音楽

Oavette(オーベット)『Oavette LP』音響系ポストロックバンドによる人力テクノはアンビエントにも接近

愛知のインストバンドOavette(オーベット)による結成10周年の集大成『Oavette LP』は、ポストロックやマスロックのファンはもちろん、ダンスミュージック、電子音楽、アンビエントのリスナーにも刺さる名盤です。

はじめに


2012年結成、愛知・名古屋発の4人組インストバンド、Oavette(オーベット)。

メンバー

  • Yuto Tamei(為井悠男):ギター
  • Genki Nishikawa:ギター
  • Takuma Mori:ベース
  • Hayato Ota(太田隼人):ドラム

  • 前列、後列:左→右:Hayato Ota、Genki Nishikawa、Yuto Tamei、Takuma Mori

Oavette「Atlas / Nix (Dawn of Midi)」


ポリリズムを駆使したミニマルポストロックマスロックを展開するバンドサウンドは、まさに人力テクノ、人力ダンスミュージック。

ドーン・オブ・ミディ『Dysnomia』


カバーを披露している、米NYのジャズトリオ、ドーン・オブ・ミディDawn of Midi)のほか、モグワイMogwai)、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイExplosions In The Sky)、メイビーシーウィルMaybeshewill)、ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラーGodspeed You! Black Emperor)、バトルスBattles)、ファラケットFaraquet)、トータスTortoise)、マセラティMaserati)、チューリング・マシンTuring Machine)、テクノ系ではベン・クロックBen Klock)、ブリアルBurial)、アクフェンAkufen)、ジャズ系ではニック ・ベルチュNik Bärtsch)、ポストクラシカル系ではニルス・フラームNils Frahm)、オーラヴル・アルナルズÓlafur Arnalds)、国内勢ではdownyダウニー)、MONOモノ)、envyエンヴィー)、LITEライト)、BALLOONSバルーンズ)、OVUMオーヴァム)、kacicaカシカ)などの影響を受けているそうです。

Oavette LP


1st アルバム『Oavette LP』(2023年9月13日、TOKEI RECORDS)は、全8曲・約38分。
既発の1st EP『Oavette』(2019年3月6日、TOKEI RECORDS)、および石川・金沢発の5人組ポストハードコアバンドRole(ギター&作曲のJunki Morimoto(森本順喜)さんとOavetteのYuto Tameiさん&Hayato Otaさんは元emi)との2枚組スプリットアルバム『28|29』(2021年8月11日、TOKEI RECORDS)の1枚に相当するスプリットEP『Oavette 2』収録の全8曲が再録音&リマスタリングされました。
Yuto Tameiさんの出身地でもある富山のレーベルTOKEI RECORDS(主宰:山内コウイチ(山内晃一)さん / interior palette toeshoes)からリリースされた、Oavette結成10周年を記念する傑作です。

クレジット

【1】SUA


オープニングを飾る「SUA」。
電子音楽のミニマルテクノのようなサウンドにもかかわらず、ギター2本とベース、ドラムで演奏しているという人力スタイルに衝撃を受けます。
ポストロックやマスロックを大まかにハードコア寄りの轟音系と音響系の2種類に分類すると、変則的なリズムのドラムにミニマルなギターフレーズとストイックなベースを組み合わせる手法は音響系の極みといえるでしょう。
ところが「カンッ」と刺すようなスタブ(Stab)音が入ることによって少しずつ展開が変わるところは、EDMベースミュージックなどの電子音楽の常套手段です。
楽器演奏による微妙な揺らぎをバンドサウンドの醍醐味として堪能しつつ、全員が全体を俯瞰していなければ成立しない緻密な構成に驚かされます。

【Live】octo presents@LIVE SPACE CONPASS

  • 00:05【1】SUA
  • 02:45【2】TROODON
  • 09:37【6】NEUS
  • 15:07【4】ANIG

【2】TROODON


ハイハットのシャカシャカ音とキレキレのスネアの組み合わせが心地いい「TROODON」。
光の粒が舞うようなギター、大地をうごめくようなベース、それぞれのリズムが淡々と積み重ねられ、独特のグルーヴが生み出されます。
ダンスミュージックのブレイクみたいにスネアが引き算され、リムショットで締めくくる後半の展開も圧巻です。

【3】GREETING


ポリリズムの嵐「GREETING」は、踊らないダンスミュージックIDMを想起させながらもグルーヴィー。
瞑想的なアンビエントとして没入感に浸ることもできます。

【4】ANIG


空関系エフェクターを活用したギターが、シンセのドローンのように響く「ANIG」。
リズムギター、低音ベース、タイトなドラムと相まって、バンドサウンドなのに電子音楽のアンビエント・ドローンを聴いているような不思議な感覚に誘われます。

【Live】ANIG@Studio246

【5】ZF


引き続き、2本のギターが空間系とリズムに振り分けられている「ZF」。
演奏形態は音響系ポストロックに分類されますが、奏でられているサウンドはダブステップ2ステップと不穏なドローンを掛け合わせた、ブリアルBurial)を彷彿とさせる電子音楽のようです。

【6】NEUS


一糸乱れぬアンサンブルに度肝を抜かれる「NEUS」。
ギター、ベース、ドラムの音をきっちり合わせたり微妙にずらしたりしながら畳みかけられるグルーヴに酔いしれます。

【7】QUET


ゆらゆら揺れながらのチルアウトに適したダンスミュージックのような「QUET」。
箏(こと)、三味線、和太鼓、銅鑼などの和楽器のようにも響いたり、ブレイクやドロップ(サビ)のあるクラブミュージックのような構成だったり、シンセによる電子音楽のようでもあり、いったい何を聴いているのか、とまどう感覚がクセになります。

【Live】QUET@stiffslack Venue

【8】JAVV


ラストを締めくくる「JAVV」。
空関系のギターが存在感を増し、音響系ポストロックバンドならではのアンサンブルだったことに気づかされる着地点です。

おわりに

筆者個人としては、ご時世的にも音楽の進化&深化の流れ的にもアンビエントに注目するなかで、ジャズ、R&B、フォークだけでなく、ヒップホップのほか、ポストロック、マスロック、クラウトロックまで、音響派やエクスペリメンタル実験音楽)などを経由してアンビエントに接近しているという驚きがありました。
トータス(Tortoise)のギタリスト、ジェフ・パーカーJeff Parker)の次なる展開といえるかもしれません。
Oavetteがストイックに追求している音楽は、ジャンルや国を超越した最先端のサウンドではないでしょうか。

Rupurizu『binarius-ab』


Oavetteと対バン公演もしている3人組バンドRupurizuルプリズ中川暁生さん、番長さん、山本淳平さん、サポートメンバー松崎幹雄さん)のアルバム『binarius』(2023年7月14日、SAY HELLO TO NEVER RECODINGS、EP『binarius-ab』&EP『binarius-ad』)にも、これまでのポストロックバンドによる人力ダンスミュージックを刷新する先鋭さが感じられます。

エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ『End』


Oavetteのメンバーも影響を受けている、米テキサスのポストロックバンド、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイExplosions In The Sky)は、7年ぶりにアルバム『End』(2023年9月15日Temporary Residence Ltd.)をリリースしました。

空間現代『Tracks』


2006年結成、早稲田大学出身、京都でライブハウスを運営する3人組エクスペリメンタルロックバンド空間現代Kukangendai)のアルバム『Tracks』(2023年4月26日Leftbrain / HEADZ)も、Oavetteと通じるところがあるでしょうか。

ネイト・スミス『Pocket Change 2: Mad Currency』


米NYのジャズドラマー&作曲家&プロデューサー、ネイト・スミスNate Smith)のドラムソロアルバム第2弾『Pocket Change 2: Mad Currency』(2023年12月14日、Waterbaby Music)も、人力のドラムによるリズムやグルーヴが超絶です。

シャルルマーニュ・パレスタイン『DINGGGDONGGGDINGGGzzzzzzz ferrrr SSSOFTTT DIVINI TIESSSSS!!!!!!!!!』


ラ・モンテ・ヤングLa Monte Young)、テリー・ライリーTerry Riley)、フィリップ・グラスPhilip Glass)、スティーヴ・ライヒSteve Reich)と並ぶミニマルミュージックの大御所シャルルマーニュ・パレスタインCharlemagne Palestine)のアルバム『DINGGGDONGGGDINGGGzzzzzzz ferrrr SSSOFTTT DIVINI TIESSSSS!!!!!!!!!』(2023年12月1日Blank Forms Editions)もどうぞ。

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渡辺和歌
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