チャールズ・ステップニー(Charles Stepney)の『Step on Step』は、没後46年の時を経てようやくリリースされた、幻のデビューアルバムです。
Contents
- 1 はじめに
- 2 【1】Roll Tape
- 3 【2】Gimme Some Sugar
- 4 【3】Daddy’s Diddies
- 5 【4】Gotta Dig It To Dig It
- 6 【5】No Credit For This
- 7 【6】Roadtrip
- 8 【7】On Your Face
- 9 【8】That’s The Way Of The World
- 10 【9】Imagination
- 11 【10】In The Basement
- 12 【11】Business
- 13 【12】Look B4U Leap
- 14 【13】Around The House
- 15 【14】Funky Sci Fi
- 16 【15】Mini Mugg
- 17 【16】Chicago Independent
- 18 【17】Surround Stereo
- 19 【18】Black Gold
- 20 【19】Denim Groove
- 21 【20】Notes From Dad
- 22 【21】Rubie & Charles
- 23 【22】Greatness
- 24 【23】Step on Step
- 25 おわりに
はじめに
チャールズ・ステップニー(1931年3月26日~1976年5月17日)は、米シカゴのプロデューサー、作編曲家、マルチ奏者。
https://twitter.com/intlanthem/status/1506628829208588290
「ロックの父」チャック・ベリー(Charles Berry)やボ・ディドリー(Bo Diddley)も輩出したシカゴの名門レーベル、チェス・レコード(Chess Records)のスタッフとして、「シカゴブルースの父」マディ・ウォーターズ(Muddy Waters)、「Lovin’ You」(1975年1月18日、2ndアルバム『Perfect Angel』1974年8月9日)の大ヒットで知られるミニー・リパートン(Minnie Riperton)とそのバンド、ロータリー・コネクション(Rotary Connection)など、多数の作編曲・プロデュースなどを手がけました。
「ポリリズム+電子音楽+バロックソウル(ホーンとストリングス、シカゴ交響楽団など、クラシックのオーケストレーションを取り入れたソウル)」の先駆者として、アース・ウインド&ファイアー(Earth, Wind & Fire、EW&F、EWF)のプロデュースなども務めつつ、2回の心臓発作に見舞われ、妻のルビー(Rubie Stepney、1938年~2008年)と3人の娘を残し、45歳の若さで亡くなりました。
ステップニー・シスターズ
https://twitter.com/intlanthem/status/1566612665165762560
- 【右】娘(長女):アイバー・ステップニー(Eibur Stepney)
- 【左】娘(次女):シャーリーン・ステップニー(Charlene Stepney)
- 【中】娘(三女):シャンテ・ステップニー(Chanté Stepney)
Episode 1 of Charles Stepney: Out of the Shadows by International Anthem
Episode 2 of Charles Stepney: Out of the Shadows
Episode 3 of Charles Stepney: Out of the Shadows by International Anthem
Nujabes「ordinary joe (feat. Terry Callier)」
多数のアーティストがチャールズ・ステップニーの手がけた楽曲をサンプリング、カバー、リミックスなどしています。
- WhoSampled:Charles Stepney
- パブリック・エナミー(Public Enemy)
- アレステッド・ディベロップメント(Arrested Development)
- ア・トライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest):Qティップ(Q-Tip)
- ジェイ・Z(Jay-Z)
- 2パック(2Pac、Tupac Shakur)
- コモン(Common)
- ナズ(Nas)
- マッドリブ(Madlib)
- カニエ・ウェスト(Kanye West)
- Nujabes(ヌジャベス)
- チャカ・カーン(Chaka Khan)
- プライマル・スクリーム(Primal Scream)
- ゴリラズ(Gorillaz)
- ボーズ・オブ・カナダ(Boards of Canada)
- ナイトメアズ・オン・ワックス(Nightmares On Wax)
- ヤン富田(Yann Tomita)
- テイ・トウワ(TOWA TEI)
Step on Step
事実上のデビューアルバム『Step on Step』(ステップ・オン・ステップ、2022年9月9日、International Anthem)は先行シングル6曲を含む、全23曲・約1時間18分。
アナログ盤は2枚組(2LP)で、1枚目のA面が7曲(1~7曲目)、B面が4曲(8~11曲目)、2枚目のA面が5曲(12~16曲目)、B面が7曲(17~23曲目)という構成になっています。
国内盤CD(rings)はボーナストラック「Business (Instrumental)」を含む、全24曲・1時間19分あまりです。
アイバー、シャーリーン、シャンテの3人娘ステップニー・シスターズ(Stepney Sisters)は、父が残した未発表のテープを大切に保管し、何度もオーディオの転送を試みるなどして、父が亡くなる当日に言い残した、『Step on Step』というタイトルのソロアルバムを作る夢を実現しました。
【1】Roll Tape
1970年頃にチャールズ・ステップニーがひとりでドラムマシン、ピアノ、アナログシンセ、エレピ(エレクトリックピアノ)、ビブラフォン、テープエコー(エコーユニット)などを操り、宅録(ホームレコーディング)・多重録音したオリジナル曲(デモ音源を含む)からなる『Step on Step』。
シカゴにある自宅の地下スタジオで4トラックのオープンリールテープに録音するにあたり、「左右×前」のチャンネルのマイク入力や録音レベルをテストする声が吹き込まれていて、実際に左右それぞれから聴こえてくることがわかります。
【2】Gimme Some Sugar
「Gimme Some Sugar」は、スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)の「Superstition(迷信)」や「You Are the Sunshine of My Life(サンシャイン)」(15thアルバム『Talking Book(トーキング・ブック)』1972年10月28日)の流れを汲むシンセファンクです。
【3】Daddy’s Diddies
第2弾シングル「Daddy’s Diddies」(2022年5月11日)。
ブラジルのミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)&ロー・ボルジェス(Lô Borges)の「Cravo e Canela(クローブとシナモン)」(アルバム『Clube da Esquina(街角クラブ~クルービ・ダ・エスキーナ)』1972年1月3日)を彷彿とさせるスキャットが印象的です。
【4】Gotta Dig It To Dig It
ファンキーな「ミョンミョン」したベースラインは、1970年に開発されたばかりのアナログシンセ、ミニモーグ(Minimoog)によるシンベ(シンセベース)です。
【5】No Credit For This
エレピのフェンダーローズ(Fender Rhodes)は温もりのある優しい音色です。
【6】Roadtrip
ステップニー・シスターズの3人によるナレーションは、2020年夏、リリースレーベル<International Anthem>のスタジオで録音されました。
【7】On Your Face
これまではオリジナル曲でしたが、アナログ盤1枚目のA面ラストを飾る「On Your Face」は、アース・ウインド&ファイアーのシングル(1977年4月6日、7thアルバム『Spirit』1976年9月28日)のデモ音源です。
そのレコーディング期間に亡くなったので、アルバムタイトルには「チャールズ・ステップニーに捧げる精霊」という意味が込められました。
アース・ウインド&ファイアー「On Your Face」
【補間】MCハマー「On Your Face」
- WhoSampled:On Your Face
【8】That’s The Way Of The World
第4弾シングル「That’s The Way Of The World」(2022年7月6日)も、アース・ウインド&ファイアーのシングル(1975年6月17日、6thアルバム『That’s the Way of the World(暗黒への挑戦)』1975年3月15日)のデモ音源です。
アース・ウインド&ファイアー「That’s the Way of the World」
- WhoSampled:That’s The Way Of The World
【9】Imagination
「Imagination」は、アース・ウインド&ファイアーの7thアルバム『Spirit』収録曲のデモ音源です。
アース・ウインド&ファイアー「Imagination」
- WhoSampled:Imagination
【10】In The Basement
「In The Basement」という曲名は、ステップニー・シスターズが「赤いじゅうたんの地下室」と呼んでいた地下スタジオのこと。
もともと地下室に住んでいた彼女たちの祖母が引っ越したため、チャールズ・ステップニーはリビングに作り始めていたスタジオを地下室に移したそうです。
【11】Business
「Business」はアナログ盤1枚目のB面ラスト曲です。
【12】Look B4U Leap
第3弾シングル「Look B4U Leap」(2022年6月8日)は、ミニモーグが印象的なローファイ・ダンスチューン。
曲名は、チャールズ・ステップニーが作編曲・プロデュース・指揮を務めた、ミニー・リパートンのデビューアルバム『Come to My Garden』(1970年11月1日)で、「Completeness」と「Whenever, Wherever」の作詞をしたローズ・ジョンソン(Rose Johnson)のメモから、ステップニー・シスターズの次女シャーリーンが選びました。
【13】Around The House
まったりとしたローファイ・チルチューンとして、今聴いてもレトロっぽさがむしろ斬新に響くのではないでしょうか。
【14】Funky Sci Fi
曲名の「サイファイ」は「SF、サイエンスフィクション」のこと。
当時はSF的に聴こえたミニモーグが、今では音響マニア垂涎(すいぜん)のローファイ名機になっているところがおもしろいですね。
【15】Mini Mugg
「モーグか?ムーグか?」問題がステップニー・シスターズの議論の的になっています。
【16】Chicago Independent
「Chicago Independent」はアナログ盤2枚目のA面ラスト曲です。
【17】Surround Stereo
1曲目「Roll Tape」に続き、チャールズ・ステップニーが「右左×本体」のチャンネルの録音レベルをテストする声を聴くことができる「Surround Stereo」。
スピーカーがモノラル(1チャンネル)ではなく、ステレオ(2チャンネル)かつサラウンド(3チャンネル~)になっている喜びが感じられます。
【18】Black Gold
第6弾シングル「Black Gold」(2022年9月6日)は、フィル・アップチャーチ(Phil Upchurch)の「Black Gold」(アルバム『Upchurch』1969年)、およびロータリー・コネクション(ニュー・ロータリー・コネクション)の「I Am The Black Gold Of The Sun」(6thアルバム『Hey, Love』1971年8月1日、コンピアルバム『Black Gold: The Very Best Of Rotary Connection』2006年3月14日)というサイケソウルチューンのデモ音源です。
フィル・アップチャーチ「Black Gold」
ロータリー・コネクション「I Am The Black Gold Of The Sun」
【カバー】ニューヨリカン・ソウル「I Am The Black Gold Of The Sun」
【カバー】松浦俊夫グループ「I Am The Black Gold Of The Sun」
- WhoSampled:Black Gold、I Am The Black Gold Of The Sun
【19】Denim Groove
「Denim Groove」ではピアノ、ビブラフォン、コンガが奏でられています。
【20】Notes From Dad
「Notes From Dad」でもビブラフォンの響きを堪能できます。
【21】Rubie & Charles
第5弾シングル「Rubie & Charles」(ルビー&チャールズ、2022年8月10日)の曲名は、夫婦の名前にちなんで、3人娘ステップニー・シスターズが名づけました。
ちなみに長女アイバー(Eibur)の名前は、妻ルビー(Rubie)の逆さ読みとのこと。
https://twitter.com/intlanthem/status/1557360123869364225
【22】Greatness
チャールズ・ステップニーのピアノソロが美しい「Greatness」。
ステップニー・シスターズはシカゴ交響楽団との思い出を語っています。
【23】Step on Step
第1弾シングルかつ表題曲の「Step on Step」(2022年3月23日)。
ピアノ、ビブラフォン、コンガの柔らかい音色に適度な緊張感も含まれていて、ミニマルミュージックのような心地よさに浸っているとブチッと終わるところが宅録の醍醐味かもしれません。
おわりに
1970年代初期に米ニューヨーク・ブロンクスで生まれたヒップホップとともにサンプリング文化が発展し、チャールズ・ステップニーの手がけた楽曲も脈々と受け継がれてきました。
「バロックソウルのオーケストラアレンジ」などの完成形に至るまえの宅録音源ですが、50年近く経っても古びないどころか、今の時代にフィットする新譜のようにも聴こえます。
ブルース、R&B、ソウル、ファンクのマニア、トラックメイカー(プロデューサー)やDJはもちろん、心地いい音楽を探している一般リスナーにも響くのではないでしょうか。
リンク
- Wikipedia:Charles Stepney、Albums produced
- AllMusic:Charles Stepney、Step on Step
- Discogs:Charles Stepney、Step on Step、LP
- WhoSampled:Charles Stepney
- Website:Stepney Sisters、International Anthem、Step on Step、rings、rings STORES
- Linktree:Stepney Sisters
- Twitter:Stepney Sisters、Eibur Stepney、Charlene Stepney、International Anthem、rings
- Instagram:Charles Stepney、Stepney Sisters
- Facebook:Stepney Sisters
- Link:Step on Step、国内
- YouTube:Stepney Sisters、International Anthem、Topic、Step on Step
- Tower Records:Charles Stepney、Step on Step、国内盤CD、輸入盤CD、輸入盤LP、Gold Vinyl
- disk union:Charles Stepney、国内盤CD、輸入盤LP、Gold Vinyl
- DIW by diskunion、OTOTSU by diskunion DIW
- more records(埼玉・大宮)、Bar Music / Shop(東京・渋谷)
- RECONQUISTA(東京・綾瀬):国内盤CD、輸入盤LP
- 芽瑠璃堂(埼玉・坂戸):Charles Stepney、国内盤CD、輸入盤LP、Gold Vinyl
- JEUGIA Basic(京都・四条烏丸):国内盤CD、Gold Vinyl
- Tobira Records(兵庫・加西):輸入盤LP
- Spotify:Charles Stepney、Step on Step
- Apple Music:Charles Stepney、Step on Step
- SoundCloud:International Anthem
- Bandcamp:International Anthem、Step on Step