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岡田拓郎『Betsu No Jikan』石若駿ら豪華ゲストと紡がれる、別の時間

『Betsu No Jikan』は元・森は生きている、岡田拓郎(Takuro Okada)さんの集大成ともいえる快作。
音楽理論を深めたい人、濃密な時空間を漂いたい人におすすめです。

はじめに


岡田拓郎さんは1991年8月22日、東京・青梅生まれ、福生育ちのSSW&ギタリスト(マルチ奏者)&プロデューサー。

森は生きている


カントリーソフトロックなど多様かつジャンルレスで、「はっぴいえんどジム・オルークJim O’Rourke)の融合」とも称された6人組バンド森は生きている(2012年~2015年)を経て、ソロや即興トリオ發展Hatten)のほか、優河さん前野健太さん吉田ヨウヘイgroupSouth Penguin(サウスペンギン)などのプロデュース、ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)、柴田聡子さんnever young beach(ネバーヤングビーチ)、安藤裕子さん大貫妙子さんなどのサポートや演奏参加、文筆業といった多岐にわたる活動を展開しています。

ディスコグラフィ

A_o「BLUE SOULS」

  • 岡田拓郎:ミュージックステーション(2021年7月9日)でギター演奏

坂東祐大 feat. 塩塚モエカ(羊文学)「声よ」

Betsu No Jikan

元はっぴいえんどの細野晴臣さんやジム・オルークなど、総勢14人のアーティストが参加したアルバム『Betsu No Jikan』(別の時間、デジタル・CD:2022年8月31日、LP:2022年11月30日、Newhere Music)は、先行シングル1曲を含む、全6曲・約43分です。
マスタリングは、J・ディラJ Dilla)の2ndアルバム『Donuts(ドーナツ)』(2006年2月7日、Stones Throw Records)のほか、ジェフ・パーカーJeff Parker)の名盤『The New Breed』(2016年6月24日、International Anthem)、マカヤ・マクレイヴンMakaya McCraven)の8thアルバム『In These Times』(2022年9月23日、International Anthem / Nonesuch Records / XL Recordings)も手がけた、デイヴ・クーリーが担当。
コロナ禍の2年間に、「即興演奏エディット(編集)→即興演奏→エディット、サウンドコラージュ(切り張り、引用、サンプリング)、オーバーダブ(多重録音)」といったリモート作業込みのポストプロダクション重視で制作されました。

V.A.『Outro Tempo』


アルバムタイトルの由来は、コンピアルバムOutro Tempo』(2017年3月20日Music From Memory)。
「別の時間とはどういう意味なのか?」と想像しながら、耳を傾けてみましょう。

【1】A Love Supreme

先行シングル「A Love Supreme」(2022年8月10日)は、ジョン・コルトレーンJohn Coltrane)のアルバム『A Love Supreme(至上の愛)』(1965年1月Impulse! Records)のカバー。
といっても、そもそも「カバーしよう!」という発想だったわけではなく、「土取利行さんガムラン)+トニー・ウィリアムスTony Williams)」という岡田拓郎さんのアイデアにより、石若駿さんに即興演奏してもらったところ、1楽章「Acknowledgement(承認)」の後半ではジョン・コルトレーン自身が「ア・ラーブ・ストリーム」と歌っているメロディー(テーマ)が聴こえてきて、実はカバーが少なく、いつかはカバーしたいと思っていたことから挑戦したそうです。
アルバムのほとんどで「岡田拓郎さんの即興演奏+石若駿さんの即興演奏」が基本となり、さらにゲストが加わる編成になっていて、1曲目ではサム・ゲンデルがアルトサックスでテーマを奏でています。

ジョン・コルトレーン『A Love Supreme』Platinum Collection

【2】Moons

全6曲のうち唯一、歌もの楽曲の「Moons」。
石若駿さんのほか、元・森は生きているの谷口雄さんと細野晴臣さんが参加していて、細野晴臣さんの15thアルバム『MEDICINE COMPILATION(メディスン・コンピレーション)』(1993年3月21日、Epic/Sony Records)へのオマージュになっています。
曲名の由来は、ブラジル・ミナスの6人組バンド、ムーンズMoons)。
ボサノバ、エチオピアのピアニストのエマホイ・ツェゲ=マリアム・ゴブルーEmahoy Tsegue-Maryam Guebrou)、「第四世界」という音楽概念を提唱した米メンフィス出身のトランペット奏者ジョン・ハッセルJon Hassell)など、さまざまなイメージが内包されています。

細野晴臣『MEDICINE COMPILATION (2020 Remastering)』

ムーンズ『Dreaming Fully Awake』

エマホイ・ツェゲ=マリアム・ゴブルー『Ethiopiques, vol. 21: Emahoy (Piano Solo)』

ジョン・ハッセル『Fascinoma』

【3】Sand

  • 岡田拓郎:作曲、アコギ(12弦)、ギターシンセ、ムビラMbiraカリンバ
  • 石若駿:作曲、ドラム、パーカッション

岡田拓郎さんと石若駿さんの即興演奏もさまざまな方法が試みられていて、2人が一緒に演奏したのは基本的に「Sand」のみ。
時空を超越する民俗音楽のようなリズムに、グレイトフル・デッドGrateful Dead)のジェリー・ガルシアJerry Garcia)を彷彿とさせる12弦ギター、アフリカ・ジンバブエの伝統楽器ムビラなどが重なり、異次元へと誘われます。

【4】If Sea Could Sing

「If Sea Could Sing」には元・森は生きているの大久保淳也さんと、石若駿さん率いる4人組バンドSMTKエスエムティーケー)のメンバーで、ermhoiエルムホイ)さんの夫でもあるマーティ・ホロベックも参加。
ただ、大久保淳也さんのアルトサックスについては、6曲目「Deep River」のアウトテイクを岡田拓郎さんが編集したそうです。
ペダルスティールなどのギターの音色も印象的で、ゆったりとしたアンビエントに緊張感の漂うスピリチュアルジャズが紛れ込むような仕上がりになっています。

【5】Reflections / Entering #3

森は生きている解散後の2015年~2016年に原型やバージョン違いの「#2」を録音し、今回のアルバム制作の起点になったという「Reflections / Entering #3」。
元・森は生きているの増村和彦さんのほか、カントリーロックエクスペリメンタルバンド、ウィルコWilco)のギタリストでジャズも演奏し、元チボ・マットの本田ゆかさんの夫でもあるネルス・クライン、サム・ゲンデル、ジム・オルーク、ニューエイジ・リバイバルの旗手カルロス・ニーニョなど、多彩なゲストが参加しています。
約10分の長尺で、自然をさまようような前半から宇宙と交信するような後半へとなだれ込む展開が圧巻です。

【6】Deep River

  • 岡田拓郎:作曲、ピアノ、ギター
  • 大久保淳也:作曲、アルトサックス
  • 鹿野洋平Yohei Shikano):ラップスティール
  • 香田悠真:チェロ
  • マーティ・ホロベック:ダブルベース
  • 石若駿:ドラム、パーカッション
  • カルロス・ニーニョ:パーカッション
  • 増村和彦:パーカッション

ラスト6曲目はカバーではありませんが、アルバート・アイラーAlbert Ayler)のアルバム『Swing Low Sweet Spiritual』(1971年、Osmosis Records→再発『Goin’ Home』1991年6月14日、Black Lion Records / 1994年10月25日、Freedom)や『On Green Dolphin Street』(2016年1月18日、Chard)にも収録されている、黒人霊歌Deep River深き河)」と曲名が同じです。
最後に登場したラップスティールの鹿野洋平さんは米ロサンゼルスを拠点に活動していて、岡田拓郎さんとネルス・クライン、カルロス・ニーニョ、サム・ゲンデルをつないだ立役者とのこと。
大久保淳也さんのアルトサックスが尺八のように聴こえるのもおもしろいですね。

アルバート・アイラー「Deep River」

おわりに

「別の時間」とは、アルバム制作の方法を含めた音楽理論の話であり、日常生活の過ごし方と捉えることもできるでしょう。
新世代ジャズ音響派、ミナス音楽、ニューエイジ・リバイバル」など、いま注目の要素が濃密に詰まっているのに、ジャンルによる分類が不可能というか、たとえばアンビエントというジャンルを超越した「自然環境の音楽」とポップに表現したくなるほど、別次元の「別の時間」に連れて行かれた気がします。
さまざまな音楽理論についてはリファレンス(参照、参考文献)、記事中のリンク、動画などにディープな世界が広がっていますので、そちらでも音楽の本質に触れる深淵な「別の時間」に飛んで行ってください。

リファレンス

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渡辺和歌
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