音楽

FKJ『V I N C E N T』ダウンテンポ&ネオソウルのとろける2ndアルバム!

眠れない夜を過ごしている人、疲れすぎて癒されたい人、とにかく心地いい音楽に浸りたい人におすすめなのがFKJの『V I N C E N T』。
子どもの頃に出かけた遊園地はもう廃れているかもしれませんが、夢の中では自由に遊べるのではないでしょうか。

はじめに


フランスのマルチ奏者&プロデューサーVincent Fenton(ヴィンセント・フェントン、1990年3月26日生まれ、父:ニュージーランド出身、母:フランス出身)によるソロプロジェクトFKJ(French Kiwi Juice、フレンチ・キウイ・ジュース)。

V I N C E N T “In The Making”


2ndアルバム『V I N C E N T』(2022年6月10日)は先行シングル4曲を含む、全14曲・約47分。
ニューフレンチハウスの先駆者として知られるFKJ自身のファーストネームがタイトルになっていて、子ども心や遊び心がテーマとして掲げられています。
ひたすら心地いいダウンテンポネオソウルの融合にたゆたいましょう。

【1】Way Out


第2弾シングル「Way Out」(2022年4月29日)は、出口の見えないコロナ禍の日常から無邪気な子ども心に満ちた音楽の世界へと連れ出してくれるようなチルチューン。
トラップビートにピアノとストリングスという組み合わせがフューチャージャズっぽく響きます。
MVはフィリピンの自宅兼スタジオの隣にある廃墟遊園地で撮影されました。

【2】Greener feat. Santana


アメリカのブルースロックバンド、サンタナを率いるメキシコ出身の伝説のギタリスト、カルロス・サンタナCarlos Santana)をゲストに迎えた、第1弾シングル「Greener」(2022年4月7日)。
FKJ自身、子どもの頃にサンタナの曲を聴いていたとのこと。
むせび泣くギターが時代を越えて、ラップ混じりのネオソウル&ダウンテンポになじむところが感慨深いですね。

【3】Us


「Us」は愛する妻に捧げられたラブソング。
FKJ自身がサックスやギター、鍵盤も奏でています。
妻は後ほど登場するので、伏線になっているともいえるでしょう。

【4】The Mission


「使命は何か?」と問いかける「The Mission」。
「子どもの頃の自由さを取り戻す」というアルバムのテーマを再確認するかのように、憧れのサンタナよろしくギターを掻き鳴らしています。

【5】Can’t Stop feat. Little Dragon


「Can’t Stop」ではスウェーデンの4人組エレクトロポップバンド、リトル・ドラゴンをフィーチャー。
日系スウェーデン人のボーカル、ユキミ・ナガノYukimi Nagano)とのデュエットで、「人生最後の日に本当にやりたいことをやっている?」と問いかけています。
大人になると忙しい日々が続き、「本当にやりたいこと」を後回しにしがちですが、残された時間は短いかもしれないと想像すると、「どうしてもやめられないこと」が浮かび上がるのではないでしょうか。

【6】IHM


「IHM」はレイドバックしたディラビート的な揺らぎがメロウすぎるローファイ・ヒップホップチルホップ)。
浮遊感あふれるギターとピアノの音色に、「自分で道を見つけるかもしれないし、台無しにするかもしれない」と混乱するボーカルが重なります。

【7】Brass Necklace feat. ((( O )))


フィリピン系アメリカ人のSSW((( o )))ことジューン・マリージーJune Marieezy)をゲストに迎えた「Brass Necklace」。
顔文字のようなアーティスト名には決まった読み方がないため、便宜上本名か、ザ・サンドロップ・ガーデンThe Sundrop Garden)と呼ばれています。
後者は、12年間に1枚ずつリリースするアルバムの楽曲制作を、太陽光のみの発電で行うプロジェクトの名前です。
FKJとジューンは2019年3月に結婚しました。
つまり3曲目の「Us」はジューンに捧げられたラブソングだったということ。
夫婦のフィリピンでのエコな暮らしぶりが伝わってくるようなサウンドではないでしょうか。

【8】Different Masks For Different Days


「Different Masks For Different Days」はエモーショナルなサックスとコーラス、ゆったり重いビートとミニマルな電子音、美しいピアノの旋律などが交錯するインスト曲です。

【9】A Moment Of Mystery feat. Toro Y Moi


第3弾シングル「A Moment Of Mystery」(2022年5月19日)ではアメリカのSSW&プロデューサー、トロ・イ・モアチャズ・ベアーによるソロプロジェクト)をフィーチャー。
「結末がわからないドラマが大好き」という2人のボーカルがミステリアスに響くチルウェイヴです。

【10】Let’s Live


第4弾シングル「Let’s Live」(2022年6月9日)は、FKJ初期のニューフレンチハウスを彷彿とさせるダンスチューン。
「生きよう」と呼びかけるボーカルやハンドクラップ、ミニマルなシンセサイザーなどダビーなサウンドに、透き通るようなピアノの音色が重なります。

【11】Once Again I Close My Eyes


サックス、ボーカル、ギターなどのレイヤーで盛り上がる「Once Again I Close My Eyes」。
相変わらずテンポはまったりしているので、いつのまにか眠たくなる子守歌のようです。

【12】New Life


「New Life」ではギターリフ、重低音のリズム隊、ミニマルなボーカル、ギターソロなどの積み重ねでグルーヴが構築され、高みに昇り詰めます。

【13】Does It Exist


高まった気分を落ち着けるように、繊細なピアノが奏でられる「Does It Exist」。
1分弱のインストです。

【14】Stay A Child


ラストを締めくくる「Stay A Child」で表現されているのは、「子どもの頃のような遊び心を大切にする」というアルバムのテーマそのもの。
「大人(現在)」と「子ども(過去)」を対比させ、「昔(過去)みたいに自由に走り回りたい」と願っているわけですが、深読みすると「コロナ前(過去)に戻りたい」と祈っているようにも感じられます。
さらに10曲目「Let’s Live」と同じく、「生きる(リブ)」という意味で用いられている「Live」には、もしかしたら「ライブ」のニュアンスも込められているかもしれません。
コロナ前のように自由に(制限なく)ライブで遊ぶためには「現実逃避」しかない状況なので、実際には目の前に横たわるコロナ禍(現在の現実)を匂わせず、「子どものまま(過去の夢)」と表現した可能性もありそうです。
目を閉じながらもなかなか寝つけない夜を過ごしている大人も、アルバム全体を聴いて眠たくなったのではないでしょうか。
童心に帰ってライブなどで自由に遊ぶ夢を見られるといいですね。

おわりに


全世界的な非常事態が2年以上も続くと、あるいは遊び心にあふれた音楽を作るほうが不自然なのかもしれません。
音楽に携わる仕事をしている人は「制限なしのライブができない」などの問題に直面し続けているからです。
それでも「せめて音楽を聴くときは、悩みを忘れて楽しみたい」というリスナーも多いでしょう。
あるいは音楽を聴くことによって辛い現実を乗り越えられる場合もあります。
もしくは「ただコロナ前のように無邪気に音楽を楽しみたいだけ」と言語化したほうがしっくりくる心境に至っているかもしれません。
この使命を果たしてくれたのがFKJの『V I N C E N T』ではないでしょうか。
2020年3月26日に30歳になったことを機に掲げた「童心に帰る」というテーマが、図らずも時代にマッチしました。
ひたすら心地いい「現実逃避」に感謝しつつ、今を生き抜きましょう!

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渡辺和歌
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