音楽

バッドバッドノットグッド『Talk Memory』カナダ・トロント発ジャズトリオの再始動作!

バッドバッドノットグッド(BADBADNOTGOOD、以下BBNG)の5thアルバム『Talk Memory』(トーク・メモリー)は、ヒップホップをカバーしてきたジャズトリオによるロック?
あるいは電子音楽やアンビエント、ブラジル音楽の要素も混ざった、歌えるジャズフュージョン?それとも人生のサウンドトラック?
ともあれヒップホップのサンプリング文化をきっかけに多様性の極みに達した名盤で、「音楽を演奏したい!」という衝動に駆られます

BBNGの経歴

  • 左→右:リーランド、チェスター、アレックス

BBNGは2010年にカナダのトロントで結成された、3人組インストバンドです。

  • チェスター・ハンセン(Chester Hansen):ベース、ピアノ、オルガン、シンセ、ギター
  • アレックス・ソウィンスキー(Alexander Sowinski):ドラム、パーカッション
  • リーランド・ウィッティ(Leland Whitty):サックス(ソプラノ、テナー)、フルート、ギター、ピアノ、シンセ、ベース(2016年1月:加入)

2019年10月に創設メンバーでキーボード&ギターのマシュー(マット)・タヴァレスMatthew Tavares)が脱退し、Matty名義でソロ活動を始めました。

ディスコグラフィ

下記のアーティストなど、とくにヒップホップのカバーやコラボが人気です

ジェイムス・ブレイク「CMYK」カバー


他にも多数のアーティストのカバーやコラボ、プロデュースを手がけていて、ジャンルも多岐にわたります

サンダーキャット「King of the Hill」


ケンドリック・ラマーKendrick Lamar)の4thアルバム『DAMN.』(2017年4月)収録曲「LUST.」のプロデューサーとして、第60回グラミー賞(2018年)の最優秀ラップ・アルバム賞を受賞

また、サンダーキャットThundercat)の4thアルバム『It Is What It Is』(2020年4月)収録シングル「King of the Hill」(2018年10月)のプロデューサーとして、第63回グラミー賞(2021年)の最優秀プログレッシブR&Bアルバム賞を受賞しました

アルバム『Talk Memory』の概要


5thアルバム『Talk Memory』は2021年10月8日、イギリスのテクノレーベル<XL Recordings>(XLレコーディングス)からリリースされました。

デジタルは全8曲・42分あまり、フィジカル(CD、LP)は全9曲・46分半ほど、日本盤CDと限定盤はボーナストラック「Stepping Through Stars」が追加された全10曲、そのうちシングルは2曲。

「コラボと即興の魔法」をテーマとした、マット脱退後のBBNG再始動作です。

【1】Signal from the Noise


第1弾シングルかつリード曲の「Signal from the Noise」(2021年7月15日)は、9分におよぶサイケデリックジャズ。

「何のために何をしたいのか?」がまったくわからない「孤独な男」の日常が描かれたMVはやけに哀愁がただようコメディ映画のようで、そのサウンドトラックにも聴こえます。

Sending Signals


イントロの歪んだベースフレーズなど楽譜どおりのパートと、ベースソロなど即興演奏のパートが絶妙に絡み合っています。

共同プロデューサーに電子音楽家フローティング・ポインツFloating Pointsことサム・シェパードを迎え、生楽器の演奏音をシンセで操作するアイデアが取り入れられました。

終盤は、ミニマルミュージックの作曲家スティーヴ・ライヒSteve Reich)の影響。

アナログテープマシンポリリズムループを作り、エンジニアがテープ自体を触って音質を劣化させたうえで、フローティング・ポインツがエレクトロニックに仕上げたという手の込みようです。

南ドイツ Rework


BBNGから「Signal from the Noise」のMP3音源と楽譜が送られ、自由にリアレンジするというカバー企画に、日本のアーティスト4組も参加。

第1弾はクラウトロックバンドの南ドイツMinami Deutsch)によるカバーでした。

Ovall Rework


origami PRODUCTIONS>(オリガミ・プロダクション)所属のトリオバンドOvallオーバル)によるカバーでは、Shingo Suzukiさんがベース・プログラミング・その他の楽器・ミックス、mabanuaさんがドラム、関口シンゴさんがギターを担当しています。

Answer to Remember Rework


millennium paradeミレニアムパレード、略称:ミレパ)のメンバーでもあるジャズドラマー石若駿いしわか しゅん)さん率いるAnswer to Rememberアンサー・トゥ・リメンバー、略称:アンリメ)によるカバー。

石若駿さんはドラム・ピアノ・シンセ・ベース、MELRAWメルロー安藤康平)さんはソプラノサックスとフルート、佐瀬悠輔Yusuke Sase)さんはトランペット、マーティ・ホロベックMarty Holoubek)さんはベースを演奏しています。

TAMTAM Rework


4人組ダブバンドTAMTAMタムタム)によるカバーには、ピアニスト壷阪健登Kento Tsubosaka)さんもキーボードで参加。

【2】Unfolding (Momentum 73)


ニューエイジ、アンビエント、ドローンの巨匠ララージLaraaji)の電子チターが印象的な「Unfolding (Momentum 73)」。

最初と最後の鳥の鳴き声や波の音、ミニマルな鍵盤とベース、縦横無尽なサックスとドラムが心地よく響くジャズナンバーです。

【3】City of Mirrors


ブラジル音楽の巨匠アルトゥール・ヴェロカイArthur Verocai)がストリングスアレンジ(3~5・8・9曲目)を手がけた「City of Mirrors」。

鍵盤とドラムのスリリングな掛け合いからキャッチーなメロディに戻る流れも、スケボーのMVにマッチしています。

【4】Beside April


第2弾シングル「Beside April」(2021年9月8日)ではアルトゥールのストリングスアレンジのほか、米デトロイト出身のジャズドラマー&ヒップホッププロデューサー、カリーム・リギンスKarriem Riggins)のパーカッションも加わっています。

リーランドのヘヴィなギターサウンドはフェンダーテレキャスターペダルディストーションファズディレイフェイザーワウなど)、マーシャルアンプによるもの。

ジミ・ヘンドリックスJimi Hendrix)、ジミー・ペイジJimmy Page)、ブラック・サバスBlack Sabbath)のトニー・アイオミTony Iommi)、マハヴィシュヌ・オーケストラMahavishnu Orchestra)などに影響を受けているためロック的です。

突然、白馬が疾走するMVは、イギリスの写真家エドワード・マイブリッジEadweard Muybridge)が1878年に撮影した世界初のクロノフォトグラフィ(連続写真)『動く馬』(The Horse in Motionによる世界初の映画上映(1880年)にインスパイアされています。

【5】Love Proceeding


引き続きアルトゥールがストリングスアレンジを手がけた「Love Proceeding」。

兄弟の日常が描かれたモノクロのMVは、荒れつつも愛の絆が垣間見えるエモーショナルな短編映画のようで、サウンドも自転車で走る疾走感や感情の動きと見事にシンクロしています。

【6】Open Channels

「Open Channels」はフィジカルのみでデジタルには収録されていません。

アルバム中もっとも自由度が高いサックスの即興演奏、不穏な鍵盤とベースのリフやドラム、木魚のように響くウッドブロックの音色が特徴的なスピリチュアルジャズです。

【7】Timid, Intimidating


シュールなコラージュで畳みかけるMVに似つかわしいミステリアスなメロディや、ギターとサックス(ベースとドラム)の長尺ソロが印象的な「Timid, Intimidating」。

ディアンジェロD’Angelo)の2ndアルバム『Voodoo』(2000年1月)、ロイ・ハーグローヴRoy Hargrove)率いるRHファクターThe RH Factor)の1stアルバム『Hard Groove』(2003年5月)などを手がけたエンジニア、ラッセル・エレヴァードRussell Elevado)のミックスが光ります

【8】Beside April (Reprise)


「Reprise」(ルプリーズ)は「繰り返し、反復、再現部」を意味するフランス語の音楽用語です。

序盤の4曲目は5分あまりでしたが、終盤の8曲目は1分半あまりと短く繰り返されていて、サウンドでもMVでも、物語が展開しているような映画的な効果が生み出されています

【9】Talk Meaning


アルトゥールのストリングスアレンジのほか、テラス・マーティンTerrace Martin)のアルトサックス、ブランディー・ヤンガーBrandee Younger)のハープも加わった「Talk Meaning」。

3人の少年少女が森の秘密基地に集うMVでは、電源コードを接続した後、どのような結末を迎えたのでしょうか。

もしかしたら張本人の少年が大人になった姿が1曲目のMVに登場した「孤独な男」で、今でも秘密基地を守る意味や記憶を語る(Talk Meaning、Talk Memory)物語だったのかもしれませんね。

おわりに

アルバムリリースに伴って配布されたマガジンならぬポスタージン『The Memory Catalogue』3種には、「Signal From The Noise」「Beside April」「Love Proceeding」の楽譜が掲載されました。

また公式サイトでは「Signal From The Noise」「Beside April」の楽譜が公開されているので、演奏してみてはいかがでしょうか。

リンク

ABOUT ME
渡辺和歌
ライター / X(Twitter)
RELATED POST