ペルー在住歴のある埼玉・秩父のギタリスト笹久保伸(Shin Sasakubo)さんの36作目『Picture』は、ブラジルのクラリネット奏者ジョアナ・ケイロス(Joana Queiroz)とのデュオ。
https://twitter.com/shinsasakubo/status/1675389627589611520
「これがフォルクローレか」と納得したくなるものの、生楽器による環境音楽(アンビエント)のようなアプローチは現代音楽(実験音楽)的でもあり、ブラジル・ミナス新世代のジャズっぽさもそこはかとなく漂うなど、明確なジャンル分けは不可能です。
ともあれ神がかり的に心地いい「民俗の記録」を紐解きましょう。
文京区立水道端の季刊誌 『水 sui』
Joana Queiroz&笹久保伸のアルバムに関する文を掲載してくださいました。
司書による美しい文、嬉しいです。
音楽ライターには書けない文章かもしれません。
ありがとうございます😊
図書館でゲットしてください。秋には図書館で公演をやります、皆さまぜひ⭐️ pic.twitter.com/UMNmk3eMYO
— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) June 30, 2023
Contents
はじめに
笹久保伸(Shin Sasakubo)
1983年11月7日、埼玉・秩父生まれ、ペルー在住(0歳~1歳、2004年~2008年)を経て、秩父を拠点に活動するギタリスト。
https://twitter.com/baroom_tokyo/status/1668412061158899712
Shin Sasakubo笹久保伸 guest : marucoporoporo : velvetsun village
イルマ・オスノ(Irma Osno)、サム・ゲンデル(Sam Gendel)、marucoporoporo(マルコポロポロ)さん、ガブリエル・ブルース(Gabriel Bruce)など、多数コラボしています。
笹久保伸はなぜ、そしてどのようにしてサム・ゲンデルら海外の音楽家たちとつながり、作品を残しているか。https://t.co/Vk27JSqpGU
秩父での呪術的体験を、ブラジル・ミナスの音楽家とともに作品にする。フォークロアとジャズの切り口に、大石始と原雅明がその活動の秘密に切り込む。@shinsasakubo
— CINRA (@CINRANET) July 4, 2023
ジョアナ・ケイロス(Joana Queiroz)
1981年6月5日生まれ、ブラジル・リオデジャネイロ出身、リオのほか、サンパウロやベロオリゾンチ(ブラジル南東部:ミナスジェライス州)を拠点とするクラリネット奏者(マルチ奏者)&作曲家(SSW)、本名はジョアナ・ケイロス・ヴィヴェイロス・デ・カストロ(Joana Queiroz Viveiros De Castro)。
初来日となるクラリネット奏者のJoana Queirozの2016年のソロアルバムBoa Noite pra Falar com o Mar 、めちゃくちゃいい。深く沁みて、にじむような良さあり。
Spotifyhttps://t.co/82ZTnsdup9
Apple Musichttps://t.co/SLkdlHPZUf
SoundCloudhttps://t.co/t8Ux7vbWJi pic.twitter.com/rUPt1EdcJz
— ᖴᖇᑌE (@FRUE_JP) October 6, 2019
Work in Progress: Rafael Martini & Joana Queiroz – Savassi Festival 2020
イチベレ・ズヴァルギ(Itibere Zwarg)のバンドメンバーを約10年務め、エルメート・パスコアール(Hermeto Pascoal)、ジルベルト・ジル(Gilberto Gil)、エグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)、アントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)、ハファエル・マルチニ(Rafael Martini)、キケ・シネシ(Quique Sinesi)、カルロス・アギーレ(Carlos Aguirre)、アカ・セカ・トリオ(Aca Seca Trio)らとコラボし、クアルタベー(Quartabê)、ガイア・ウィルマー・ラージ・アンサンブル(Gaia Wilmer Large Ensemble)のメンバーとしても活動しています。
Picture
笹久保伸さんにとって36作目となる、ジョアナ・ケイロスとのデュオアルバム『Picture』(2023年2月7日、Chichibu Label)は、全10曲・37分あまり。
「自己表現を超え、民俗などを記録する」というテーマで、秩父とブラジル、それぞれの拠点にてオンラインでやりとりし、制作されたそうです。
アンデス音楽(フォルクローレ)、現代音楽、ジャズの要素が混在する、幻想的な美しさに浸りましょう。
本日4月16日の読売新聞(埼玉版)にインタビューが掲載されました。
笹久保伸37作目のアルバム『Catharsis』の記事です。
今日の新聞をチェックしてください⭐️このアルバム制作を応援してくださった皆様、本当にどうもありがとうございました。
マイナーな活動ですが、地道に続けていきます。 pic.twitter.com/MDeZACbt6y
— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) April 16, 2023
【1】Picture I
ひとくちにラテンアメリカ(中南米)のラテン音楽といっても「(唯一ポルトガル語圏の)ブラジル音楽は含まない」という考え方もあり、同じスペイン語圏でもアルゼンチン音楽、ペルーなどのアンデス音楽といった違いがあり、さらに細分化されています。
笹久保伸さんが幼少期から親しみ、実際に在住して学んだのはアンデス音楽(フォルクローレ)、ジョアナ・ケイロスのルーツはブラジル音楽になるでしょう。
ところが笹久保伸さんは「フォルクローレのギタリスト」とカテゴライズされることを嫌い、ジョアナ・ケイロスはアルゼンチン音楽、アンデス音楽、ミナス新世代のジャズも踏まえつつ、それぞれに留まらない印象を受けます。
2人に共通しているのは、常に前衛的(アバンギャルド)な姿勢でしょうか。
秩父のお祭りを体験したことが『Picture』の着想になったそうですが、「Picture I」には太鼓などのお祭りらしい音は入っていません。
まるで生楽器によるアンビエントのように、ギター とクラリネットの1音1音が静かに響きます。
どうやらこのアルバムは「お祭りの音楽と重ねて聴くように作られた」ようです。
お祭りにインスパイアされても、お祭りらしい音を再現するのではなく(むしろお祭りらしい音を一切省き)、寄り添う音楽を生み出したという話でしょう。
何とも前衛的な「民俗の記録」です。
さすがです。
まさに一緒に重ねて聴くのを意識して作ってます。
ありがとうございます。— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) February 2, 2023
【2】Picture II
「ジョアナ・ケイロスのスキャットは、独自の祭囃子なのかもしれない」と想像が膨らむ「Picture II」。
異世界の呪術的、魔術的なお祭りを連想したくなるミニマルミュージックのようです。
『アイデンティティ』
という問題(課題)が常にあるけど、最近やっと自分なりに言語化できるようになってきて、インタビューなどで答え始めています。 https://t.co/yBgjDWj5S9— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) June 22, 2023
【3】Picture III
「Picture III」に漂うサウダージ(哀愁)は、ブラジル南東部リオで成立した、即興ジャズのようなショーロ(Choro)やボサノバ、あるいはブラジル北東部のノルデスチなどの影響もあるでしょうか。
[Spiral Paper Web更新]
音楽連載「Musica Callada 12──私の都会の小さな園 」
テキスト:ジョアナ・ケイロスhttps://t.co/cVUxz2AWF6— SPIRAL (@SPIRAL_jp) December 18, 2019
【4】Picture IV
現代音楽、前衛音楽のニュアンスが色濃くにじむ「Picture IV」。
浮遊感あふれる幽玄の境地に誘われます。
笹久保伸さんのSNSの投稿を踏まえると、このアルバムの「重ねて聴くことを想定する」という試みは、お祭りの音はもちろん、日常的な環境音にも当てはまるようです。
music by
Shin Sasakubo & Joana QueirozLP album『Picture』 pic.twitter.com/EVhgGMRNeo
— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) June 18, 2023
【5】Picture V
「Picture V」は包容力満点の子守歌のような響きです。
— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) June 18, 2023
【6】Picture VI
ジョアナ・ケイロスのボーカルも加わり、より子守歌らしさが増し、地球や宇宙に包まれるほどの安心感すら覚える「Picture VI」。
人間の愚かさを洗い流すような慈愛に満ちています。
ヌエバ・カンシオン(スペイン語:Nueva canción、意味:新しい歌)という音楽運動に通じるところもあるでしょうか。
nueva cancion
ラテンアメリカの『新しい歌』と呼ばれた音楽運動の代表的な歌 pic.twitter.com/J8z2ukCJNl— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) June 24, 2023
【7】Picture VII
笹久保伸さんのギターとジョアナ・ケイロスのクラリネットの掛け合いによる「異次元のマジカルな音世界」に感嘆させられる「Picture VII」。
ジョアナ・ケイロスの素晴らしさは共作する前から知っていたけど、共作してみてさらにその素晴らしさを知った。
器楽奏者としてはちょっと異次元にいて、見ていて言葉を失う。
作業が早い。作っていてとても感動した。
光栄だった。
彼女のマジカルな音世界を学ぶことができた。 pic.twitter.com/d3sT2TUL06— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) February 4, 2023
ドライブしながら「波や風の音と重ねて聴く」のも極上でしょう。
https://twitter.com/shinsasakubo/status/1670431377999941634
【8】Picture VIII
「Picture VIII」に至る頃には、すっかり心が浄化されているのではないでしょうか。
笹久保伸の音楽の背景にあるもの。#秩父民俗学 https://t.co/5ZnV3o48BP
— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) July 4, 2023
【9】Picture IX
高音のギターと低音のクラリネットによるミニマルミュージックのような「Picture IX」。
残された余白にさまざまな想像をふくらませながら、心地いい揺らぎに身を委ねたくなります。
— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) June 27, 2023
【10】Picture X
「Picture X」の余韻を残した終わり方も、染みるものがあります。
呪術的、魔術的な展開も垣間見えつつ、ぎりぎり穏やかなまま幕を閉じるところにも、「自己表現を超える」というテーマが潜んでいたように感じられました。
自我のぶつかり合いによって愚かな行為を繰り返すのが、人間の性かもしれません。
お祭りなどの民俗的な儀式には、邪念を払う願いが込められているでしょう。
アルバム『Picture』にも、長年培われてきた浄化作用が記録されていたのではないでしょうか。
秩父民俗学の記録
これは僕が残した記録の中でも最も重要なものの1つ。
別々に鳴らされる音楽レイヤーが予期されない形で交差し異空間を作っていた。
魔術的な音響とはまさにこの事。
風習でありながら詩的であり、魔術的な歩行。僕の音楽作品はここから来ている。 pic.twitter.com/SR8pkYRujm
— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) May 3, 2023
おわりに
笹久保伸さんは36作目『Picture』に続き、37作目としてブラジル・ミナス(ベロオリゾンチ)のドラマー、ガブリエル・ブルース(Gabriel Bruce)とのデュオアルバム『Catharsis』(2023年6月7日、Chichibu Label)もリリースしました。
⭐️サブスク解禁⭐️
笹久保伸の最新作、ついにサブスク解禁しました🍄❤️
現代ブラジルJAZZ界を代表する
ドラマー、ガブリエル・ブルースとのデュオ作品です。皆さま、ぜひ。
LP(Vinyl)でも発売中です。『Catharsis』
Shin Sasakubo&Gabriel Brucehttps://t.co/F2pUzr9DhA pic.twitter.com/3QAZBV6bfA— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) July 1, 2023
三味線奏者やサンポーニャ奏者ともコラボしているほか、2023年はアルゼンチン出身のジャズ歌手ガブリエラ・ベルトラミーノ(Gabriela Beltramino)、新世代ジャズピアニスト、ジャメル・ディーン(Jamael Dean)とのコラボ作もリリース。
クラシック、現代音楽、南米音楽、ジャズ、アイヌ音楽、邦楽の奏者と音楽を共有してきて、最近はジャズの音楽家と音楽を作る一方で、三味線奏者とも仕事があります。
学びの連続です。他者と共有すると自分が何なのかが、より鮮明に見えてくるように思います。#秩父 pic.twitter.com/KscZ4StdSj
— SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) May 30, 2023
精力的に活動されています。
アンデスやブラジルから、アイヌ、ハービー・ハンコック、人力ルーパーの演奏も一続きで本当にオリジナルだった。絶妙なリヴァーブの余韻も。関われて良かった。満員御礼。#shinsasakubo #笹久保伸 pic.twitter.com/hZgjdraiL8
— Masaaki Hara 原 雅明 (@masaakihara) July 5, 2023
ジョアナ・ケイロス「Memórias」
ルーパーなどのエフェクターも駆使するフルート奏者ジョアナ・ケイロスも然り。
リーダー作はもちろん、笹久保伸さんの30作目『CHICHIBU』(2021年6月7日、Chichibu Label)にも参加しているほか、多方面で活躍しています。
「自己表現の手段として音楽がある」タイプではなく、「音楽そのものを追求した結果、自分が見えてくる」同志が各所で折々に邂逅し、静かなる音楽運動を展開していると捉えることもできるかもしれません。
個人レベルでも、社会規模でも、争いはなかなか絶えませんが、『Picture』を繰り返し聴いたり、笹久保伸さんとジョアナ・ケイロスの関連作を深めたりすると、心を穏やかに保ちやすくなりそうです。
とくに『Picture』は折に触れて「さまざまな音と重ねて聴く」ことによって、リスナーそれぞれの「情景の記録」にもなり得るのではないでしょうか。
リンク
- Wikipedia:Joana Queiroz
- AllMusic:笹久保伸、Joana Queiroz、Joana Queiroz、Joana Queiroz Quarteto、Gaia Wilmer Large Ensemble
- Discogs:笹久保伸、Joana Queiroz、Picture、Chichibu Label、Quartabê、Gaia Wilmer Large Ensemble
- Website:笹久保伸、Chichibu Label、Quartabê、Gaia Wilmer Large
- X(Twitter):笹久保伸、Joana Queiroz、Quartabê
- Instagram:Joana Queiroz、Quartabê
- Facebook:笹久保伸、Joana Queiroz、Quartabê
- Link:Picture
- YouTube:笹久保伸、Joana Queiroz、笹久保伸/Topic、Shin Sasakubo/Topic、Joana Queiroz/Topic、Picture、Quartabê
- Tower Records:笹久保伸、Joana Queiroz、Joana Queiroz Quarteto、Quartabê、Gaia Wilmer Large Ensemble
- HMV:笹久保伸、Joana Queiroz、Quartabê、Gaia Wilmer Large Ensemble
- disk union:笹久保伸、Joana Queiroz、笹久保伸&ジョアナ・ケイロス、Picture、イルマ・オスノ×笹久保伸、サム・ゲンデル&笹久保伸、marucoporoporo & Shin Sasakubo、笹久保伸&ガブリエル・ブルース、Quartabê、Gaia Wilmer
- ranamusica(東京・下北沢):笹久保伸、Joana Queiroz、Picture
- RECONQUISTA(東京・綾瀬):笹久保伸、Joana Queiroz、Picture
- TURN ON(千葉・松戸):笹久保伸、Joana Queiroz、Picture
- Spotify:笹久保伸、Shin Sasakubo、Joana Queiroz、Picture、Quartabê、Gaia Wilmer Large Ensemble
- Apple Music:笹久保伸、Joana Queiroz、Picture、Quartabê、Gaia Wilmer Large Ensemble
- Bandcamp:Joana Queiroz、Quartabê
- SoundCloud:笹久保伸、Joana Queiroz、Quartabê
- Myspace:Joana Queiroz