音楽

ブレンダン・エダー・アンサンブル『Therapy』エイフェックス・ツインのアンビエントが室内楽に!

ブレンダン・エダー・アンサンブル(Brendan Eder Ensemble)の『Therapy』は電子音楽、パンク、ダブ、ロックステディ、ヒップホップ、ブレイクビーツ、ファンクなどの影響も受けた作曲家とジャズ、クラシックのアンサンブルの融合。
希代の電子音楽家リチャード・D・ジェームス(Richard David James)ことエイフェックス・ツインAphex Twin)のカバーもあり、至極の境地へと誘ってくれます。

はじめに


米ロサンゼルス(LA)出身、旧カレッジ・オブ・サンタフェ(College of Santa Fe)で音楽を学んだ作曲家&プロデューサー&マルチ奏者(ドラム、ピアノ)、ブレンダン・エダー(Brendan Eder)。

Brendan Eder Ensemble

Therapy


ブレンダン・エダー・アンサンブル名義の3rdアルバム『Therapy』(2023年3月3日、Brendan Eder Ensemble)は、先行シングル&EP4曲を含む、全10曲・41分あまり。
国内盤CD(2023年5月24日、astrollage)は、ボーナストラック「#20 (Lichen) – Aphex Twin cover」を含む、全11曲です。
作・プロデュース・ミックスを務め、キーボードとパーカッションを奏でるブレンダン・エダーを含め、総勢12人によるアンビエント&ニューエイジ、クラシック&ジャズのサウンドが融合した室内楽。
「エイフェックス・ツインによる室内アンサンブル&教会オルガンチャレンジ」をイメージして制作され、主にカリフォルニア州アルカディアにある教会(Church of the Good Shepherd)で演奏&録音されました。

クレジット:M1~10

【1】QX 2021


第1弾シングル「QX 2021」(2022年10月7日)はフルート2人、クラリネット、アルトサックス、ファゴット、エレキベースのセクステット。
ミニマルなフレーズの繰り返しは電子音楽の手法ですが、ドラマーでもあるブレンダン・エダーがドラムを演奏せず(ビートレス)、木管楽器とエレキベースによる温かみのあるサウンドが多層的に織りなされています。
抜け感のある空間の響きが極上です。

【2】Pure (Ride the World)


先行リリース第4弾のEP表題曲「Pure (Ride the World)」(2023年2月4日)。
ブレンダン・エダーの演奏も加わり、穏やかながらも徐々に盛り上がった後、静謐に締めくくられる流れが心地いいでしょう。

【3】Ending (feat. Ethan Haman)


第3弾シングル「Ending」(2023年1月13日)でフィーチャーされているのは、オルガン奏者イーサン・ハマン
イェール大学(コネチカット州ニューヘイブン)のウールジー・ホールにあるニューベリー・メモリアル・オルガンの演奏が荘厳に響きます。

【4】Solace (feat. Nailah Hunter)


2020年のパンデミック時にリモートでEPを制作した女性4人組ニューエイジグループGaldre Visionsのメンバーでもある、LAのハープ奏者&作曲家ナイラ・ハンターを迎えた「Solace」。
曲名どおり、ネガティブな感情が浄化される癒しの音楽になっています。

【5】Isn’t it True (feat. Henry Solomon)


「Isn’t it True」でフィーチャーされているのは、LAのサックス奏者&作曲家&プロデューサーのヘンリー・ソロモン
同じくLAのベーシスト&作曲家ローガン・ケインらと共に5人組ファンクパンクバンド、サンパザウルスThumpasaurus)のメンバーで、ルイス・コールLouis Cole)やハイム(HAIM)ともコラボしています。
これほど穏やかなジャズも吹けるのかと、バンドとのギャップに驚く人もいるのではないでしょうか。
ブレンダン・エダーはスタインウェイコンサートグランドピアノ、1930年製モデルDを奏でているようです。

【6】#3 (Rhubarb) – Aphex Twin cover


第2弾シングル(2022年11月4日)は、エイフェックス・ツインの2ndアルバム『Selected Ambient Works Volume II』(1994年3月7日、Warp / Sire)の3曲目「#3 (Rhubarb)」のカバー。
エイフェックス・ツインといえばドリルンベースの激しいサウンド、およびエッジの効いたジャケットやMVの印象が強いものの、そもそもアンビエントから始まっている点を踏まえると、ブレンダン・エダーが作曲家を志すきっかけとなったのもうなずけるでしょう。
アナログ盤ではこの6曲目からB面で、カバーをB面にまとめたと考えられますが、A面のオリジナル5曲とカバーが違和感なくつながる構成も秀逸です。

エイフェックス・ツイン「#3 (Rhubarb)」

【7】Interlude


カバーとオリジナルをつなぐためのインタールードといったところでしょうか。

【8】aaaaaa (no more)


オリジナルの「aaaaaa (no more)」もエイフェックス・ツインのカバーに溶け込んでいます。

【9】#17 – Aphex Twin Cover


エイフェックス・ツインの2ndアルバム17曲目「#17 (Z Twig)」のカバー。
ピッコロ、フルート、クラリネット、アルトサックス、ブレンダン・エダーのオルガンという編成で演奏されています。
まるで天使が飛び跳ねるかのような美しい残響が印象的。
映像の最初と最後でひょっこり顔をのぞかせるブレンダン・エダーもお茶目です。

エイフェックス・ツイン「#17 (Z Twig)」

【10】137 Riddle


まず、制作中の楽曲のテンポが137BPMだったので、仮タイトルを「137 Riddle」(137 謎)にしたそうです。
ざっくりスローテンポ(~80BPM)、ミドルテンポ(80~120BPM)、アップテンポ(120BPM~)とすると、アップテンポになるでしょう。
次に、137という数字が気になって調べてみると、理論物理学者ヴォルフガング・パウリ錬金術数秘術ユング心理学などとつながりがあることに気づいたようです。
しかも、アルバム制作中にインスパイアされたテーマ「物理的な次元と精神的な次元、臨死体験(NDE)、神智学とアートの境界」と合致したとのこと。
ブレンダン・エダー自身、突然恋人が亡くなる経験をしているので、こうした研究の果てに音楽へと昇華する必要があったのかもしれません。
そう考えるとなおさら魂に響くのではないでしょうか。

【11】#20 (Lichen) – Aphex Twin cover

  • アンバー・ワイマン:ファゴット
  • ヘンリー・ソロモン:アルトサックス
  • サラ・ロビンソン(Sarah Robinson):フルート
  • Vincent Camuglia:クラリネット
  • ローガン・ケイン:エレキベース
  • ブレンダン・エダー:ドラム、プロデュース、アレンジ

ボーナストラックはエイフェックス・ツインの2ndアルバム20曲目「#20 (Lichen)」のカバー。
LAのジャズベーシスト、サム・ウィルクス(Sam Wilkes)も2曲参加した、ブレンダン・エダー・アンサンブルの1stアルバム『To Mix With Time』の収録曲で、その第4弾シングルとして先行リリースされました(2020年3月6日)。
「#20 (Lichen)」のカバーが最初で、アルバム『Therapy』の制作へとつながったという流れです。
そもそもリチャード・D・ジェームスという本名にも、エイフェックス・ツインというアーティスト名にも、生後間もなく亡くなった双子の兄への追悼の意が込められていることまで深読みすると、さらに染みるかもしれません。

#20 (Lichen) (Yorkshire Modular Society Remix)

エイフェックス・ツイン「#20 (Lichen)」

おわりに


ブレンダン・エダー・アンサンブルの2ndアルバム『Cape Cod Cottage』には、LAのサックス&キーボード奏者・作曲家ジョシュ・ジョンソン(Josh Johnson)も1曲参加しています。
ジャンルで分断されることなく、おもしろい音楽が融合するLAシーン。
とくに『Therapy』のアンビエント、クラシカル、ジャズの絶妙なブレンド具合は、コロナ後の時代感と非常に合っている気がします。
「今こそ生の温もりのある優しいエイフェックス・ツインが聴きたい」を実現してくれた功績は計り知れないのではないでしょうか。
アルバムごとにコンセプトやテーマが異なっているので、今後の展開も楽しみです。

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渡辺和歌
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