音楽

Omni Gardens『Golden Pear』素朴なモーグシンセに癒されるリスニング向けアンビエント

Omni Gardensの『Golden Pear』は秋にリリースされたアルバムですが、季節がずれても部屋でゆったりくつろぎたいときなどにおすすめです。

はじめに


米オレゴン州ポートランドを拠点とするアンビエント作家&レーベルMoon Glyph主宰者(2009年~)&デザイナーのSteve RosboroughによるSoothsayer名義後のソロプロジェクトOmni Gardens。

Golden Pear


Omni Gardens名義の1stアルバム『West Coast Escapism』(2018年9月28日Holodeck)や『Moss King』(2020年9月18日、Moon Glyph)に続くアルバム『Golden Pear』(2023年10月27日、Moon Glyph)は、全12曲・35分あまり。

モート・ガーソン『Mother Earth’s Plantasia』


名盤『Mother Earth’s Plantasia』(1976年Homewood Records、2019年3月22日:Sacred Bones Records)などで知られるカナダの電子音楽家モート・ガーソンMort Garson、1924年7月20日~2008年1月4日)を彷彿とさせるモーグ・シンセサイザーのほか、メロトロン・フルート、ビブラフォン、マリンバ、フィールドレコーディングによるポップなアンビエント。
Omni GardensことSteve Rosborough自身がアートワークを手がけたジャケットのボスク梨のように、芳純なリスニング向けサウンドが展開されています。

クレジット

【1】Rain Jacket


「Rain Jacket」(読み:レインジャケット)は「丈の短いレインコート」のこと。
雨粒が水たまりにピチャピチャ跳ねるだけで楽しく遊べる子どもを連想したくなる、かわいらしいサウンドです。
あるいは栽培中の果物を保護するために被せる果実袋(袋掛け)をあらわしているのかもしれません。
害虫、日焼け、激しい風雨などから守られつつ、すくすく育つ果物も目に浮かぶでしょう。
さまざまな想像がふくらむ、温もりのある素朴なモーグシンセの音色に癒されます。

【2】Wild Marionberries


「野生のマリオンベリー」という意味の「Wild Marionberries」。
マリオンベリーはアメリカの農務省とオレゴン州立大学による開発に伴い、広範囲に試験栽培されたオレゴン州マリオン郡にちなんで名づけられた、1956年発表のブラックベリーの品種です。
日本など世界各地ではジャムに加工されたマリオンベリーをパンやヨーグルトなどと食べるのが一般的かと思われますが、Omni GardensことSteve Rosboroughにとっては地元の名産なので、野生のものをつまむことも可能なのかもしれません。
いすれにしても甘酸っぱさがノスタルジックなサウンドで表現されているようです。

【3】Grassland


フィールドレコーディングによる鳥の鳴き声がアクセントになっている「Grassland」(意味:草原)。
部屋でくつろぎながら聴いていても、広大な草原に導かれ、穏やかな風に揺られる気分を堪能できます。

【4】Patchouli


「Patchouli」(読み:パチョリ)はアロマテラピーのエッセンシャルオイルなどに用いられるシソ科のハーブ。
エフェクトの効いたノスタルジックなモーグシンセのフレーズがミニマルに繰り返され、まるで瞑想を体験したかのように心が落ち着く気がします。

【5】Salt Lamp


「Salt Lamp」(読み:ソルトランプ)は「ヒマラヤ岩塩のランプ」のこと。
ヒーリンググッズ(癒しグッズ)としておなじみでしょうか。
波の音も入っているので、海の塩で清められつつ、ランプの温もりに包まれる雰囲気が漂います。

【6】Our Backyard Fern


エモーショナルなメロディーラインが印象的な「Our Backyard Fern」(意味:我が家の裏庭のシダ)。
「湿気を好む植物シダ」に「涙を流すことで癒される心の傷」を重ねることもできるかもしれません。
勇気を出して裏庭のような深層心理に向き合うと、浄化の涙があふれることもあるはず。
内省的な時間にも寄り添ってくれる優しいサウンドです。

【7】Paperback Book


「Paperback Book」(意味:文庫本)で外から家に戻るイメージでしょうか。
それでも想像の旅は続くかのように、ビブラフォンとモーグシンセの掛け合いが美しい浮遊感の漂うサウンドになっています。
リラックスしながら、お気に入りの物語の世界観に没入できるはず。

【8】Plant Shop


続いて「Plant Shop」(意味:植物ショップ)に出かけた模様です。
フィールドレコーディングによる会話や足音で臨場感が高まり、植物の息吹まで伝わってくる気がします。

【9】Lucky Rosemary


「Lucky Rosemary」のローズマリーもシソ科のハーブ。
香辛料やアロマテラピーのエッセンシャルオイルのほか、宗教儀式などで魔除けとして用いられてきた歴史があります。
あるいはローズマリーなどの植木鉢に生えると幸運が訪れるという俗説のある金色のキノコ(コガネキヌカラカサタケ)も連想できるかもしれません。
モーグシンセのベース音、マリンバ、メロトロン・フルートがミステリアスに響きます。

【10】Honeywisp


「Honeywisp」(読み:ハニーウィスプ)は任天堂のAIアクションゲーム「ピクミン」シリーズに登場する原生生物ピキマキ」のことでしょうか。
あるいは漠然と「ハチミツの妖精」をあらわしているとも考えられそうです。
想像上の存在がもし実在したら、このようにリバーブ(残響)の効いたアルペジオを響かせながら飛び跳ねているかもしれません。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『R Plus Seven』


OPNことワンオートリックス・ポイント・ネヴァーOneohtrix Point Never)の6thアルバム『R Plus Seven』(2013年9月30日、Warp)で用いられているアルペジオに対する反応という指摘もあります。

【11】Sunday Robe


低音の響きが印象的な「Sunday Robe」(意味:日曜日のローブ)。
想像から現実に戻ると、休みの日に部屋着でくつろぐリスナー自身も、妖精よりは重力を感じつつ、心が飛び跳ねるように軽くなっているといった展開かもしれません。

【12】Autumn Haze


ラストを飾る「Autumn Haze」(意味:秋のかすみ)。
アーティスト名は「Omni Gardens=すべての庭」、アルバム名は『Golden Pear=金色の洋梨、ボスク梨』なので、やはりイメージするべき季節は秋のようです。
ただ「秋のかすみ」で締めくくられているので、春夏冬に秋を想像することもできるのではないでしょうか。
実りの季節を思い描かせてくれる瑞々しいアルバムでした。

おわりに


苔に特化した前作『Moss King』に続く、梨がテーマの『Golden Pear』ということで、植物のように穏やかなアンビエント作に仕上がっていました。
2020年以降、「音楽はライブで楽しむのが醍醐味」という従来の考え方がままならない現状もあり、リスニング向けのアンビエントを求める人は増えていると考えられます。

アンドレ3000『New Blue Sun』


米アトランタ出身のラッパー、アンドレ3000André 3000)がラップをせずにフルートを奏で、カルロス・ニーニョ(Carlos Niño)やマシューデイヴィッドMatthewdavid)らとコラボしたアンビエント、ニューエイジ、スピリチュアルジャズのアルバム『New Blue Sun』(2023年11月17日、EpicSony)が話題になっているのも象徴的な現象といえそうです。


とはいえ、アンビエントに商業音楽らしい派手さはないため、コアな少数ファンのあいだで地味に浸透している印象を受けます。
そのなかでも米オレゴン州ポートランドのレーベルMoon Glyphは、日本のKankyo Recordsに通じる先鋭的な穏やかさを放っているといえるでしょう。

Atoris『Sea & Forest』


実際、Kankyo Records主宰者H.Takahashiさんが所属する3人組ユニットAtorisのアルバム『Sea & Forest』(2022年10月21日)はMoon Glyphからリリースされました。
アンビエントのなかでも細分化、多様化、深化が目覚ましく、(混乱もあるようですが)Bandcampやカセットテープを軸としたリリースもレーベルも数が多いため、過去の名盤に続いてどれを聴いたらいいのかよくわからない人もいるはずです。
もちろん好みの違いはあるものの、環境音楽の概念そのものを体現しながら現行アンビエントシーンを牽引する存在としてKankyo RecordsおよびH.Takahashiさんに注目すると、Moon GlyphおよびOmni Gardensにもつながります。
少しずつじっくりと良質なアンビエントを追いかけていきましょう。

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渡辺和歌
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