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マカヤ・マクレイヴン『In These Times』最先端ジャズ!ビート・サイエンティストの集大成

マカヤ・マクレイヴン(Makaya McCraven)の『In These Times』は音楽を愛する人、最先端の音楽に触れたい人、全員必聴です!

はじめに


マカヤ・マクレイヴンは1983年10月19日、仏パリ生まれのジャズドラマー(マルチ奏者)&プロデューサー。
父はアフリカ系アメリカ人のジャズドラマー&プロデューサーのスティーヴン・マクレイヴンStephen Mccraven、1954年8月7日、ワシントンD.C.生まれ)、母はハンガリーのフォーク歌手民俗音楽民謡)&フルート奏者のアグネス・ジグモンディÁgnes Zsigmondi、ブダペスト生まれ)です。
幼少期から米マサチューセッツ州ノーサンプトンにて音楽三昧の環境で育ち、ジャズ&ヒップホップのバンド活動などを経て、マサチューセッツ大学アマースト校で音楽を学びながらも中退した後、2006年にシカゴに移り、ビート・サイエンティストと称されるほど最先端の音楽活動を展開しています。

ディスコグラフィ

In These Times


8thアルバム『In These Times』(イン・ディーズ・タイムズ、2022年9月23日、International Anthem / Nonesuch Records / XL Recordings)は、先行シングル3曲を含む、全11曲・41分あまり。
国内盤CD(Beatink / Beat Records)は、「Routes to Roots」と「A New Movement」のボーナストラック2曲を含む全13曲です。

2012年~2013年頃、多様な労働者階級コミュニティ育ちの音楽家の生活について、マカヤ・マクレイヴンがシカゴの月刊誌『In These Times』の取材を受けたことがきっかけとなり、2015年にアルバムの制作を開始。
15人の音楽家が加わり、2016年11月から2022年3月にかけて、スタジオ6か所、ライブ会場3か所、雑誌社のオフィス1か所でレコーディングされました。

さらにマカヤ・マクレイヴンは自宅スタジオで、打ち込み(DAWプログラミング)やミックスといった大がかりなポストプロダクション(ポリプロ、編集)を施し、トータルで7年以上の歳月が費やされました。
壮大な叙事詩のようでありながら、親しみやすくシンプル。
奇数拍子などの変拍子を軸とした「ポリリズム」や異なる速度で同時進行する「ポリテンポ」の妙が随所に散りばめられながらも、ドラマーのソロ作然とした自己主張は抑えられています。
「オーケストラ的なアンサンブルアレンジ(ジャズの生演奏)」と「オーガニックビートミュージック(ヒップホップのビートメイキング、プロダクション)」が混沌としていて、「作編曲、演奏、ポリプロ(打ち込み、ミックス)」の境が曖昧になっているところが画期的。
この派手さが徹底的に排除された「静かなる音楽革命」は、幾層にも重なる多様な時間と時代の流れ、「進化の過程」が集約された「最先端のフォークミュージック=フォークロア(民俗音楽)」といえるでしょう。

【1】In These Times

  • マカヤ・マクレイヴン:ドラム、パーカッション、タンバリン、ベビーシタール、シンセ、カリンバ、ハンドクラップ
  • ジュニアス・ポール:コントラバス、エレキベース、小型楽器
  • ジェフ・パーカー:ギター
  • ブランディー・ヤンガー:ハープ
  • ジョエル・ロス:ビブラフォン、マリンバ
  • マルタ・ソフィア・ホーナー:ビオラ
  • リア・コール:チェロ
  • メイシー・スチュワート:バイオリン
  • ザラ・ザハリエヴァ:バイオリン
  • グレッグ・ウォード:アルトサックス
  • アーヴィン・ピアース:テナーサックス
  • マーキス・ヒル:トランペット
  • グレッグ・スピーロ:ピアノ
  • マット・ゴールド:ギター、ベビーシタール
  • デショーン・ジョーンズ:フルート

タイトル曲の「In These Times」は、観客の拍手や歓声がいつのまにか変拍子のハンドクラップに変わるという不思議な始まり方。

“I’d never want to be known as anybody opposed to progress,” he says, “but this is no longer a matter of progress or not progress. My brothers, my friends, my cousins have died trying to build this tunnel, and it just kind of seems to me that nobody has the right to take away our responsibility to finish what these people have died for. Our dignity is involved in it, our integrity and everything that we believe as working men are involved, so that I ain’t really opposed to the machine, I just feel that the machine can’t take the place of the soul and the sweat for the many men who died to help build this tunnel, and we got to finish it, and it just ain’t no two ways about it.”

「私は進歩の反対者とは思われたくないです」とジョン・ヘンリーは言いました。「しかし、これはもはや進歩か、進歩ではないかの問題ではありません。私の兄弟や友だち、いとこはこのトンネルを建設しようとして亡くなりました。彼らの遺志を受け継いでトンネルを完成させるという私たちの責任を奪う権利は誰にもないように思えます。このトンネルには私たちの尊厳、誠実さ、働く人間として信じるすべてが関わっています。私は機械(掘削用の蒸気ドリル)に反対しているわけではありませんが、このトンネルを建設するために亡くなった多くの男性(ハンマー使い)の魂と汗が、機械に取って代わることはできないと感じています。私たちはトンネルを完成させなければいけません。そのために(肉体労働と機械という)2つの方法は存在しません」

出典:Harry Belafonte discusses jazz and folk music/The WFMT Studs Terkel Radio Archive

シカゴにあるFMラジオ局「WFMT」のスタッズ・ターケルStuds Terkel)の番組1955年1月6日)で、ハリー・ベラフォンテHarry Belafonte)が伝説のヒーロー(労働者階級のアフリカ系アメリカ人)ジョン・ヘンリーJohn Henry)について語った言葉がサンプリングされています。

【Live/2019】Le Guess Who?

【2】The Fours

  • マカヤ・マクレイヴン:ドラム、ハンドクラップ、サンプラー
  • ジュニアス・ポール:コントラバス
  • ブランディー・ヤンガー:ハープ
  • マルタ・ソフィア・ホーナー:ビオラ
  • リア・コール:チェロ
  • メイシー・スチュワート:バイオリン
  • ザラ・ザハリエヴァ:バイオリン
  • アーヴィン・ピアース:テナーサックス
  • マーキス・ヒル:トランペット
  • グレッグ・スピーロ:ピアノ
  • マット・ゴールド:ギター
  • デショーン・ジョーンズ:フルート

マカヤ・マクレイヴンのドラム、ハンドクラップ、サンプラーによる変拍子に、ジュニアス・ポールのコントラバス、ブランディー・ヤンガーのハープ、弦楽四重奏、アーヴィン・ピアースのテナーサックス、マーキス・ヒルのトランペット、グレッグ・スピーロのピアノなどが重なる、第3弾シングル「The Fours」(2022年9月8日)。
丹澤遼介Ryosuke Tanzawa)監督によるMVでは「機械と自然」の対比が表現されているようで、「進化の過程」というアルバムのテーマについても考えさせられます。

【3】High Fives

  • マカヤ・マクレイヴン:ドラム、パーカッション、シンセ、ギター、ビブラフォン、ウーリッツァー
  • ジェフ・パーカー:ギター
  • マルタ・ソフィア・ホーナー:ビオラ
  • リア・コール:チェロ
  • メイシー・スチュワート:バイオリン
  • ザラ・ザハリエヴァ:バイオリン

5拍子のドラムとパーカッションによるポリリズムに、ギター、シンセ、ビブラフォンなどが重なり、弦楽四重奏、ギター、ウーリッツァーなどで展開するミニマルミュージックのような「High Fives」。
それぞれシンプルなフレーズが複雑に絡み合い、理解が難しいほど高度な構成になっていますが、ゆったり聴くことができるところが非常におもしろいです。

【4】Dream Another

  • マカヤ・マクレイヴン:ドラム、パーカッション
  • ジュニアス・ポール:エレキベース、パーカッション
  • ブランディー・ヤンガー:ハープ
  • マット・ゴールド:ギター、ベビーシタール、パーカッション
  • デショーン・ジョーンズ:フルート

第2弾シングル「Dream Another」(2022年7月19日)。
7拍子のドラム&パーカッションとくぐもったエレキベースのリズムに乗って、シタールとフルートが曲がりくねり、ハープが飛び跳ねます。

【5】Lullaby

  • マカヤ・マクレイヴン:ドラム
  • ジュニアス・ポール:コントラバス
  • ブランディー・ヤンガー:ハープ
  • マルタ・ソフィア・ホーナー:ビオラ
  • リア・コール:チェロ
  • メイシー・スチュワート:バイオリン
  • ザラ・ザハリエヴァ:バイオリン
  • グレッグ・ウォード:アルトサックス
  • アーヴィン・ピアース:テナーサックス
  • マーキス・ヒル:トランペット
  • グレッグ・スピーロ:ピアノ
  • マット・ゴールド:ギター

「Lullaby」の原曲は、マカヤ・マクレイヴンの母アグネス・ジグモンディがハンガリーのフォークバンド、コリンダKolinda)に所属していたとき、同じくメンバーのペテル・ダバシPéter Dabasi)と共に、ハンガリー民謡をモチーフにして作った「Tetelek」(アルバム『15141978年Hexagone)。
この曲をもとに、マカヤ・マクレイヴンが作編曲しました。
父のスティーヴン・マクレイヴンがパーカッションで参加した、アグネス・ジグモンディ名義の「Lullaby」(アルバム『Water Woman』2017年12月3日)もあります。

コリンダ「Tetelek」

【6】This Place That Place

  • マカヤ・マクレイヴン:ドラム、パーカッション、サンプラー
  • ジュニアス・ポール:コントラバス、エレキベース
  • ジェフ・パーカー:ギター
  • ブランディー・ヤンガー:ハープ
  • ジョエル・ロス:ビブラフォン、マリンバ
  • マルタ・ソフィア・ホーナー:ビオラ
  • リア・コール:チェロ
  • メイシー・スチュワート:バイオリン
  • ザラ・ザハリエヴァ:バイオリン
  • グレッグ・ウォード:アルトサックス
  • アーヴィン・ピアース:テナーサックス
  • マーキス・ヒル:トランペット
  • グレッグ・スピーロ:ピアノ
  • マット・ゴールド:ギター

「This Place That Place」はスイングするライドシンバルなど、複雑なリズムの応酬ですが、グルーヴは心地よく、ホーン、ストリングス、ハープ、マリンバなどがおもちゃ箱をひっくり返したように多彩に展開するところがしびれます。

【Live/2015】Constellation

【Live/2017】ChiBrations

【Live/2018】Red Bull Studio Sessions

  • 29:20~:【6】This Place That Place

【7】The Calling

  • マカヤ・マクレイヴン:ドラム
  • ジュニアス・ポール:コントラバス
  • ブランディー・ヤンガー:ハープ
  • マルタ・ソフィア・ホーナー:ビオラ
  • リア・コール:チェロ
  • メイシー・スチュワート:バイオリン
  • ザラ・ザハリエヴァ:バイオリン
  • マーキス・ヒル:フリューゲルホルン
  • グレッグ・スピーロ:ピアノ
  • マット・ゴールド:ギター

「The Calling」では、ブランディー・ヤンガーの優雅なハープに彩られ、マーキス・ヒルのフリューゲルホルンがゆったり流れる時間を演出しています。

【8】Seventh String

  • マカヤ・マクレイヴン:ドラム、パーカッション、シンセ、ビブラフォン
  • ジュニアス・ポール:コントラバス
  • ジェフ・パーカー:ギター
  • マルタ・ソフィア・ホーナー:ビオラ
  • リア・コール:チェロ
  • メイシー・スチュワート:バイオリン
  • ザラ・ザハリエヴァ:バイオリン
  • デショーン・ジョーンズ:フルート

第1弾シングル「Seventh String」(2022年6月21日)。
猛烈な連打なのに優しく響くパーカッションに、ビブラフォン、ジェフ・パーカーのギター、デショーン・ジョーンズのフルートなどが印象的に重なります。

【9】So Ubuji

  • マカヤ・マクレイヴン:ドラム、パーカッション、キーボード
  • ジュニアス・ポール:エレキベース
  • ジェフ・パーカー:ギター
  • ブランディー・ヤンガー:ハープ
  • ジョエル・ロス:マリンバ

8分の5拍子、7拍子、9拍子、11拍子といった変拍子が多いアルバムで、珍しくオーソドックスな4分の4拍子になっている「So Ubuji」。
ジョエル・ロスのマリンバのメロディーが楽しげに響きます。

Vinyl Unboxing

【10】The Knew Untitled

  • マカヤ・マクレイヴン:ドラム、シンセ、ビブラフォン
  • ジュニアス・ポール:コントラバス、エレキベース
  • ブランディー・ヤンガー:ハープ
  • マルタ・ソフィア・ホーナー:ビオラ
  • リア・コール:チェロ
  • メイシー・スチュワート:バイオリン
  • ザラ・ザハリエヴァ:バイオリン
  • グレッグ・ウォード:アルトサックス
  • アーヴィン・ピアース:テナーサックス
  • マーキス・ヒル:トランペット
  • グレッグ・スピーロ:ピアノ
  • ロブ・クリアフィールド:ピアノ
  • マット・ゴールド:ギター
  • デショーン・ジョーンズ:フルート

「The Knew Untitled」はメロディーを奏でる楽器がピアノ、ギター、フルートと移るごとに、がらっと雰囲気が変わります。

【Live/2016】Boiler Room

  • 10:30~:【6】This Place That Place
  • 45:40~:【10】The Knew Untitled

【Live/2017】North Sea Jazz

【Commentary/2017】Drummerszone

【11】The Title

  • マカヤ・マクレイヴン:ドラム、サンプラー、キーボード
  • ジュニアス・ポール:コントラバス
  • ブランディー・ヤンガー:ハープ
  • マルタ・ソフィア・ホーナー:ビオラ
  • リア・コール:チェロ
  • メイシー・スチュワート:バイオリン
  • ザラ・ザハリエヴァ:バイオリン
  • アーヴィン・ピアース:テナーサックス
  • マーキス・ヒル:トランペット
  • グレッグ・スピーロ:ピアノ
  • マット・ゴールド:ギター
  • デショーン・ジョーンズ:フルート

輸入盤のラストを飾る「The Title」は、観客の拍手と歓声で締めくくられます。
大がかりなアンサンブルが綿密に再構築されているので、リズム、メロディー、ハーモニーをはじめとした音楽的なおもしろさが濃密に詰まっているものの、難解さに打ちのめされることなく、穏やかなグルーヴに浸ることができたのではないでしょうか。

おわりに

『In These Times』とほぼ同時期に、2つのアルバムがリリースされました。

ザ・コメット・イズ・カミング『Hyper-Dimensional Expansion Beam』


シャバカ・ハッチングスShabaka Hutchings)率いるザ・コメット・イズ・カミングThe Comet Is Coming)の3rdアルバム『Hyper-Dimensional Expansion Beam』(デジタル・輸入盤CD:2022年9月23日、国内盤CD・輸入盤LP:2022年11月25日、Impulse! Records / UMJ)。

スナーキー・パピー『Empire Central』


スナーキー・パピーSnarky Puppy)の16thアルバム『Empire Central』(エンパイア・セントラル、日本盤CD:9月28日、デジタル・輸入盤CD:2022年9月30日、輸入盤LP:2022年10月14日、GroundUP Music / CORE PORT)。

【Documentary/2020】Universal Beings


いずれもマカヤ・マクレイヴンと同じく、新世代ジャズを代表する存在ですが、ザ・コメット・イズ・カミングの新譜にはトランス、スナーキー・パピーの新譜にはハードロックの要素が盛り込まれるなど、実に華やか。
世界規模でも、ポップミュージックに次ぐロックが停滞気味で、R&Bやネオソウル、ヒップホップとダンスミュージックの融合、新世代ジャズが勢いづき、細分化されたジャンルのクロスオーバーや再編といった「進化の過程」にあるといえるでしょう。
ご時世的に、アンビエント実験音楽などの電子音楽現代音楽ポストクラシカルに注目が集まっているという背景もあります。
そのなかでも即興演奏の歴史が長いジャズが、ヒップホップのビートメイキングと結びついて飛躍的に進化しているようです。
マカヤ・マクレイヴンは「ジャズ+ノスタルジックな民俗音楽+未来音楽(時代に先んじた実験音楽、現代音楽)」を融合させることで、時間や時代を超越しているように思われます。
それほど画期的なのに、隠れた名盤のポジションを狙っているらしく、穏やかで地味なところがツボという少数派もいるのではないでしょうか。
ドキュメンタリーやドラムの叩き方、ビートメイキングの方法などの動画を置いておきますので、過去作や今後の展開も含め、しみじみご堪能ください。

Drum Tricks: Linear Drumming/2015

Solo Performance: Part 1/2017

Solo Performance: Part 2/2017

Play Sample Record/2018

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渡辺和歌
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