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アラバスター・デプルーム『GOLD』愛と勇気に満ちたスポークンワード&スピリチュアルジャズ!

アラバスター・デプルーム(Alabaster DePlume)の『GOLD』は2022年4月にリリースされたアルバムなので、少し遅れた新譜紹介や『ミュージック・マガジン』などで恒例の年間ベストのタイミングも逃しています。
それでもおすすめしたい理由は、バターリング・トリオ(Buttering Trio)の4thアルバム『Foursome』(2022年7月29日、Raw Tapes / rings)をきっかけに、レーベルringsの箱推し状態になったから。
「音楽迷子の行き着く果て」かつ「先鋭的な音楽のおもしろさをわかりやすく伝えてくれる場所」のようなレーベルではないでしょうか。
さかのぼって聴いたなかで、心の健康を願う音楽情報サイト『Otoiku Media』にぴったりで、「混乱した時代に求められる音楽」と感じたのが『GOLD』です。
聴いたことがある人は「たしかに」とうなずいてくれるでしょう。
未体験の人は、ぜひ聴いてみてください!

はじめに


アラバスター・デプルーム(Alabaster DePlume)は、本名アンガス・フェアベーン(Angus Fairbairn)のアーティスト名。
1980年~1981年生まれ、UKマンチェスター出身、ロンドンを拠点に活動するサックス奏者(マルチ奏者)、スポークンワード詩人、SSW、作編曲家、活動家です。

GOLD


アルバム『GOLD – Go Forward in the Courage of Your Love』(ゴールド、デジタル・輸入盤CD・LP:2022年4月1日、国内盤CD:2022年4月20日、International Anthem、Lost Map、Total Refreshment Centre / rings)は、先行シングル&カップリング6曲を含む、全19曲・約1時間7分。
国内盤CDはボーナストラック「Seen (Japan Bonus Track)」を含む、全20曲・約1時間13分です。
21人ものゲストが参加した、ロンドンのクリエイティブハブ、トータル・リフレッシュメント・センター(TRC)仕込みのスピリチュアルジャズ。
あるいはドノヴァン(Donovan)の童話的世界観とゲタチュウ・メクリヤGetatchew Mekurya)のエチオピアジャズの融合、酔いどれ詩人トム・ウェイツ(Tom Waits)とフェイクジャズのジョン・ルーリー(John Lurie)を足してサックスをアルト&ソプラノからテナーに変えたような1人『ダウン・バイ・ロー』スタイル、フォーク、ワールドミュージック、アンビエント、ソウル、ヒップホップなどの香りも漂う宝箱を開けていきましょう!

【1】A Gente Acaba

  • 作曲:アラバスター・デプルーム

ポルトガル語で「人間の果て(バラの風)」という意味の「A Gente Acaba (Vento Em Rosa)」。
穏やかなハミングやストリングスに独特なサックスの音色が重なり、アルバムの世界観に引き込まれます。

【2】Don’t Forget You’re Precious

  • 作詞・作曲:アラバスター・デプルーム

第1弾シングル「Don’t Forget You’re Precious」(2022年2月2日)。
「忘れないで、あなたは大切な人。僕はたまに忘れるけど、自分が大切な人だということを」とささやかれ、自己愛の大切さを再認識させられます。

【3】Fucking Let Them

「Fucking Let Them」では、今後も繰り返される「僕は厚かましい。赤ちゃんのように、愚かな太陽のように」やアルバムのサブタイトルのような「勇気をもって愛とともに前進する」といったフレーズが登場します。
しょげるときもあるけれど、愛を込めて「くそっ!」と祝うといったニュアンス。
笑い声や歓声も響く和やかなムードから一転し、後半ではアラバスター・デプルームのサックス、サラシー・コルワルのドラム、Conrad Singhのギター、トム・ハーバートのダブルベース、Hannah Millerのチェロとボイスが緊張感を高めます。

【4】The World Is Mine

  • 作詞・作曲:アラバスター・デプルーム

「The World Is Mine」では、2017年6月14日にロンドン西部の高層住宅で発生したグレンフェル・タワー火災について嘆いています。

【5】The Sound Of My Feet On This Earth Is A Song To Your Spirit

  • 作曲:アラバスター・デプルーム

2曲目の第1弾シングル「Don’t Forget You’re Precious」のカップリング曲「The Sound Of My Feet On This Earth Is A Song To Your Spirit」。
大地に根ざした魂の歌が優しく響きます。

【6】I’m Gonna Say Seven

  • 作詞・作曲:アラバスター・デプルーム

「めまいがするのは10段階の7」という「I’m Gonna Say Seven」。
マザー・グースの歌のような、あるいはレイザーラモンRGさんのあるあるネタみたいに7と言いたいだけのようなお茶目な曲です。

【7】Do You Know A Human Being When You See One?

  • 作詞・作曲:アラバスター・デプルーム

レゲエのハンドサイン、ガンフィンガー(Gun finger)の掛け声「ポウ!ポウ!ポウ!(Pow! Pow! Pow!)」が印象的な「Do You Know A Human Being When You See One?」。
世界的な難民危機における命の大切さが示唆されています。

【8】Visitors YT15B – Jerusalem, Palestine

アルバム全体で3曲収録されている「Visitors」の1曲目。
女性合唱団ディープ・スロート・クワイアDeep Throat Choir)のメンバーやドナ・トンプソンのボイスが神秘的に響きます。

【9】I’m Good At Not Crying

  • 作詞・作曲:アラバスター・デプルーム

第3弾シングル「I’m Good At Not Crying」(2022年3月22日)は、哀愁漂う子守歌。
本当は泣きたい気分なのかもしれませんが、「泣かないのが得意」と自分に言い聞かせているような印象です。

【10】Now (Stars Are Lit)

  • 作曲:アラバスター・デプルーム

アルバム全体で2曲ある「Now」の1曲目。
3曲目「Fucking Let Them」の緊張感に満ちた演奏のラストに、ほんの少し提示されていたテーマです。

【11】Again (feat. Falle Nioke)

西アフリカ・ギニアの歌手&打楽器奏者ファレ・ニオケのボイスとパーカッションがフィーチャーされた「Again」。
もともとインストの予定だったところ、ファレ・ニオケが突然リードを歌い出したので採用されたというエピソードがしびれます。
さらに3曲目「Fucking Let Them」に出てきた、アルバムのサブタイトルのようなフレーズが繰り返されます。

【12】Mrs Calamari

  • 作曲:アラバスター・デプルーム

第2弾シングル「Mrs Calamari」(2022年2月22日)。
ノスタルジックな雰囲気が漂います。

【13】People – What’s The Difference

  • 作詞・作曲:アラバスター・デプルーム
  • 作曲:Hannah Miller、Conrad Singh、サラシー・コルワル、Matt Webb、Michael Chestnutt

「People – What’s The Difference」でも、7曲目「Do You Know A Human Being When You See One?」と同じように、難民危機における命の価値が語られています。

【14】Visitors XT8B – Oak

9曲目の第3弾シングル「I’m Good At Not Crying」のカップリング曲「Visitors XT8B – Oak」。
シャバカ・ハッチングス(Shabaka Hutchings)率いるサンズ・オブ・ケメット(Sons Of Kemet、2011年~2022年)、レディオヘッド(Radiohead)のトム・ヨーク(Thom Yorke)の別バンド、ザ・スマイル(The Smile、2020年~)のドラマー、トム・スキナーも参加し、渋さ知らズを彷彿とさせるスリリングな展開になっています。

【15】Who Is A Fool

  • 作詞・作曲:アラバスター・デプルーム

12曲目の第2弾シングル「Mrs Calamari」のカップリング曲「Who Is A Fool」。
人間の愚かさを嘆く優しさが伝わってくるようです。

【16】I Will Not Be Safe

  • 作詞・作曲:アラバスター・デプルーム

「I Will Not Be Safe」では「愛も勇気も安全ではない」と語られます。
たしかに世の中は「最悪で最高の場所」かもしれません。
それでも穏やかな語りと「Now」のテーマに安心感を覚えます。

【17】Visitors YT15 – Krupp Steel Condition Pivot

  • 作曲:アラバスター・デプルーム、ルイーザ・ガーシュタイン、ドナ・トンプソン、Matt Webb、Hannah Miller、トム・ハーバート

3曲目の「Visitors」。
トム・ハーバートとMatt WebbのダブルベースやHannah Millerのチェロも印象的に響きます。

【18】Broken Like

  • 作詞・作曲:アラバスター・デプルーム
  • 作曲:ロジー・プレインRozi Plain)、トム・ハーバート、ファレ・ニオケ、ドナ・トンプソン、Hannah Miller

「Broken Like」では、ロジー・プレインのミニマルなギターフレーズやファレ・ニオケのしゃがれた低音ボイスも心に染みます。
すべて壊れた果てに、アルバムのサブタイトルのようなフレーズが繰り返されますが、最後の「愛」がかすれて言えないところがドラマチックです。

【19】Now (Pink Triangle, Blue Valley)

  • 作曲:アラバスター・デプルーム

国内盤CD以外のラストを飾るのは2曲目の「Now」ですが、曲名になっていないところでもテーマとして繰り返されていました。
アルバムのサブタイトルのようなフレーズや「Visitors」も変化しながら何度も出てきており、通して聴くとくらくらするようなカタルシスに達したのではないでしょうか。
お金で魂が壊れるような最悪な世の中かもしれませんが、それでも愛と勇気をもって前進する穏やかさを引き出してくれる、最高の錬金術が詰まった宝箱のようなアルバムでした。

おわりに


ひとくちに音楽といっても捉え方は人それぞれで、日本では「おもしろい音楽を聴きたい(奏でたい)」というより、アーティストの応援活動を楽しむ「推し活」が主流のようです。
そこで提案したいのが「レーベル推し」!
「音楽的におもしろいレーベルを応援することで、必然的におもしろい音楽を聴くことになる」という考え方です。
日本にringsという画期的なレーベルが存在する以上、同時代に生きながら応援しない手はありません。
今回紹介したアラバスター・デプルームはrings(およびInternational Anthem)のなかでも異色のアーティストで、主軸はジェフ・パーカーJeff Parker)などの音響派レイ・ハラカミrei harakami)さん、エッジの効いた真骨頂はアンテローパー(Anteloper)かもしれません。
一般的にも聴きやすく、当サイトのコンセプトにも合った、チャールズ・ステップニーCharles Stepney)やカルロス・ニーニョ(Carlos Nino)もレーベルとしては異色のサウンドになりそうですが、それぞれリリースに至った流れに興味深い物語があるので、その辺りもぜひとも自分のタイミングで体験してみてください。
「誰かを応援したい!」という熱い思いを「ringsのレーベル推し」に昇華してみてはいかがでしょうか。
「これほど騒ぐなら相当おもしろいはず」と思っていただいて間違いありません。
勝手に大騒ぎしていますが、混乱した時代に心底望まれる穏やかでおもしろい音楽のリリース、ありがとうございます!

rings

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