音楽

King Gnu「SPECIALZ」歌詞の意味&サウンドを考察!テレビアニメ『呪術廻戦』第2期「渋谷事変」主題歌

King Gnu(キングヌー)の「SPECIALZ」(スペシャルズ、2023年9月6日、Ariola Japan・Sony Music Labels)は、芥見下々(あくたみ げげ)さんの漫画を原作としたテレビアニメ『呪術廻戦』第2期「渋谷事変」(2023年8月31日~12月28日)の主題歌(オープニングテーマ)として書き下ろされました。
常田大希さん率いるクリエイティブ集団PERIMETRON(ペリメトロン)の映像作家OSRIN(オスリン)さんが監督を務め、1億回再生を突破したMVも話題の「SPECIALZ」の歌詞の意味とサウンドについて考察します。

King Gnu「SPECIALZ」歌詞の意味&サウンドを考察!

  • イントロ
  • 1番:Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)
  • 2番:Aメロ~Dメロ~Eメロ
  • 3番:Aメロ~ラスサビ

テレビアニメ『呪術廻戦』第2期「渋谷事変」

呪術師:味方

  • 虎杖悠仁(いたどり ゆうじ):主人公、呪術高専1年生、宿儺(すくな)の器
  • 伏黒恵(ふしぐろ めぐみ):同級生、呪術高専1年生、2級呪術師
  • 釘崎野薔薇(くぎさき のばら):ヒロイン、呪術高専1年生、3級呪術師
  • 五条悟(ごじょう さとる):担任教師、特級呪術師、現代最強の呪術師

呪詛師:敵

  • 夏油傑(げとう すぐる):五条悟のかつての親友、特級呪詛師、最悪の呪詛師
  • 羂索(けんじゃく):偽夏油(にせげとう)、加茂憲倫(かも のりとし)、真人(まひと)を吸収

呪霊、受肉体:敵

  • 真人(まひと):呪霊組リーダー、特級呪霊(人間への恐れ)
  • 漏瑚(じょうご):特級呪霊(大地への恐れ)
  • 花御(はなみ):特級呪霊(森への恐れ)
  • 陀艮(だごん):特級呪霊(海への恐れ)
  • 脹相(ちょうそう):受肉体、呪胎九相図1番(長男)

呪物:敵

  • 両面宿儺(りょうめんすくな):特級呪物、呪いの王、虎杖に受肉

【イントロ】複数形Zの意味、原曲&サンプリングの元ネタ

"U R MY SPECIAL"

SPECIALZ/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta

イントロの歌詞「SPECIAL」(スペシャル、特別な存在)は単数形ですが、曲名の「SPECIALZ」では複数形「SPECIALS」の「S」が「Z」になっています。
この「Z」に込められた意味を深掘りする向きもあるようですが、まずは単純に「英語のネットスラング(同音異字)」と捉えるのが妥当でしょう。
「YOU ARE」を「U R」と表記するのもネットスラング(同音異字)です。
若者言葉やオタク用語の域を超えて広まっていますが、そもそもプリンス(Prince)が同音異字を多用し、ブラックミュージック系アーティストやヒップホップのラッパーたちが追随した流れもあるので、こうした音楽的背景は踏まえているはず。
そのうえで「格好(かっこう)がいい→かっこいい→かっけー」の「かっけー」を使うほうが「かっけー」くらいの感覚ではないでしょうか。
さらに、King Gnuの音楽性としても、アニメ『呪術廻戦』とくに「渋谷事変」の物語においても、ストリート感を出す狙いや、「Z=後がない、終わり、他にない」などと深読みできるところがハマったのかもしれません。

adidas Originals SST atmos × DAIKI TSUNETA


イントロのほか、曲中で何度もミニマルに繰り返される「ファンキーなお化けのSE」みたいなフレーズには、原曲があることも話題になっています。
その原曲とは、アディダスのスニーカーSUPERSTAR(SST)の常田大希さんモデル、adidas Originals「SUPERSTAR atmos × Daiki Tsuneta」のCM曲。
インダストリアルなサウンド、Metomeさんを彷彿とさせるボーカルのカットアップ(ボーカルチョップ)のサンプリングが印象的です。
こうしたCM曲のリメイクは、常田大希さんの真骨頂。
King Gnuでも勢喜遊さんのドラム&サンプラーによるバンドサウンドのみにこだわらず、常田大希さんの打ち込み(プログラミング、DTM)による電子音楽も活かすようになったのは、新生MILLENNIUM PARADE(ミレパ)で海外アーティストとコラボしたことがきっかけだそうです。

Daniel Williams and Urbano Prodigy「Del 1 Al 10」


ただし、このボーカルチョップのサンプリングは、常田大希さん自身が誰かのボーカルをカットアップした(原曲がある)わけではなく、サンプル音源サブスク(サブスク型サンプル音源サービス、定額制サンプル素材ダウンロードサービス)Spliceスプライス)のサンプル音源「VGP_110_vocal_ambient_treesinwind_C#m.wav」を活用したようです。
その音源名を見て「King Gnuおよび常田大希さんがアンビエントとつながった」と喜ぶのは筆者だけでしょうか。

N/A「NO GOOD」


いずれにしてもサブスクSpliceを利用すれば、誰でも著作権(ロイヤリティ)フリー(商用利用可)でお好みのサンプル素材をサンプリングできるので、この「お化けアンビエント」もさまざまな楽曲で使われています。

the GazettE「LAST SONG」


さらにオルタナティブなギターフレーズも重なるイントロだけでも考察しどころ満載のおもしろい音楽になっていて、King Gnu(というか、常田大希さん)が初期の音楽的衝動を取り戻したかのように感じる人も少なくないようです。

【1番Aメロ】真人目線の渋谷事変

今際の際際で踊りましょう
東京前線興の都
往生際の際際で足掻きましょう
お行儀の悪い面も見せてよ

SPECIALZ/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta

常田大希さんは『呪術廻戦』では「真人(まひと)推し」とのことで、「SPECIALZ」は主人公の呪術師(術師)虎杖悠仁(いたどり ゆうじ)ではなく、敵役の呪霊、真人目線で描かれています。
人間(非術師)の「負の感情」から生まれた「呪い」が具現化した、呪霊。
呪術師、呪詛師、呪霊、呪物、いずれも「呪力=負のエネルギー」を宿すものの、人間を助けるために使うのか否かによって、「味方、正義=呪術師」と「敵、悪=呪詛師、呪霊、呪物」に分かれます。
「イントロ」の「あなたは私にとって特別な存在」は愛をささやく言葉ではなく、「私=真人」が「あなた=虎杖」を悪へと誘う呪いの言葉でした。
MVで最強の呪術師、五条悟(ごじょう さとる)感を醸し出している井口理(いぐち さとる)さんと常田大希さんのツインボーカルによる掛け合いが渋い「1番Aメロ」では、「今際の際際(いまわのきわきわ)、往生際の際際(おうじょうぎわのきわきわ)、お行儀の悪い面(おぎょうきのわるいつら)」や「踊りましょう、足掻(あが)きましょう」などで韻が踏まれています。
「興の都(きょうのみやこ)」は「渋谷事変」で騒がしくなる東京・渋谷のほか、「京の都」で東京校と京都校がある呪術高専を連想することもできるでしょう。
呪文めいた雰囲気を醸し出すために、あるいはヒップホップ的なストリート感を表現するために、英語だけでなく日本語でも同音異字的なダブルミーニングが用いられているようです。
たしかに真人ら敵側目線の「渋谷事変」の物語になっていますが、常田大希さんが『呪術廻戦』や真人をまといながらKing Gnuというバンドの物語を重ねているようにも感じられるでしょう。

【1番Bメロ】アイラブユーベイべも真人のセリフ?

"i luv u 6a6y"
謳い続けましょう
如何痴れ者も如何余所者も
心燃える一挙手一投足
走り出したらアンコントロール

"U R MY SPECIAL"

SPECIALZ/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta

常田大希さんのボーカルによる「1番Bメロ」。
「I love you baby」も「You are my special」もロックバンドのボーカルが歌いがちなラブソングのド定番フレーズです。
これらを同音異字にしてかっこでくくることにより、虎杖に向けた真人の悪いセリフとしてあえて「謳う(うたう)=褒めたたえる、理念として掲げる」体を取りながら、実質ド定番フレーズを歌い続けていることになるところが作為的で秀逸。
ネットスラングと同じ感覚で「如何(どう→どんな)痴れ者(しれもの)=愚か者、余所者(よそもの)」といった古風な漢字や言葉を使う点も、『呪術廻戦』や真人をまとった常田大希さんの美学なのかもしれません。

【1番サビ】無茶苦茶になるのは2番から

無茶苦茶にしてくれないかい?
一切を存分に喰らい尽くして
一生迷宮廻遊ランデブー
眩暈がする程 "U R MY SPECIAL"

有耶無耶な儘廻る世界
No!No!No! そう冷静にはならないで
一生迷宮廻遊ランデブー
誰が如何言おうと "U R MY SPECIAL"

"WE R SPECIAL"

SPECIALZ/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta

ツインボーカルの掛け合いに戻る「1番サビ」。

King Gnu「Tokyo Rendez-Vous」


「喰らい尽くして、廻遊(かいゆう)、儘廻る(わがまわる)」あたりは『呪術廻戦』、「ランデブー」はKing Gnu初期の代表曲のひとつ「Tokyo Rendez-Vous」を連想できます。
ヒップホップ的に韻を踏む点も含め、アニソンらしからぬ楽曲に仕上がっているものの、アニメのオープニング映像として使われる1番はJ-POPらしい構成「Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)」に則り、敵側とはいえ登場人物の心情に寄り添い、その設定のおかげで邦ロックのラブソング仕様にもなっているところは、案外「お行儀がいい」といえるかもしれません。
真人が「WE ARE SPECIAL=(人間や呪術師と比較して)呪霊たち呪い側は特別」とフレックス(自己アピール)しているわけですが、「一切を存分に喰らい尽くした=さまざまな大人の事情を踏まえた」うえで、おもしろい音楽を展開する(好む)「King Gnu(リスナー)は特別」と自己暗示の呪文を唱えているようにも聴こえます。

【2番Aメロ】冷静に俯瞰した場合

土俵際の際際で堪えましょう
東京沿線大荒れ模様
報道機関氣裸氣裸血走ります
冷静と俯瞰は御法度です

SPECIALZ/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta

「堪える」の読み方は「こたえる、こらえる、たえる」の3つがありますが、ここでは「こたえる」。
いずれも「耐える、我慢する」という意味なので、術師と呪いの白熱した戦いを相撲になぞらえたイメージです。
「氣裸氣裸」は「ギラギラ」の当て字でしょう。
「呪力を宿す際物(キワモノ)=変わり種」に端を発すると思われる「際際(きわきわ)」の言葉遊び(韻踏み)のほか、上半身が裸の力士と術師や呪いが「気合」でつながるといった、細かい深読みも楽しいかもしれません。
「御法度(ごはっと)」とのことですが、「冷静」に「俯瞰(ふかん)」すると、2番に入り、そろそろKing Gnuがリスナーの期待に応(こた)えてくれる(音楽的な大荒れ模様を魅せてくれる)雰囲気も漂います。

【2番Dメロ】生き様を悔いないための変化球パート

"get 1⚪st iπ 31"
自分を庇う言葉ばかりを
いつまで言い聞かせるの?

"get 1⚪st iπ 31"
生き様を悔いるなんて
そんなの御免だわ

SPECIALZ/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta

常田大希さんのボーカルパート「1番Bメロ」に対する、変化球のような「2番Dメロ」。
こちらのかっこでくくられた部分は日本語読みも含む当て字になっていて、「get lost in me」つまり「私を好きになって、私に夢中になって」と解釈できます。
やはり真人の呪いの言葉ですが、その設定があるからこそ歌えてしまう、ド直球の愛の言葉、ラブソングにありがちなフレーズ。
さらに、ボーカルの声質のみで井口理さんを光、常田大希さんを闇になぞらえると、常田大希さんが闇のボーカルにも注目してほしがっているようにも感じられます。
あるいは、J-POPのスタイル(構成)を全うした(自分を庇った)1番に対し、(生き様を悔いないために)そこから逸脱した変化球パートにこそ、King Gnuの音楽的なおもしろさが潜んでいるとも深読みできるでしょう。

【2番Eメロ】低体温のフローが点けた青い炎とは?

応答してよ其体温感じたいの
低体温のフローが点けた青い炎
ロマンティックに誤魔化さないで単刀直入に切り裂いて
熱っぽいラブソングには酔えないよもう

"i luv u 6a6y"

SPECIALZ/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta

「1番サビ」に相当(応答)するパートのはずなのに、キャッチーなサビにはなっていない「2番Eメロ」。
そのサビらしからぬ点と、ボーカルエフェクト過多の「青い炎」が「無茶苦茶」の権化ではないでしょうか。
『呪術廻戦』の物語に照らし合わせると、「低体温のフローが点けた青い炎=呪力(負の感情から生まれた、負のエネルギー)を流し込んで発動した術式(領域展開)」となり、その「(呪力により発動された)術式」を強調するための過剰エフェクトと思われます。
「体温」にこだわっているのは、「呪霊=全身が呪力」の真人には実体がないからでしょう。
ちなみに「人間→呪物→受肉体」と化した宿儺(すくな)には実体があります。
「低体温=負のエネルギー=呪力」による術式の発動「術式順転」に対し、「熱っぽい(高温)=正のエネルギー」による術式の発動「術式反転」は、呪霊の真人にとって大敵。
こうした真人の心情が吐露されるなか、King Gnuの物語として深読みするのもおもしろいかもしれません。

King Gnu「McDonald Romance」


音楽的には、「フロー」といえば「ラップの節回し」。
キャッチーな声質の井口理さんが、キャッチーな声質ではない常田大希さんの歌う「1番Bメロ」や「2番Dメロ」(低体温のフロー)で「青い春(青春)の炎が点った」から「応答してよ」と促しているイメージです。
ところが常田大希さんはKing Gnu初期の代表曲のひとつ「McDonald Romance」のようなラブソングはもう書けない(負の感情)と応えた感じがします。
その直後に、真人をまとってぶちかまされる「I love you baby」こそ「青い炎=呪力による術式」なのかもしれません。

【3番Aメロ】お行儀の悪い呪文だった

今際の際際で踊りましょう
東京前線興の都
往生際の際際で足掻きましょう
お行儀の悪い"U R MY SPECIAL"

SPECIALZ/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta

歌詞は「1番Aメロ」とほぼ同じですが、「お行儀の悪い」の後が「面も見せてよ」ではなく「"U R MY SPECIAL"」になっている「3番Aメロ」。
たしかに「熱っぽいラブソング」にありがちな「あなたは私のスペシャル」というフレーズが、「青い炎=呪力による術式」として発動されることで、何とも「お行儀の悪い呪文」と化しています。
サウンドも「1番Aメロ」などのインダストリアルなビートが「3番Aメロ」では術式を彷彿とさせるハードな4つ打ちに昇華されるので、『呪術廻戦』ファンもダンスミュージックフリークも盛り上がるでしょう。

【3番ラスサビ】あなたはそのままで特別

無茶苦茶にしてくれないかい?
未来を存分に喰らい尽くして
一生迷宮廻遊ランデブー
眩暈がする程"U R MY SPECIAL"

有耶無耶な儘廻る世界
No!No!No! そう冷静にはならないで
一生迷宮廻遊ランデブー
誰が如何言おうと "U R MY SPECIAL"

"WE R SPECIAL"
冷静にはならないで
"WE R SPECIAL"
あなたはそのままで
"WE R SPECIAL"
どこまでも特別よ
"WE R SPECIAL"
誰が如何言おうと

"U R MY SPECIAL"

SPECIALZ/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta

「無茶苦茶」な2番を経て、「お行儀の悪い呪文」のオンパレードで締めくくられる「3番ラスサビ」。
真人目線の呪いの言葉だとしても「あなたはそのままで特別」と畳みかけられると、結果的に「冷静ではない、熱っぽいラブソング」の作用が生まれます。
「特別」とささやく相手が何人もいる悪い輩にだまされる感覚かもしれませんが、そもそも「誰しも特別な存在」と「正のエネルギー」によって「術式反転」するのも粋かもしれません。

おわりに


締め切りに追われてキャッチーなタイアップ曲を連発しなければいけない状況のなか、タイアップ先の物語を遊び尽くしたうえで、音楽的なおもしろさを存分に発揮したという意味で、「SPECIALZ」はKing Gnuにとって「特別な曲」になったのではないでしょうか。
もちろん『呪術廻戦』だからこそ、アニソンらしからぬおもしろい音楽を求められた側面もあったでしょう。
歌詞、サウンド、MV、それぞれに『呪術廻戦』に即したさまざまな遊びが仕掛けられていますが、関連して深掘りするほか、まったく離れて純粋な音楽としても楽しめるところがKing Gnuの「特別」な才能かもしれません。

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渡辺和歌
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