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サカナクション(sakanaction)「怪獣」歌詞の意味を考察!TVアニメ『チ。 ―地球の運動について―』OP主題歌

サカナクション(sakanaction)の「怪獣」はTVアニメ『チ。 ―地球の運動について―』の主題歌(オープニングテーマ)として書き下ろされました。J-POP、邦ロック、アニソンの最高到達地点(2025年3月時点)といいたくなる傑作「怪獣」の歌詞の意味を考察、解説します。『チ。』のあらすじ(多少のネタバレあり)、「怪獣」の歌詞考察記事、歌詞から連想可能なアニメ『チ。』の場面、歌詞から連想可能なサカナクションの既存曲もまとめた永久保存版です。

Contents

サカナクション「怪獣」ミュージックビデオ・Music Video・MV・PV・YouTube動画


田中裕介さん監督、後藤武浩さん撮影によるサカナクション「怪獣」のMVは、TVアニメ『チ。 ―地球の運動について―』最終回の直後、2025年3月16日午前0時10分にYouTubeプレミア公開。

KOTAKE CREATE(コタケクリエイト)さんが開発した“異変”探し無限ループゲーム『8番出口』のような雰囲気も漂いつつ、山口一郎さんのリアルや『チ。 』の世界観を表現。サカナクション「忘れられないの」のMVでもおなじみの嶋田久作さんも出演しています。

サカナクション「怪獣」Music Video Teaser・Teaser Movie

TVアニメ『チ。 ―地球の運動について―』あらすじ


チ。 ―地球の運動について―』は魚豊(うおと)さんの同名漫画(小学館『ビッグコミックスピリッツ』連載:2020年9月14日〜2022年4月18日、全8巻:全62話)を原作としたTVアニメ(NHK総合:2024年10月5日~2025年3月15日、全25話、監督:清水健一さん、アニメーション制作:マッドハウス、音楽:牛尾憲輔さん)。

15世紀のヨーロッパを舞台として、禁じられた地動説を証明することに信念と命を懸けた人間たちの生き様を描いたフィクション作品です。タイトルの『チ。』は「大地、血、知識」に由来し、主人公は1人ではなくリレー形式。史実とフィクションのバランスが絶妙で、歴史的な勘違いも含む構成になっています。

TVアニメ『チ。 ―地球の運動について―』リンク

ネタバレ注意

以下、歌詞の考察に必要な程度のネタバレがあります

サカナクション「怪獣」×アニメ『チ。 ―地球の運動について―』コラボレーションMUSIC VIDEO【期間限定公開】

第1章

  • 第1話(2024年10月5日):『地動説』、とでも呼ぼうか
  • 第2話(2024年10月6日):今から、地球を動かす
  • 第3話(2024年10月12日):僕は、地動説を信じてます

15世紀・前期のヨーロッパ・P王国。元孤児の天才少年ラファウ(CV:坂本真綾さん)は教師ポトツキ(CV:巻島康一さん)の養子として育ち、12歳で大学に飛び級することになりました。

さらにポトツキは元教え子の学者フベルト(CV:速水奨さん)を引き取ります。フベルトはC教の教会公認の真理・天動説に反する地動説を唱える異端者として捕まりましたが、改心したと嘘をついて釈放。その迎えを頼まれたラファウはフベルトと出会い、異端思想・地動説の美しさに魅せられます。

ラファウの書いた地動説のメモが元傭兵の異端審問官ノヴァク(CV:津田健次郎さん)に見つかったものの、フベルトが身代わりとなって処刑されました。その直前にフベルトはラファウにネックレスを託します。ネックレスは山の中腹に置かれた石箱の位置を示しており、石箱には地動説に関する資料と手紙が入っていました。

ノヴァクはフベルトからラファウへ地動説が受け継がれたと察知し、実はかつて地動説を唱える異端者として捕まった過去のあるポトツキを揺さぶります。2度捕まると処刑されるため、ポトツキはラファウを裏切りました。初めて捕まったので嘘でも改心したと言えば釈放されるラファウでしたが……。

第2章

  • 第4話(2024年10月19日):この地球は、天国なんかよりも美しい
  • 第5話(2024年10月26日):私が死んでもこの世界は続く
  • 第6話(2024年11月2日):世界を、動かせ

ラファウの死から10年後、15世紀のP王国。貴族の代理で決闘する代闘士オクジー(CV:小西克幸さん)は、民間警備組合の同僚グラス(CV:白石稔さん)と共に異端者(CV:三瓶雄樹さん)の護送任務につきます。同行したのは、元傭兵の異端審問官ノヴァクとその部下の異端審問官ダミアン(CV:上田燿司さん)。

グラスは疫病で家族を失った反動により、赤い火星の観測に生きる希望を見出しながらも、火星の逆行に失望していました。護送中の異端者の話に心を動かされたグラスは、オクジーを巻き込むかたちで異端者の逃亡に加担します。

結局、オクジーは異端者とグラスから、山の中腹に置かれた石箱を示すネックレス(および何十年も密かに受け継がれてきた地動説の研究資料と手紙)を託されました。

研究資料の価値を確かめるべくオクジーが訪ねたのは、修道士バデーニ(CV:中村悠一さん)。右目に眼帯をつけたバデーニには、真理を求めて禁書に手を出し、目を焼かれた過去がありました。

  • 第7話(2024年11月9日):真理のためなら
  • 第8話(2024年11月16日):イカロスにならねば
  • 第9話(2024年11月23日):きっとそれが、何かを知るということだ

石箱の研究資料に衝撃を受けたバデーニは、地動説を証明するにあたり、多くの天体観測記録をもつ者と接触する必要があると考え、街の掲示板に天文学の難問を張り出します。その難問を半日で解いたのが、街の天文研究所で働く14歳の女性助手ヨレンタ(CV:仁見紗綾さん)でした。

ヨレンタの雇い主は、天文研究所の所長ピャスト伯(CV:ふくまつ進紗さん、青年期:浪川大輔さん)。完璧な天動説の証明に残り少ない命を捧げていました。ピャスト伯はかつて観測しつつ天動説では見えるはずのない「満ちた金星」の観測を条件に、バデーニが申し出た天体観測記録の提供を承諾します。オクジーが金星の満ち欠けを確認すると……。

  • 第10話(2024年11月30日):『知』
  • 第11話(2024年12月8日):『血』
  • 第12話(2024年12月14日):俺は、地動説を信仰してる

ピャスト伯の死後、数か月。バデーニはピャスト伯の50年におよぶ天体観測記録をもとに地動説の完成に没頭し、オクジーヨレンタから教わった文字で本を書き始めました。そしてバデーニは地動説の完成をヨレンタに報告し、オクジーと共に酒場で祝杯をあげます。その酒場に現れたのが元傭兵の異端審問官ノヴァク、ヨレンタの父でした。

  • 第13話(2024年12月21日):『自由』を
  • 第14話(2024年12月28日):今日のこの空は
  • 第15話(2025年1月4日): 私の、番なのか?

異端審問官ノヴァクオクジーを拷問し、バデーニを自白に追い込みます。地動説の研究資料は教会に押収され、バデーニとオクジーは処刑されたものの、バデーニは地動説を終わらせないための秘策を仕掛けていました。

元傭兵のノヴァクを異端審問官として雇った司教(CV:村治学さん)の息子で助任司祭のアントニ(CV:三上哲さん)はノヴァクを敵視しており、娘のヨレンタを拷問するも、新人の異端審問官レフ(CV:間島淳司さん)の手引きにより逃げられます。

それでもアントニはヨレンタを火あぶりの刑に処したように見せかけ、信じ込んだノヴァクは失意の底に沈みました。

第3章

  • 第16話(2025年1月11日):行動を開始する
  • 第17話(2025年1月18日):この本で大稼ぎできる、かも
  • 第18話(2025年1月25日):情報を解放する

バデーニオクジーの処刑、ヨレンタの逃亡(処刑未遂)から25年。異端解放戦線のシュミット隊長(CV:日野聡さん)率いる部隊は、組織長の命により、聖堂を火薬で爆破し地動説の本を奪います。ところが中継地点の廃村で教会関係者と鉢合わせたため、地動説の本を廃墟の机の引き出しに隠しました。

移動民族の少女ドゥラカ(CV:島袋美由利さん)は叔父ドゥルーヴ(CV:西村知道さん)の裏切りにより、司教となったアントニに売られそうになります。その際、ドゥラカは廃墟に隠された地動説の本を読み、金儲けできるかもしれないと考えました。

地動説の本を回収しにきたシュミットらにより難を逃れたドゥラカは、地動説の本を燃やして「中身は私が覚えている」と交渉を持ちかけます。シュミットは組織長のもとにドゥラカを連れていくことにしました。

  • 第19話(2025年2月1日):迷いの中に倫理がある
  • 第20話(2025年2月8日):私は、地動説を愛している
  • 第21話(2025年2月15日):時代は変わる

異端解放戦線の組織長となったヨレンタ(CV:行成とあさん)は、最新技術の活版印刷でオクジーが書いた地動説の本『地球の運動について』を出版して世に広め、C教・教会正統派の不正や欺まんを正そうとしていました。

娘のヨレンタは死んだと思い込んでいる元異端審問官ノヴァクは、酒場に入り浸る日々を送りながらも、元部下のダミアン司教に個人的に雇われており、異端解放戦線を追い詰めます。ヨレンタは活版印刷の準備が進む印刷工房を守るため1人でアジトに残り、ノヴァクと再会する瞬間に悲しい結末を選びました。

シュミットら異端解放戦線の仲間は印刷工房で合流し、地動説の本『地球の運動について』を完成させます。しかし、異端解放戦線のメンバーの1人・フライ(CV:内田夕夜さん)が裏切って通報したため、ノヴァクら騎士団に印刷工房の場所を知られてしまいました。

  • 第22話(2025年2月22日):君らは歴史の登場人物じゃない
  • 第23話(2025年3月1日):同じ時代を作った仲間

ノヴァク率いる騎士団の襲撃に際し、シュミットは異端解放戦線のメンバーがおとりとなり、ドゥラカを逃がす陽動作戦を選択しました。ドゥラカは街へ逃げ、アントニ司教に取り引きを持ちかけます。そこまで追いかけてきたノヴァクはアントニに反旗を翻し、すべてを葬るべく教会に火をつけたものの、結局ドゥラカに反撃されました。

最終章

  • 第24話(2025年3月8日):タウマゼインを
  • 第25話(2025年3月15日):?

1468年、ポーランド王国・都市部。青年アルベルト・ブルゼフスキ(CV:石毛翔弥さん、少年期:種﨑敦美さん)はパン屋で働きながらも、天文への夢を捨てられずにいました。人間はアレテー(徳、得意なこと、特性)を生かしているときが1番幸せだと考えるパン屋の親方(CV:中島卓也さん)は、アルベルトに大学への進学をすすめます。

パンを届けに行った教会で司祭(CV:間島淳司さん)から告解(罪を告白して神のゆるしを得る儀礼、ゆるしの秘跡)を促されたアルベルトは、少年時代の話を始めました。天文が好きな少年アルベルトのために(CV:山下タイキさん)が手配した家庭教師は、青年に成長したラファウだったのです。

ラファウに招待され、学術系サロンに参加した直後の悲劇について司祭に語ることにより、青年アルベルトの迷いは晴れました。やがてアルベルトの感じたタウマゼイン(知的探求の始まりにある驚異)「?」が世界を動かします。

サカナクション「怪獣」歌詞の意味を考察

曲の構成

  • 1番:Aメロ~Bメロ~Cメロ~サビ(Dメロ)
  • 2番:Aメロ~Bメロ~Cメロ~サビ(Dメロ)

「怪獣」考察・解説記事などまとめ

1番Aメロ:頭サビではない?実は複雑な構成


サカナクションの山口一郎さんはTVアニメ『チ。 ―地球の運動について―』のOP主題歌「怪獣」に込めた思いとして、下記のようにコメントしています。

原作のもつテーマをわかりやすく、具体的に音楽にするのではなく、 いかに抽象的で説得力のあるものにするかということに重点をおいて制作しました。

出典:サカナクション公式サイト

山口一郎チャンネル「サカナクション山口一郎の今夜も雑談中。2025.1.28」


山口一郎さん自身のYouTubeチャンネルの生配信企画「サカナクション山口一郎の今夜も雑談中。」(2025年1月28日ライブ配信)では「今回の歌詞は真面目で抽象的、最終的にはアニメに合わせた。アニメ尺の部分は『チ。』の世界観、アニメ尺以外のところは現代、リアル。フィクションの『チ。』の世界観からノンフィクションの現代になっていくストーリー」と語りました。

山口一郎チャンネル「サカナクション山口一郎の今夜も雑談中。2025.2.20」


具体的ではなく抽象的」という歌詞の表現方法からして、既にアニメ『チ。』の世界観に寄り添っているとも考えられます。

というのも、アニメ『チ。』の第1章・第1話では、天才少年ラファウの養父で教師のポトツキが「宇宙の中心には何があるでしょう?」と質問。生徒の1人が「それは愛です。宇宙の中心は神様の愛で溢れていると思います」と答えると、ポトツキが「そのとおり。だけど少し抽象的すぎるかな」と諭すやりとりがあります。

第3章・第20話では「歴史を確認するのは、神が導こうとする方向を確認するのに等しい」という異端解放戦線の組織長ヨレンタに対し、移動民族の少女ドゥラカが「抽象的すぎる」と指摘。ヨレンタは「私には具体的な問題。歴史認識は私の決断に関わるから」と反論する場面があります。

原作の漫画家・魚豊(うおと)さんは哲学科出身(大学2年で中退)、イマヌエル・カントの『美と崇高との感情性に関する観察』を研究していました。伝統的に継承されてきたアフォリズム(格言、金言)の影響を受けているため、説得力のある哲学的な台詞になっているようです。

シンプルなことを伝えたいときは、先に逆張りすると説得力が増す」という手法も実践されています。

山口一郎チャンネル「サカナクション山口一郎の今夜も雑談中。「怪獣」ミュージックビデオ公開日決定!」2025.3.10


抽象的な「怪獣」の歌詞から読み取れるのは「アニメの物語」と「サカナクションの物語」の2本立ての構造

山口一郎さん自身、2025年3月4日のInstagram(インスタグラム)で「漫画、アニメの世界観を主題歌としてどう担うか、サカナクションとしてのドキュメンタリーをどう内包し、混ぜ合わせていくかというその2点に鋭く集中」したと解説しています。

アニメ『チ。』の主題歌にサカナクションが起用された理由は、原作者・魚豊さんのペンネームの由来が好物の「鱧」(はも)という「魚つながり」なのかどうかは想像の域を出ません。ただ、サカナクションがアニメの主題歌を担当したのは初めてと知って、意外な気がしたリスナーも案外多いのではないでしょうか。

どうやら、アニメなどの企画製作会社アニプレックス(Aniplex、ANX)を有するSony(ソニー)、およびUniversal(ユニバーサル)の独壇場ともいえるアニソン界に、珍しくVictor(ビクター)系列のサカナクションが食い込んだ状況のようです。ただし、ビクターにもアニメ映像・音楽制作会社(レーベル)FlyingDog(フライングドッグ)はあるとのこと。

こうした背景にも、サカナクションがずっと目指しているバランス感覚「マジョリティの中のマイノリティな音楽」が内包されているような気もします。アニメ目線、サカナクション(音楽、バンド)目線のどちらから考察しても、それぞれ「ご飯何杯でもいける」おいしさが詰まりまくった「怪獣」の歌詞について見ていきましょう。

山口一郎チャンネル「怪獣生歌唱」

何度でも
何度でも叫ぶ
この暗い夜の怪獣になっても
ここに残しておきたいんだよ
この秘密を

怪獣/作詞:山口一郎 作曲:サカナクション

いきなり息を吸う音から始まるブレスイントロのような印象も受けますが、実際はうっすらとしたドローンの電子音が一瞬先行し、「何度でも(吐息)何度でも」と続く流れです。さらにピアノが加わり、「怪獣になっても」の直後に「怪獣」のようなノイズが交ざり、「この秘密を」の後にサイレン(警報音)のようなギター音が響きます。

「夜」(よ・る)と言葉の途中で区切る譜割りにより、「この暗いよ」の「よ」が「ここに残しておきたいんだよ」の「よ」に効いてくる仕掛け。その「よ」の前「この暗い」と「(残して)おきたい」の2か所とも急な高音(ファルセット)になっていて、実際に「叫ぶ=Cry=暗い」とつながるダブルミーニング的な言葉遊びとも受け取れます。

キャッチ―かつメロディアスなメロディーメーカー山口一郎さんですが、そのメロディーのリズムもおもしろいところがサカナクションの醍醐味といえるでしょう。曲名の「怪獣」が意味しているのは、アニメ『チ。』を踏まえると異端思想の「地動説」、サカナクション山口一郎さん自身のリアルなドキュメンタリーとして捉えると「うつ病」。

ただし、Vaundy(バウンディ)さんの「怪獣の花唄」(2020年5月11日、SDR / Vaundy Artwork Studio)やPEOPLE 1(ピープルワン)の「怪獣」(2021年10月1日、Pollyanna Records)が既に存在するにも関わらず「怪獣」を曲名にしたということは、さらなる「秘密」が隠されているはずです。

キャッチーな頭サビから始まったように感じますが、実際はAメロ。「第1章、第2章、第3章、最終章」からなるアニメ『チ。』と同じく、「Aメロ〜Bメロ~Cメロ~サビ(Dメロ)」の4部構成になっています。楽曲制作の初期段階では「何度でも〜」がサビだったそうですが、後に本当のサビとなったDメロを加え、構成を変えたとのこと。

しかも「Aメロ、Bメロ、Cメロ、Dメロ」の4つとも、サビになり得る強度を備えたメロディーになっているので「怪獣」最強説が成立します。そのためキャッチ―かつシンプルに聴こえるものの、実はボーカル(歌)とオケ(伴奏)の組み合わせが複雑という音楽的なおもしろさを両立させているところが秀逸。この点については追々見ていきます。

1A:歌詞から連想可能なアニメ『チ。』の場面

何度でも叫ぶ」という歌詞から連想されるアニメのシーンは、第2章・第7話「真理のためなら」。天文研究助手のヨレンタに向かって先輩コルベ(CV:島﨑信長さん)が「私は何度でも言うよ。君は自分のやっていることを信じて進むんだ。いざってとき引いたら終わりだ」と語る場面ではないでしょうか。

曲名にもなっている「怪獣」の歌詞から連想できるのは、最終章・第24話「タウマゼインを」。アルベルトの父が「息子よ。この先何かを学ぶとき、知りたいと感じたとき、これだけは覚えていてくれ。疑うのだ。自分の知識も、世界の常識も、動機も方法も。探求心は歯止めが効かなくなる。世界を決定的に変えてしまう、取り返しのつかない怪物を作り出してしまうかもしれない」と語る場面です。

この「疑う」という台詞が「信じる」の逆張りになっているとか、誰の言葉を信じたがゆえの悲劇だったのだろうかと途方に暮れるなど、アニメ『チ。』にまつわるさまざまな思いが巡ります。

サカナクション「enough」

何度でも何度でも 嘘つくよ 人らしく
疲れても それしかもうないんだ

何度でも何度でも 話すんだ 僕らしく
嘘でもいい 嘘でもいい話を

enough/作詞:Ichiro Yamaguchi 作曲:Ichiro Yamaguchi

冒頭の「何度でも」という歌詞から連想できるサカナクションの既存曲は、3rdアルバム『シンシロ』(2009年1月21日、Victor Entertainment)の収録曲「enough」。8割方『チ。』の世界観に寄り添ったそうですが、サカナクションのファン魚民(うおたみ)、サカナカマが聴くとサカナクションの楽曲をあれこれ連想できるはず。

山口一郎さん自身、「怪獣」の歌詞について「韻を踏む(母音を合わせる)といったテクニカルなことは丁寧に作った」と発言していますが、子音の響き、濁音の配置、アクセントの置き方なども絶妙です。

サカナクション「アイデンティティ」

どうしても叫びたくて 叫びたくて 僕は泣いているんだよ

アイデンティティ/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

「叫ぶ」という歌詞は跳ねるリズムにより少々聞き取りにくいので、あえて「裂(さ)ける」と空耳できるように歌ったのかもしれない、と深読みしてしまいました。「裂ける」から『チ。』で何度も繰り返された拷問シーンを連想する、という仕掛けです。

『チ。』の原作者・魚豊さんによると、「知(知性)」と「血(暴力性)」の掛け合わせを表現するのに適した題材が「地動説」だったという流れ。また「冒頭の拷問シーンはサービスショットのつもりだったが、不快に感じる人もいた」という認識だそうです。

暴力は不快なはずなのになくなりません。「脳が何を快・不快と感じるのか?」についても「宇宙の真理」に匹敵する謎が隠されているのでしょう。ただし「叫ぶ→裂ける」説は少々飛躍しすぎ、深読みのしすぎのような気もします。

ともあれ「叫ぶ」という歌詞から連想できるサカナクションの既存曲は、3rdシングル(2010年8月4日、Victor Entertainment)のタイトル曲および5thアルバム『DocumentaLy』(2011年9月28日、Victor Entertainment)の収録曲「アイデンティティ」。さらに下記の既存曲も思い浮かぶのではないでしょうか。

1A:歌詞から連想可能なサカナクションの既存曲

  • 何度でも:enough
  • 叫ぶ:アイデンティティ、アンダー
  • :新しい世界、アドベンチャー、アムスフィッシュ、雨は気まぐれ、あめふら、アルクアラウンド、アルデバラン、enough、陽炎、雑踏、さよならはエモーション、白波トップウォーター、シーラカンスと僕、セントレイ、茶柱、月の椀、ナイトフィッシングイズグッド、ナイロンの糸、涙ディライト、ネイティブダンサー、蓮の花、『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』、human、フレンドリー、プラトー、ボイル、僕と花、マッチとピーナッツ、ミュージック、mellow、夜の踊り子、夜の東側、ライトダンス、ルーキー、忘れられないの、ワード
  • 秘密:アドベンチャー、雨は気まぐれ

1番Bメロ:「噛み潰し」のダブルミーニング

だんだん食べる
赤と青の星々
未来から過去

順々に食べる
何十回も噛み潰し
溶けたなら飲もう

怪獣/作詞:山口一郎 作曲:サカナクション

頭サビに続くAメロのような印象を受けるものの、実際はBメロ」というパートです。アニメ『チ。』のオープニング映像として使われたアニメ尺は1番のみ、楽曲としてのリリースに至ったフル尺は2番が追加されました。それだけでなく、アニメ尺は「1番Bメロ」が1回、フル尺は「1番Bメロ」が2回という追加の仕方も非常に粋です。

アニメ尺・フル尺共通の1回目の部分は「星々を食べ、噛(か)み潰(つぶ)し、溶(と)けたら飲む」という抽象的な内容で、主語はありません。人間は星を食べることができないので、怪獣が星を飲み込むようなファンタジックな画が浮かぶ人もいるでしょう。

サカナクション「なんてったって春」


「1番Aメロ」冒頭の「何度でも」から「だんだん、順々に、何十回も」と「ん」や濁音の響きが印象的な韻で畳みかけつつ、主人公がバトンを受け継ぐリレー形式というアニメ『チ。』の構造も示唆しています。

「赤い星」は火星、「青い星」は地球を表しているでしょう。アニメ『チ。』第2章の主人公・代闘士オクジーの同僚グラスが「火星の観測」に夢中になる様子が連想できます。オクジーが確認する「金星の満ち欠け」は「星を食べる」という表現につながりそうです。

第1章の主人公・天才少年ラファウが「何かを飲む」シーンも連想できます。何より「噛み潰し」は「神潰し」とのダブルミーニングなどという異端思想は黙っておくべきかもしれません。

アニメ『チ。 ―地球の運動について―』ノンクレジットオープニング映像「怪獣」サカナクション

淡々と知る
知ればまた溢れ落ちる
昨日までの本当

順々と知る
何十螺旋の知恵の輪
解けるまで行こう

怪獣/作詞:山口一郎 作曲:サカナクション

フル尺で追加された2回目の「1番Bメロ」。アニメ『チ。』は「昨日までの本当=天動説」が「溢(あふ)れ落ちる=嘘になる」、つまり物事の見方が180度変わる「コペルニクス的転回」の地動説を題材としながらも、「淡々」とした登場人物たちが魅力的です。

その「淡々」とした手法は、歌詞の韻やダブルミーニングなどの言葉遊びの積み重ねにも適用され、かえってエモーショナルな効果を生み出しています。「二重らせんのDNA」ではなく「何十螺旋(らせん)の知恵の輪」とすることにより、「溶けたなら飲もう」が「解けるまで行こう」につながるおもしろさにも痺れるでしょう。

1B:歌詞から連想可能なアニメ『チ。』の場面

  • 未来:第3章・第21話「時代は変わる」

異端解放戦線・シュミット隊長「だが我々は方法を知った。信念を固定化し、思想を可視化し、瞬間を永遠に、今を遠い場所へ、はるかな未来へ、または別の誰かのところへ、届くようにする方法を。この方法は強烈だ。既存秩序を破壊し、階級を解体する力を持つ。我々はそれを実行する。これより出版活動を開始する」

  • 飲もう:第3章・第20話「私は、地動説を愛している」

異端解放戦線・組織長ヨレンタ「悪を捨て去ることなく飲み込んで直面することで、より大きな善が生まれることもある」

1B:歌詞から連想可能なサカナクションの既存曲

  • だんだん:ショック!、スローモーション、なんてったって春
  • 食べる:朝の歌、セプテンバー
  • :雨は気まぐれ、M、陽炎、涙ディライト、なんてったって春、三日月サンセット、もどかしい日々、夜の東側
  • :Aoi、新しい世界、潮、シーラカンスと僕、月の椀、ティーンエイジ、目が明く藍色
  • :アンタレスと針、mellow
  • 未来:グッドバイ、GO TO THE FUTURE、ティーンエイジ
  • 過去:アイデンティティ
  • 噛み潰し:インナーワールド
  • 飲もう:潮、シャンディガフ、ショック!

1番Cメロ:朝と夜の対比

丘の上で星を見ると感じるこの寂しさも
朝焼けで手が染まる頃にはもう忘れてるんだ

怪獣/作詞:山口一郎 作曲:サカナクション

アニメ『チ。』第1章の主人公・少年ラファウらが宇宙の真理を求めて「星」を観測するのは「夜」、第3章の主人公・移動民族の少女ドゥラカが苦手なのは「朝」。「朝」を尊ぶ異端解放戦線・シュミット隊長も登場し、「朝と夜」の対比、朝が「好き・嫌い」の対比が印象的に描かれます。とくに「朝焼けで手が染まる」結末は涙もの。

この「朝と夜の対比」については、サカナクションの山口一郎さんほど歌詞のモチーフにしてきたアーティストはいないのではないかと思われます。その歴史も踏まえると、『チ。』とサカナクションのコラボという奇跡に立ち会えた喜びに震えるでしょう。

1C:歌詞から連想可能なアニメ『チ。』の場面

  • :第1章・第1話「『地動説』、とでも呼ぼうか」

異端者フベルト「いつもどこで観測している?」
少年ラファウ「南東の丘ですが」

  • 寂しさ:最終章・第24話「タウマゼインを」

ラファウ先生「僕は生まれが少々特殊でね、親がいなかったんだ。幸運にも学者さんに拾ってもらえて裕福な生活を送れたけど、寂しくなかったと言えば嘘になる」

  • :第3章・第17話「この本で大稼ぎできる、かも」

叔父ドゥルーヴ「なぜ毎日朝がくると泣く?」
移動民族の少女ドゥラカ「そんなこともわからない?朝にお父さんが死んだから」

  • :第3章・第18話「情報を解放する」

異端解放戦線・シュミット隊長「朝日を浴びてる。こうすることで感じ取る。神を。このためにわざわざ生まれてきた。なぜ出てこない?君はこの荘厳な曙光(しょこう)を前に何も感じないのか?」
少女ドゥラカ「感じますよ。苦痛を。朝日はすべてを勝手に照らす。隠れたくても、見たくない日も、勝手にやってくる。しかも決まって律儀に毎日昇る。誰も逃げられない。私の大嫌いな運命って言葉を思い出す。朝日は最悪だ。私にはその良さは死んでもわからない」

  • :第3章・第22話「君らは歴史の登場人物じゃない」

シュミット隊長「また数時間後にはいつものように朝が来る。いつか君にも朝日に微笑む日が来ることを願っているよ」
少女ドゥラカ「またですか。だから私は朝日が苦手だって」

  • 忘れてるんだ:最終章・第24話「タウマゼインを」

青年アルベルト「忘れたいことです。じゃあ、パンを置いて帰ります」
司祭「では、まだ忘れられていないということですね」

1C:歌詞から連想可能なサカナクションの既存曲

  • 寂しさ:ナイロンの糸、ワンダーランド
  • 忘れてるんだ:アルクアラウンド、ネイティブダンサー、アルデバラン、映画、多分、風。、ナイトフィッシングイズグッド、ナイロンの糸、ネイティブダンサー、ボイル、忘れられないの
  • :アイデンティティ、朝の歌、新しい世界、月の椀、ティーンエイジ、ボイル、僕と花、夜の踊り子、ルーキー

1番サビ:好都合に未完成な世界が最高な理由

この世界は好都合に未完成
だから知りたいんだ

でも怪獣みたいに遠く遠く叫んでも
また消えてしまうんだ

怪獣/作詞:山口一郎 作曲:サカナクション

そもそも曲名「怪獣」(かいじゅう)の子音は「か行(K)+濁音」の組み合わせ。さらに「1番Aメロ」には「この、暗い、怪獣、ここ、おきたい、この」と「か行(K)」まみれの前振りがありました。そのため「1番サビ」の「この、世界、好都合、未完成」という「か行(K)」まみれのパンチラインも最高に耳心地よく響きます。

サカナクション「ボイル」


続く「怪獣、遠く、叫んでも、消えて」にも「か行(K)」が散りばめられているほか、母音の韻やメロディーのリズムがおもしろいのは大前提です。ともあれ「好都合」や「未完成」といった独特かつ意味深な言葉を『チ。』の台詞から拾い、キャッチーなサビに仕上げた手腕に驚愕させられます。

また、「1番Aメロ」の冒頭「何度でも」の「でも」が、接続詞や「叫んでも」の「でも」として効いてくる秀逸さにも注目です。一般的には接続詞を歌詞に使うのは珍しいものの、「怪獣」には「でも」(逆接)と「だから」(順接)の2つの接続詞が使われていて、「でも」が「だから」の逆張りかつ前振りになっています。

1D:歌詞から連想可能なアニメ『チ。』の場面

  • 好都合:第2章・第8話「イカロスにならねば」

修道士バデーニ「それに何よりいいのはあの話をしても密告される可能性は低い。女性だからだ。密告したら自分自身も魔女扱いされる可能性が非常に高い。だから女性は好都合だ」

修道士バデーニ「もし捕まっても魔女に騙されたと密告する。私の知識を総動員すれば大方の罪をなすりつけられるだろう。むしろ好都合な提案かもしれん」

  • 未完成:第2章・第5話「私が死んでもこの世界は続く」

代闘士オクジーの同僚グラス(異端者の手紙を読む)「結局、箱を残したのが誰で、なぜ放置されていたのか、経緯はわからない。しかしその中身は未完成ながら人類の歴史と運命を変えてしまうものだとはっきりわかった」

  • 未完成:第2章・第12話「俺は、地動説を信仰してる」

修道士バデーニ「その姿勢を研究に採用してしまうと、我々は目指すべき絶対真理を放棄することになる。そして学者は永久に未完成の海を漂い続ける」

  • 遠く:第1章・第1話「『地動説』、とでも呼ぼうか」

少年ラファウ「天文を続けるのは合理的じゃない。それにずっと遠くの世界の話だ。どんなに背伸びしたって人間は近づけない」

  • 遠く:第3章・第21話「時代は変わる」

シュミット隊長「だが我々は方法を知った。信念を固定化し、思想を可視化し、瞬間を永遠に、今を遠い場所へ、はるかな未来へ、または別の誰かのところへ、届くようにする方法を。この方法は強烈だ。既存秩序を破壊し、階級を解体する力を持つ。我々はそれを実行する。これより出版活動を開始する」

1D:歌詞から連想可能なサカナクションの既存曲

  • 世界:新しい世界
  • 遠く:哀愁トレイン、新しい世界、アムスフィッシュ、雑踏、ボイル、ワンダーランド

2番Aメロ:「だ」の重なりでつながる宇宙

だからきっと
何度でも見る

この暗い夜の空を
何千回も
君に話しておきたいんだよ
この知識を

怪獣/作詞:山口一郎 作曲:サカナクション

「でも=逆接」から「だから=順接」へのコペルニクス的展開。「1番サビ」のラスト「また消えてしまうんだ」と「2番Aメロ」の冒頭「だからきっと」の「だ」が重なり、「消えてしまうんだからきっと」という歌い方になっています。そのためリレー形式の主人公たちによる『チ。』の世界観や天と地などの宇宙のつながりが感じられるでしょう。

サカナクション「怪獣」Instrumental


「1番Aメロ」のボーカル(歌)以外のオケ(伴奏)は「ピアノと電子音」(ビートなし)でしたが、「2番Aメロ」のオケは「1番サビ」と同じ「バンド演奏」(ビートあり)。ボーカルとオケの組み合わせ(曲の構成)は実は複雑なものの、4つのメロディーがあまりにもキャッチ―で強度があるため難しくなりすぎず、シンプルに楽しめます。

2A:歌詞から連想可能なサカナクションの既存曲

  • :哀愁トレイン、朝の歌、ネイティブダンサー
  • 何千回も:アルデバラン
  • :Aoi、アルクアラウンド、朝の歌、アムスフィッシュ、Ame(A)、Ame(B)、years、enough、うねり、開花、壁、仮面の街、黄色い車、GO TO THE FUTURE、さよならはエモーション、新宝島、スローモーション、セントレイ、茶柱、月の椀、ティーンエイジ、ドキュメント、ナイトフィッシングイズグッド、ナイロンの糸、涙ディライト、なんてったって春、ネイティブダンサー、蓮の花、『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』、human、フレンドリー、プラトー、ボイル、multiple exposure、三日月サンセット、ミュージック、目が明く藍色、mellow、モス、もどかしい日々、ユリイカ、夜の踊り子、夜の東側、ルーキー、ワンダーランド、ワード
  • 知識:サンプル、フクロウ

2番Bメロ:「怪獣」の正体は「懐柔」だった

淡々と散る
散ればまた次の実
花びらは過去

単純に生きる
懐柔された土と木
ひそひそと咲こう

怪獣/作詞:山口一郎 作曲:サカナクション

「1番Bメロ」はアニメ尺では1回、フル尺では2回、同じフレーズが繰り返される趣向でしたが、「2番Bメロ」はアレンジが変わって1回という展開になっています。

ディレイ&リバーブのかかりまくったギター音がサイレン(警報音)のように響くなか、ドラムが「タタタ」とつんのめったリズムになり、低音のベースが響き、「淡々と散る」とつながる冒頭の流れが鳥肌モノです。

「怪獣」という曲名および歌詞は「懐柔」(読み方:かいじゅう、意味:手なずける、思いどおりに従わせること)とのダブルミーニングでした。

その「懐柔される」対象は「次の実」(つぎのみ)と韻を踏んだ「土と木」(つちとき)。抽象的な表現ですが、地動説に命をかけて亡くなった人々を「実」や「花」、もうけ話を持ちかけられ、「地動説は異端思想ではなかった」と言い出した聖職者や、異端者の弾圧にまつわる歴史的な勘違いを「土と木」になぞらえたのかもしれません。

サカナクションの物語として捉えると、主題歌「怪獣」の土台(テーマ=土)と枠組み(構造=木)は『チ。』の世界観に「懐柔された=寄り添った」けれども、「サカナクションらしいマジョリティの中のマイノリティな音楽をひそひそと鳴らそう」としている感じがします。

2B:歌詞から連想可能なアニメ『チ。』の場面

  • 単純:第2章・第6話「世界を、動かせ」

代闘士オクジー「もっとこう単純に、今日の空は何かきれいじゃないですか?」

  • 懐柔:第3章・第23話「同じ時代を作った仲間」

元異端審問官ノヴァク「アントニさん。いくら私でもすぐにわかりますよ。信仰だとかいっても所詮は金なんでしょ。あなたはずっと前からそうだ。そそのかしたのはお前だな。聖職者を買収とは世も末だ。いったいいくら使った」

2B:歌詞から連想可能なサカナクションの既存曲

  • :グッドバイ
  • :アドベンチャー、YES NO、開花、陽炎、壁、セプテンバー、茶柱、月の椀、ネイティブダンサー、蓮の花、『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』、僕と花、multiple exposure、ルーキー、忘れられないの
  • 単純:目が明く藍色、ライトダンス
  • 生きる:ユリイカ
  • :映画、セプテンバー
  • :開花

2番Cメロ:「寂しさ」と「淋しさ」の使い分けは謎

点と線の延長線上を辿るこの淋しさも
暗がりで目が慣れる頃にはもう忘れてるんだ

怪獣/作詞:山口一郎 作曲:サカナクション

点と線の延長線上を辿る」という歌詞から、「惑星とその軌道」や星座などの天体観測、あるいは地動説そのものが連想できます。その地動説というバトンを順々につなぐ『チ。』の主人公や登場人物たち。「太陽(=地動説)を中心に、地球や惑星(=人間)が回る」という地動説に見立てた物語の構造も連想可能です。

サカナクション「目が明く藍色」


その「点」と「線」のほか、「目」や「忘れる」という言葉も、サカナクションの既存曲の歌詞に多数登場しています。ただ「1番Cメロ」の「寂しさ」が「2番Cメロ」では「淋しさ」と表記揺れかのように変化しているところが謎です。

サカナクションの既存曲では「寂しさ」表記が「ナイロンの糸」や「ワンダーランド」と少なく、「淋しさ」表記が名曲「シーラカンスと僕」など、多い印象を受けます。もしかしたら『チ。』の「寂しさ」、サカナクションの「淋しさ」と使い分けたのかもしれません。

2C:歌詞から連想可能なアニメ『チ。』の場面

  • 点と線の延長線上:第3章・第20話「私は、地動説を愛している」

異端解放戦線・組織長ヨレンタ「悪と善、2つの道があるんじゃなく、すべてはひとつの線の上でつながっている。そう考えたらかつての憂き節(読み:うきふし、意味:つらく悲しいこと)さえも何も無意味なことはない」

  • 点と線の延長線上:最終章・第24話「タウマゼインを」

ラファウ先生「あそこが頭で、あそこが弓。ここが胴で、最後はここに脚の線を引くと、どうだい?弓を引くケンタウロスに見えなくもないだろう?」「無秩序な情報に線を引く。すると今まで見えてなかったものが見えてくる」

2C:歌詞から連想可能なサカナクションの既存曲

  • 点と線の延長線上:哀愁トレイン、アンダー、新宝島、セントレイ、多分、風。、プラトー、目が明く藍色、モノクロトウキョー、流線
  • 淋しさ:アムスフィッシュ、アルクアラウンド、M、GO TO THE FUTURE、シーラカンスと僕、スローモーション、セントレイ、涙ディライト、ミュージック、ユリイカ、忘れられないの
  • :GO TO THE FUTURE、ショック!、涙ディライト、フクロウ、プラトー、僕と花、目が明く藍色、モス、ワード

2番サビ:でも、だから「遠く」へ叫ぶ

この世界は好都合に未完成
僕は知りたいんだ

だから怪獣みたいに遠くへ遠くへ叫んで
ただ消えていくんだ

でも

この未来は好都合に光ってる
だから進むんだ

今何光年も遠く 遠く 遠く叫んで
また怪獣になるんだ

怪獣/作詞:山口一郎 作曲:サカナクション

「2番Cメロ」のラスト「忘れてるんだ(吐息)」(実際には「忘れてんだ」と歌っている)の後、無音のブレイク(6拍)が挟まり、「1番Aメロ」のオケのような「ピアノ伴奏(ビートなし)+サビのメロディー」という組み合わせで「2番サビ」が始まります。

そして歌詞には珍しい接続詞2つ(だから、でも)が再登場。しかも「だから」は「僕は知りたいんだから怪獣みたいに」と「だ」が重なるので1回しか歌わないパターン2回目です。「だから(順接)→でも(逆接)」という逆張りの手法は『チ。』の世界観ともシンクロ(サカナクション的にはシンシロ?)。

逆接の接続詞「でも」によって肯定する感覚は、うつ病を患ったことにより歌詞の作詞方法が原点回帰した(=未来から過去)という山口一郎さん自身のリアルなドキュメンタリーを表現しているようです。ちなみに山口一郎さんは2025年2月13日のInstagramで「怪獣のようにただ叫ぶだけだった思春期の手法を思い出すことだったのだ」と記しています。

さらに「何度でも」や「好都合」は「何光年」につながる伏線だったのか、ゴジラやモスラという名前の「怪獣星=暗黒物質の塊」は実際に存在するのか、と知るタウマゼイン(知的探求の始まりにある驚異)。

「1番サビ」の「遠く遠く」の時点で高音のハモリが気になる仕掛けにはなっていましたが、「2番サビ」では「遠くへ遠くへ」といったん微妙に変化させた後、「遠く 遠く 遠く叫んで」と高音のハモリがメインボーカルになるという華麗な3段オチを炸裂させました。ここで涙しない人はいるのだろうかというほどエモーショナルなクライマックスです。

アウトロは「だんだん食べる」や「淡々と散る」と同じ「Bメロ」。男性3人、女性2人というサカナクションのメンバー5人全員で「ランラン」とコーラスしていて、この5人という数字はアニメ『チ。』のリレー形式の主人公の人数と同じと山口一郎さんは認識しています。

あるいは音楽家・久石譲さんの娘・麻衣さんが歌う映画『風の谷のナウシカ』の挿入歌(劇中歌)「ナウシカ・レクイエム」の「ラン、ランララ、ランランラン」も連想できそうです。もしかしたらサカナクション初のアニメ主題歌ということで、宮崎駿監督のジブリ作品(厳密には前身のトップクラフトが制作)をオマージュしたのでしょうか。

いずれにしても、この「ランラン」の全員コーラスで派手に盛り上げるために「だんだん、淡々と」韻を踏み重ねていたのかと知ったときのタウマゼインもとんでもありません。

さらにアウトロはコーラス入りの「Bメロ」から「1番Aメロ」の静かなピアノ伴奏へ回帰するような「円環的な循環性=地動説」が表現されて幕を閉じます。おまけに「ランラン」や「ラララ」のコーラスが印象的なサカナクションの既存曲も多数連想できる仕掛けになっているという、まさに「怪獣」みたいな楽曲でした。

2D:歌詞から連想可能なサカナクションの既存曲

  • アウトロ・コーラス「ランラン」:アイデンティティ、アムスフィッシュ、INORI、潮、陽炎、ストラクチャー、ナイトフィッシングイズグッド、ミュージック、moon、モス

おわりに


「神の時代」ともいえる中世15世紀に対して、「お金の時代、大量死の時代」となった20世紀。その後に続く現代21世紀は人工知能(AI)による「知の時代」となるのでしょうか。

でも「怪獣」の歌詞から連想可能なアニメ『チ。』の場面やサカナクションの既存曲については、AIではなく人間が確認したので、抜けや漏れは多々あるはず。だからこの記事も「好都合に未完成」としておきます。

「怪獣」を聴いて「ネイティブダンサー」のようなかっこいいサカナクションが帰ってきたと感じた人もいるでしょう。アニメ『チ。』をきっかけにサカナクションの既存曲を愛でる魚民がさらに増えるといいですね。

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渡辺和歌
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