レディオヘッド(Radiohead)のトリビュートも含む、トルコのピアニスト&作曲家&インテリアアーキテクト、ビュシュラ・カイクチャ(Büşra Kayıkçı)の2ndソロアルバム『Places』は、「音楽と建築」が融合した「人生の避難場所」のような作品。
大変な状況が続いて、心が落ち着かないときなどにおすすめです。
Contents
はじめに
1990年、トルコ・イスタンブール生まれのピアニスト&作曲家&インテリアアーキテクト(インテリアデザイナー、空間デザイナー)&イラストレーター、ビュシュラ・カイクチャ(Büşra Kayıkçı)。
https://twitter.com/kayikcibusra_/status/1727975924086288751
Places
2ndソロアルバム『Places』(意味:場所・空間、2023年11月24日、Warner Classics / Parlophone)は、先行シングル4曲を含む、全12曲・42分あまり。
1stソロアルバム『Eskizler』(トルコ語:スケッチ・素描、2019年11月29日、busraplayskeys)の続編として「音楽と建築」が組み合わされ、新型コロナのパンデミック中に行きたいと憧れた場所、懐かしい場所、作曲のインスピレーションを得た場所などが描かれています。
https://twitter.com/kayikcibusra_/status/1733818619501445456
アヌアル・ブラヒム「Blue Maqams」
チュニジアのウード奏者&作曲家アヌアル・ブラヒム(Anouar Brahem、Enver Ibrahim)、アストル・ピアソラ(Astor Piazzolla)、モーリス・ラヴェル(Maurice Ravel)、デヴィッド・ダーリング(David Darling)、ジョン・ケージ(John Cage)、マイケル・ナイマン(Michael Nyman)、ニルス・フラーム(Nils Frahm)らの影響を受けたというミニマルかつエクスペリメンタルなポストクラシカル。
「時間的に存在する音楽空間」と「物理的に存在する建築空間」の融合による「人生の避難場所」で心の平穏を守りましょう。
クレジット
- ビュシュラ・カイクチャ:作曲、サウンドデザイン、プロデュース、ピアノ、ボーカル、レコーディング、ジャケットの絵
- マーティン・ヘイン(Martyn Heyne)@Lichte Studio:ミックス、マスタリング
- Kumpels & Friends:アートワーク、デザイン
- Şeyma Tuna:写真
https://twitter.com/PremierClassica/status/1749409075111334191
【1】The Middle Of…
クラシックから現代音楽の環境音楽、ミニマルミュージックへの進化のきっかけとなったフランスの作曲家エリック・サティ(Erik Satie)を彷彿とさせる「The Middle Of…」。
パンデミックの最中の不穏な静けさが表現されているのかもしれません。
ピアノのタッチ以外の音も入っているところが実験音楽的です。
Music of memories: How Turkish composer Busra Kayikci is going Places @kayikcibusra_ https://t.co/B2SFF4G0Ns
— Zülal Sema (@zulalssema) November 25, 2023
【2】Fernweh
ドイツ語の「Fernweh」(読み:フェルンヴェー)は「ホームシック」の対義語にあたる「ワンダーラスト、旅行願望」のことで、「どこか遠くへ行きたい」という強い思いをあらわしています。
閉塞感の漂うロックダウン中、ビュシュラ・カイクチャは自身の娘と隔離生活を送り、遠く離れた海辺の夢を見たそうです。
そこで実際には地平線を眺めながら水平線や波の動きを感じるという「矛盾の調和や共存、永遠の感覚」が作曲のインスピレーションになったとのこと。
どのような場所にいても、自然に敬意を払う大切さが呼び覚まされるのではないでしょうか。
【Live】Fernweh
Bu parçanın ismi Fernweh. Anlamı, daha önce gitmediğin bir yere karşı sıla hasreti çekmek. Denizi seyretmekten mahrum kaldığım bir dönemde yazmıştım. Denizin altındaki hayat bize başka bir hayatın mümkünlüğünü anlatır. Ruhlar diaspora. pic.twitter.com/82wbHkO0Yf
— Büşra Kayıkçı (@kayikcibusra_) December 31, 2023
【3】Unrooted
ビュシュラ・カイクチャ自身、お気に入りの曲という「Unrooted」では「根無し草」のような浮遊感が表現されているでしょうか。
ピアノのタッチ以外の音のほか、ボーカルも加わり、クラシック、ミニマル、エクスペリメンタルが融合したような不思議なサウンドが展開されています。
Unrooted pic.twitter.com/2gvw51DU0E
— Büşra Kayıkçı (@kayikcibusra_) February 20, 2024
【4】Deep Seated Arrogance
第4弾シングル「Deep Seated Arrogance」(2023年11月10日、意味:根深い傲慢さ)。
ビュシュラ・カイクチャの娘が無邪気に遊ぶおもちゃの音がパーカッションのように組み込まれていて、さらに実験性が高まっています。
「根無し草のような浮遊感」と「根深い傲慢さ」のあいだに「無邪気な子ども」が存在することで、調和が保たれているのかもしれません。
https://twitter.com/Cazkolik/status/1747173230232645871
【5】Olive Tree
第2弾シングル「Olive Tree」(2023年10月6日)。
ビュシュラ・カイクチャは幼い頃から夏を過ごしてきたエーゲ海沿岸に生い茂る「オリーブの木」を500年から1000年生きる賢者のように敬っていて、その安らぎをもたらしてくれる場所への憧れが伝わってくるようです。
トルコから凄い才能が登場!
作曲家/ピアニスト/建築デザイナーのビュシュラ・カイクチャ(Büşra Kayıkçı)。トルコから現れたピアノスト/作曲家そして空間デザイナーの肩書きも持つ魅惑の女性音楽家、ビュシュラ・カイクチャ新作『Places』│Musica Terra https://t.co/0LCxo2X9BK
— lessthanpanda (@lessthanpanda) November 28, 2023
【6】Quba
第1弾シングル「Quba」(2023年9月15日、読み:クバ、アラビア語:イスラム建築のドーム)は、建築物のファサード(正面の外観)デザインの幾何学的なループパターンを想起させるミニマルサウンド。
「丸屋根の下での平和的な集まりや団結」が示唆されていて、団結の欠如による混沌とした世界に対する悲しみと共に、音楽による団結への希望も表現されています。
イスラム教のスーフィズムやパキスタンのカッワーリー歌手ヌスラット・ファテ・アリ・ハーン(Nusrat Fateh Ali Khan)も連想できるかもしれません。
【Live】Quba
NECİP FAZIL ÖDÜLLERİ 2023#CANLI Necip Fazıl Müzik Ödülü Sahibi Büşra Kayıkçı(@kayikcibusra_), dünyadaki zulümler karşısında insanlığın sessizliği ve ümmetin dağınıklığı sebebiyle, bir çatı altında birleşebilmek ümidiyle “Kubbe” ismini koyduğu eserini icra ediyor.… pic.twitter.com/gVpD6p39se
— 24 TV (@yirmidorttv) December 30, 2023
【7】Old Friend
「Old Friend」には「旧友」を懐かしむ思いが込められているでしょうか。
アルペジオを奏でるピアノそのものが、ビュシュラ・カイクチャにとっての「旧友」のようにも響きます。
Son yıllarda yaptığı minimalist klasik müzik çalışmalarıyla yurt içi ve yurt dışı sahnelerde gördüğümüz multidisipliner piyanist Büşra Kayıkçı ile Warner Classics etiketiyle çıkan yeni albümü “Places”ı @dergyCom’da konuştuk. @kayikcibusra_ https://t.co/2Sqw6gscDs
— Batıkan Baksı (@BatikanBaksi_) December 13, 2023
【8】Tribute To Egyptian Song
第3弾シングル「Tribute To Egyptian Song」(2023年10月27日)は、イギリスの5人組オルタナティブロックバンド、レディオヘッド(Radiohead)の「Pyramid Song(ピラミッド・ソング)」(2001年5月16日、5thアルバム『Amnesiac(アムニージアック)』2001年6月4日:Parlophone / Capitol、2001年5月30日:EMI)からインスピレーションを受けたそうです。
ジャズをモチーフにしたピアノのほか、抽象的なボーカル、金属と木でツールを作成したという電子音が組み合わされ、「砂漠とピラミッド」を「自然と建築」と捉えるような不思議なサウンドに仕上がっています。
【Live】Tribute To Egyptian Song
レディオヘッド「Pyramid Song」
❝Pandemi döneminde gitmek istediğim mekanları hayal ettim. Bunları hayal ederken bir şeyler ortaya çıkmaya başladı❞
Besteci ve piyanist Büşra Kayıkçı, yeni albümü "Places" hakkında AA'ya konuştu https://t.co/AacbxJg0KZ pic.twitter.com/R2rp7aEBBK
— AA Kültür Sanat (@aakultursanat) December 15, 2023
【9】L’inno
イタリア語で「賛歌」という意味の「L’inno」。
トルコのイスラム教やイタリアのキリスト教といった宗教の違いに思いを馳せ、「矛盾の調和や共存」を祈るような厳かな時間が流れます。
Büsra Kayikci – Places#jazz https://t.co/GRk6imKDP2
— jazz-fun.de – Online magazine for jazz music (@jacekbrun) November 24, 2023
【10】Into The Woods
木漏れ日がきらめく、空気の澄みきった森へと誘われるような「Into The Woods」。
エフェクトのかかったボーカルがこだまのように響きます。
Büşra Kayıkçı, yeni albümü Places’ta sinestezisini kullanıyor; parçalarını inşa ederken müzik ve mimariyi birlikte kurguluyor. @kayikcibusra_ @WarnerMusicTR https://t.co/XthHooO1G6
— bant mag. (@bantmagazine) November 24, 2023
【11】Vác
「Vác」(読み:ヴァーツ)はハンガリーの都市の名前でしょうか。
オスマン帝国の時代にさかのぼると大変な歴史もある場所ですが、それでも「音楽による団結」を祈るような旋律が奏でられています。
Büşra Kayıkçı – Places / Warner Music Türkiye https://t.co/DAyEbxcoLe #Türkçe #MüzikHaberleri #Müzik pic.twitter.com/UBOBYOmyFT
— Türkçe Müzik (@TurkceMuzik) December 1, 2023
【12】…Nowhere
「音楽と建築」の融合により、さまざまな時空間をさまよった果てに、ラストの「…Nowhere」で「どこにもない場所」にたどり着きました。
「音楽による想像の旅」は「実在しない空間」をデザインすることもできるという意味かもしれません。
実験的な試みも取り入れられた美しいピアノの調べを聴いて、心の落ち着きを取り戻した人もいるのではないでしょうか。
想像できる限りの「平和な世の中」が「実在する空間」になりますように……と願うばかりです。
【Live】’Places’ album launch concert @ Istanbul
https://twitter.com/kayikcibusra_/status/1745416067831280046
おわりに
新型コロナ感染拡大から3年が過ぎても、紛争、天災、凶悪な事件などが多発していて、悲しみに暮れている人、心を痛めている人も多いかと思われます。
音楽を聴く余裕もないときもあるものですが、逆に音楽に救われたと感じるときもあるはず。
ビュシュラ・カイクチャが「音楽と建築」や「ピアノ、プリペアドピアノ、ボーカル、エレクトロニクス(電子音)、エフェクト」を融合して描いた『Places』は、悲しみや心の痛みに寄り添いながら穏やかな気分へと導いてくれる「人生の避難場所」になったことでしょう。
想像力を働かせ、創造力を鍛えて、時間と空間をデザインするという発想は、音楽家&建築家によるポストクラシカル&アンビエントのみならず、混沌とした世の中を落ち着いて生き抜く方法としても役立つかもしれません。
音楽によって救われる人がひとりでも増えると、不安の連鎖を断つことにつながり、一歩ずつでも平和に近づくのではないでしょうか。
ハニャ・ラニ『Ghosts』
エクスペリメンタル要素を含むビュシュラ・カイクチャよりエレクトロニクス&歌ものポップス色が強めですが、ポストクラシカル&アンビエントつながりで、ポーランド・ワルシャワのピアニスト&SSWハニャ・ラニ(Hania Rani)のアルバム『Ghosts』(2023年10月6日、Gondwana Records)も併せてどうぞ。
Hania Rani – Ghosts [2LP_Clear]https://t.co/00J8DxTCt0
ジャズに新たな風を送り込んでいるUKの名門レーベル、Gondwana Recordsより2023年リリース。Ólafur ArnaldsやPatrick Watsonが参加する豪華な布陣。
前作「On Giacometti(’23)」を制作したスイスの山奥には廃墟のホテルがあったという。 pic.twitter.com/K8wQUQQe2t— 春の雨 cafe & records (@HarunoameRecord) December 19, 2023
セリア・ホランダー『2nd Draft』
米LAのピアニスト&作曲家セリア・ホランダー(Celia Hollander)のピアノソロアルバム『2nd Draft』(2023年11月10日)は、オールジャンルかつアンビエントの名門レーベルLeaving Recordsからリリースされました。
https://twitter.com/tobirarecords/status/1749668856258551919
スノッリ・ハルグリムソン『I Am Weary, Don’t Let Me Rest』
ニルス・フラームと共にポストクラシカルシーンを代表するオーラヴル・アルナルズ(Ólafur Arnalds)の作品にも数多く参加している、アイスランド・レイキャビクの作曲家&プロデューサー&マルチ奏者スノッリ・ハルグリムソン(Snorri Hallgrímsson)の静謐なアルバム『I Am Weary, Don’t Let Me Rest』(2023年6月16日、Moderna Records)も素敵です。
We did it. I Am Weary, Don't Let Me Rest is out now.
Tell your mom.https://t.co/trXWwXkumu pic.twitter.com/zVVaiQFMFW— Snorri Hallgrímsson (@snorrihallgrims) June 16, 2023
ニルス・フラーム『Day』
ニルス・フラームの新作『Day』(2024年3月1日、LEITER)もリリースされました。
NILS FRAHM、ニューアルバム『DAY』を発表 LEITERから3月1日にリリースhttps://t.co/Kw8nY02MKo
— MUSIC TRIBUNE (@MusicTribune2) January 22, 2024
ディスコグラフィ
- 1st AL『Eskizler』2019年11月29日、busraplayskeys
- EP『quatre petites mélodies』2022年1月28日、busraplayskeys
- Ah! Kosmos & Büşra Kayıkçı『Bluets』2022年11月11日、FUU
- EP『Gölgeler/Shadows revisited』2023年7月14日、Warner Classics
リンク
- Wikipedia:Warner Classics、パーロフォン、Parlophone
- AllMusic:Büşra Kayıkçı、Places、Warner Classics、Parlophone、Manners McDade
- Discogs:Büşra Kayıkçı、Places、Warner Classics、Parlophone、Manners McDade
- Website:Büşra Kayıkçı、Parlophone、Cabin Artists、Manners McDade
- Warner Classics:Büşra Kayıkçı、Places
- Linktree:Parlophone、Cabin Artists、Manners McDade
- Campsite.bio:Warner Classics
- X(Twitter):Büşra Kayıkçı、Warner Classics、Parlophone、Cabin Artists、Manners McDade
- Instagram:Büşra Kayıkçı、sulufikirler、Warner Classics、Parlophone、Cabin Artists、Manners McDade
- Facebook:Büşra Kayıkçı、Warner Classics、Parlophone、Cabin Artists、Manners McDade
- Link:Places
- YouTube:Büşra Kayıkçı、Topic、Places、Warner Classics、Parlophone、Manners McDade
- Tower Records:Büşra Kayıkçı、Places/輸入盤CD、輸入盤LP
- HMV:Büşra Kayıkçı、Places/輸入盤CD、輸入盤LP
- Spotify:Büşra Kayıkçı、Places、Warner Classics、Parlophone
- Apple Music:Büşra Kayıkçı、Places、Warner Classics
- Bandcamp:Büşra Kayıkçı
- SoundCloud:Büşra Kayıkçı、Warner Classics、Parlophone、Manners McDade
- Tumblr:Parlophone