音楽

ポピー・アジューダ『The Power In Us』UKジャズ&ネオソウルSSWのデビュー作

ポピー・アジューダ(Poppy Ajudha)のデビューアルバム『The Power In Us』は、サウスロンドンの新世代UKジャズに触れたい人、パワフルなR&Bを求めている人におすすめです。

はじめに


ネオソウルを軸としたR&B、ソウル、ジャズ、ポップ、ロック、ワールドミュージックなどを巧みに織り交ぜるSSWポピー・アジューダ(1995年4月22日)。

https://twitter.com/PoppyAjudha/status/1517792948284448774
新世代UKジャズの発信地サウスロンドン南ロンドン)出身で、セントルシア(カリブ海の島国)&イギリス人の父とイギリス人の母の間に生まれ、インドの血も引いています。

https://twitter.com/SpotifyUK/status/1517462936326918145
ちなみにサウスロンドンロンドン中心部(シティ・オブ・ロンドン)の南に位置するサザーク区(サザーク・ロンドン自治区)ペッカムを中心としたエリアで、ランベス区ブリクストンにあるライブハウス、ウィンドミルThe Windmill)の盛り上がりも話題です。

EP

ポピーは父が所有していた、ルイシャム区デットフォードのパブ、パラダイスバー(→Six String Bar→ロイヤル・アルバート)で育ち、ローリン・ヒルLauryn Hill)、エリカ・バドゥErykah Badu)、ピンクP!nk)など力強い女性SSWに憧れて10歳から曲作りを始めました。
さらにサウスロンドンの新世代UKジャズ界発展に貢献した、ルーク・ニューマンLuke Newman)ことビッグ・シェアラーBig Sharer)主催のイベント(ワークショップ)スティーズSteez)に参加して音楽仲間との交流を深め、バンドやコラボ活動を展開していきます。

トム・ミッシュ「Disco Yes (feat. Poppy Ajudha)」


アシッドジャズ系DJ&レーベルオーナーのジャイルス・ピーターソンGilles Peterson)によるコンピアルバム『Brownswood Bubblers Twelve Pt. 2』(2017年7月14日)収録のシングル「Love Falls Down」(2017年2月24日)、サウスロンドン出身で高校時代からの友だちというトム・ミッシュTom Misch)「Disco Yes」(1stアルバム『Geography』2018年4月6日)のゲスト参加、米シカゴ出身のジャズピアニスト、ハービー・ハンコックHerbie Hancock)の1stアルバム『Takin’ Off』(1962年7月4日)収録曲のカバーシングル「Watermelon Man (Under The Sun)」(コンピアルバム『Blue Note Re:imagined』2020年10月16日)で注目度が高まりました。
トム・ミッシュとのコラボ曲「Disco Yes」は、バラク・オバマBarack Obama)元大統領がリストアップした2018年のお気に入り曲の1つに選ばれています。

The Power In Us


デビューアルバム『The Power In Us』(2022年4月22日)は3曲の先行配信シングルを含む、全12曲・約32分。
社会的なメッセージが込められた多様なサウンドを堪能しましょう。

【1】Whose Future? Our Future!

「未来を変えるために心と音楽に必要なのは、レジスタンス(抵抗)」といったマニフェスト(宣言)およびクラリオンコール(呼びかけ)から始まるオープニング。
ドローンっぽいサウンドに、「フェミニズム(女性解放)を望み、ミソジニー(女性蔑視)や人種差別に反対する」や「自由を信じる私たちは、自由がもたらされるまで休めない」など、フェミニズムや人権運動の活動家アンジェラ・デイヴィスのスピーチが散りばめられ、アルバム全体のテーマでもある「社会変革のためのエンパワーメント(能力開花)の要求」がギターでも表現されています。

【2】Playgod

  • ポピー・アジューダ:作詞・作曲、ボーカル
  • カルマ・キッドKarma Kid):プロデュース、プログラミング
  • Tom Ford:作詞・作曲、ギター、ベース
  • INBLOOM:作詞・作曲
  • Sam OuissellatProject Karnak):ドラム
  • アンジェラ・デイヴィス:スピーチ

第3弾シングル「Playgod」(2022年3月14日)は、2019年5月に米アラバマ州で人工妊娠中絶禁止法が成立した際に書かれました。
「中絶は神の意に反する」として禁止を唱える男性は、神を演じて女性を支配しようとしているので、女性は中絶する権利を獲得するために抵抗し、男性は耳を傾ける必要があると訴えています。
プロデュースしたのは、ロンドン出身のSSWデュア・リパDua Lipa)を手がけるカルマ・キッド。
ソウルフルなボーカル、ディストーションの効いたギター、疾走感あふれるドラムが特徴的です。

【Live】6 Music Festival 2021

【Live】2022 SXSW Music Festival

【3】Holiday From Reality

第2弾シングル「Holiday From Reality」(2022年1月14日)のテーマは「現実からの休暇」。
ポピー自身米ツアー中に感じた疲労感や、新型コロナのパンデミックによる混乱を調整するために、休みを取る必要があるのではないかと呼びかけています。
プロデューサーはケンドリック・ラマーKendrick Lamar)を手がけるウェスレイ・シンガーマンと、88ライジング88rising)を手がけるテイラー・デクスター。
アルバム全体のなかでも一息つくような、R&Bを基調としたポップチューンです。

【4】Mothers Sisters Girlfriends

「Mothers Sisters Girlfriends」が作られたきっかけは、ポピー自身が23歳で中絶した際、フェミニストの母にも反対され、葛藤したことでした。
「母親、姉妹、ガールフレンド」の役割だけでは満足できない場合、「女性が夢を叶える自由を認めてほしい」といったニュアンスが込められています。
プロデュースを手がけたのは、米カンザスシティ出身のSSW&女優ジャネール・モネイ(Janelle Monáe)を手がけるウィン・ベネット。
タイトルを繰り返すサビがマントラのように響く、ラテンポップ風味のファンクナンバーです。

【5】Interlude / Reclaim Yourself

  • ポピー・アジューダ:作詞・作曲、プロデュース、ボーカル
    ウィン・ベネット:作詞・作曲、プロデュース
  • INBLOOM:プロデュース
  • マイケル・タイ:作詞・作曲

ラジオ番組で「Mothers Sisters Girlfriends」と「抑圧されてきた女性が自分を取り戻し始めている」といったメッセージが流れる設定のインタールードです。

【6】Demons

メンタルヘルス心の健康)がテーマの「Demons」はブルースとゴスペルの要素を含む、メランコリックなバラード。
身近な人の心の奥底に悪魔が存在すると知り、どうにか悪魔が離れるように願っています。
サウスロンドンの6人組ジャズグループ、マイシャMaisha)のドラマー、ジェイク・ロングもポピーと同じく、サウスロンドンの重要イベント、スティーズに通っていました。

【7】Interlude / All For You

  • ポピー・アジューダ:作詞・作曲、プロデュース、ボーカル
  • Tom Ford:作曲

再び2分足らずのインタールードが挟まります。

【8】Fall Together

ジャズナンバー「Fall Together」をプロデュースしたのは、UKのSSWジョルジャ・スミスJorja Smith)やFKAツイッグスFKA twigs)を手がけるジョエル・コンパス
サックス奏者ヌバイア・ガルシア、8人組アフロジャズバンド、ココロコKokoroko)のトロンボーン奏者リッチー・セイヴライト、サックス奏者シャバカ・ハッチングスShabaka Hutchings)率いるサンズ・オブ・ケメットSons of Kemet)のチューバ奏者テオン・クロスといったサウスロンドンの新世代UKジャズミュージシャンが集結しています。

【Live】SXSW’s Radio Day Stage

【9】Fall Together Outro (feat. Nubya Garcia)

  • ポピー・アジューダ:作詞・作曲、プロデュース、ボーカル
  • INBLOOM:プロデュース
  • Tom Ford:作曲
  • ジョエル・コンパス:作詞・作曲
  • ヌバイア・ガルシア:作詞・作曲、サックス、フルート
  • ルディ・クレスウィック:ベース

アウトロではヌバイア・ガルシアがフィーチャーされています。

【10】Land Of The Free

  • ポピー・アジューダ:作詞・作曲、ボーカル
  • Kiran Kai:作詞・作曲、プロデュース、プログラミング
  • Sam Ouissellat:ドラム
  • Tom Ford:ギター、シンセサイザー
  • ヌバイア・ガルシア:サックス
  • リッチー・セイヴライト:トロンボーン
  • Lily Carassik:トランペット

植民地主義独裁政治に抗議し、自由を求める「Land Of The Free」。
インド音楽トリップホップの要素が取り入れられています。

【11】London’s Burning

  • ポピー・アジューダ:作詞・作曲、ボーカル
  • ジョエル・コンパス:作詞・作曲、プロデュース、プログラミング

第1弾シングル「London’s Burning」(2021年11月25日)はアルバムのリード曲。
UKのEU離脱(2020年1月31日)や植民地時代の遺産に対する皮肉が込められています。
グリッチの効いたエレクトロニカとジャジーでソウルフルなボーカルの組み合わせが最高です。

【12】Power You Might Share

  • ポピー・アジューダ:作詞・作曲、プロデュース、ボーカル
  • INBLOOM:プロデュース
  • Tom Ford:作曲

あなたが共有するかもしれないこの力のように、親切に公平に扱ってほしい」という願いが込められたエンディングです。

おわりに

ボーカルはR&Bとソウル、サウンドはジャズやエレクトロニカ中心ですが、歌詞では女性や移民の人権など社会的かつポピーにとって身近な問題が取り上げられていて、その内容によってさまざまな要素が反映され、アーティスト像としては70年代パンクっぽい雰囲気も漂います。
こうした社会問題に限らず、日常的に些細な違いで傷つく場合もあるので、多様性が表現された音楽に力づけられるのではないでしょうか。
すでに女性ばかりのバンド編成に移行し、米ロサンゼルスのプロデューサーとクィアについて言及した2ndアルバムを制作中とのことで、今後の活躍も楽しみです。

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渡辺和歌
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