フェルボム(Felbm)の『cycli infini』は繰り返し聴くことを目的として作られたアルバム。
ミニマルに繰り返されるフレーズもありつつ、刻々と変化するサウンドは、ポジティブな「諸行無常の響き」といえるかもしれません。
Contents
はじめに
オランダ・ズヴォレ生まれ、ユトレヒトを拠点とするマルチ奏者&作曲家&プロデューサーのエールコ・トッパー(Eelco Topper)によるソロプロジェクト、フェルボム(フェルブム、Felbm)。
幼少期にマーチングバンドでスネアドラムを演奏したことから、ドラム演奏やヒップホップのビートおよび電子音楽の作曲を始め、ユトレヒト音楽院でジャズピアノを学びました。
フェルボムというアーティスト名は、携帯電話ノキア(Nokia)のオートコレクト(自動修正)機能で、本名のエールコが変換されたことに由来します(Eelco→Felbm)。
オランダのSSW&プロデューサー、ベニー・シングス(Benny Sings)のバンドで8年間キーボード奏者を務めたほか、ノブスティッカー(Knobsticker)というデュオ、ファルコ・ベンツ(Falco Benz)名義のソロ活動(シンセベースによる4つ打ち寄りのポップなハウス)を経て、タスカム(TASCAM)やマランツ(Marantz)の4トラックレコーダー(テープレコーダー、カセットMTR)録音を中心としたフェルボムに至りました。
https://twitter.com/_stranger_than/status/1682297447563894785
ディスコグラフィ
- 1st AL『Tape 1 / Tape 2』2018年10月26日、Soundway
- 2nd AL『Tape 3 / Tape 4』2020年10月16日、Soundway
- 3rd AL『Elements of Nature』2021年11月5日、Soundway
- SG「cycl infini (excerpt)」2023年6月2日、Soundway
- 4th AL『cycli infini』2023年7月21日、Soundway
Tape 1
- エールコ・トッパー:作曲、演奏、プロデュース、レコーディング、ミックス
- Jeffrey de Gans@Da Goose Mastering:マスタリング
- ザ・カーヴェリー(The Carvery Studio):ラッカー盤カッティング
- Joost Stokhof:アートワーク
フェルボム名義の1st EP『Tape 1』(2018年9月21日、Soundway)と2nd EP『Tape 2』(2018年10月26日、Soundway)をまとめて、1stアルバム『Tape 1 / Tape 2』(2018年10月26日、Soundway)としてリリースされました。
そのうち1st EP『Tape 1』は、全7曲・16分あまり。
4トラック録音という制限を設け、「メロディー、コード、ベース、リズム」を軸として、ピアノ、アコギ、ベース、ドラムのほか、シンセ(キーボード)、ビブラフォン、リズムマシン(ドラムマシン)などを駆使して制作されました。
カナダ出身のSSW&マルチ奏者&作曲家&プロデューサー、モッキー(Mocky)のアルバム『Saskamodie』(2009年4月7日:Crammed Discs、2012年:Heavy Sheet Music)、米メイン州出身、UKマーゲイトを拠点とする作曲家&マルチ奏者ロバート・スティルマン(Robert Stillman)のアルバム『Rainbow』(2016年1月15日、Orindal Records)の「一人ですべての楽器を自由に演奏する方法に衝撃を受けた」という背景を感じることができます。
フランス出身のSSWマチュー・ボガート(Mathieu Boogaerts)、カナダ出身のSSWアンディ・シャウフ(Andy Shauf)、米シカゴの電子音楽家サム・プレコップ(Sam Prekop)、スウェーデンのカルテット、トンブルケット(Tonbruket)、スウェーデンの音響トリオ、テープ(Tape)、米LAのハープ奏者メアリー・ラティモア(Mary Lattimore)の影響も受けたそうですが、ラウンジミュージックやエキゾチカの雰囲気も漂う独自のローファイなジャズが展開されています。
【Live】Birkelunden
モッキー『Saskamodie (Deluxe Edition)』
ロバート・スティルマン『Rainbow』
サム・プレコップ『The Sparrow』
メアリー・ラティモア『Goodbye, Hotel Arkada』
Tape 2
2nd EP『Tape 2』は、全8曲・21分あまり。
オリジナル曲を中心に構成されていますが、6曲目「When It Rains」のみ、ブラッド・メルドー(Brad Mehldau)のアルバム『Largo(ラーゴ)』(2002年8月13日:Warner Bros.、2023年6月16日:Nonesuch)収録曲のカバーです。
『Tape 1』の7曲目は「Sakura」、『Tape 2』の8曲目は「Takumi」とラストの曲名が日本語になっていたり、アルバムジャケットやサイトなどにも日本語表記が交ざっていたり(フェルボム、フェルブムと表記ゆれはありますが)、謎めきながらも親近感がわくのではないでしょうか。
【Live】Maktene
【Live】When It Rains
ブラッド・メルドー「When It Rains」
Tape 3
引き続き、3rd EP『Tape 3』(2020年9月11日、Soundway)と4th EP『Tape 4』(2020年10月16日、Soundway)をまとめて、2ndアルバム『Tape 3 / Tape 4』(2020年10月16日、Soundway)としてリリースされました。
『Tape 1 / Tape 2』と同じ宅録ですが、『Tape 3 / Tape 4』ではCritter & Guitari(クリッターアンドギターリ)のガジェット系シンセPocket Piano(ポケットピアノ、生産終了)が多用されています。
3rd EP『Tape 3』は、全7曲・18分あまり。
ドゥルッティ・コラム(The Durutti Column)、アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)、バーデン・パウエル(Baden Powell)、エチオジャズとしてNerses Nalbandianやムラトゥ・アスタトゥケ(Mulatu Astatke)がジャズと融合させたエチオピア音楽のモード(旋法)テゼタ(Tezeta)などにインスパイアされたインディーポップ、ミニマルアンビエント、ボサノバの雰囲気を堪能できます。
Tape 4
4th EP『Tape 4』は、全7曲・20分あまり。
ほぼ全曲で使われているビブラフォン、『Tape 3 / Tape 4』から新たに導入されたメロトロンフルートのほか、1曲目「Brunnengasse」では風鈴、4曲目「Beaufort」ではフィールドレコーディングによる鳥(ヤマヒバリ)のさえずりが印象的に響きます。
『Tape 3』の7曲目は「Heisei」、『Tape 4』の7曲目は「Midori」、やはりラストの曲名はなぜか日本語です。
Elements of Nature
- エールコ・トッパー:作曲、演奏、プロデュース、レコーディング、ミックス
- Mark Alban Lotz:フルート、バーンスリー
- Koen Boeijinga:サックス、ドゥクラー
- Dianne Verdonk:チェロ
- Jeffrey de Gans@Da Goose Mastering:マスタリング、ミックス
- ザ・カーヴェリー:ラッカー盤カッティング
- Joost Stokhof:アートワーク、デザイン
3rdアルバム『Elements of Nature(自然の要素)』(2021年11月5日、Soundway)は、全20曲・48分あまり。
これまではフェルボムことエールコ・トッパーが一人ですべての楽器を演奏していましたが、今回は3人のゲスト(フルート、サックス、チェロ奏者)を迎え、ユトレヒト郊外の元修道院で制作されました。
使われたのは「自然の要素=アコースティック楽器」のみ。
フィールドレコーディングのほか、シンギングボウルなどの新たな楽器も取り入れられています。
Cycli
4曲目「Cycli」(オランダ語、意味:サイクル)は、次のアルバムで「infini=無限大」として昇華されたのかもしれません。
New Felbm release “Elements of Nature”
cycl infini (excerpt)
「cycl infini (excerpt)」(2023年6月2日、Soundway)は、4thアルバム『cycli infini』の「excerpt=抜粋」として先行リリースされた、4分弱のシングルです。
cycli infini
- エールコ・トッパー:作曲、演奏、プロデュース
- Mark Alban Lotz:フルート、バーンスリー
- Koen Boeijinga:サックス
- Efe Erdem:バストランペット
- Gijs Batelaan:ペダルスチールギター
- Alex Geurink:マスタリング
- フランク・メリット(Frank Merritt)@ザ・カーヴェリー:ラッカー盤カッティング
- Joost Stokhof:アートワーク
今回(遅めの)新譜紹介としてセレクトした4thアルバム『cycli infini』(2023年7月21日、Soundway)は、全1曲・約38分。
4人のゲスト(フルート、サックス、トランペット、スチールギター奏者)を迎え、全体がシームレスにつながった1曲というコンセプチュアルなアルバムです。
自然観察のほか、オランダの版画家M.C.エッシャー(Maurits Cornelis Escher)、エリック・サティ(Erik Satie)、スティーヴ・ライヒ(Steve Reich)、ララージ(Laraaji)、現代音楽シーンで注目を集めるフランスのピアニスト&作曲家メレーヌ・ダリベール(Melaine Dalibert)にインスパイアされたとのこと。
アルバムのテーマは「終わりのない変容」、繰り返し再生されることを目的としています。
そのためアナログ盤はロックド・グルーヴ仕様。
ホーンセクションによるサウンドテーマやソロを軸としたパートがDJミックスのようにつながり、無限にループする感覚を堪能できます。
おわりに
『cycli infini』が全1曲のアルバムだったので、リリース順にディスコグラフィをたどるかたちで紹介しました。
ざっくりアンビエントという括りで良作の多い昨今ですが、それぞれに音楽遍歴があって到達しているため、さまざまな要素が含まれているところが醍醐味と考えられます。
エールコ・トッパーも、フェルボム名義に至りつつさらに進化を続けているようです。
一人多重録音の『Tape』シリーズはローファイならではの味があり、アンサンブルが加わった『Elements of Nature』と『cycli infini』はもちろん、いずれも繰り返し堪能できるのではないでしょうか。
Zag Erlat(Zagor)がホストを務めるUKのYouTubeチャンネルMy Analog Journalのアナログ盤ミックス動画「Subtle Sonic Landscapes & Cycles with Felbm」(2023年8月3日)、以下のおすすめアルバムも併せてどうぞ。
ジェイソン・コラー『Liquid Rhythm』
Kankyō Records in store live vol.8】となる今回は、これまでベルギーの【https://t.co/ZaGbm1Uy2k】や【Dauw】などから素晴らしいリリースを重ねてきたスペイン、バルセロナの出身の音楽家"Cristian Subirà"によるプロジェクト"Jason Kolàr"の演奏会を行います。 pic.twitter.com/WFB8OiI2Aq
— Kankyōrecords (@kankyorecords) September 13, 2023
エルヴィウム『(Whirring Marvels In) Consensus Reality』
https://twitter.com/tobirarecords/status/1663434121446830085
CV & JAB『Κλίμα (Klima)』
https://twitter.com/tobirarecords/status/1714112791978868927
エリン・ピール『Ingrid Linnea』
https://twitter.com/tobirarecords/status/1710126708173717943
リンク
- Wikipedia:Soundway Records
- AllMusic:Felbm、Soundway、Eelco Topper、Falco Benz、Knobsticker
- Discogs:Felbm、cycli infini、Soundway、Eelco Topper、Falco Benz、Knobsticker
- Website:Felbm、Falco Benz、Knobsticker
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- Tower Records:Felbm、cycli infini/輸入盤LP、Knobsticker
- HMV:Felbm、輸入盤LP
- disk union:Felbm、輸入盤LP
- 春の雨(東京・中延):Felbm、輸入盤LP
- Kankyō Records(東京・三軒茶屋):Felbm、輸入盤LP
- 芽瑠璃堂(埼玉・坂戸):Felbm、輸入盤LP
- FunTricks Records(大阪・中津):Felbm、輸入盤LP
- JET SET(京都・東京):Felbm、輸入盤LP、輸入盤LP
- Spotify:Felbm、cycli infini、excerpt、Soundway、Eelco Topper、Falco Benz、Knobsticker
- Apple Music:Felbm、cycli infini、excerpt、Soundway、Eelco Topper、Falco Benz、Knobsticker
- Bandcamp:Felbm、cycli infini、excerpt、Soundway、Falco Benz、Knobsticker
- SoundCloud:Felbm、Soundway、Falco Benz、Knobsticker
- Mixcloud:Soundway、Falco Benz
- Vimeo:Knobsticker