カナダ・トロント在住の日本人アンビエント作家Masahiro Takahashiさんの『Humid Sun』を聴いて、蒸し暑い音楽の旅に出かけましょう!
Contents
はじめに
宮城・仙台出身、カナダ・バンクーバー(2012年~)、東京&仙台(2014年~)を経て、トロント(2020年~)を拠点に活動している日本人音楽家(アンビエント作家、電子音楽家、マルチ奏者、プロデューサー)のMasahiro Takahashi(マサヒロ・タカハシ、高橋政宏)さん。
My interview with Japan Times is up.
Japan timesから受けたインタビューが公開されました。https://t.co/o3008LDzq0— Masahiro Takahashi (@ttmasa) April 20, 2023
Humid Sun
5thアルバム『Humid Sun』(2023年3月31日、Telephone Explosion)は、先行シングル3曲を含む、全10曲・37分あまり。
東京とトロントのゲスト8人が参加し、エキゾチカ、ラウンジミュージック、バレアリックなトロピカルハウス、トロピカリア、チルアウト、ニューエイジ、スムースジャズ、ポストロック、モンドミュージック、ヴェイパーウェイヴ(Vaporwave)などの雰囲気が漂うアンビエントに仕上がっています。
クレジット
- Masahiro Takahashi:シンセ、ギター、サンプル、リズムプログラミング、フェンダーローズ、M4L(Max for Live)、作曲、プロデュース、ミックス、レコーディング
- ジョセフ・シャバソン(Joseph Shabason):サックス、フルート、シンセ、レコーディング(M4・6・8・10)
- ブラム・ギエレン(Bram Gielen):ピアノ、ベース(M4・6・8・10)
- ブロディ・ウエスト(Brodie West):サックス、クラリネット(M2・3・7)
- YAMAAN(ヤマーン):リズムプログラミング(M2・3・6)
- ライアン・ドライヴァー(Ryan Driver):フルート、メロディカ(M2・3)
- H.Takahashi:シンセシーケンス(M7)
- Takao:シンセ(M5)
- マイケル・デイヴィッドソン(Michael Davidson):ビブラフォン(M1)
- サンドロ・ペリ(Sandro Perri):ステムミックス
- ショーン・マッカン(Sean McCann):マスタリング
- Matthew Bailey:ミックスコンサルテーション、レコーディング(M2・3・7)
- ユニス・ルック(Eunice Luk)、アリシア・ナウタ(Alicia Nauta):アートワーク、デザイン
【1】Silky Lake
- Masahiro Takahashi:MIDIコントローラー、シンセ、サンプラー
- マイケル・デイヴィッドソン:ビブラフォン
トロントのビブラフォン奏者&作曲家マイケル・デイヴィッドソンを迎えた「Silky Lake」。
オンタリオ湖の北岸に位置するトロントは東京と似たような気候ですが、夏は東京のほうが蒸し暑く、冬はトロントのほうが寒さは厳しいでしょう。
つまり、ジャケットも含め、総合的に表現されているトロピカルな南国は、現実離れした別天地。
Masahiro Takahashiさんがトロントに移った時期は、新型コロナのパンデミックと重なります。
外出や移動を制限され、全世界的に孤立を味わうという稀有な体験をした果てに生み出されたのが、音楽やアートによる「想像上の南国への旅」だったのではないでしょうか。
【2】Cloud Boat
- YAMAAN:リズムプログラミング
- ライアン・ドライヴァー:ピアノ、フルート
- ブロディ・ウエスト:サックス
- Masahiro Takahashi:シンセ、リズムプログラミング
第1弾シングル「Cloud Boat」(2023年1月31日)は、Masahiro Takahashiさん自身の3rdアルバム『Omnipresent Windows』に収録されている「Cloud Bed」のリメイク。
DIY制作のベッドルームミュージック的な「Cloud Bed」に生楽器を中心としたゲストが加わり、「Cloud Boat」として生まれ変わったところが大いなる船出といえるでしょう。
サックス奏者&作曲家のブロディ・ウエストとマルチ奏者&作曲家のライアン・ドライヴァーはそれぞれさまざまな活動をしていますが、共にジャズオクテット、ユーカリプタス(Eucalyptus)のメンバー。
Masahiro Takahashiさんがトロントに移って最初に観たライブがユーカリプタスだったそうです。
Mirage Area名義やシンガー&DJ、CHIYORIさんとの夫婦ユニットなどでも活動しているプロデューサーのYAMAANさんは、2022年9月に東京から茨城・荒川沖へ拠点を移したとのこと。
誰しも大なり小なりコロナ禍によってダメージを受けたはずですが、混乱した日常生活を忘れさせてくれるアンビエントとして昇華されているところにポストパンク的な実験性も感じます。
Cloud Bed
【3】East Chinatown Stroller
- YAMAAN:リズムプログラミング
- ライアン・ドライヴァー:ピアノ、メロディカ
- ブロディ・ウエスト:サックス、クラリネット
- Masahiro Takahashi:シンセ、エレキギター
「East Chinatown Stroller」はトロントの東部リバーデイルにあるイーストチャイナタウンを散歩するイメージでしょうか。
YAMAANさんが刻むリズムに、シンセ、ピアノ、エレキギター、メロディカ、サックス、クラリネットが重なり、ジャジーなひとときが演出されています。
「輝く湖で雲のボートに浮かぶ」という音楽の旅に出かけると、現実に引き戻されても穏やかに過ごせるでしょう。
【4】Sea Fireflies
- Masahiro Takahashi:エレキギター、シンセ
- ブラム・ギエレン:ピアノ
- ジョセフ・シャバソン:サックス
トロントのマルチ奏者&作曲家&プロデューサーのジョセフ・シャバソンとブラム・ギエレンをゲストに迎えた「Sea Fireflies」。
Masahiro Takahashiさんのエレキギターとシンセ、ブラム・ギエレンのピアノ、ジョセフ・シャバソンのサックスによって、雑食性のウミホタルが夜に青く発光するようなサウンドが表現されています。
「どれほど混乱した時代でも光を放つ存在はいる」など、生命の神秘に思いを馳せることもできそうです。
【5】Okinawa Sunset
- Masahiro Takahashi:シンセ
- Takao:シンセ
「Okinawa Sunset」には、東京を拠点とする作曲家&プロデューサーのTakaoさんが参加。
1stアルバム『Stealth』(2018年10月26日、EM Records)が傑作と評判になっていて、ララージ(Laraaji)の東京公演(2019年11月4日)では、Takao BandのメンバーとしてMasahiro Takahashiさんが参加しました。
息の合ったコラボが心地よく、沖縄の夕日が目に浮かびます。
Laraaji来日・東京2部にて、Takao Bandの演奏に参加します
11/4 月
[2ND Set]
Open/Start: 18:00
ADV: ¥4000 +1D
スタンディング/standing limited to 225[Live]
Laraaji – Day of Radiance set
Takao – band set[DJ]
Chee Shimizu都内某寺院 Temple in Tokyohttps://t.co/O3FuOoqZlE pic.twitter.com/lhXwH7KEss
— Masahiro Takahashi (@ttmasa) October 17, 2019
【6】Sweltering Drive
- ブラム・ギエレン:ベース
- YAMAAN:リズムプログラミング
- ジョセフ・シャバソン:サックス
- Masahiro Takahashi:シンセ、フェンダーローズ、ウィンドチャイム
第2弾シングル「Sweltering Drive」(2023年2月28日)では「うだる暑さのドライブ」に誘われます。
地面から立ち上る陽炎越しにゆらゆら揺れる景色を眺め、ジャズを聴きながらドライブしているような気分になるでしょう。
3/31発売のLP『Humid Sun』から2枚目のシングルSweltering Driveが公開されました。
Featuring
サックス: ジョセフ・シャバソン
ベース:ブラム・ギーレン
リズムプログラミング:ヤマーンhttps://t.co/qg2phmHv6O@JosephShabason@MirageArea_@TeleExplosion— Masahiro Takahashi (@ttmasa) February 28, 2023
【7】Fantasy In Soy Sauce
- H.Takahashi:シンセシーケンス
- ブロディ・ウエスト:クラリネット
- Masahiro Takahashi:シンセ、フェンダーローズ、エレキギター、リズムプログラミング
第3弾シングル「Fantasy In Soy Sauce」(2023年3月28日)。
東京・三軒茶屋でレコードストアKankyō Recordsを営むアンビエント作家&作曲家&建築家H.Takahashiさんとのコラボも、なぜかノスタルジックな日本の原風景を想起させられるブロディ・ウエストのクラリネットも、まさに「しょうゆファンタジー」といえそうです。
まもなく発売の新譜LP「Humid Sun」から、シングル3曲目「Fantasy in soy sauce」が公開されました。
シンセシーケンスでH. Takahashi @hirokemurin さん、クラリネットでブローディー・ウエスト氏に参加してもらいました。https://t.co/whx8DF9sJk
— Masahiro Takahashi (@ttmasa) March 28, 2023
【8】Minamo
- ブラム・ギエレン:ピアノ
- ジョセフ・シャバソン:サックス、シンセ
- Masahiro Takahashi:シンセ、メロトロン、フェンダーローズ、アコギ
前作『Flowering Tree, Distant Moon』は月、今回の『Humid Sun』は太陽がモチーフになっていますが、湿気の多さも特徴的。
1曲目「Silky Lake」で広がり始めた水面の波紋が、この「Minamo」によってさらに増幅される印象です。
前向きに進むためにネガティブな過去を「水に流す」とか「浄化する」といった作用も感じられます。
Recording with @JosephShabason and Bram Gielen!
レコーディング with ジョセフ シャバソン&ブラム ギエレン! pic.twitter.com/hy79GRgetY— Masahiro Takahashi (@ttmasa) May 5, 2022
【9】Trees Sleep At Night
- Masahiro Takahashi:MIDIコントローラー、サンプラー
全10曲中、唯一ゲストが参加していない、Masahiro Takahashiさんのソロ曲「Trees Sleep At Night」。
アート出版Slow Editionsを主宰するアーティストで、Masahiro Takahashiさんのパートナーのユニス・ルックと、同じくトロントを拠点とするアーティスト、アリシア・ナウタがアートワーク&デザインを手がけたジャケットのように、水の滴る木が目に浮かぶサウンドです。
フィールドレコーディングによる虫の音も散りばめられていて、眠っているのか、夢を見ているのか、その主体は誰(何)なのか、神秘的な想像がふくらみます。
【10】Back To The West
- ブラム・ギエレン:ベース
- ジョセフ・シャバソン:サックス、フルート
- Masahiro Takahashi:シンセ
ラストの「Back To The West」は想像上の南国や東のアジアから、西洋カナダの現実に戻る流れでしょうか。
あるいはトロントの東から西へと散歩しながら、南国に旅する想像をふくらませた(夢を見た)感覚かもしれません。
東洋の日本は西側諸国でもあり、とくに方角に意味はないと解釈することもできそうです。
いずれにしてもフェードアウトすることによって徐々に夢から覚めますが、リラックスしたまま日常生活を過ごせそうな気がします。
おわりに
Masahiro Takahashiさんは、日本の環境音楽のパイオニア吉村弘さんの著作『街のなかでみつけた音』(1994年、春秋社)などの考え方に影響を受けたそうです。
環境音楽を作る際は「自我を持たずに環境と一体になる姿勢」を心がけているとのこと。
とくにコロナ以降、自我の強い音楽が苦手になった人も多いのではないでしょうか。
そこでアンビエントやニューエイジの需要が高まっていますが、何事もリバイバルブーム化するとよからぬ展開になりがちです。
その点も踏まえたうえで、心の底から求められるのが「地球全体の環境と一体化するようなエゴのない音楽」ではないかと思われます。
「エゴがない=おもしろくない」ではなく、むしろ逆。
リスナーとしては「全世界的に混乱した時代に、どのような音楽を生み出すのがおもしろいか?」のみ自我を持たずに追求してほしいというか、それこそが音楽の力であり、音楽の役割ではないでしょうか。
その答えとしてトロピカルなジャズアンビエントという切り札を切る姿勢は、非常にポストロック的。
『Humid Sun』のおかげで、今の環境音楽がどれほどおもしろいことになっているのか、知ることができました。
今後もじっくり追いかけていきましょう。
【新着記事】「吉村弘 風景の音 音の風景」展(神奈川県立近代美術館 鎌倉別館)レポート。環境音楽のパイオニアは、どのように音と向き合っていたのか?
詩や楽譜、自作の楽器、映像作品などが公開。「アンビエント」にとどまらない、多面的な活動に迫る。https://t.co/o8nr7eIGGs pic.twitter.com/BSZKGeHkxG
— Tokyo Art Beat (@TokyoArtBeat_JP) May 3, 2023
ディスコグラフィ
- EP『Before Gender, Language, and Definition (性と言葉と定義の前)』2014年2月15日、Kingfisher Bluez / UHIRA UHIRA
- 1st AL『Retreat』2014年6月9日、Jeunesse cosmique / UHIRA UHIRA
- 2nd AL『Music Of Inside The Snail’s Shell』2017年2月24日、Slow Editions
- Mixtape『Métron Mixtape – 057 – Masahiro Takahashi』2018年10月22日、Métron
- 3rd AL『Omnipresent Windows』2018年11月5日、Jj funhouse
- 4th AL『Flowering Tree, Distant Moon』2021年4月30日、Not Not Fun
リンク
- AllMusic:Masahiro Takahashi
- Discogs:Masahiro Takahashi、Humid Sun
- Website:Telephone Explosion
- Linktree:Telephone Explosion
- Twitter:Masahiro Takahashi、Telephone Explosion
- Instagram:Masahiro Takahashi、Telephone Explosion
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- Link:Humid Sun、Sweltering Drive
- YouTube:Telephone Explosion、Masahiro Takahashi/Topic、Topic、Topic、Humid Sun
- Tower Records:Masahiro Takahashi、Humid Sun/輸入盤LP
- HMV:Masahiro Takahashi、輸入盤LP
- disk union:Masahiro Takahashi、輸入盤LP
- BEAMS RECORDS(東京・渋谷):輸入盤LP
- Lighthouse Records(東京・渋谷):Masahiro Takahashi、輸入盤LP
- pianola records(東京・下北沢):Masahiro Takahashi、輸入盤LP
- Kankyō Records(東京・三軒茶屋):Masahiro Takahashi、輸入盤LP、Clear Vinyl
- 芽瑠璃堂(埼玉・坂戸):Masahiro Takahashi、輸入盤LP
- FunTricks Records(大阪・中津):Masahiro Takahashi、輸入盤LP
- Newtone Records(大阪・西心斎橋):Masahiro Takahashi、輸入盤LP
- JET SET(京都・東京):Masahiro Takahashi、輸入盤LP
- Strada Records(兵庫・神戸):輸入盤LP
- Tobira Records(兵庫・加西):Masahiro Takahashi、輸入盤LP
- Spotify:Masahiro Takahashi、Humid Sun、Telephone Explosion
- Apple Music:Masahiro Takahashi、Humid Sun
- Bandcamp:Masahiro Takahashi、Humid Sun、Telephone Explosion
- SoundCloud:Masahiro Takahashi、Telephone Explosion
- Tumblr:UHIRA UHIRA