欧米のレーベルと契約し、全大文字表記に改名したミレパことMILLENNIUM PARADE(ミレニアムパレード)の1stシングル「GOLDENWEEK」(2024年5月10日、Sony Music Labels / Epic / RCA)の歌詞および和訳の意味とサウンドについて考察します。
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Contents
【イントロ・サビ前】目が覚めても、夢を見ている気分
I’m wide awake
But I’m stuck in a dream
Feels like I’m dreaming和訳:目が覚めた
でも夢から抜け出せない
夢を見てるみたいGOLDENWEEK/作詞:常田大希・Believve 作曲:常田大希
グラミー賞を受賞(Tyla「Water」ボーカルプロデュース)したほか、K-POP(LE SSERAFIM「UNFORGIVEN (feat. Nile Rodgers)」共作詞、共作曲)も手がけるプロデューサーBelievveとコラボ(共作詞)した、全編、英詞の海外デビュー曲「GOLDENWEEK」。
J-POP市場で売れることを目的とした邦ロックバンドKing Gnu(キングヌー)とは一線を画し、音楽性や総合アート性を重視したミレパの何度目かの再出発、念願の海外進出、本格始動作になります。
そのためJ-POP特有の構成「1番、2番~:Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)」にはなっていませんが、洋楽、ヒップホップ、ダンスミュージックそれぞれに異なるパートの呼び方「バース(Aメロ)、ブリッジ、ビルドアップ(Bメロ)、コーラス、フック、ドロップ(サビ)」などを使うほうがわかりにくい可能性もあるので、J-POPの呼び方に当てはめてみましょう。
- イントロ(頭サビ):サビ前(Dメロ)~サビ(Eメロ)
- 1番:Aメロ~Bメロ~Cメロ~サビ前(Dメロ)~サビ(Eメロ)
- 2番:Bメロ~Cメロ~サビ前(Dメロ)~サビ(Eメロ)
- アウトロ
サビのみ突出してキャッチーな(強度が高い)J-POPとは異なり、どのパートもそれぞれ中程度の強度で味わい深い、2番はAメロがなく、Cメロに変化があるといった点が特徴的。
全体的に、リズム(ビート)がころころ変わり、迷路をぐるぐる回るような混沌とした構成になっていて、歌詞の内容がサウンドでも表現されていることが伝わってきます。
エフェクトのかかりまくったボーカルはBelievveでしょうか。
本編の「サビ前~サビ」とは異なり、イントロでは「ゆったりとしたリズム」(半テン、半テンポ、ハーフタイム)になっているので、歌詞の「目が覚めても、夢を見ている気分」と「実際は頭サビから始まっているのに、これがサビとは気づかない感覚」が重なります。
MILLENNIUM PARADE:左→右
https://twitter.com/mllnnmprd/status/1804200648587747492
- 勢喜遊(Yu Seki):レコーディング、編集(担当:ドラム)
- 宮川純(Jun Miyakawa):シンセサイザー(担当:キーボード)
- 森洸大(Cota Mori):アートディレクター
- 常田大希(Daiki Tsuneta):作詞、作曲、プロデュース
- 佐々木集(Shu Sasaki):クリエイティブディレクター
- 新井和輝(Kazuki Arai):シンセベース(担当:ベース)
- OSRIN(オスリン):ディレクター
クレジット
- Believve:作詞
- Josh Gudwin(ジョシュ・ガドウィン):ミックス
- Chris Gehringer(クリス・ゲーリンジャー)@Sterling Sound:マスタリング
【イントロ・サビ】抜け出せない夢から起こしてほしい
And I
I can’t tell if I’m alive
I left my body behind
Please wake me up
And I
Do my best to survive
But I been living lie
Please wake me up和訳:生きているのかどうかもわからない
体を置き去りにしてきた
起こしてください
生き延びるために最善を尽くすけど
嘘に生きている
起こしてくださいGOLDENWEEK/作詞:常田大希・Believve 作曲:常田大希
「GOLDENWEEK」のパンチラインは「Please wake me up」。
語尾の「アッ(プ)」から「And I」へとつながる流れが秀逸で、文頭は母音の「あ段」が多用され、さらに「アイ」の入る「alive、behind、survive、lie」で韻が踏まれています。
常田大希さんにとってミレパは聖域。
その「ミレパを、常田大希さん自身を、抜け出せない夢から起こしてほしい。なぜなら嘘に生きているから」という話でしょう。
クラシック、ジャズ、ロックなどの洋楽を聴いて育ち、ヒップホップを好み、実験音楽(エクスペリメンタル)に近いサウンドから作り始め、もともとJ-POPには疎かった常田大希さん。
盟友の米津玄師さんに「日本ではサビがないと売れない」と諭され、J-POPを研究し、King Gnuを成功へと導きました。
音楽家として「生き延びる」ためには「売れる音楽」を作る必要があり、その範疇で「最善を尽くす」ものの、心から「やりたい音楽」とは乖離しているので「嘘」があると感じるのではないでしょうか。
https://twitter.com/JPNGenius/status/1788584967322390906
【1番Aメロ】飛ぶ方法を忘れた?
Monsters in my head
Don’t take me alive
They all want me dead
I don’t wanna die
Don’t play with my mind
Stop playing with my mind
Don’t take me higher
I don’t know how to fly和訳:頭の中にモンスターがいる
生きたまま捕まえないで
みんな私を殺したいと思ってる
でも死にたくない
心を弄ばないで欲しい
心を弄ぶのはやめてほしい
高いところに連れて行かないで欲しい
飛ぶ方法が分からないGOLDENWEEK/作詞:常田大希・Believve 作曲:常田大希
ビートはなく、「Don’t、I、Stop」に置かれたアクセントが心地いい「1番Aメロ」。
全編ボーカルにエフェクトがかかっているので、常田大希さん、佐々木集さん、森洸大さんのコーラスが入っているのか、否かは謎です。
旧millennium parade(表記変更:ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄ)は石若駿さんと勢喜遊さん(King Gnu)のツインドラム、江﨑文武(Ayatake Ezaki)さん(WONK)の鍵盤、MELRAW(安藤康平)さんのサックスなどによるジャズアンサンブル編成。
ermhoi(エルムホイ)さん(Black Boboi)をはじめ、中村佳穂(Belle)さん、椎名林檎さん、Charaさん、HIMIさんなど、楽曲ごとにさまざまなボーカリストが参加してきました。
生楽器の演奏が圧巻だったmillennium paradeに対し、全大文字表記のMILLENNIUM PARADEは常田大希さんが好むUKの覆面プロジェクト、ゴリラズ(Gorillaz)を彷彿とさせる電子音楽、クラブミュージック(トリップホップ)寄り。
これまでにも「カオティック、混沌的東京」といった言葉が散りばめられてきましたが、架空のアニメキャラが登場する「New Nippon」(ニューニッポン)の指定混沌区域「Kong Tong Tokyo」(コントントーキョー、混沌東京)なる世界観を本格的に構築しようとしている模様です。
それこそが「嘘に生きている」の本意なのかもしれません。
millennium parade(ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄ)「Fly with me」
「モンスター」については後ほど考察するとして、気になるのは「高いところに連れて行かないで欲しい」や「飛ぶ方法が分からない」といった表現。
millennium parade時代の代表曲のひとつ「Fly with me」(2020年4月22日、FlyingDog / Ariola)がわからなくなったので、旧プロジェクト名が中国の少数民族、イ族の彝文字(いもじ)表記に変わったのでしょうか。
あるいは、ミレパの海外進出に伴い、メンバーや音楽性にも変化があったので、過去がわからなくなったという設定の物語が紡がれているのかもしれません。
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【1番Bメロ】モンスターや幽霊はアニメキャラ?
I got pressure on my mind
I should probably let it blow
I got monsters deep inside
I should probably let them go
I should probably let them go
I don’t wanna let them go
Ooh I must be going blind
I feel like I’m seeing ghost和訳:プレッシャーに押しつぶされそうだけど
吹き飛ばそう
心の奥底にモンスターがいる
たぶんそれらを解放するべきだろう
たぶんそれらを解放するべきだろう
それらを放しておきたくはない
ああ、私は目が見えなくなっているのかもしれない
幽霊が見えるような気がするGOLDENWEEK/作詞:常田大希・Believve 作曲:常田大希
本格的に4つ打ちビートになる「1番Bメロ」。
「1番Aメロ」の「Don’t」(ドンッ)に呼応する、「I should」(アイシュッ)の響きが印象的です。
押しつぶされそうになるほどのプレッシャーをはねのけながらも、脳内や心中の「モンスター」に支配されそうになり、「幽霊」となって現れる気がする状況。
常田大希さん自身の音楽活動にまつわる心境を、ミレパの物語として昇華する展開に見立てると、想像上の「モンスター」が幻視化された「幽霊」こそ、「Oni Angel」(オニテンシ、鬼天使)など、MVで描かれた「混沌東京」の登場人物、アニメキャラなのかもしれません。
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【1番Cメロ】一人で戦う理由とは?
Freaking out and I don’t wanna lose all my control
I been calling, screaming and shouting on my own
Need nobody
I got to fight it all alone
It ain’t safe it’s dangerousCuz I just don’t know why I
Cuz I just don’t know why I
Cuz I just don’t know why I和訳:パニックで、すべてのコントロールを失いたくない
一人で叫んで、怒鳴ってる
誰もいらない
すべてを一人で戦わないといけない
安全じゃない、危険だだって、なぜか分からない
だって、なぜか分からない
だって、なぜか分からないGOLDENWEEK/作詞:常田大希・Believve 作曲:常田大希
「Freaking、out and I」(フリーキン、アウトゥンナイ)、「I been、calling」(アイビン、コーリン)、「Need no、body」(ニノ、バディ)と文頭でブレイクが挟まるボーカルに寄り添い、「裏打ちまみれの奇妙なビート」になる「1番Cメロ」。
後半の「Cuz I just、don’t know why I」(コズアイジャス、ドンノウワーイ)は、この1番では3回繰り返され、2番では繰り返しがなく1回のみという違いがあります。
「Cuz~」が3回繰り返されるうちに、前半の「ブレイク&裏打ちビート」からジャージークラブの2拍3連を含む5つ打ちビート「ドンッドンッ、ドンドッドッ」へと変化する流れが秀逸。
具体的には、1回目の「Cuz~」がビートのブレイクに相当し、2~3回目でジャージークラブになります。
さらに、イントロ(頭サビ)の「ゆったりとしたリズム」(半テン)とは異なり、5つ打ちのまま「1番サビ前~サビ」へとなだれ込むので、混沌とした迷路のような構成のなか、K-POPでもブームのジャージークラブを聴かせどころのひとつとしていることがわかるでしょう。
このジャージークラブについてはCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」の記事で詳しく紹介し、宇多田ヒカルさん「Gold ~また逢う日まで~」の記事でも触れているので、併せてお楽しみください。
新生ミレパはツインドラムではなくなったようなので、常田大希さんが「一人で戦わないといけない」とばかりに、電子音楽で相当フリーキー(奇妙)なリズム(ビート)を刻んだと考えられます。
- Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」歌詞の意味を考察!アニメ『マッシュル-MASHLE-』主題歌
- 宇多田ヒカル「Gold ~また逢う日まで~」歌詞の意味&サウンドを考察!映画『キングダム 運命の炎』主題歌
天才ゲーマーぽく映ってる常田ですが実際のゲームスキルは仲間内最弱です。平和に育てる系のゲームが好きです。
アメリカでしか流れないCMですが宜しくお願いします @PlayStation @mllnnmprd pic.twitter.com/dd1yL2bchA
— 常田大希 – Daiki Tsuneta (@DaikiTsuneta) May 11, 2024
【2番Cメロ】天使と悪魔を宿し、空中に落ちる
Freaking out and I don’t wanna lose all my control
I been calling, screaming and shouting on my own
Need nobody
I got to fight it all alone
It ain’t safe it’s dangerousCuz I just don’t know why I
I keep
Falling
Straight through the sky
Angles and demons
Both by my side和訳:空中を真っすぐ落ちていく
天使と悪魔が両方私のそばにGOLDENWEEK/作詞:常田大希・Believve 作曲:常田大希
2番は、ビートなし&「Don’t」(ドンッ)の響きが印象的な「Aメロ」がなく、4つ打ちビートの「Bメロ」から始まります。
もしや、自虐的なネガティブ発言(と思われた)「飛ぶ方法が分からない」が飛び出した「Aメロ」を飛ばした、という展開でしょうか。
もしそうであれば、1番では一気に高み(サビ)へと飛ばないために「Aメロ」を残し、2番ではもう「飛ぶ方法が分かった」ので「Aメロ」を飛ばしたのかもしれません。
言葉遊びを交えると何が何やらわかりにくくなりますが、結局、どれほどのパニック状態でも常田大希さんは「音楽制作において最善を尽くす」ことしか考えていないのでしょう。
「2番Cメロ」は「1番Cメロ」とは異なり、後半「Cuz~」の2~3回目(ジャージークラブになる部分)が割愛され(飛ばされ)、その代わりに前半「Freaking、out and I」(フリーキン、アウトゥンナイ)に呼応する「I keep、Falling」(アイキープ、フォーリン)、「Angles、and demons」(エンジェルズ、デーモンズ)が追加されています。
そのまま「2番サビ前」につながるので、「I’m wide、awake」(アマイ、アウェイ)も「Cメロ」の名残だとわかりやすいでしょう。
ただ、ラストに繰り返される「2番サビ」は5つ打ちのジャージークラブではなく、4つ打ち。
「Please wake me up」と「And I」のコーラスが印象的に響く「アウトロ」で幕を閉じます。
「Fly with me」などの旧ミレパ時代はツインドラムを風神雷神になぞらえていましたが、新生ミレパには東京芸大時代からの盟友、石若駿さんは参加せず(幽霊状態?)、勢喜遊さんは今回の「GOLDENWEEK」ではレコーディングと編集のみを担当し、ドラムを叩いていないようです。
つまり、基本的には弦楽器、ボーカル、鍵盤、プログラミング(DTM)担当の常田大希さんが「天使と悪魔の両方=鬼天使」を宿し、この「モンスター」のような混沌リズム曲を生み出したことになります。
それは「悪夢のような白昼夢状態から起こしてほしい」と願い、「空中に落ちる=天地が反転する」ほどの「プレッシャー」だったに違いありません。
- イントロ・サビ前~サビ:半テン
- 1番Aメロ:ビートなし
- 1番Bメロ:4つ打ち
- 1番Cメロ:ブレイク&裏打ちビート~ジャージークラブ
- 1番サビ前~サビ:ジャージークラブ
- 2番Bメロ:4つ打ち
- 2番Cメロ:ブレイク&裏打ちビート
- 2番サビ前:ブレイク&裏打ちビート~4つ打ち
- 2番サビ~アウトロ:4つ打ち
最後に、曲名「GOLDENWEEK」についてですが、海外進出に際し、あえて和製英語にすることで「どういう意味?」と注目を集めるねらいもあったでしょう。
リリース日の2024年5月10日はゴールデンウィーク明け、常田大希さんの誕生日は5月15日という点も関連があるのかもしれません。
深読みして「ゴールデンウィーク=連休、飛び石連休」と解釈すると、「ブレイク=休み」と「飛び方=パートの構成、つながり」に特化した楽曲と考えられます。
実際、ジャージークラブや4つ打ちの最中、パート間でもブレイクだらけ。
全体的にミニマルな繰り返しになっているのに、パートやフレーズが飛んだり飛ばなかったり、飛び石連休状態になっていました。
あるいは海外アーティストとのコラボが黄金週間のような出来事という意味も含まれるかもしれません。
いずれにしてもゴリラズやK-POPの雰囲気をまといつつ、新生ミレパならではのサウンドを打ち出したといえるでしょう。
常田大希のヴィジョンを考察 MILLENNIUM PARADE改名の背景、新章の狙い#MILLENNIUMPARADE https://t.co/ln0z54GnFi
— Rolling Stone Japan (@rollingstonejp) May 5, 2024
おわりに
大箱(ドーム)でKing Gnuを鳴らす目標を達成し、いよいよミレパを再始動させるにあたり、J-POPに疎かったころの常田大希さんに原点回帰しつつ、新たな要素も盛り込まれた楽曲になっていました。
「GOLDENWEEK」は挨拶代わりとのことで、今後どのような方向へ舵が切られるのかはまだわかりません。
実はルーツのひとつでもある実験音楽(エクスペリメンタル)までさかのぼり、2020年代アンビエントシーンとつながる物語を夢想してしまいますが、その可能性は低いでしょうか。
「混沌東京」を舞台に、作り込まれたアニメキャラが幻視化する4Dライブが展開される可能性はあるかもしれません。
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