音楽

チャールズ・ステップニー『Step on Step』EW&Fのデモ音源を含む、幻のデビューアルバム!

チャールズ・ステップニー(Charles Stepney)の『Step on Step』は、没後46年の時を経てようやくリリースされた、幻のデビューアルバムです。

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はじめに


チャールズ・ステップニー(1931年3月26日~1976年5月17日)は、米シカゴのプロデューサー、作編曲家、マルチ奏者。
https://twitter.com/intlanthem/status/1506628829208588290
「ロックの父」チャック・ベリーCharles Berry)やボ・ディドリーBo Diddley)も輩出したシカゴの名門レーベル、チェス・レコードChess Records)のスタッフとして、「シカゴブルースの父」マディ・ウォーターズMuddy Waters)、「Lovin’ You」(1975年1月18日、2ndアルバム『Perfect Angel1974年8月9日)の大ヒットで知られるミニー・リパートンMinnie Riperton)とそのバンド、ロータリー・コネクションRotary Connection)など、多数の作編曲・プロデュースなどを手がけました。
ポリリズム電子音楽バロックソウルホーンストリングスシカゴ交響楽団など、クラシックのオーケストレーションを取り入れたソウル)」の先駆者として、アース・ウインド&ファイアーEarth, Wind & FireEW&F、EWF)のプロデュースなども務めつつ、2回の心臓発作に見舞われ、妻のルビー(Rubie Stepney、1938年~2008年)と3人の娘を残し、45歳の若さで亡くなりました。

ステップニー・シスターズ

  • 【右】娘(長女):アイバー・ステップニー(Eibur Stepney)
  • 【左】娘(次女):シャーリーン・ステップニー(Charlene Stepney)
  • 【中】娘(三女):シャンテ・ステップニー(Chanté Stepney)

Episode 1 of Charles Stepney: Out of the Shadows by International Anthem

Episode 2 of Charles Stepney: Out of the Shadows

Episode 3 of Charles Stepney: Out of the Shadows by International Anthem

Nujabes「ordinary joe (feat. Terry Callier)」

多数のアーティストがチャールズ・ステップニーの手がけた楽曲をサンプリング、カバー、リミックスなどしています。

Step on Step


事実上のデビューアルバム『Step on Step』(ステップ・オン・ステップ、2022年9月9日、International Anthem)は先行シングル6曲を含む、全23曲・約1時間18分。
アナログ盤は2枚組(2LP)で、1枚目のA面が7曲(1~7曲目)、B面が4曲(8~11曲目)、2枚目のA面が5曲(12~16曲目)、B面が7曲(17~23曲目)という構成になっています。
国内盤CD(rings)はボーナストラック「Business (Instrumental)」を含む、全24曲・1時間19分あまりです。
アイバー、シャーリーン、シャンテの3人娘ステップニー・シスターズ(Stepney Sisters)は、父が残した未発表のテープを大切に保管し、何度もオーディオ転送を試みるなどして、父が亡くなる当日に言い残した、『Step on Step』というタイトルのソロアルバムを作る夢を実現しました。

【1】Roll Tape


1970年頃にチャールズ・ステップニーがひとりでドラムマシン、ピアノ、アナログシンセエレピ(エレクトリックピアノ)、ビブラフォンテープエコーエコーユニット)などを操り、宅録(ホームレコーディング)・多重録音したオリジナル曲(デモ音源を含む)からなる『Step on Step』。
シカゴにある自宅の地下スタジオで4トラックオープンリールテープに録音するにあたり、「左右×前」のチャンネルのマイク入力や録音レベルをテストする声が吹き込まれていて、実際に左右それぞれから聴こえてくることがわかります。

【2】Gimme Some Sugar


「Gimme Some Sugar」は、スティーヴィー・ワンダーStevie Wonder)の「Superstition迷信)」や「You Are the Sunshine of My Lifeサンシャイン)」(15thアルバム『Talking Bookトーキング・ブック)』1972年10月28日)の流れを汲むシンセファンクです。

【3】Daddy’s Diddies


第2弾シングル「Daddy’s Diddies」(2022年5月11日)。
ブラジルのミルトン・ナシメントMilton Nascimento)&ロー・ボルジェスLô Borges)の「Cravo e Canela(クローブとシナモン)」(アルバム『Clube da Esquina街角クラブ~クルービ・ダ・エスキーナ)』1972年1月3日)を彷彿とさせるスキャットが印象的です。

【4】Gotta Dig It To Dig It


ファンキーな「ミョンミョン」したベースラインは、1970年に開発されたばかりのアナログシンセ、ミニモーグMinimoog)によるシンベシンセベース)です。

【5】No Credit For This


エレピのフェンダーローズFender Rhodes)は温もりのある優しい音色です。

【6】Roadtrip


ステップニー・シスターズの3人によるナレーションは、2020年夏、リリースレーベル<International Anthem>のスタジオで録音されました。

【7】On Your Face


これまではオリジナル曲でしたが、アナログ盤1枚目のA面ラストを飾る「On Your Face」は、アース・ウインド&ファイアーのシングル(1977年4月6日、7thアルバム『Spirit1976年9月28日)のデモ音源です。
そのレコーディング期間に亡くなったので、アルバムタイトルには「チャールズ・ステップニーに捧げる精霊」という意味が込められました。

アース・ウインド&ファイアー「On Your Face」

【補間】MCハマー「On Your Face」

【8】That’s The Way Of The World


第4弾シングル「That’s The Way Of The World」(2022年7月6日)も、アース・ウインド&ファイアーのシングル(1975年6月17日、6thアルバム『That’s the Way of the World暗黒への挑戦)』1975年3月15日)のデモ音源です。

アース・ウインド&ファイアー「That’s the Way of the World」

【9】Imagination


「Imagination」は、アース・ウインド&ファイアーの7thアルバム『Spirit』収録曲のデモ音源です。

アース・ウインド&ファイアー「Imagination」

【10】In The Basement


「In The Basement」という曲名は、ステップニー・シスターズが「赤いじゅうたんの地下室」と呼んでいた地下スタジオのこと。
もともと地下室に住んでいた彼女たちの祖母が引っ越したため、チャールズ・ステップニーはリビングに作り始めていたスタジオを地下室に移したそうです。

【11】Business


「Business」はアナログ盤1枚目のB面ラスト曲です。

【12】Look B4U Leap


第3弾シングル「Look B4U Leap」(2022年6月8日)は、ミニモーグが印象的なローファイ・ダンスチューン。
曲名は、チャールズ・ステップニーが作編曲・プロデュース・指揮を務めた、ミニー・リパートンのデビューアルバム『Come to My Garden』(1970年11月1日)で、「Completeness」と「Whenever, Wherever」の作詞をしたローズ・ジョンソンRose Johnson)のメモから、ステップニー・シスターズの次女シャーリーンが選びました。

【13】Around The House


まったりとしたローファイ・チルチューンとして、今聴いてもレトロっぽさがむしろ斬新に響くのではないでしょうか。

【14】Funky Sci Fi


曲名の「サイファイ」は「SF、サイエンスフィクション」のこと。
当時はSF的に聴こえたミニモーグが、今では音響マニア垂涎(すいぜん)のローファイ名機になっているところがおもしろいですね。

【15】Mini Mugg


「モーグか?ムーグか?」問題がステップニー・シスターズの議論の的になっています。

【16】Chicago Independent


「Chicago Independent」はアナログ盤2枚目のA面ラスト曲です。

【17】Surround Stereo


1曲目「Roll Tape」に続き、チャールズ・ステップニーが「右左×本体」のチャンネルの録音レベルをテストする声を聴くことができる「Surround Stereo」。
スピーカーモノラル(1チャンネル)ではなく、ステレオ(2チャンネル)かつサラウンド(3チャンネル~)になっている喜びが感じられます。

【18】Black Gold


第6弾シングル「Black Gold」(2022年9月6日)は、フィル・アップチャーチPhil Upchurch)の「Black Gold」(アルバム『Upchurch1969年)、およびロータリー・コネクション(ニュー・ロータリー・コネクション)の「I Am The Black Gold Of The Sun」(6thアルバム『Hey, Love1971年8月1日コンピアルバムBlack Gold: The Very Best Of Rotary Connection2006年3月14日)というサイケソウルチューンのデモ音源です。

フィル・アップチャーチ「Black Gold」

ロータリー・コネクション「I Am The Black Gold Of The Sun」

【カバー】ニューヨリカン・ソウル「I Am The Black Gold Of The Sun」

【カバー】松浦俊夫グループ「I Am The Black Gold Of The Sun」

【19】Denim Groove


「Denim Groove」ではピアノ、ビブラフォン、コンガが奏でられています。

【20】Notes From Dad


「Notes From Dad」でもビブラフォンの響きを堪能できます。

【21】Rubie & Charles


第5弾シングル「Rubie & Charles」(ルビー&チャールズ、2022年8月10日)の曲名は、夫婦の名前にちなんで、3人娘ステップニー・シスターズが名づけました。
ちなみに長女アイバー(Eibur)の名前は、妻ルビー(Rubie)の逆さ読みとのこと。

【22】Greatness


チャールズ・ステップニーのピアノソロが美しい「Greatness」。
ステップニー・シスターズはシカゴ交響楽団との思い出を語っています。

【23】Step on Step


第1弾シングルかつ表題曲の「Step on Step」(2022年3月23日)。
ピアノ、ビブラフォン、コンガの柔らかい音色に適度な緊張感も含まれていて、ミニマルミュージックのような心地よさに浸っているとブチッと終わるところが宅録の醍醐味かもしれません。

おわりに


1970年代初期に米ニューヨーク・ブロンクスで生まれたヒップホップとともにサンプリング文化が発展し、チャールズ・ステップニーの手がけた楽曲も脈々と受け継がれてきました。
「バロックソウルのオーケストラアレンジ」などの完成形に至るまえの宅録音源ですが、50年近く経っても古びないどころか、今の時代にフィットする新譜のようにも聴こえます。
ブルース、R&B、ソウル、ファンクのマニア、トラックメイカー(プロデューサー)やDJはもちろん、心地いい音楽を探している一般リスナーにも響くのではないでしょうか。

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渡辺和歌
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