音楽

Bahía Mansa / Yama Yuki『Cartas Náuticas』チリと日本のアンビエント作家が描く大西洋と太平洋の海図

チリのBahía Mansa(バイーア・マンサ)と日本のYama Yuki(ヤマユウキ)さんのコラボ作『Cartas Náuticas』(カルタス・ノーティカス)には、フィールドレコーディングによる大西洋と太平洋の波の音が散りばめられています。
水の音を聴いて癒されたり、リラックスしたりしたいときにおすすめのアンビエントです。

はじめに

Bahía Mansa


チリ・サンティアゴを拠点とするアンビエント作家&写真家Iván Aguayo(イヴァン・アグアヨ)によるソロプロジェクトBahía Mansa(バイーア・マンサ)。
そのアーティスト名は、チリ南部ロス・ラゴス州オソルノ県にある集落および湾バイーア・マンサ(Bahía Mansa)に由来するようです。

Yama Yuki


三重出身、美学校現代美術講座アートのレシピ」(講師:松蔭浩之さん、三田村光土里さん)第2期(2011年)を受講し、ブラジル・サンパウロ在住を経て、東京を拠点とする電子音楽家(作曲家&サウンドアーティスト)Yama Yuki(ヤマユウキ)さん。
2023年12月にアーカイブレーベルato.archivesを設立し、アンビエントフェスMIMINOIMI(新イベントシリーズ:Food for Ears ~ 耳の糧 ~)主催者3人のうちの1人(他:kentaro nagataさん、FeLidさん)、odoma名義、sorta opalka名義、東京・阿佐ヶ谷のライブスペースTEN)で定期的に開催されているアンビエントイベント天ビエント(TENbient)主催者4人のうちの1人(他:kentaro nagataさん、Cixaさん、Yu Oguさん)でもあるKentaleaux NakajimaさんとのドローンデュオSogahukau(ソガフカウ)などとしても活動しています。

Cartas Náuticas


2人のコラボ作『Cartas Náuticas』(読み:カルタス・ノーティカス、スペイン語:海図、2023年8月11日、Mystery Circles)は、全4曲・40分あまり。
大西洋と太平洋で収集されたフィールドレコーディング素材が散りばめられたアンビエントを聴いて、想像の膨らむ海の旅に出かけましょう。

クレジット

【1】Carta Atlántica I


チリのBahía Mansaは大西洋、日本のYama Yukiさんは太平洋が生活圏。
Yama Yukiさんはブラジルで暮らしていたこともあるので、大西洋にもなじみがあるでしょうか。
それぞれの海で収集されたフィールドレコーディング素材が交換され、再構築されたとのこと。
『海図』を意味する作品全体は「大西洋の海図1」(約6分半)、「大西洋の海図2」(約14分)、「太平洋の海図1」(約4分半)、「太平洋の海図2」(約16分)という構成です。
1曲目「Carta Atlántica I」はモジュラーシンセの温もりのあるかわいらしい音色と、フィールドレコーディングによる穏やかな波や風の音、鳥の鳴き声などが交じり合います。
日本で暮らしていると大西洋は遠く離れた地球の反対側のように感じるかもしれませんが、実際に訪れたことがあってもなくても懐かしさが込み上げてくるサウンドでしょう。
世界中の海はつながっていて常に循環しているから、あるいは羊水に浸る胎児の感覚が呼び覚まされるためでしょうか。
陸地で生活するうちにいつのまにか募ってしまう悩みや不安が洗い流されるように癒されます。

【2】Carta Atlántica II


2曲目「Carta Atlántica II」は波の音や子どもたちのはしゃぐ声から始まり、光が反射する波を彷彿とさせるキラキラしたシンセドローンが展開されます。
後半からトロピカルなパーカッションサウンド、鳥の鳴き声、プチプチとしたグリッチなども重なる圧巻の構成。
脱力して海に浮かぶような、あるいは絶大な安心感や信頼感に身を委ねるような瞑想的な時間が流れます。
水の音が散りばめられたアンビエントは心の浄化だけでなく、過度な緊張を和らげたり、余分な力を取り除いてくれたり、リラックスする方法としても適しているかもしれません。
海そのものや大自然、地球と同化する感覚も堪能できるでしょう。

【3】Carta Pacífica I


3曲目「Carta Pacífica I」から太平洋に移りました。
これまでより海の荒々しさが感じられます。
メトロノームのように淡々と刻まれる時間軸に対し、大きくうねる波がフィールドレコーディング素材のほか、ギターやシンセドローンで表現されているようです。
物音コラージュのようにモジュラーシンセの音が散りばめられ、ひときわ大きくなった波の音がカットアウトされて静けさの余韻が残るラストはエクスペリメンタル。
地球の約7割を占める海は、人間にとって癒しになることもあれば自然の脅威となるときもあります。
アンビエントは単に心地いい音楽というだけでなく、生活や地球環境にも配慮した環境音楽であることを改めて想起させられるでしょう。
地球の自然に敬意を払い、感謝を忘れないようにしたいものです。

【4】Carta Pacífica II


リバーブの効いたミニマルなサウンド、ドローン、水の音などが混然一体となった4曲目「Carta Pacífica II」。
砂や鳥の羽音のような音も重なりつつ、ボイスやキックも加わる後半、波の音とクジライルカシャチ(オルカ)の鳴き声のようなサウンドで締めくくられるラストに向けての展開も美しいです。
言葉のない音楽によって描かれた抽象画みたいな海の旅を堪能できたのではないでしょうか。

おわりに

Bahía MansaもYama Yukiさんも写真などのアートにも造詣が深く、ノイズ寄りのドローンやエクスペリメンタルなサウンドを展開することもあるところが共通点といえるかもしれません。
今回紹介した『Cartas Náuticas』はフィールドレコーディングによる海の音を素材としたサウンドアートのようになっているので、多くの人が思い思いに想像を膨らませながら共鳴することができるのではないでしょうか。
この作品を入り口として、それぞれのディスコグラフィにどっぷり浸るのも楽しいでしょう。
また、Yama Yukiさんが主宰するato.archivesレーベルから第1弾として2023年12月16日にリリースされた、Seiji Nagai永井清治)さん(タージ・マハル旅行団)のエクスペリメンタルなソロ作『Oscillating Stars』、Tomonao Koshikawa(越川友尚)さん(マージナル・コンソート / Marginal Consort)のドローン寄りのソロ作『Footprint』、米LAの電子音楽家Jared Carrigan のアンビエントプロジェクトV. KristoffENDoさん&soma hayatoさんと共に即興電子音楽トリオOiDのメンバーでもあるYu OguØguu)さん、カナダ出身・東京を拠点とする電子音楽家&ビジュアルアーティスト&梅レコード主宰者PrecipitationことZefan Sramekの3人によるアンビエント即興セッションの記録『Transcendental Meeting at Hatagaya』の3作品は、Yama Yukiさんのルーツと現在が反映されていると考えられるため必聴です。

Akhira Sano『In front of』


1992年、新潟生まれ、東京を拠点とするアンビエント作家&アーティスト(ドローイング、グラフィック、インスタレーションなど)のAkhira Sanoアキヒラ サノ)さんは、Yama Yukiさんらが主催するアンビエントフェスMIMINOIMIにも参加しています。
静謐なアルバム『In front of』(2023年12月13日、Otoroku / Cafe OTO)も併せてどうぞ。

Aidan Baker & Stefan Christoff『Januar』


アンビエント・ドゥームデュオNadjaナジャ)の活動でも知られる、カナダ・トロント出身、ドイツ・ベルリン在住のドローン作家&Broken Spine Productionsレーベル主宰者Aidan Bakerエイダン・ベイカー)とカナダ・モントリオールのアンビエント作家Stefan Christoffのコラボアルバム『Januar』(2024年1月6日Time Released Sound)もおすすめです。

Andrew Tasselmyer『Where Substance Meets Emptiness』


『Cartas Náuticas』と同じ米ラスベガスのアンビエントレーベルMystery Circlesからリリースされた、米フィラデルフィアのアンビエント・ドローン作家Andrew Tasselmyerアンドリュー・タッセルマイヤー)のアルバム『Where Substance Meets Emptiness』(2024年1月30日)も素敵です。

ディスコグラフィ:Bahía Mansa

ディスコグラフィ:Yama Yuki

ディスコグラフィ:odoma

ディスコグラフィ:sorta opalka

ディスコグラフィ:Sogahukau

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渡辺和歌
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