新装盤リリース(2021年11月)を機に、LAジャズのサックス奏者カマシ・ワシントン(Kamasi Washington)の3枚組アルバム『The Epic』(2015年5月)を掘り下げましょう。
Contents
- 1 はじめに
- 2 Volume 1 – The Plan
- 3 Volume 2 – The Glorious Tale
- 4 Volume 3 – The Historic Repetition
- 5 おわりに
はじめに
『The Epic』は、自主制作盤などのリリースを経た後の<Brainfeeder>(ブレインフィーダー)からのメジャーデビューアルバム。
3枚組・全17曲・2時間53分あまりの「大作」ですが、タイトルには「壮大な物語」を表す「叙事詩」という意味が込められています。
- CD:6曲+6曲+5曲
- LP:5曲(3曲+2曲)+7曲(3曲+4曲)+5曲(2曲+3曲)
全17曲中、14曲がオリジナル、3曲がカバーで、4曲がボーカルあり。
カマシ・ワシントンとバックバンドThe Next Stepのメンバー10人がメイン、そのうちホーン3人、鍵盤2人、ベース2人、ドラム&パーカッション3人という編成です。
さらにパフォーマーとしてはボーカル2人、追加メンバー3人(トロンボーン、トランペット、ドラム)、アンサンブル23人(ストリングス9人、クワイア14人)がクレジットされています。
Volume 1 – The Plan
【1】Change of the Guard
バンド
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター(Ryan Porter):トロンボーン
- イグマー・トーマス(Igmar Thomas):トランペット
- キャメロン・グレイヴス(Cameron Graves):ピアノ
- ブランドン・コールマン(Brandon Coleman):キーボード
- マイルズ・モスリー(Miles Mosley):アコースティックベース
- サンダーキャット(Thundercat、Stephen Bruner):エレキベース
- トニー・オースティン(Tony Austin):ドラム
アンサンブル
- ニール・ハモンド(Neel Hammond)ら5人:バイオリン
- モリー・ロジャース(Molly Rogers)ら2人:ビオラ
- アルティョム・マヌキアン(Artyom Manukyan)ら2人:チェロ
- タルマ・ヂ・フレイタス(Thalma de Freitas)ら14人:クワイア
「Change of the Guard」は、メイン10人のうちドラムとパーカッションの2人を除いた8人とアンサンブルという編成です。
大まかに「イントロ→テーマ(主題)→アドリブ(即興演奏)→テーマ→アウトロ」という楽曲構成のモダンジャズ。
歴史的に、アドリブがコード進行に沿ったビバップ(コーダル)から、コード進行よりモード(旋法)を重視するモードジャズ(モーダル)へと進化しました。
ビバップを軸に、モーダルも混ざる展開がスリリングです。
【ライブ】Jazz Night in America
- 3:50~:Change of the Guard
【楽譜】Trumpet Solo Transcription
【カバー】FOMA Cover
【2】Askim
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- イグマー・トーマス:トランペット
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:キーボード
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- サンダーキャット:エレキベース
- トニー・オースティン:ドラム
- レオン・モブレー(Leon Mobley):パーカッション
- アンサンブル:23人
ドラム1人を除いた9人とアンサンブルによる「Askim」。
心地いいリズムのなか、メロウなテーマからベースやサックスのアドリブ、クワイアへと盛り上がる流れが圧巻です。
【ライブ】Jazz Night in America
- 5:45~:Askim
- 27:25~:Change of the Guard
- 47:00~:Leroy and Lanisha
- 1:02:01~:Henrietta Our Hero
- 1:15:10~:Re Run
- 1:44:00~:The Message
【カバー】Bass Cover
【カバー】East Coast Experiment Cover
【3】Isabelle
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:オルガン
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- ロナルド・ブルーナー・ジュニア(Ronald Bruner Jr.):ドラム
- レオン・モブレー:パーカッション
バラード「Isabelle」ではサンダーキャットの兄ロナルド・ブルーナー・ジュニアがドラムを叩いています。
【4】Final Thought
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:オルガン
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- トニー・オースティン:ドラム(右)
- ロナルド・ブルーナー・ジュニア:ドラム(左)
- レオン・モブレー:パーカッション
2枚目・9曲目の「Re Run」、3枚目・13曲目の「Re Run Home」と同じテーマが提示される「Final Thought」。
バンド編成や楽曲の長さ・構成はそれぞれ異なりますが、ライブになると音源どおりには演奏されません。
聴き分けるのは難しいですが、「Final Thought」が他の2曲と大きく違うのはベースライン。
頭にアクセントのある、突っかかるようなリズムが特徴的です。
【ライブ】Racism on Trial
- 0:00~:Final Thought
- 12:10~:Change of the Guard
【カバー】Solo Transcription
【5】The Next Step
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- イグマー・トーマス:トランペット
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:オルガン
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- サンダーキャット:エレキベース
- トニー・オースティン:ドラム
- アンサンブル:23人
バンド名がそのままタイトルになった「The Next Step」は、オルガンソロやピアノの音色も印象的。
ゆったりとしたラグジュアリーな時間が流れます。
【ライブ】Live at the Paste Studio
- 0:00~:The Next Step
【6】The Rhythm Changes
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- イグマー・トーマス:トランペット
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:キーボード
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- サンダーキャット:エレキベース
- トニー・オースティン:ドラム
- ロナルド・ブルーナー・ジュニア:ドラム
- パトリス・クイン(Patrice Quinn):ボーカル
- アンサンブル:23人
「The Rhythm Changes」でパトリス・クインのボーカルが入り、アルバム全体の印象もガラッと変わります。
- 歌詞:Genius
【ライブ】NOWNESS
- 3:00~:The Rhythm Changes
【ライブ】Pitchfork Music Festival 2016
- 0:19~:The Rhythm Changes
【楽譜】Trombone Solo Transcription
【カバー】Bass Cover
Volume 2 – The Glorious Tale
【7】Miss Understanding
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- イグマー・トーマス:トランペット
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:キーボード
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- サンダーキャット:エレキベース
- ロナルド・ブルーナー・ジュニア:ドラム
- アンサンブル:23人
アルバム収録2曲目のシングル「Miss Understanding」(2015年4月8日)。
ホーン、鍵盤、ベース、ドラムがそれぞれ自由奔放に暴れまくった挙句、ビシッと決まるテーマに痺れます。
【8】Leroy and Lanisha
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- キャメロン・グレイヴス:オルガン
- ブランドン・コールマン:ピアノ
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- トニー・オースティン:ドラム
- レオン・モブレー:パーカッション
タイトルの「リロイ&ラニーシャ」は、チャールズ・M・シュルツの漫画「ピーナッツ」に登場するスヌーピーの飼い主チャーリー・ブラウンへのオマージュで、元になったのは「親友のライナス&同級生のルーシー」。
「Linus and Lucy」(ライナス&ルーシー、1964年12月)を作曲した西海岸ジャズのピアニスト&作曲家ヴィンス・ガラルディ(Vince Guaraldi)へのオマージュにもなっています。
【ライブ】Perform LIVE on AOL BUILD
- 0:03~:Final Thought
- 5:32~:Leroy and Lanisha
- 17:40~:Re Run Home
【ライブ】World Cafe Live
- 0:03~:Leroy and Lanisha
【9】Re Run
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:キーボード
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- トニー・オースティン:ドラム
- レオン・モブレー:パーカッション
- アンサンブル:23人
テーマが同じ4曲目「Final Thought」と13曲目「Re Run Home」のうち、「Re Run Home」とはベースのフレーズも似ています。
そのベースラインの後半が上がりきるのが「Re Run」、下がるのが「Re Run Home」です。
【ライブ】Live on KEXP
- 0:00~:Re Run
- 15:25~:The Rhythm Changes
【ライブ】Live at WFUV
- 0:00~:Re Run
【10】Seven Prayers
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- イグマー・トーマス:トランペット
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:キーボード
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- サンダーキャット:エレキベース
- ロナルド・ブルーナー・ジュニア:ドラム
- レオン・モブレー:パーカッション
「Seven Prayers」はキラキラ跳ね回る鍵盤やベースやドラムと、ゆったり昇り詰めるホーンの対比が極上です。
【11】Henrietta Our Hero
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- Shaunte Palmer:トロンボーン
- Todd Simon:トランペット
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:オルガン
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- ロナルド・ブルーナー・ジュニア:ドラム
- パトリス・クイン:ボーカル
- アンサンブル:23人
「Henrietta Our Hero」はパトリス・クインの優しい歌声が印象的。
カマシ・ワシントンの祖母ヘンリエッタ・カーティス(Henrietta Curtis、1928年4月21日~2011年1月17日)を讃え、すべての母親と祖母に愛と敬意と感謝が捧げられています。
- 歌詞:Genius
MV
父親のジャズサックス奏者リッキー・ワシントン(Rickey Washington)も本人役で出演。
【12】The Magnificent 7
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- イグマー・トーマス:トランペット
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:キーボード、オルガン
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- サンダーキャット:エレキベース
- トニー・オースティン:ドラム
- ロナルド・ブルーナー・ジュニア:ドラム
- アンサンブル:23人
黒澤明監督の時代劇映画『七人の侍』(1954年)をリメイクしたジョン・スタージェス監督の西部劇映画『荒野の七人』(1960年)の英題がつけられた「The Magnificent 7」。
砂嵐を巻き起こすかのようなサックスとピアノとベースのソロ、不穏なクワイアなどがドラマチックなスピリチュアルジャズです。
【ライブ】Live on KCRW, 2015
- 0:00~:Re Run Home
- 13:00~:The Rhythm Changes
- 25:25~:The Magnificent 7
【ライブ】World Cafe Live
- 0:00~:The Magnificent 7
Volume 3 – The Historic Repetition
【13】Re Run Home
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- イグマー・トーマス:トランペット
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:キーボード
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- サンダーキャット:エレキベース
- トニー・オースティン:ドラム(右)
- ロナルド・ブルーナー・ジュニア:ドラム(左)
- レオン・モブレー:パーカッション
アルバム収録1曲目のシングル「Re Run Home」(2015年3月10日)では、メインの10人がそろい踏み。
ツインベースとツインドラムとパーカッションのリズム隊によるアフロビート調のグルーヴ、ホーンの掛け合い、奔放な鍵盤、ビシッと決まるテーマなど、聴きどころ満載です。
【ライブ】At The Piano Bar
- 0:00~:Re Run Home
【ライブ】World Cafe Live
- 0:00~:Re Run Home
【14】Cherokee
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- ブランドン・コールマン:キーボード、オルガン
- マイルズ・モスリー:エレキベース
- Robert Miller:ドラム
- パトリス・クイン:ボーカル
パトリス・クインがしっとり歌い上げる、ジャズスタンダード「Cherokee」(チェロキー、1938年)のカバー。
作詞・作曲は、活動拠点をニューヨークに移したイギリスのビッグバンドリーダー&作曲家レイ・ノーブル(Ray Noble)です。
- 歌詞:Genius
【カバー】Trombone Solo Transcription
https://youtu.be/bZfhjYIOAhw
【カバー】Drum Cover
【15】Clair de Lune
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:オルガン
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- トニー・オースティン:ドラム
- アンサンブル:23人
フランスの作曲家ドビュッシー(Claude Debussy)のピアノ独奏曲「ベルガマスク組曲」(Suite Bergamasque)第3曲「月の光」(Clair de Lune、1890年→1905年)のカバーです。
【ライブ】Boiler Room London Live Performance
- 0:46~:Intro
- 3:12~:Change of Guard
- 14:24~:Claire de Lune
- 32:30~:Re Run
- 45:20~:Henrietta Our Hero
- 1:00:39~:Final Thought
- 1:22:32~:The Rhythm Changes
【カバー】Tenor Sax Transcription
【カバー】LB Poly Combo Cover
【16】Malcolm’s Theme
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:オルガン
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- トニー・オースティン:ドラム(右)
- ロナルド・ブルーナー・ジュニア:ドラム(左)
- パトリス・クイン:ボーカル
- ドワイト・トリブル(Dwight Trible):ボーカル
パトリス・クインとドワイト・トリブルのデュエットソング「Malcolm’s Theme」には、公民権運動の活動家マルコムX(Malcolm X)へのオマージュが捧げられています。
スパイク・リー(Spike Lee)監督の映画『マルコムX』(1992年)の劇伴も手がけた、ジャズトランペット奏者&作曲家テレンス・ブランチャード(Terence Blanchard)のアルバム『The Malcolm X Jazz Suite』(マルコムXに捧ぐ、1993年4月)収録曲「Malcolm’s Theme」(マルコムのテーマ)のカバー。
終盤ではマルコムXの演説がサンプリングされています。
- 歌詞:Genius
【ライブ】Live at the Paste Studio
- 0:00~:Malcolm’s Theme
【17】The Message
- カマシ・ワシントン:テナーサックス
- ライアン・ポーター:トロンボーン
- イグマー・トーマス:トランペット
- キャメロン・グレイヴス:ピアノ
- ブランドン・コールマン:キーボード
- マイルズ・モスリー:アコースティックベース
- サンダーキャット:エレキベース
- トニー・オースティン:ドラム(右)
- ロナルド・ブルーナー・ジュニア:ドラム(左)
- レオン・モブレー:パーカッション
ラストはメイン10人による「The Message」。
ビバップやモードジャズに、ラテン音楽のリズム、キーボードによる電子音楽などが融合した70年代のジャズフュージョンを彷彿とさせます。
落ち着いたピアノとエレクトロニックなキーボードの対比が印象的なイントロからテーマが提示され、ベース、サックス、ドラムそれぞれのソロを経て、テーマに戻る流れが華やかです。
おわりに
ビバップ(ホーン、ベース)、モードジャズ(鍵盤)、アフリカ音楽(アフロビート、ポリリズム、アフロフューチャリズム)などからなるスピリチュアルジャズ。
アコースティックとエレキ、コーダルとモーダル、大地と宇宙といった、さまざまな対照的な要素を融合するようなサウンドに心が浄化されますね。
ロック、R&B、ファンク、ヒップホップ、クラブミュージック好きの人にも響く、根源的かつ革新的な音楽なので、カマシ・ワシントンの『The Epic』を聴いてジャズの概念が刷新された人も多いでしょう。
楽器を奏でたいという熱も高まったはず。
それぞれライブ映像なども集めておきましたので、カバー演奏を楽しむ際にもお役立てください。