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バイセップ『Isles』ワールドミュージック好き、リスニング向きのダンスミュージック

バイセップ(Bicep)の『Isles』(アイルズ)はロックダウン中に制作された、リスニング寄りのダンスミュージック。
北アイルランドの故郷を意識した、音源コレクターならではの多様な音楽性が魅力です。

はじめに


イギリス(UK)北アイルランドの首都ベルファスト出身、ロンドンを拠点に活動する、マット・マクブライアー(Matthew McBriar)とアンディ・ファーガソン(Andrew Ferguson)によるエレクトロニックデュオ、バイセップ。

2009年、幼なじみの2人で音楽事務所&DJデュオとしてバイセップを結成し、作成したブログ「Feel My Bicep」にディスコシカゴハウスデトロイトテクノイタロディスコなどの音源を紹介するブロガーとして人気を博し、自作のリリースを始めました。

Glue


2017年に<Ninja Tune>(ニンジャ・チューン)と契約し、1stアルバム『Bicep』(同年9月1日)をリリース。
1万人規模のダンスフロアを沸かせるトップアーティストになりました。

2ndアルバム『Isles』(2021年1月22日)は、先行シングル4曲を含む全10曲・49分26秒、ボーナストラック3曲が追加された国内盤CDとデラックス盤は全13曲・1時間2分。

第41回ブリット・アワード2021のブリティッシュ・グループ賞とブレイクスルー・アーティスト賞にノミネートされました。

【1】Atlas


ユニット名のバイセップは上腕二頭筋という意味で、ロゴにも腕3本が描かれています。

アルバム収録1曲目のシングル「Atlas」(2020年3月25日)の映像を見ると、謎多き深海生物のようなアルバムジャケットは手を動かしたものだとわかります。

サウンドは80年代のシンセと最新のモジュラーシンセのハイブリッド。

オフラ・ハザ「Love Song」


イスラエルの歌手オフラ・ハザOfra Haza)のアルバム『Shaday』(1988年11月)に収録されているアカペラ曲「Love Song」のサンプルがエキゾチックに響きます。

そのロングトーンはヘブライ語「וּנְהָרוֹת」(音訳:vuneharot)で、「そして川」という意味。

このサンプルを使用したそもそものきっかけは、マットが80年代のイタロディスコをディグっていたときに、オフラ・ハザのイタロディスコ調のアルバム『Broken Days』(1986年9月、Yamim Nishbarimימים נשברים)と出くわしたからだったとか。

Atlas Sampling

Global Stream Ⅰ:Atlas Snippet

USA Announce

USA Spring 2022

【2】Cazenove


「Cazenove」はとくにダンスフロアで踊るより、リスニング向き。
90年代ヒップホップのサンプリング文化を牽引したサンプラーAKAI MPC」と、リバーブ・プロセッサー(2chリバーブレーター)「LexiconレキシコンPCM96」を駆使して作られました。

【3】Apricots


アルバム収録2曲目のシングル「Apricots」(2020年10月6日)ではサンプルが2つ使われています。

Gebede-Gebede「Ulendo Wasabwera」


ポリリズムの効いたボーカルサンプルはアフリカ・マラウイGebede-Gebedeの「Ulendo Wasabwera」。

<Beating Heart>からリリースされた、ヒュー・トレイシーHugh Tracey)録音によるV.A.Malawi Originals』(2016年8月)に収録されています。

ブルガリア国立放送合唱団「Svatba」


もう1つのサンプルは、ブルガリア国立放送合唱団Bulgarian State Television Female Vocal Choir)のアルバム『Le Mystère des Voix Bulgares』(The Mystery of Bulgarian Voices、1975年)に収録されている「Svatba (The Wedding)」です。

Apricots Sampling

6 Music Festival 2021

Directors Commentary

Global Stream Ⅰ:Trailer

Warehouse Project Manchester

【4】Saku (feat. Clara La San)


UKマンチェスターを拠点に活動するR&BのSSWクララ・ラ・サンClara La San)をゲストに迎えた、アルバム収録3曲目のシングル「Saku」(2020年11月17日)。

90年代の甘いR&Bと、IDMフットワーク(重低音のベースや3連符、ポリリズムなどのビートが特徴的)の要素を取り入れた、イカついUKガラージのコントラストに痺れます。

Official Audio

Global Stream Ⅱ:Announce

Global Stream Ⅱ:Trailer 1

Global Stream Ⅱ:Trailer 2

Clara La San Feature

【5】Lido


ビートのないインタールード(間奏曲)のような「Lido」。
ソフトシンセでサンプルを加工する際、波形を粒子(グレイン)に分割して合成するグラニュラーシンセシス(Granular Synthesis)という方式が用いられており、多数のレイヤーによる厚みのあるサウンドが荘厳です。

【6】X (feat. Clara La San)


「X」では再びクララ・ラ・サンをフィーチャー。
ビンテージのドラムシンセ「Pearl Syncussion SY-1」のレプリカ「Psycox Syncussion SY-1M」を軸に、アナログシンセAlesis Andromeda A6」によるメロディがエモーショナルに響きます。

Official Audio

Global Stream:Montage Snippet

【7】Rever (feat. Julia Kent)


「Rever」にはカナダ・バンクーバー出身、米ニューヨークを拠点に活動するチェロ奏者&作曲家ジュリア・ケントJulia Kentのボーカルとバリの楽器演奏が盛り込まれています。

【8】Sundial


アルバム収録4曲目のシングル「Sundial」(2021年1月12日)は、ポリフォニックシンセRoland Jupiter-6 JP-6」の音飛びの不具合をあえて活かして作られました。

Bhupinder Singh & Asha Bhosle「Jab Andhera Hota Hai」


さらにボリウッド映画Raja Rani(1973年)の劇中歌Bhupinder Singh & Asha Bhosle「Jab Andhera Hota Hai」のサンプリングが使われています。

マットとアンディは毎年カーニバルやフェスティバルが開催される多文化なイースト・ロンドンで暮らしているため、日常的に多様な音楽が流れていて、とくに魅了されたのがインド音楽

インドの音楽家チャランジット・シンCharanjit Singh)の『Ten Ragas To A Disco Beat』(1982年)経由で、インド音楽がアシッドハウスの元祖の可能性があると気づいたり、2人にとってなじみ深いアイルランドのバンド、クラナドClannad)との共通点を見出したりしたそうです。

Sundial Sampling

【9】Fir


「Fir」は、2人が愛用しているVOXシンセのコーラスを活用して作られた、バイセップ史上もっとも速い曲の1つです。

【10】Hawk (feat. machìna)


国内盤CDとデラックス盤以外のラスト曲「Hawk」では韓国出身、東京を拠点に活動する電子音楽家&シンガーmachìnaマキーナ)のボーカルがフィーチャーされています。

メロディはグラニュラーサンプラーで加工されたアンディらの声で、日本のアナログシンセ「Kawai(Teisco)SX-240」によるノイズが不思議なサウンドを生み出しています。

【11】Light


ボーナストラック3曲のうち「Light」は、シンセのリフと4つ打ちビートを軸に、ボイスサンプルが効果的に使われたミニマルチューンです。

【12】Siena (feat. Clara La San)


野太いビートから始まる「Siena」では、クララ・ラ・サンの艶っぽいボーカルとドローン的なシンセの音色が立体的に響き渡ります。

【13】Meli (I)


シンセのピコピコ音と幽玄なコーラスが変幻自在に渦巻く「Meli (I)」。
ゆったりリラックスしたアルファ波状態に導かれることでしょう。

おわりに

インドアの時間が長くなり、DTMで音楽を制作してみようと考える人も増えたはず。
フロアで踊り倒したいと思って『Isles』を聴いた人も触発されたかもしれませんね。

地域や新旧を問わず、おもしろい音楽をディグり、再構築して独特のハイブリッドサウンドを生み出しているバイセップ。
ブログをきっかけに世界が広がることもあるという夢物語にも勇気をもらえたのではないでしょうか。

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渡辺和歌
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