「I Sing High」(2021年7月7日)。
ノスタルジックなテーマに、サックスらしからぬエフェクト音、ローファイなビートやシューゲイズなどが重なり、静謐な時間が流れます。

【4】Cold Pocket


第1弾シングル「Cold Pocket」(2021年6月23日)には、ダニエル・エイジドが作・ベースで加わっています。

【5】Streetlevel


「Streetlevel」は、サム・ゲンデルのデジタルアルバム『Double Expression』(2017年12月)の2曲目「StreetLevel Pt.1」(約41分)と3曲目「StreetLevel Pt.2」(約45分)の凝縮バージョン。
サム・ウィルクス『One Theme & Subsequent Improvisation』(2021年10月)の1曲目「One Theme」と3曲目「The Drums」にもつながっているようです。

サム・ウィルクス「One Theme」

サム・ウィルクス「The Drums」

【6】SG’s Prius


落ち着こうとするベースと騒ごうとするサックスの対比がおもしろい「SG’s Prius」。
緊張感がありつつ、なぜかリラックスできる即興ジャズの醍醐味が凝縮されています。

【7】Flametop Green


「Flametop Green」は、U2ボブ・ディランBob Dylan)などの作品を手がけ、ブライアン・イーノBrian Eno)とのコラボでも知られる、カナダのプロデューサー&マルチ奏者&SSW、ダニエル・ラノワDaniel Lanois)のソロ「Flametop Green」(アルバム『Belladonnaベラドンナ)』2005年7月12日ANTI- Records)のカバーです。
原曲でも哀愁の漂うテーマがミニマルに繰り返されていますが、不思議な音色のビートに、くぐもったベース、息の入れ方までもったりレイドバックするサックスが重なるアレンジになっているところがたまりません。

ダニエル・ラノワ「Flametop Green」

【8】Caroline, No


「Caroline, No」は、ザ・ビーチ・ボーイズThe Beach Boys)のシングル「Caroline, Noキャロライン・ノー)」(1966年3月7日、アルバム『Pet Soundsペット・サウンズ)』1966年5月16日)のカバーです。

ビーチ・ボーイズ「Caroline, No」

【9】Greetings To Idris More Songs


「Greetings To Idris More Songs」は、ジョン・コルトレーンの後継者と称され、2022年9月24日に81歳で亡くなったジャズサックス奏者、ファラオ・サンダースPharoah Sanders)「Greetings to Idris」(アルバム『Journey To The Oneジャーニー・トゥ・ザ・ワン)』1980年、Theresa Records)のカバー。
サム・ゲンデル&サム・ウィルクス『Music for Saxofone & Bass Guitar』(2018年6月)の4曲目「Greetings To Idris」の『More Songs』バージョンです。

ファラオ・サンダース「Greetings to Idris」

サム・ゲンデル&サム・ウィルクス「Greetings To Idris」

おわりに

穏やかで力の抜けた印象ですが、音楽的な遊び心にあふれていて、飽きずに聴いていられるのではないでしょうか。
2人とも複数の楽器を演奏し、実験的な要素がふんだんに盛り込まれた作品も多数作っているので、今回のアルバムはそれぞれのメイン楽器による集大成(ダイジェスト)のようなイメージです。
さまざまなアーティストとコラボしていて、いずれも音楽のおもしろさを更新する試みばかりなので、このアルバムを機に2人の周辺を深掘りしたくなったはず。
ロサンゼルスのLAビートLA新世代ジャズフライング・ロータスサンダーキャットカマシ・ワシントン)の先でも、LAアンダーグラウンドシーンは盛り上がっているということ。
今後も注目していきましょう。

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渡辺和歌
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