音楽

ミシェル・ンデゲオチェロ『The Omnichord Real Book』至高のブルーノート・デビュー作!

ジョシュ・ジョンソン(Josh Johnson)のプロデュースが冴え渡る、ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)の『The Omnichord Real Book』。
ゲスト陣も豪華な名盤と話題になっています。

はじめに


1968年8月29日、西ベルリン生まれ、米バージニア州を経て、ワシントンD.C.育ち、ニューヨークを拠点とするベーシスト(マルチ奏者)&SSW&プロデューサーのミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)。
本名はミシェル・リン・ジョンソン(Michelle Lynn Johnson)、アーティスト名のンデゲオチェロ(Ndegeocello)はスワヒリ語で「鳥のように自由」という意味です。

ロバート・グラスパー「Better Than I Imagined feat. H.E.R. & Meshell Ndegeocello」


グラミー賞に10回以上ノミネートされています。

イベイー「Transmission/Michaelion (feat. Meshell Ndegeocello)」


イベイー(Ibeyi)のアルバム『Ash』(2017年9月29日、XL)にはベースで参加。

サム・ゲンデル「Anywhere (feat. Meshell Ndegeocello)」


サム・ゲンデル(Sam Gendel)のアルバム『COOKUP』(2023年2月24日、Nonesuch)にはボーカルで参加しています。

The Omnichord Real Book


ブルーノート移籍第1弾(通算13th)の2枚組(2LP)アルバム『The Omnichord Real Book』(オムニコード・リアル・ブック、2023年6月16日、Blue Note Records)は、先行シングル4曲を含む、全18曲・約1時間12分。
国内盤CD(Universal Music)は、ボーナストラック「ジ・アトランティクス」を含む、全19曲・約1時間18分です。
アルバムタイトルのオムニコードOmnichord)は、1981年に発売された鈴木楽器製作所の電子楽器。
新型コロナのパンデミック中に、ギタリストのクリス・ブルース(Chris Bruce)からもらった誕生日プレゼントだそうです。
リアル・ブックReal Book)』は、1971年にチック・コリアChick Corea)らが原本を作成したジャズスタンダードなどのリードシート(楽譜)集。
ゴーゴーやファンクのベーシストとしてバンド活動を始めたデューク・エリントン芸術学校在学中、アメリカ陸軍軍楽隊に所属するジャズサックス奏者だった父ジャック・ジョンソン(Jacques Johnson)から贈られ、両親が亡くなった後に再発見。
どちらも今回のアルバム制作のインスピレーションになったそうです。
プロデューサーはジョシュ・ジョンソンJosh Johnson)。
クリス・ブルースのほか、ジェフ・パーカーJeff Parker)やブランディー・ヤンガーBrandee Younger)など、25人以上もの名アーティストが参加した極上の傑作です。

クレジット

【1】Georgia Ave (feat. Josh Johnson)

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル、キーボード、ベース、オムニコード
  • ジョシュ・ジョンソン:サックス、ボーカル
  • エイブ・ラウンズ:パーカッション、ボーカル
  • クリス・ブルース:アコギ、ボーカル
  • ジャスティン・ヒックス:ボーカル
  • ジェビン・ブルーニ:ハモンドB-3オルガン、キーボード、ボーカル
  • ケニータ・ミラー:ボーカル

「Georgia Ave(ジョージア・アヴェニュー)」は、ミシェル・ンデゲオチェロが音楽を学んだハワード大学もある、ワシントンD.C.の大通りへのオマージュ。
70年代にワシントンD.C.で生まれたゴーゴーを彷彿とさせるビートに、アコギ、ボーカル、ベース、鍵盤が重なります。

【2】An Invitation

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル、キーボード、シンセベース、オムニコード
  • ジョシュ・ジョンソン:サックス、ボーカル
  • エイブ・ラウンズ:ドラム、パーカッション、ボーカル
  • クリス・ブルース:ボーカル
  • ジャスティン・ヒックス:ボーカル
  • ジェビン・ブルーニ:キーボード、ボーカル
  • ケニータ・ミラー:ボーカル

両親の死後に募った「道に迷ったのではないか」という心配が表現された「An Invitation(アン・インヴィテーション)」。
レトロなビートと浮遊感の漂うサウンドが秀逸です。

【3】Call The Tune

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル
  • ジョシュ・ジョンソン:サックス、ボーカル
  • クリス・ブルース:アコギ
  • ジェビン・ブルーニ:キーボード
  • ハンナ・ベン:クワイア

「すべてはうまくいっている」と自分に言い聞かせるような「Call The Tune(コール・ザ・チューン)」。
クリス・ブルースの指弾きのアコギ、ジョシュ・ジョンソンのアルトサックス、ハンナ・ベンのクワイア、ジェビン・ブルーニの鍵盤が優しく響きます。

【4】Good Good (feat. Jade Hicks, Josh Johnson)

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル、キーボード、ベース
  • ジョシュ・ジョンソン:サックス
  • エイブ・ラウンズ:ドラム
  • クリス・ブルース:アコギ
  • ジェビン・ブルーニ:ピアノ、キーボード
  • ジェイド・ヒックス:ボーカル

「Good Good(グッド・グッド)」では、ジャスティン・ヒックス、ケニータ・ミラー(・ヒックス)、ジェイド・ヒックスによるボーカルトリオ、ザ・ホットプレーツから、ジェイド・ヒックスのボーカルがフィーチャーされています。

【5】Omnipuss

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ベース、オムニコード
  • エイブ・ラウンズ:ドラム、パーカッション
  • クリス・ブルース:エレキギター
  • ジェビン・ブルーニ:キーボード

作曲する際に活用したというオムニコードが、演奏楽器として取り入れられているのは1曲目「Georgia Ave」、2曲目「An Invitation」、そして5曲目「Omnipuss(オムニプス)」の3曲のみ。
とくにインスト「Omnipuss」の音色が印象的です。

【6】Clear Water (feat. Deantoni Parks, Jeff Parker, Sanford Biggers)

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル
  • ジェフ・パーカー:エレキギター(ソロ)
  • ディーントニ・パークス:ドラム
  • ジュリアス・ロドリゲス:クラビコード、ハモンドB-3オルガン
  • クリス・ブルース:ベース、エレキギター(ワウ)、ボーカル
  • ジョシュ・ジョンソン:サックス、ボーカル
  • サンフォード・ビガーズ:ボーカル
  • ジャスティン・ヒックス:ボーカル
  • ジェビン・ブルーニ:ボーカル
  • エイブ・ラウンズ:ボーカル、パーカッション

第4弾シングル「Clear Water(クリア・ウォーター)」(2023年5月26日)。
スライ・ストーン(Sly Stone)のファンク魂が反映されつつ、ジェフ・パーカーのギターがブルージーに響くなど、聴きどころ満載です。

【Live】Official Video

【7】ASR (feat. Jeff Parker)

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル、ベース
  • エイブ・ラウンズ:ドラム、パーカッション、ボーカル
  • ジェフ・パーカー:エレキギター(ソロ)
  • クリス・ブルース:エレキギター
  • ジャスティン・ヒックス:ボーカル
  • ケニータ・ミラー:ボーカル
  • ジェビン・ブルーニ:キーボード、ボーカル

「ASR」ではアフロビートっぽいリズムに乗った、ミシェル・ンデゲオチェロの野太いベースやジェフ・パーカーの繊細なギターなどが光ります。

【Live】Official Video

【8】Gatsby (feat. Cory Henry, Joan As Police Woman)

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル
  • クリス・ブルース:エレキギター
  • ジョーン・アズ・ポリス・ウーマン:ボーカル
  • コリー・ヘンリー:ピアノ

哀愁漂うバラード「Gatsby(ギャツビー)」。
ミシェル・ンデゲオチェロのボーカルに加え、コリー・ヘンリーのピアノとジョーン・アズ・ポリス・ウーマンのボーカルがフィーチャーされています。

【9】Towers (feat. Joel Ross)

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル、キーボード、ベース
  • エイブ・ラウンズ:ドラム、パーカッション
  • クリス・ブルース:エレキギター
  • ジェビン・ブルーニ:キーボード
  • ジョエル・ロス:ビブラフォン

「Towers(タワーズ)」では、ジョエル・ロスのビブラフォンやミシェル・ンデゲオチェロのベースなどが多層的に美しく響きます。

The Omnichord Real Book EPK

【10】Perceptions (feat. Jason Moran)

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル
  • ジェビン・ブルーニ:キーボード
  • ジェイソン・モラン:ピアノ

ジェイソン・モランのピアノがフィーチャーされた「Perceptions(パーセプションズ)」。
ドローン的なキーボードと併せて、外の世界と内なる世界の対比が表現されているようです。

【11】THA KING (feat. Thandiswa)

  • タンディスワ:スポークンワード

「THA KING(タ・キング)」では、タンディスワがスポークンワードを披露しています。

【12】Virgo (feat. Brandee Younger, Julius Rodriguez)

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル、シンセベース、キーボード
  • ケニータ・ミラー:ボーカル
  • Marsha DeBoe:ボーカル
  • クリス・ブルース:エレキギター、ベース、プログラミング
  • ブランディー・ヤンガー:ハープ
  • ジュリアス・ロドリゲス:ファルフィッサオルガン
  • ジェビン・ブルーニ:キーボード
  • エイブ・ラウンズ:ドラム、パーカッション、ボーカル
  • ディーントニ・パークス:ドラム
  • Andrya Ambro:ドラム

リード曲かつ第1弾シングルの「Virgo(ヴァーゴ)」(2023年3月22日)。
サン・ラ(Sun Ra)の宇宙思想アフロフューチャリズムの現代版ともいえる世界観が展開されています。
ミシェル・ンデゲオチェロのボーカルやシンセベース、ブランディー・ヤンガーのハープ、ジュリアス・ロドリゲスのファルフィッサオルガン、分厚いリズム隊など、多層的なアンサンブルが刺激的です。

【13】Burn Progression (feat. Hanna Benn, Ambrose Akinmusire)

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル、ベース
  • ジョシュ・ジョンソン:サックス
  • エイブ・ラウンズ:パーカッション、ボーカル
  • ハンナ・ベン:ボイス
  • ディーントニ・パークス:ドラム
  • アンブローズ・アキンムシーレ:トランペット
  • ダニエル・ミントセリス:キーボード

アンブローズ・アキンムシーレのトランペットとハンナ・ベンのボイスがフィーチャーされた「Burn Progression(バーン・プログレッション)」。
フリージャズ前衛ジャズスピリチュアルジャズフリーファンクなどの雰囲気が感じられます。

【14】oneelevensixteen

  • ジェビン・ブルーニ:キーボード

インストの「oneelevensixteen(ワンイレヴンシックスティーン)」がアンビエントなインタールードのように挟まる構成も魅力的です。

【15】Vuma (feat. Thandiswa, Joel Ross)

  • タンディスワ:ボーカル
  • クリス・ブルース:エレキギター
  • ジェビン・ブルーニ:キーボード
  • エイブ・ラウンズ:ドラム、パーカッション
  • ジョエル・ロス:ビブラフォン
  • バーニス・トラヴィス2世:ベース

第2弾シングル「Vuma(ヴ―マ)」(2023年4月14日)。
タンディスワのボーカルとジョエル・ロスのビブラフォンのほか、ハイライフっぽいギターなどのアンサンブルで盛り上がります。

【16】The 5th Dimension (feat. The Hawtplates)

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル、シンセベース、キーボード
  • ジェイク・シャーマン:キーボード、ベース、ボコーダー
  • ジョシュ・ジョンソン:サックス、ボーカル
  • ジャスティン・ヒックス:ボーカル
  • ケニータ・ミラー:ボーカル
  • ジェイド・ヒックス:ボーカル
  • エイブ・ラウンズ:ドラム、ボーカル
  • ジェビン・ブルーニ:キーボード、ボーカル
  • クリス・ブルース:エレキギター、ボーカル

第3弾シングル「The 5th Dimension(ザ・フィフス・ディメンション)」(2023年5月5日)。
ザ・ルーツ(The Roots)やソウルクエリアンズ(Soulquarians)のクエストラヴ(Questlove)が監督を務めたドキュメンタリー映画『サマー・オブ・ソウル』(2021年)にスパイアされたそうです。
その映画の流れで、ザ・ホットプレーツの3人とコーラスグループのフィフス・ディメンション(The Fifth Dimension)が重なります。

【17】Hole In The Bucket (feat. The Hawtplates)

  • ジャスティン・ヒックス:ボーカル、キーボード、プログラミング
  • ケニータ・ミラー:ボーカル
  • ジェイド・ヒックス:ボーカル

引き続き、ザ・ホットプレーツの3人がフィーチャーされた「Hole In The Bucket(ホール・イン・ザ・バケット)」。
ヨーロッパ民謡「バケツの穴」やアメリカ民謡「There’s a Hole in My Bucket」を彷彿とさせつつ、ゴスペル調のアカペラに仕上がっています。

【18】Virgo 3 (feat. Oliver Lake (Arr.), Mark Guiliana, Brandee Younger, Josh Johnson)

  • ミシェル・ンデゲオチェロ:ボーカル、シンセベース、キーボード
  • ジョシュ・ジョンソン:サックス
  • ケニータ・ミラー:ボーカル
  • クリス・ブルース:エレキギター、ベース
  • ブランディー・ヤンガー:ハープ
  • ジュリアス・ロドリゲス:ファルフィッサオルガン
  • ジェビン・ブルーニ:キーボード
  • オリヴァー・レイク:編曲
  • マーク・ジュリアナ:ドラム

12曲目「Virgo」をオリヴァー・レイクがアレンジした「Virgo 3(ヴァーゴ3)」。
ドラムがマーク・ジュリアナになり、ジョシュ・ジョンソンのサックスが加わるなど、より前衛的な結末を迎えます。

https://twitter.com/turntokyo/status/1669650047238291457

おわりに


人種や性別、個人的な悲しみのほか、ジャズ、R&B、ファンクといったジャンルからも解放されるほど、おもしろい音楽を生み出しているミシェル・ンデゲオチェロ。
とくに今回のアルバムでは、オムニコードのおかげでパソコンから離れた作曲が可能になり、音楽家たちが演奏したくなる『リアル・ブック』を作ることができたという展開でしょう。
ベテラン・若手、有名・無名を問わず、音楽の喜びを共有できる相手とコラボする姿勢も、傑作の誕生に貢献したようです。
ますます世の中が混沌とするなか、この穏やかなグッドミュージックから良いエネルギーを受け取る人も多いのではないでしょうか。

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渡辺和歌
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