音楽

ネイト・スミス『Kinfolk 2: See the Birds』ジャンルを超越するジャズドラマーのライフワーク

超絶技巧ドラマー、ネイト・スミス(Nate Smith)のリーダープロジェクト、キンフォーク(Kinfolk)での来日を記念して、最新作『Kinfolk 2: See the Birds』を聴きましょう!

はじめに


ネイト・スミス(本名:イラ・ナサニエル・スミス / Ira Nathaniel Smith)は1974 年12月14日、米バージニア州ノーフォーク生まれ、チェサピーク育ち、ニューヨークを拠点に活動するドラマー(マルチ奏者)、作編曲家、プロデューサーです。
ジェームズ・マディソン大学バージニア・コモンウェルス大学院で学び、2015年3月には母校のジェームズ・マディソン大学でアーティスト・イン・レジデンスを務めるなど、教育者としても活動しています。
2009年に自身の制作会社Waterbaby Musicを設立しました。

デイヴ・ホランド・オクテット『Pathways』


大学院で出会ったUKのベーシスト(ECM所属)デイヴ・ホランド(Dave Holland)、米シカゴ出身のサックス奏者クリス・ポッター(Chris Potter)などのバンドにサイドマンとして参加。
自身のリーダー作も含め、グラミー賞に3回ノミネートされました。

マイケル・ジャクソン「Heaven Can Wait」


マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の10thアルバム『Invincible』(インヴィンシブル、2001年10月30日、Epic・MJJ)収録曲「Heaven Can Wait」の共作・共同プロデュースにも名を連ねています。

リーダー作

フィアレス・フライヤーズ「Introducing the Fearless Flyers (Live at Madison Square Garden)」


米4人組ミニマルファンクバンド、ヴォルフペックVulfpeck、2011年~)のスピンオフバンド、フィアレス・フライヤーズThe Fearless Flyers、2018年~)のメンバーとしても活動しています。

パット・メセニー『Side-Eye NYC (V1.IV) [Japanese Version]』


ブラジル音楽にも造詣が深い世界最高峰フュージョンギタリスト、パット・メセニー(Pat Metheny、ECM所属)の最新プロジェクト、サイド・アイ(Side-Eye)のドラマーは流動的。
ライブアルバム『Side-Eye NYC (V1.IV)』(2021年9月10日Modern RecordingsBMG / ADA)ではマーカス・ギルモアMarcus Gilmore)が演奏しましたが、初期のライブにはネイト・スミスが参加し、来日も果たしました。

TBN Holiday Greetings


鍵盤奏者&作編曲家の大林武司Takeshi Ohbayashi)さん、ベーシストのベン・ウィリアムスBen Williams)、ネイト・スミスによるTBNトリオでも来日し、2023年には1stアルバム『The Big News』がリリースされるそうです。

Kinfolk 2: See the Birds


ネイト・スミスがバンドリーダーを務めるプロジェクトアルバム『Kinfolk 2: See the Birds』(キンフォーク2:シー・ザ・バーズ)は先行シングル3曲を含む、全11曲・約45分半。
国内盤CDはボーナストラック「Fly (for Mike) [Alternate Instrumental Version]」を含む、全12曲・約50分です。
プロジェクト名のキンフォーク(Kinfolk)は「仲間」という意味。
ネイト・スミス自身の音楽体験を仲間と共有する3部作の予定で、1作目『Postcards from Everywhere』はネイト・スミスがドラムを始めた11歳よりまえの「子ども時代」がテーマでした。
2作目『See the Birds』ではネイト・スミスが「10代」の頃に影響を受けた元ポリス(The Police)のスティング(Sting)、プリンス(Prince)、リヴィング・カラー(Living Colour)などのブラック・ロック・コーリションBlack Rock Coalition)、ヒップホップ、R&Bおよびネオソウルとジャズの融合が試みられています。

クレジット

ゲスト

使用機材

【1】Altitude feat. Joel Ross & Michael Mayo

  • ネイト・スミス:ドラム
  • マイケル・メイヨー:ボーカル
  • ジョエル・ロス:ビブラフォン
  • ブラッド・アレン・ウィリアムズ:ギター
  • フィマ・エフロン:ベース
  • ジャリール・ショウ:サックス
  • ジョン・カワード:ピアノ

マイケル・メイヨーのボーカルとジョエル・ロスのビブラフォンがフィーチャーされた、第3弾シングル「Altitude」(2021年9月3日)。
パット・メセニー的なジャズフュージョンで、穏やかに上昇するフレーズや心地いいグルーヴに魅せられます。

【2】Square Wheel feat. Kokayi & Michael Mayo


第1弾シングル「Square Wheel」(2021年6月18日)では、コカイのラップとマイケル・メイヨーのボーカルの掛け合いが冴えわたります。
4/4拍子と7/8拍子の混合拍子、ファンキーな展開が圧巻です。

【3】Band Room Freestyle feat. Kokayi


エンジニアがループに残した、2曲目「Square Wheel」後半のライブ演奏を聴いて、コカイとネイト・スミスが即興を加えたという「Band Room Freestyle」。
曲名どおり、スタジオでフリースタイルの楽曲が生まれた瞬間の喜びにあふれています。

【4】Street Lamp

  • ネイト・スミス:ドラム
  • ブラッド・アレン・ウィリアムズ:ギター
  • フィマ・エフロン:ベース
  • ジャリール・ショウ:サックス
  • ジョン・カワード:ピアノ

「Street Lamp」では「街灯がつくまで自転車で走り回りながら友だちと遊んでいた」という「ネイト・スミス少年のチェサピークの午後」がモチーフになっています。
ポストロック的な脱力系のベースリフからサックスを軸としたテーマにつながり、ギターやピアノのソロが展開される構成がすばらしく、ノスタルジックな風景が想起されます。

【5】Don’t Let Me Get Away feat. Stokley

ミント・コンディション(Mint Condition)のリードボーカル、ストークリーがフィーチャーされた「Don’t Let Me Get Away」。
スネアの響きが心地よく、ネイト・スミスのストリングスアレンジとRootstock Republicのメンバーらによるストリングス演奏も光ります。

【6】Collision feat. Regina Carter

「Collision」では、米デトロイト出身の女性ジャズバイオリン奏者レジーナ・カーターをゲストに迎えています。
チェロ奏者ヨーヨー・マ(Yo-Yo Ma)も輩出した音楽教育法スズキ・メソードの体現者。
ピアノやサックスなどと共にエモーショナルな音色を響かせています。

【7】Meditation: Prelude


8曲目「Rambo: The Vigilante」の前奏曲に相当する「Meditation: Prelude」。
アフリカ系アメリカ人4人によるハードロックバンド、リヴィング・カラーのヴァーノン・リードのギターとネイト・スミスのドラム(マレット使用)による瞑想的な楽曲です。

【8】Rambo: The Vigilante feat. Vernon Reid


リヴィング・カラーへのオマージュが込められた「Rambo: The Vigilante」。
ニューヨークの音楽家集団(アフリカ系アメリカ人のための非営利組織)ブラック・ロック・コーリションの設立者のひとりでもあるヴァーノン・リード自身をゲストに迎え、緊迫感あふれるブラックロックとジャズの融合が展開されています。

【9】I Burn for You feat. Amma Whatt

  • ネイト・スミス:ドラム
  • アマ・ワット:ボーカル
  • ブラッド・アレン・ウィリアムズ:ギター
  • フィマ・エフロン:ベース
  • ジャリール・ショウ:サックス
  • ジョン・カワード:ピアノ

NYCブルックリン出身の女性SSWアマ・ワットのボーカルが染みる「I Burn for You」は、スティングのカバー(ライブアルバム『Bring On The Nightブリング・オン・ザ・ナイト、1986年、A&M)。
ネイト・スミスは、スティングの1stアルバム『The Dream of the Blue Turtles』(ブルー・タートルの夢、1985年6月1日、A&M)などのドキュメンタリー映像『Bring On The Night』(1985年)を観て、オマー・ハキム(Omar Hakim)のドラムに感銘を受けたそうです。

スティング「I Burn For You (Live In Arnhem)」

【10】See the Birds feat. Joel Ross & Michael Mayo

  • ネイト・スミス:ドラム、シンセ
  • マイケル・メイヨー:ボーカル
  • ジョエル・ロス: ビブラフォン

表題曲「See the Birds」。
ネイト・スミスはモノフォニックアナログシンセのモーグ・プロディジーMoog Prodigy)も奏でていて、3人編成のフュージョン風味も漂うR&Bに仕上がっています。

【11】Fly (for Mike) feat. Brittany Howard

  • ネイト・スミス:ドラム
  • ブリタニー・ハワード:ボーカル
  • ブラッド・アレン・ウィリアムズ:ギター
  • フィマ・エフロン:ベース
  • ジャリール・ショウ:サックス
  • ジョン・カワード:ピアノ、オルガン

第2弾シングル「Fly (for Mike)」(2021年7月16日)は2015年に亡くなった、ネイト・スミスの父マイクに捧げられています。
2018年に4人組ロックバンド、アラバマ・シェイクス(Alabama Shakes)の活動を休止し、ソロで活動している女性SSWブリタニー・ハワードがブルージーに歌い上げるバラードです。

おわりに


ロックバンドのポリスからジャズ編成のソロに転じたスティングに夢中になったり、ブラックロックに衝撃を受けたり、バンドリーダーとしてのプリンスに注目した10代のネイト・スミスを身近に感じることができる秀作。
超絶的なドラミングがわかりやすいのはドラムソロ作『Pocket Change』かもしれませんが、バンド仲間の持ち味を踏まえるなど、バンドリーダーとしての手腕が発揮されていました。
キンフォーク1作目の『Postcards from Everywhere』も振り返りつつ、3作目を楽しみに待っている人も多いのではないでしょうか。

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渡辺和歌
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