音楽

トム・ミッシュ『Quarantine Sessions』楽器を演奏したくなるセッションアルバム

トム・ミッシュ(Tom Misch)の『Quarantine Sessions』(クアランティン・セッションズ)は、先が見えないVUCA(ブーカ)の時代の癒し!
とくにギタリストは必聴です。

はじめに


1995年6月25日、イギリス・ロンドン生まれのSSW、マルチ奏者、プロデューサーのトム・ミッシュ。

星野源「Ain’t Nobody Know」


星野源さんAin’t Nobody Know」(EP『Same Thing2019年10月)でのコラボ(作曲・編曲・プロデュース)も話題になりました。


『Quarantine Sessions』(配信:2021年9月3日、国内盤CD:同年12月3日、LP:2022年3月11日)は、コロナ禍のロックダウン中に公開されたセッション動画のアルバム化
「Quarantine」(クアランティン)は「検疫、隔離」といった意味で、ロックダウンを表しています。
カバー5曲、オリジナル3曲の全8曲・33分あまり。
国内盤CDにはジャクソン5The Jackson 5)のメジャーデビューシングル「I Want You Back」(帰ってほしいの、1969年10月)のカバーがボーナストラックとして追加されています。

【1】Chain Reaction (feat. Jordan Rakei)


ニュージーランド生まれ、オーストラリア育ち、イギリス・ロンドンを拠点に活動するSSW&プロデューサーの盟友ジョーダン・ラカイを迎えたオリジナル曲「Chain Reaction」。
動画の右側でギターを弾いているのがトム・ミッシュ、左側で鍵盤(エレピシンセサイザー)を奏でながら歌っているのがジョーダン・ラカイです。

Against The Clock


トム・ミッシュはエフェクターオクターバーで音程を下げてベースっぽいリフを弾き、途中からルーパーでループさせつつ、ギターの原音で自由なフレーズやリフを重ねているようです。
リズムに乗りながらミニマルにリフを繰り返すことでグルーヴが生まれ、ささやくようなボーカルも相まって、高揚感がありつつメロウなセッションになっています。

【2】Cranes In The Sky


ビヨンセBeyoncé)の妹ソランジュSolange、SSW・パフォーマンスアーティスト・女優)のシングル「Cranes in the Sky」(2016年10月、3rdアルバム『A Seat at the Table』2016年9月)のカバーです。
最初に弾いたリズム、アルペジオ、ベースラインをループさせながら、ソランジュが歌うメロディー部分を奏でたり、ギターソロを加えたりしています。
ギター1本で音楽の三大要素(メロディー、リズム、ハーモニー)を、それぞれの役割に合った音色で表現!

American Performer Series


ジョン・メイヤー(John Mayer)のシグネイチャーモデルアメリカンパフォーマーなど、フェンダーのストラトキャスターを愛用するギタリストにとっても、リバーブディレイの効いた浮遊感あふれるギターサウンドを好むリスナーにとっても、たまらない「ひとりセッション」ではないでしょうか。

ソランジュ「Cranes in the Sky」

【3】For Carol (feat. Tobie Tripp)


トム・ミッシュの3rd EP『5 Day Mischon』(2017年3月)の収録曲「Day 5: For Carol (feat. Tobie Tripp)」のセッション。
動画の右側トビー・トリップ(マルチ奏者、ストリングスアレンジャー、作曲家、プロデューサー)はバイオリンとアナログシンセサイザー、左側のトム・ミッシュはバイオリンとギターを奏でています。
ミニマルでスペイシーなアンビエントですが、EPバージョンより今回のセッションのほうがノイジーなエフェクトは多めです。

Day 5: For Carol (feat. Tobie Tripp)

【4】Gypsy Woman


アメリカのハウスミュージックのSSWクリスタル・ウォーターズCrystal Waters)の1stシングル「Gypsy Woman (She’s Homeless)」(1991年4月、1stアルバム『Surprise』1991年6月)のカバーです。
トム・ミッシュはやはりギターリフやオクターバーのかかったベースラインをループさせ、メロディーやギターソロを奏でています。

クリスタル・ウォーターズ「Gypsy Woman (She’s Homeless)」


原曲は、大叔母がジャズシンガー&女優のエセル・ウォーターズEthel Waters)、父がジャズミュージシャンのジュニア・ウォーターズJunior Waters)というクリスタル・ウォーターズの謎めいたクールな歌声「ラダディーラダダ」が耳に残るガレージハウスディープハウスです。

【5】Parabéns (feat. Marcos Valle)


ブラジルのSSW&プロデューサー、マルコス・ヴァーリParabéns (Dança Do Daniel)」(アルバム『Contrasts』2003年9月)のカバーで、本人とリモートでコラボしているセッション。
動画・右側のマルコス・ヴァーリはフェンダーローズを弾きながら歌い、左側のトム・ミッシュはコップを叩いたり、ギターでリズムやベースラインを奏でたりしてループさせつつ、テーマと即興を行き来しています。
ポップに昇華されたブラジル音楽が心地いですね。

マルコス・ヴァーリ「Parabéns (Dança Do Daniel)」

【6】Smells Like Teen Spirit


アメリカのロックバンド、ニルヴァーナNirvana)の大ヒットシングル「Smells Like Teen Spirit」(1991年9月、2ndアルバム『Nevermind』1991年9月)のカバーは、さわやかなグランジに仕上がっています。
オートワウ効果があるローパスフィルターMoog MF-101」が使われているでしょうか。
津軽三味線のように聴こえるフレーズがあるのもおもしろいですね。

ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」

【7】The Wilhelm Scream


ジェイムス・ブレイクJames Blake)のシングル「The Wilhelm Scream」(2011年3月、1stアルバム『James Blake』2011年2月)のカバーです。
原曲のリバーブが効いた浮遊感あふれるポストダブステップを継承しつつ、ギュイ~ンと歪ませるアレンジが加わっています。

ジェイムス・ブレイク「The Wilhelm Scream」

【8】Missing You


セッション動画はアップされず、アルバムとしてリリースするにあたり追加されたオリジナル曲「Missing You」。
「ロックダウン中の孤独が、音楽を奏でることで癒される」というアルバム全体のコンセプトを総括するようなチルナンバーです。
時代が求めるアンビエント、チルアウトとして何度もリピートして聴きたくなると同時に、「ローファイな環境でも楽器を演奏するのは楽しい」と勇気づけられる人も多いのではないでしょうか。

おわりに


文中にもリンクを張っておきましたが、トム・ミッシュの使用機材はInstagramEquipboard、ジョーダン・ラカイについてもEquipboardなどを参照しています。
『Quarantine Sessions』で使用しているかどうかは特定できないものも多いので、参考程度にお楽しみください。

Montreux Jazz Festival 2019


自宅での「ひとりセッション」やジャムセッションと、スタジオレコーディングやライブではセッティングが大きく異なるもの。
『Quarantine Sessions』はロックダウンという非常事態だったからこそ生まれた作品で、気軽に音楽を奏でたい人にとっても、通常ならデモ段階の制作現場を覗いてみたい人にとっても貴重といえるのではないでしょうか。

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渡辺和歌
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