音楽

こっちのけんと「けっかおーらい」歌詞の意味を考察!TVアニメ『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』OP主題歌

こっちのけんとさんの「けっかおーらい」はTVアニメ『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』のオープニングテーマとして書き下ろされました。『ヒロアカ』公式スピンオフアニメ『ヴィジランテ』主題歌「けっかおーらい」の歌詞の意味を考察、解説します。

こっちのけんと「けっかおーらい」ミュージックビデオ・Music Video・MV・PV・YouTube動画

TVアニメ『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』とは


漫画『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』の脚本は古橋秀之さん、作画は別天荒人さん(連載:『ジャンプGIGA』集英社・2016年8月~10月、『少年ジャンプ+』集英社・2016年12月~2022年5月)。

堀越耕平さんの漫画『僕のヒーローアカデミア』(連載:『週刊少年ジャンプ』集英社・2014年7月〜2024年8月、略称:ヒロアカ)の公式スピンオフ作品です。

TVアニメ『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』の放送は2025年4月7日〜6月30日(毎週月曜 23:00〜:TOKYO MX・BS日テレ、25:59〜:読売テレビ)。『ヒロアカ 』本編の数年前、非合法ヒーロー・ヴィジランテ(法に依らず、自発的に治安を行う者、自警団)が活躍します。

主人公は「滑走」(かっそう)を「個性」とする大学1年生の灰廻航一(はいまわりこういち、以下:コーイチ、CV:梅田修一朗さん)。プロのNo.1ヒーロー・オールマイトこと八木俊典(やぎとしのり、CV:三宅健太さん)のコスプレ姿で「親切マン」を名乗り、ヒーロー活動まがいのボランティアをしていました。

ヴィジランテのナックルダスター(CV:間宮康弘さん)や「跳躍」(ちょうやく)が「個性」のフリーアイドル・ポップ☆ステップ(CV:長谷川育美さん)と出会ったコーイチは、ヴィジランテ活動に巻き込まれ、ヒーロー名を「ザ・クロウラー」に改めます。

プロヒーローのイレイザーヘッドこと相澤消太(あいざわしょうた、CV:諏訪部順一さん)、インゲニウムこと飯田天晴(いいだてんせい、CV:北田理道さん)、「スパイク」が「個性」の不良・釘崎爪牙(くぎざきそうが、CV:鳥海浩輔さん)らと共に、蜂須賀九印(はちすかくいん、CV:千本木彩花さん)ら敵(ヴィラン)と戦う物語です。

オープニングムービー

こっちのけんと「けっかおーらい」歌詞の意味を考察

けっかおーらい EP

  1. けっかおーらい
  2. それもいいね
  3. はいよろこんで – From THE FIRST TAKE
  4. Kekka Orai(English ver)
  5. けっかおーらい(Anime ver)
  6. けっかおーらい(Instrumental)

曲の構成

  • 1番:Aメロ~Bメロ~Cメロ~サビ(Dメロ)
  • 2番:Eメロ~Aメロ~Fメロ~Cメロ~サビ(Dメロ)

1番Aメロ:言葉の響きやリズムを重視した歌詞

好印象なノービス
から転がるスターに
ばらまいた優しさの外に
手を伸ばして

好印象なノービス
から転がるスターに
めでたしなストーリー踊り
羽伸ばして

けっかおーらい/作詞:こっちのけんと 作曲:こっちのけんと・GRP

「から、ばら」や「(ばら)まいた、(めで)たしな」、「外に、踊り」などで韻を踏んでいることから推察できるとおり、言葉の響きやリズム、アクセント(強弱)を重視した歌詞になっています。意味は何となくわかるような、わからないような微妙なラインです。

ただ「好印象なノービス(=初心者)」から「転がるスター」になったのは、ボランティアの「親切マン」からヴィジランテの「ザ・クロウラー」になったコーイチのことでしょう。「こういち=こういんしょう」から歌い始めたかったと思われます。

腹ばいで進む(crawl=クロール)滑走(かっそう)という『ヒロアカ』作品における架空の能力・個性も盛り込まれているようです。踊ったり羽を伸ばしたりするのは、跳躍を個性とする自称アイドル・ポップ☆ステップのことかもしれません。

1番Bメロ:ズレてるテクニック

君の瞳が助け求めてる
誰これ構わず皆が飢えてる
目の下のクマ
シワのあるマスク
ヨレてるスーツ
身に纏うルール

けっかおーらい/作詞:こっちのけんと 作曲:こっちのけんと・GRP

「君、瞳」や「助け、求め、飢え」、「下、シワ」、「スーツ、ルール」などで韻を踏みまくっています。やはり言葉遊び重視ですが、困っている人がいるとボランティアや非合法でもヒーロー活動をしてしまう『ヴィジランテ』の世界観もしっかり反映されています。

オールマイトマニアのコーイチはグッズのオールマイトパーカーを身にまとい、黒いマスクを着用。朝昼は大学、夕方はバイト、夜にボランティアをしていた初期は「目の下のクマ」が目立ちました。自前のコスプレなのでシワもあり、ヨレています。

また、シワがあるのはマスクだけでなく目の下もだったり、身に纏(まと)うのはルールというよりスーツだったりといった「ずらし、ズレ」のテクニックも秀逸。本家『ヒロアカ』のスピンオフである『ヴィジランテ』らしさを象徴し、プロヒーローからヴィジランテに転じたナックルダスターも示唆していると考えられます。

1番Cメロ:結果オーライの正義を肯定

正義の肯定
ナンセンスな命で
看板突き破って
飛んじゃってええで

それでこそ good
後手に回れば boom!!
Give me your …
Give me your …

けっけっかおーらい!

けっかおーらい/作詞:こっちのけんと 作曲:こっちのけんと・GRP

こっちのけんとさんが大ブレイクするきっかけとなった「はいよろこんで」(2024年5月27日)にも、早口など独特のラップがありました。この「けっかおーらい」の「1番Cメロ」は「正義」の「せ」や「肯定」の「て」など、母音「え」にアクセントを置きまくるところが醍醐味のラップです。

「それでこそ」の「で」や「後手」の「て」も然り。なぜなら曲名かつパンチラインにもなっている「けっけっかおーらい!」の「け」にアクセントを置きたかったから、と考えられます。

ひらがな表記によるダブルミーニングですが、1つ目の意味は「結果オーライ(All Right)」つまり「終わり良ければすべて良し」。これは本家『ヒロアカ』のプロヒーロー・オールマイト(Almight=全能の)と韻を踏んでいます。

非合法ヒーロー・ヴィジランテのナックルダスターは「強力な個性やプロ資格ではなく、いざというときの行動力こそ真の正義」という考え方の持ち主。無資格なので過程は間違っていますが、結果は正義なので問題はありません。つまり、オールマイト(全能)ではなくても、結果オーライの正義を肯定するのがヴィジランテという解釈でしょう。

「ナンセンスな命で(無意味な命題として)看板を突き破って飛んでもいい」とのことなので、ポップ☆ステップが看板を突き破るように跳躍しまくる街中のゲリラライブも結果オーライ。

さらに曲名(看板)「けっかおーらい」の意味を度外視して、言葉の響きとリズムを楽しむことこそグッド(良し)、後手に回ればブーム(大成功、爆発)らしいので、ダブルミーニングの2つ目の登場を楽しみに(あるいはハラハラしながら)待ちましょう。

1番サビ:苦労マンの月下往来

「おっと!」
迷える俺たちのヒーロー
もう止まれない keep off keep off
苦労をその手に何を握ろう
Get…Get this! “All Right”
Get this! “All Right”

御伽話俺たちのヒーロー
もう止まれない keep on keep on
身の程にも合うその日を願うから今
月、月下往来

けっかおーらい/作詞:こっちのけんと 作曲:こっちのけんと・GRP

結果的に「けっけっかおーらい!」から「Get…Get this! “All Right”」(げっげっでぃすおーらい)、さらに「月、月下往来」(げっげっかおうらい)というダブルいやトリプルミーニングになりました。ただし「ナンセンスな命(めい)で」つまり無意味な「え」の韻踏みで、というオチです。

要するに「言葉の意味より言葉の響きやリズムを楽しむのが、後手に回ったヴィジランテ流の正義」。文頭は「おっと」ではなく「おとー」、「もう止」ではなく「もとー」、さらに「おとー(ぎばなし)」、「身のー(程にも)」と歌うとうまくいきます。なぜならすべて「苦労(くろう)」と韻を踏んでいるからです。

コーイチはヒーロー名を「親切マン」から「ザ・クロウラー」に改めましたが、まわりから「苦労マン」と呼ばれる始末。ただし、身の程をわきまえた「身の程マン」と自称します。結果オーライのヴィジランテはオーライ(問題なし)を手に入れるため、夜に活動。朝・昼・夕方はプロヒーローに任せるくらいの身の程はわきまえています。

2番Eメロ:曲の構成に反映された個性・滑走

僕らはもう諦めたの
軋む明日を絵に描いて

僕らはもう身につけたの
軋む明日をただ歩いて

けっかおーらい/作詞:こっちのけんと 作曲:こっちのけんと・GRP

コーイチの個性・滑走(かっそう)は灰廻(はいまわり=這い回り)という苗字でも表現されています。この滑走の発動条件は体を3点以上接地させること。そうすると地べたをすべるように移動できますが、スピードはママチャリくらいです。

同様に「けっかおーらい」も、まさにあちこち地べたを這い回るような曲の構成になっています。J-POPらしい「1番〜2番:Aメロ〜Bメロ〜サビ(Cメロ)」を軸としつつ、新たなパートが加わっているということ。

この「2番Eメロ」は「2番Aメロ」の前に追加されました。まるでパート全体が「軋(きし)む音」のようです。言葉遊びだけでなく、サウンド遊びも諦めていない感じがします。

2番Aメロ:遅くても見出したい可能性

もう遅いのは分かってる
まわりを通っていく
成りたいもんに成っている
みんなが通っていく

成れないもんに成っていく
僕の帰り道に
転がって突っ伏している
僕の可能性へ

けっかおーらい/作詞:こっちのけんと 作曲:こっちのけんと・GRP

コーイチが地べたに突っ伏して滑走する(転がる)スピードはママチャリくらい。実に遅いです。真っ向から素早く敵(ヴィラン)と対峙するプロヒーロー・オールマイトに憧れ、そのまわりを通りながら成りたいヒーローまがいのボランティア・親切マンやヴィジランテのザ・クロウラーに成りました。

ただ、滑走スピードはとにかく遅いので、コーイチのまわりをみんなが通っていきます。苦労マンと呼ばれるほど情けない非合法ヒーローが活躍する「可能性」はあるのでしょうか。

また、こっちのけんとさん自身、社会人経験(あっちのけんと)を経ても音楽の夢を諦めきれませんでした。そのため「遅い」とわかりながらも「可能性」を見出そうとする思いが込められているようです。

2番Fメロ:今の自由は自分らしい過去のおかげ

忘れてきたのに
思い出した
体に痛みが来る前に
逃げだして来る彼に

我先に立ち去るナードに
差し上げたのに
今の自由とは何?
過去の自分の”まま”に

けっかおーらい/作詞:こっちのけんと 作曲:こっちのけんと・GRP

読経みたいなフロウ(歌い回し)になるオルタナティブな(新たな)パート「2番Fメロ」。「今の自由とは何?」や「過去の自分の”まま”に」、あるいは「けっかおーらい」や「月下往来」につながるよう、末尾「〜に(母音:い)」にアクセントが置かれています。

「ナード」とは「オタク」のこと。英語のスラングとしては「社交性のあるオタクがギーク、社交性のないオタクはナード」という区別があります。ヴィジランテとしてのコーイチや「はいよろこんで」でブレイクした後のこっちのけんとさんの過去と今、自分らしさと自由に対する葛藤が描かれているようです。

この後、1番と同じCメロとサビが繰り返され、「月、月下往来」で結末を迎えます。こっちのけんとさんが初めて担当したアニメ主題歌。最初は言葉の意味や曲の構成などが「はいよろこんで」より難しそうと感じつつ、繰り返し聴くうちに中毒性のあるキャッチーなリズムにハマった人も多いのではないでしょうか。

おわりに


「はいよろこんで」にも英語バージョンがありましたが、「けっかおーらい」の英語バージョン「Kekka Orai(English ver)」は『けっかおーらい EP』にも収録されました。

日本語でも英語でも歌えるほど多才でも、兄の菅田将暉さんをプロヒーロー・オールマイトになぞらえると、弟のこっちのけんとさんはヴィジランテのザ・クロウラーことコーイチの
心情になるのかもしれません。

王道にもオルタナティブにも苦労はあるはずですが、それぞれの人生も音楽も結果オーライとなるようキーポン(キープ・オン=継続)していきたいものですね。

ABOUT ME
渡辺和歌
ライター / X(Twitter)
RELATED POST