音楽

Metome『HORA』ハウス寄りのエレクトロニカ、カットアップやアンビエントなど網羅する超大作

Metome(メトメ)さん、5年ぶりのアルバム『HORA』には電子音楽の楽しさが詰まっています。

はじめに


大阪を拠点とするプロデューサーTakahiro UchiboriさんによるソロプロジェクトMetome(メトメ)。

HORA


4thアルバム『HORA』(2023年9月13日、Metome)は、先行シングル6曲を含む、全23曲・1時間46分。
カバーアートはデザイナーの黒崎厚志Kurosaki Atsushi)さん、TシャツはイラストレーターのSatoshi Kurosakiさんが手がけました。
3rdアルバム『Dialect』(2018年8月8日Metome / Dialect)以来、5年ぶり。
その後のEP『Trail』(2022年3月11日Stólar)やディスコグラフィを踏まえると、電子音楽(エレクトロニックミュージック)のなかでも、ざっくりと(系統立てるのは難しく、4つ打ち系も含みつつ、基本的に)非4つ打ち系のIDMやエレクトロニカから、ヒップホップやノイズエクスペリメンタル系のウィッチハウスを経て、4つ打ち系のハウスにたどり着いたようです。
この独特な流れと共に、安易にジャンル分けできない多様性を堪能しましょう。

【1】Curly


ボーカルサンプルのカットアップボーカルチョップ)が冴える「Curly」。
ギター、ベース、鍵盤のサウンドやビートも心地よく、R&Bやネオソウルの雰囲気が漂うハウスに仕上がっています。

【2】Plastic Umbrella


音数の少ない的確なミニマルフレーズの展開が楽しい「Plastic Umbrella」。
跳ねる雨音と戯れるMetomeさん流シティポップでしょうか。

【3】Sand River


第2弾シングル「Sand River」(2020年5月4日)もカットアップの手腕が光る、ミニマルなネオソウル系ハウス。
哀愁の漂うギターや鍵盤のサウンドはブルースのようでもあり、全体的にはダウンテンポアンビエントハウスチルウェイヴに接近しています。

【4】Dive


第1弾シングル「Dive」(2020年3月20日・30日)。
ドローンのようなシンセ、インダストリアルな雰囲気も漂う金属音的なビート、ドラムンベースのビート(ブレイクビーツ)、ネオソウルっぽいボーカル」の足し引きが絶妙です。

【5】Equivalent


ボーカルとシンベのサウンドがキャッチーな「Equivalent」(意味:同等)。
写真家、伊丹豪Go Itami)監督によるMVには、SSW沖ちづるさんやギター森飛鳥(Asuka Mori)さんらがメンバーの東京発4人組インディーロックバンドTocago(1st EP『Wonder』2023年8月9日、FRIENDSHIP.)、現代美術家の善養寺歩由Zenyoji Ayu)さんらが出演しています。

Asuka Mori「Fragment of a mindscape」

【6】Caries Prevention


「Caries Prevention」は「虫歯予防」という意味。
もし歯科クリニックで流れていたら、安心して治療を受けられそうなアンビエント(環境音楽)といえるかもしれません。

【7】Weather Vane


第6弾シングル「Weather Vane」(2023年5月8日、意味:風向計)。
軽快なボーカルカットアップや風音のようなシンセサウンドが溶け合う4つ打ちハウスです。

フィリップ・プリーベ「Beau Rivage (Metome Remix)」

【8】Blue Crayfish


第5弾シングル「Blue Crayfish」(2023年5月7日、意味:青いザリガニフロリダブルー)。
トライバルなボイスが印象的に響く、ゆったりミニマルなドラムンベース(ブレイクビーツ)で、これまでの心地いいハウス寄りの流れを壊し始めたでしょうか。

【9】Distant Waves


BPM速めのドラムンベースのビートに、シンセによる「遠くの波」のようなアンビエント・ドローンが重ねられた「Distant Waves」。
ストイックに電子音楽を追求している印象を受けます。

【10】Gravel


「Gravel」(意味:砂利)もストイックさが際立つミニマルテクノ。
粒立ちのいい音のみ浴びる没入感が醍醐味でしょう。

【11】Melody in Motion


30秒あまりのインタールード的な「Melody in Motion」。
ボーカル(メロディ)カットアップの流れ(進行)に戻る布石のようです。

【12】Tombola


「Tombola」はイタリアのビンゴゲームトンボラ」のことで、「当たり」という意味もあります。
ストイックにビート(トラック)メイクを追求しつつ、Metomeさんの代名詞的なボーカルチョップに戻った流れがしっくりくるというか、「当たり」なのかもしれません。

【13】Sample Chair


サンプルのカットアップがエクスペリメンタルな「Sample Chair」。
非4つ打ち、ビートなしの実験性も発揮されています。

オウテカ『SIGN』

【14】Salamander


「Salamander」(読み:サラマンダー)は両生類>有尾類の「ファイアサラマンダー」、あるいは「火の精霊」でしょうか。
延々と繰り返されるスクラッチはイモリの仲間のファイアサラマンダーがドタバタ歩くようでもあり、その後の解放感は炎を吐く火の精霊サラマンダーを想像できるかもしれません。

【15】Observation of Dragonfly


「Observation of Dragonfly」(意味:トンボの観察)は、緊迫感の漂うシンセドローン。

ミムラシンゴ『Sprouting Life』

【16】Ancient


第3弾シングル「Ancient」(2021年12月26日、意味:古代)はグリッチ全開。
基本的に「陽気なダンスミュージックのハウス」と「不気味な非ダンスミュージックのノイズ(グリッチ)」はそれぞれ細分化が進み、すみ分けられていますが、1枚のアルバムに両方の要素を取り入れ、なおかつ違和感のない流れを生み出せるところがMetomeさんの手腕といえるでしょう。
京都を拠点とするプログラマー、サガー・パテルSagar Patel)によるMVも制作されています。

アルヴァ・ノト『HYbr:ID II』

【17】GOML


「GOML」は「Get On My Level」(意味:俺のレベルに追いつけ)の略でしょうか。
格ゲーの大会やヒップホップの曲名を連想できそうですが、真相はわかりません。
ジャジーなドラムンベース、浮遊感の漂うシンセドローンやミニマルな展開が粋です。

【18】Ghost of Love


かわいらしいミニマルなアンビエント「Ghost of Love」。
この路線でアルバムを作ってほしくなるほど、ずっと聴いていられます。

【19】Tico Tico


実験音楽のようなミニマルテクノ「Tico Tico」。
ボイスが加わる後半にかけて、じっくり積み重ねる流れがストイックです。

【20】Duplicate


20秒足らずの「Duplicate」(意味:複製、コピー)は、11曲目「Melody in Motion」のようなインタールードです。

【21】Twofold Purpose


第4弾シングル「Twofold Purpose」(2023年5月7日、意味:2つの目的)。
ボーカルカットアップとシンセドローンの2つが美しく重なります。

【22】Fire Script


「Fire Script」は「炎文字」という意味でしょうか。
ギター、バイオリン、ベース、シンセ、ボーカル共にR&Bのラブソングのようですが、独自のスクリプト言語にカットアップされているらしく、燃え盛る愛が語られているかどうかはわかりません。

【23】Assembly Line


ジャジーかつミニマルな「Assembly Line」(意味:組み立てライン)で締めくくられました。

おわりに

さまざまな要素がありつつ、全体的に穏やかで温かい雰囲気に満ちたアルバムでした。
ウィッチハウスやグリッチなどの不気味な実験性を適度に抑えてハウスを基調にしつつ、フロアライクなゴリゴリのダンスミュージックには走らないところがMetomeさんらしいセンス。
時代に合った心地よさを堪能できたのではないでしょうか。

speedometer.『afterglow -残照-』


Metomeさんともコラボし、古本と古物を展示・販売するプロジェクト、アサノヤブックスASANOYA BOOKS大阪・藤井寺)を主宰するspeedometer.高山純)さんのアルバム『afterglow -残照-』(2023年8月25日、JUN RECORDS)は、ダビーかつエクスペリメンタルなアンビエントでクセになります。

kafuka「Sneaky」


metome&kafuka(略称:メトカフ)名義でEPもリリースしたkafuka(Eshima Kazuomi)さんのシングルもどうぞ。

Tomotsugu Nakamura『Antenna』


東京を拠点とするサウンドアーティストのTomotsugu Nakamura中村友胤)さんが、アルバム『Antenna』(2023年10月6日、Audiobulb Records)でフォーカスしたのはグリッチ。
Metomeさんとは逆の試みのようですが、やはり穏やかで温かみがあります。

地球『ジャングル』


再発とのことで、オランダのヴェイパーウェイヴ作家、猫 シ Corp.Cat System Corporation)の別名義、地球のアンビエント・アルバム『ジャングル』(2014年11月14日、Hiraeth Records)もぜひ!

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渡辺和歌
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