音楽

激渋新譜4選!ケンドリック・ラマー、ザ・スマイル、シド、イベイー

2022年4月から5月にかけてリリースされた渋すぎる新譜といえば、シド(Syd)の『Broken Hearts Club』、イベイー(Ibeyi)の『Spell 31』、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)の『Mr. Morale & The Big Steppers』、ザ・スマイル(The Smile)の『A Light For Attracting Attention』の4枚。
じっくり聴いていきましょう!

【1】シド『Broken Hearts Club』


1992年4月23日生まれ、米カリフォルニア州ロサンゼルス出身のシドは、ラッパーのタイラー・ザ・クリエイターTyler, The Creator、1991年3月6日生まれ、カリフォルニア州ラデラハイツ出身)率いるオルタナティブ・ヒップホップ集団オッド・フューチャー(Odd Future)のエンジニア、ボーカル、DJ、プロデューサーとして活躍しています(2007年~2016年、2018年~)。

ジ・インターネット「Girl (feat. Kaytranada)」


2011年にSSWとしてソロデビューを果たし、5人組ネオソウルバンド、ジ・インターネット(The Internet)を結成したシド。
3rdアルバム『Ego Death』(エゴ・デス、2015年6月26日)は第58回グラミー賞(2016年)で最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞にノミネートされました。

Broken Hearts Club


ソロ名義の2ndアルバム『Broken Hearts Club』(2022年4月8日)は8曲目「Getting Late」(2019年11月15日)、13曲目「Missing Out」(2021年2月12日)、3曲目「Fast Car」(2021年7月16日)、4曲目シド&スミノSmino)「Right Track」(2021年9月10日)、1曲目シド&ラッキー・デイLucky Daye)「CYBAH」(Could You Break A Heart、2022年3月18日)の先行シングル5曲を含む、全13曲・約39分。
テーマは失恋ですが、ゲストやオマージュも多彩で、コロナ禍で傷つきがちな心にも寄り添ってくれる極上のネオソウルといえるでしょう。

【1】シド&ラッキー・デイ「CYBAH」

【3】Fast Car

【4】シド&スミノ「Right Track」

【8】Getting Late

【13】Missing Out

【2】イベイー『Spell 31』


西アフリカのヨルバにルーツをもつ、キューバ系フランス人の双子姉妹デュオ、イベイー(1994年12月13日生まれ)。

ロイ・ハーグローヴズ・クリソル『Habana』


2人の父は、パーカッション奏者のミゲル・”アンガ”・ディアスMiguel “Angá” Díaz)。
アフロキューバンジャズバンドのイラケレ (Irakere)、スライドギターの名手ライ・クーダーRy Cooder)が参加したキューバ音楽バンドのブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブBuena Vista Social Clubヴィム・ヴェンダース監督のドキュメンタリー映画でも知られる)、第40回グラミー賞(1998年)で最優秀ラテン・ジャズ・パフォーマンス賞を受賞したロイ・ハーグローヴズ・クリソルRoy Hargrove’s Crisol)のアルバム『Habana』(ハバナ、1997年)などで活躍しました。

Spell 31


3rdアルバム『Spell 31』(2022年5月6日)は3曲目イベイー&パ・サリュPa Salieu)「Made of Gold」(2021年11月18日)、4曲目「Sister 2 Sister」(2022年2月10日)、8曲目イベイー&ジョルジャ・スミスJorja Smith)「Lavender & Red Roses」(2022年3月31日)、9曲目ハードコアパンクバンド、ブラック・フラッグBlack Flag)の1stアルバム『Damaged』(1981年12月5日)収録曲のカバー「Rise Above (feat. BERWYN)」(2022年4月27日)の先行シングル4曲を含む、全10曲・約26分。
R&Bやネオソウルを軸に、脈々と受け継がれてきたルーツミュージックと最先端のヒップホップや電子音楽が絶妙に絡み合い、唯一無二の境地に誘われます。

【3】イベイー&パ・サリュ「Made of Gold」

【4】Sister 2 Sister

【8】イベイー&ジョルジャ・スミス「Lavender & Red Roses」

【9】Rise Above (feat. BERWYN)

【3】ケンドリック・ラマー『Mr. Morale & The Big Steppers』


1987年6月17日生まれ、カリフォルニア州コンプトン出身のラッパー、ケンドリック・ラマー。

The Heart Part 5

  1. Section.80』(セクション80)2011年7月2日
  2. good kid, m.A.A.d city』(グッド・キッド、マッド・シティー)2012年10月22日
  3. To Pimp A Butterfly』(トゥ・ピンプ・ア・バタフライ)2015年3月16日:第58回グラミー賞(2016年)最優秀ラップアルバム賞受賞
  4. DAMN.』(ダム)2017年4月14日:第60回グラミー賞(2018年)最優秀ラップアルバム賞受賞、ピューリッツァー賞・音楽部門(2018年)受賞

Mr. Morale & The Big Steppers


2枚組の5thアルバム『Mr. Morale & The Big Steppers』(ミスター・モラル&ザ・ビッグ・ステッパーズ、デジタル:2022年5月13日→CD:2022年6月3日)は、シングルカットされた2曲目「N95」(2022年5月20日)を含む、全18曲・1時間13分あまり。
プロデューサーに常連のサウンウェイヴSounwave)やDJダヒDJ Dahi)のほか、UKサウスロンドン出身のマルチアーティスト、デュヴァル・ティモシーDuval Timothy)が加わり、ピアノを演奏(1・5・6・11曲目)。
トリップホップ(90年代にUK西部の港町ブリストルで発祥)の先駆者ポーティスヘッドPortishead)のボーカル、ベス・ギボンズBeth Gibbons)がフィーチャーされた17曲目「Mother I Sober」には、常連のベース奏者サンダーキャットThundercat)が参加しています(4曲目にも参加)。


3rdアルバム『To Pimp A Butterfly』(2015年3月)にジャズピアニストのロバート・グラスパーRobert Glasper)を招き、ヒップホップ側からジャズとの融合を図ったケンドリック・ラマー。
その時点で音楽の革新はすでに起きていましたが、それでも5thアルバムを聴いたラッパーのエミネムEminem)は言葉を失いました。
今回も従来のヒップホップやブラックミュージック、ジャンルのクロスオーバーなど、音楽そのものの概念が刷新される偉大な一歩が踏み出されたのではないでしょうか。

【1】United In Grief

【2】N95

【5】Father Time (feat. Sampha)

【6】Rich (Interlude)

【7】Rich Spirit

【11】Crown

【13】Savior (Interlude)

【14】Savior (with Baby Keem & Sam Dew)

【17】Mother I Sober (feat. Beth Gibbons)

【4】ザ・スマイル『A Light For Attracting Attention』


UKのロックバンド、レディオヘッド(Radiohead)のボーカルなどのトム・ヨーク(Thom Yorke、1968年10月7日生まれ)とギターなどのジョニー・グリーンウッド(Jonny Greenwood、1971年11月5日生まれ)、新世代UKジャズを牽引するサックス奏者シャバカ・ハッチングスShabaka Hutchings)率いるジャズバンド、サンズ・オブ・ケメット(Sons Of Kemet)のドラム、トム・スキナー(Tom Skinner、1980年1月26日生まれ)の3人が2021年5月に活動開始したロックバンド、ザ・スマイル。

  • 右、トム・ヨーク:ボーカル、ベース、ギター、キーボード、ピアノ
  • 中、ジョニー・グリーンウッド:ギター、ベース、キーボード、ピアノ、ハープ
  • 左、トム・スキナー:ドラム、パーカッション、キーボード、コーラス

A Light For Attracting Attention


ナイジェル・ゴッドリッチNigel Godrich)プロデュース、ボブ・ラドウィックBob Ludwigマスタリングによるデビューアルバム『A Light For Attracting Attention』(デジタル:2022年5月13日→CD・LP:2022年6月15日)は、3曲目「You Will Never Work In Television Again」(2022年1月5日)、5曲目「The Smoke」(2022年1月27日)、13曲目「Skrting On The Surface」(2022年3月17日)、4曲目「Pana-vision」(2022年4月3日)、9曲目「Free In The Knowledge」(2022年4月20日)、7曲目「Thin Thing」(2022年5月9日)の先行シングル6曲を含む、全13曲・53分あまり(国内盤CD:全14曲)。
https://twitter.com/nigelgod/status/1525183693941252098

UKロックとUKジャズが融合され、サンズ・オブ・ケメットのチューバ奏者テオン・クロスTheon Cross)やロンドン・コンテンポラリー・オーケストラLondon Contemporary OrchestraLCO)による管弦楽アンサンブルが加わったラスト13曲目に至る流れが圧巻です。
https://twitter.com/nigelgod/status/1525194267123240960

【3】You Will Never Work In Television Again


https://twitter.com/nigelgod/status/1525184952454860801

【4】Pana-vision


https://twitter.com/nigelgod/status/1525192849897185286

【5】The Smoke

【7】Thin Thing

【9】Free In The Knowledge

【11】Waving A White Flag

【13】Skrting On The Surface

The Smoke (Dennis Bovell RMX)


2022年3月3日にアルバム未収録のシングルとしてリリースされた、「The Smoke」のデニス・ボーヴェルDennis Bovell、1953年5月22日)によるダブリミックスも渋すぎます。

おわりに

シドとイベイーの心地いいR&Bに浸っていたら、同日リリースのケンドリック・ラマーとザ・スマイルに衝撃を受けたという洋楽ファンも多いのではないでしょうか。
とくにケンドリック・ラマーの新譜は世の中の停滞ぶりをものともせず、未来の音楽を先取りした印象を受けました。
たとえばFワードの連発は社会的にはモラルに反するものの、ケンカの絶えない英語ネイティブにとっては日常茶飯事であり、ヒップホップでは王道のスタイル。
そこでアルケミストThe Alchemist)がプロデューサーに加わった8曲目「We Cry Together (with Taylour Paige)」は女優&ダンサーのテイラー・ペイジとのケンカ腰の会話形式になっていて、UKサウスロンドン出身のSSWフローレンス・ウェルチFlorence Welch)率いるインディーロックバンド、フローレンス・アンド・ザ・マシーンFlorence + The Machine)「June」(4thアルバム『High as Hopeハイ・アズ・ホープ2018年6月29日)のサンプルが使われています。
このように定石を軽々と乗り越え、安易に奇をてらうわけでもなく、音楽を進化させることだけに集中した結果、ケンドリック・ラマーは人類未踏の領域を突き進んでいるのではないでしょうか。
「何だ?これは」と言語化できない部分が腑に落ちるまでには時間がかかるかもしれません。
ともあれ「音楽は進化し続けている」と感じさせてくれる先導者が存在すること自体、非常に励みになりますね。

Syd

Ibeyi

Kendrick Lamar

The Smile

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渡辺和歌
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