音楽

テーム・インパラ『The Slow Rush』サイケポップ&ダンスミュージックの名盤!

幻のフジロック’20(新型コロナの影響により開催中止)で初日のヘッドライナーを務める予定だったテーム・インパラ(Tame Impala)。
国内アーティストのみの2021年を経て、2022年4月1日に第1弾ラインナップが発表されると、名前がないにもかかわらず(あるいは、それゆえ)トレンドに浮上しました。
失った時間は戻りませんが、最新アルバム『The Slow Rush』をおさらいしておきましょう!

はじめに


テーム・インパラ(意味:飼い慣らされたインパラ)は1986年1月20日、オーストラリア・シドニー生まれ、パース育ちのケヴィン・パーカー(Kevin Parker)によるサイケデリックミュージックプロジェクトかつバンドです。


スタジオレコーディングによる音源では、ケヴィンが作詞・作曲・プロデュースからボーカル・全演奏・ミックスまで手がけ、ライブでは5人組のバンド編成で演奏します。
https://twitter.com/tameimpala/status/1501708297681846276

アルバム

EP

The Slow Rush


4thアルバム『The Slow Rush』(2020年2月14日)は6曲のシングルを含む全12曲・57分あまり、国内盤CDはボーナストラックを含む全13曲・1時間2分あまりです。

The Slow Rush In An Imaginary Place


サイケデリックロックの1st、サイケデリックポップも混ざった2nd、さらにディスコやR&B要素が加わった3rdで高い評価を得たテーム・インパラ。
それからケヴィン自身、米カリフォルニア州ロサンゼルスの自宅の火事(2018年)や結婚(2019年)を経て、5年がかりで完成したサイケデリックポップ&ダンスミュージックの4thも、第63回グラミー賞(2021年)の最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞にノミネートされました。
「ゆっくり急ぐ」という矛盾をはらんだタイトルどおり、まるで時間が伸び縮みするかのような浮遊感を堪能しましょう。

【1】One More Year


ボコーダーを使ったロボットボイスでダフト・パンクDaft Punk)っぽく「もう1年」と繰り返しながら、ファルセットで時間の概念について歌う「One More Year」。
シンセポップ的な途切れ途切れトレモロ)のシンセサイザーによるグリッチの効いたループ、ハウス的な跳ねるビートなどが相まって、ザ・ストーン・ローゼズThe Stone Roses)に代表されるマッドチェスター(マンチェスターサウンド、60年代サイケデリックロックの80年代後半から90年代にかけてのリバイバル)のようにも聴こえます。

【Remix】NTS Version

【2】Instant Destiny


「Instant Destiny」では永遠に続く運命の結婚を決意し、クレイジーなこと(プロポーズ)をしようとする瞬間が描かれています。
ファルセットボイス、キラキラしたシンセ、シロフォンなどの音色が多層的に重なるところが印象的。

【3】Borderline


第1弾シングル「Borderline」(2019年4月12日、意味:境界線)は、ディスコやAOR的なヨットロックYacht Rock)の影響を受けたサイケデリックポップ
シングルバージョンはベースラインが弱かったという理由でストリーミングサービスから削除され、モーグシンセベースで低音が強調されるなど、リワークされたアルバムバージョンが収録されています。

【Live】Saturday Night Live

【Live】The Tonight Show

【Remix】Blood Orange Remix

【Talk】triple j

  1. 01:40:【4】Posthumous Forgiveness
  2. 04:22:【8】Lost in Yesterday
  3. 05:16:【3】Borderline
  4. 09:31:【6】Tomorrow’s Dust
  5. 10:35:【7】On Track

【4】Posthumous Forgiveness


第3弾シングル「Posthumous Forgiveness」(2019年12月3日、意味:死後の許し)は、ブルースプログレの要素を含んだスペースロック
両親の離婚により疎遠なまま2009年に亡くなった父親に対する複雑な思いが吐露されています。
結果的に、「混乱した怒り」が表現された前半から、「雨上がりの日差し」がテーマの後半へとつながる二部構成になりました。

【5】Breathe Deeper


第5弾シングル「Breathe Deeper」(2020年2月14日、意味:深呼吸)は、ファンクやR&Bの要素を含んだサイケデリックポップ
マライア・キャリーMariah Carey)、ザ・ネプチューンズThe Neptunes)、ファレルPharrell)の影響を受けていて、約6分半のうち最後の約1分半にはダフトパンクのシングル「Da Funk」(ダ・ファンク、1995年5月、1stアルバム『Homework』1997年1月)が入っています。

【Live】Jimmy Kimmel Live!

【Live】triple j’s Like A Version

【Live】Tiny Desk (Home) Concert

  1. 【5】Breathe Deeper
  2. 【9】Is It True
  3. 【13】Patience

【Remix】Lil Yachty Remix

【6】Tomorrow’s Dust


ギターのリフや野太いシンセベースなどの多層的なサウンドが70年代ソウルっぽい「Tomorrow’s Dust」。
時間をテーマに「明日(未来)のほこりは今日(現在)の空気に存在し、すぐに過ぎ去る」といった内容が描かれています。
最後の電話の女性は、妻のソフィー・ローレンス(Sophie Lawrence)。

【Sample】Max Pertl「Self Alignment (feat. Sebastian Binderberger)」

【7】On Track


「On Track」はスーパートランプSupertramp)やミートローフMeat Loaf)などのパワーバラードに触発されたダウンテンポ
ピアノ、ドローンっぽいシンセサイザー、ドラムで構築されるサウンドが印象的に響きます。
「夢を叶えることが奇跡のように思えても、軌道に乗っているから大丈夫」と寄り添ってくれる、永遠の楽観主義者のためのナンバーです。

【Live】ARIA Awards 2020

【Live】Acoustic Live

【8】Lost in Yesterday


第4弾シングル「Lost in Yesterday」(2020年1月8日)はファンクやダブの要素が取り入れられたサイケデリックポップですが、第63回グラミー賞では最優秀ロック・ソング賞にノミネートされました。
ノスタルジアを失うことを恐れつつ、「過去のトラウマを手放す必要がある」と促しています。

【Live】Jimmy Kimmel Live!

【9】Is It True


第6弾シングル「Is It True」(2020年8月7日)はディスコやファンクを基調としたダンスチューン
男性が「愛している」と言っても、不確かな未来を恐れるあまり「本当?」と信じられない女性の葛藤が描かれています。

【Live】The Late Show

【Live】BBC Radio1 Annie Mac Session

【Remix】Four Tet Remix

【10】It Might Be Time


第2弾シングル「It Might Be Time」(2019年10月28日)は、スーパートランプ的な70年代プログレっぽいメロディー、歪んだドラム、クインシー・ジョーンズQuincy Jones)が手がけた刑事ドラマ「鬼警部アイアンサイド」(1967年~1975年)のテーマ曲「Ironside」を彷彿とさせるサイレンが特徴的なサイケデリックロック&ダンスミュージック
歌詞で描かれているのは、アルバムのメインテーマ「時間の経過」そのものです。

【Talk】Clique TV

【11】Glimmer


「きらめき」を意味するインタールードのような「Glimmer」はレイヴ的、マッドチェスター的なハウス
冒頭のサンプルは「ベースやキックドラムを良くする方法は、音量を上げること?」といった内容です。

【Sample】RSR083 – Jeff Turzo

【12】One More Hour


国内盤CD以外は「One More Year」(もう1年)で始まり、「One More Hour」(もう1時間)で終わる構成で、ケヴィンが自分の居場所にたどり着いたことが表現されています。
激しいギターとドラム、ミニマルかつ壮大なシンセサイザーが印象的なサイケデリックロックです。

【13】Patience


国内盤CDにボーナストラックとして追加されたシングル「Patience」(2019年3月22日、意味:忍耐)は、ディスコやヨットロックが融合したサイケデリックポップ
3rdアルバムから4thアルバムまで、あるいは恋人関係から結婚までの時間経過には忍耐が必要だったはずです。
とくに自宅の火事でパソコンとベース以外の機材を失ったことが大変だったと考えられますが、心地いいファルセットのボーカルを聴くと、過去のトラウマからの解放を共有できるのでないでしょうか。

【Live】Saturday Night Live

【Live】Coachella

【Remix】Maurice Fulton Remix

おわりに

『The Slow Rush』は当初アナウンスされたリリース日が延期されるという経緯もありました。
実際にリリースされた2020年2月頃から、新型コロナのパンデミックにより時間が止まったり、逆に時間だけが進んだりするような妙な感覚に陥った人も多いはず。
ケヴィンがアルバム制作のために5年がかりで体感した「時間の経過」は、今の私たちにも通じるところがあるような気がします。
何があろうと「軌道に乗っているから大丈夫」と前向きに進んでいきましょう!

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渡辺和歌
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