青い湖は遠くから眺めると太陽の光を受けた水面がキラキラ輝き、退屈なほど心地いいだけかもしれませんが、ひとたび飛び込むと思いのほか底が深い可能性も秘めています。
ブルー・レイク(Blue Lake)のアルバム『Sun Arcs』はさらっと聴き流しても心地よく、レフトフィールドな音楽ファンにとってはツボにハマるポイントだらけの名盤といえるでしょう。
Contents
はじめに
米テキサス出身、スウェーデン南西部ハッランド地方ウンナリド(Unnaryd)郊外の山小屋&主催レジデンシー(滞在)プロジェクト、アンデルサボ(Andersabo、2016年~)を経て、デンマーク・コペンハーゲンを拠点とするマルチ奏者&楽器製作者ジェイソン・ダンガン(Jason Dungan)によるソロプロジェクト、ブルー・レイク(Blue Lake)。
Blue Lake, the immersive musical project of Jason Dungan, pictured here with his newly released album ‘Sun Arcs’.
Limited vinyl copies are out there in the world and it’s available to stream and download in all the usual places.#bluelake #sunarcs pic.twitter.com/qc45KBKOL2
— Tonal Union (@TonalUnion) July 26, 2023
Sun Arcs
4thアルバム『Sun Arcs』(2023年6月23日、Tonal Union)は、先行シングル3曲を含む、全8曲・40分あまり。
「ヒップホップ(ビート)とジャズの融合」に続いて進化の目覚ましい「フォークとジャズが融合したアンビエント」のようでもあり、音響派やポストロック的な実験性、前衛性も感じられる傑作です。
@pitchfork feature 'Sun Arcs' by Blue Lake as 'Best New Music' and album.
Thanks to Sam Sodomsky for the reviewhttps://t.co/rleCvsySQ3
— Tonal Union (@TonalUnion) June 29, 2023
クレジット
- ジェイソン・ダンガン:作曲、演奏(48弦ツィター、アコギ、キーボード、ポンプオルガン、チェロ、クラリネット、アルトリコーダー、ドラム&小型パーカッション、Roland 606 ドラムマシン)、レコーディング、カバーイラスト
- Christian Ki Dall:レコーディング(M8)
- ジェフ・ジーグラー(Jeff Zeigler):ミックス
- ステファン・マシュー(Stephan Mathieu):マスタリング
- アンドレアス・カウフェルト(Andreas Kauffelt):ラッカー盤カッティング
- アダム・ヘロン(Adam Heron):アートディレクション、デザイン
https://twitter.com/turntokyo/status/1692012917036830785
【1】Dallas
ブルー・レイクことジェイソン・ダンガンの故郷テキサス州第3の都市ダラスの地名がつけられた「Dallas」。
アメリカの古き良き時代のフォークソング、アメリカーナのようにノスタルジックに爪弾かれるアコギのほか、パーカッションのアレンジ、クラリネットやオルガン、チェロのドローンも印象的です。
北欧デンマークに住むアメリカ人として、2016年からフェスなどを開催してきたスウェーデンの山小屋アンデルサボへ1週間一人で旅行した際に、今回のアルバム制作が始まったとのこと。
アメリカ、デンマーク、スウェーデンの3か国、およびフォーク、ジャズ、アンビエントが独自に融合した不思議なサウンドに仕上がっています。
Blue Lake's – Sun Arcs album is featured in 'The Best Ambient' on @Bandcamp with the brilliant words by @tddvsss https://t.co/r81QBIpnGL#bluelake #bandcampfriday #ambient #tonalunion
— Tonal Union (@TonalUnion) August 4, 2023
【2】Green-Yellow Field
第1弾シングル「Green-Yellow Field」(2023年3月29日)。
ジェイソン・ダンガンが自作した48弦ツィターを奏でる様子は、UKロンドン&ブライトンを拠点とする作曲家&ビジュアルアーティストのアレックス・コゾボリス(Alex Kozobolis)、アルバム『Sun Arcs』をリリースしたロンドンのレーベルTonal Union主宰者かつジャケットのデザインも手がけたアダム・ヘロンが監督したMVで観ることができます。
ツィターといえばララージ(Laraaji)を連想する人も多いかと思われますが、実際にララージの作品も手がけ、メアリー・ラティモア(Mary Lattimore)やスティーヴ・ガン(Steve Gunn)とのコラボでも知られる米フィラデルフィア出身の音楽家&プロデューサー&エンジニアのジェフ・ジーグラーがミックスを担当。
この辺りから、ジョン・フェイフィー(John Fahey)をリスペクトするジム・オルーク(Jim O’Rourke)的な「エクスペリメンタル(実験音楽)&アバンギャルド(前衛音楽)~アンビエント(環境音楽)~ポストロック」の系譜を読み取ることも可能でしょう。
さらに、コアなアンビエントファンが歓喜するステファン・マシューがマスタリングを手がけている点にも注目です。
'Rooted in his own personal experience as an American expat in Scandinavia, a good chunk of the album was conceived in Andersabo, Sweden, although the album’s rich pastoral nature feels deeply American'
Blue Lake -SUN ARCShttps://t.co/7haXSHol0Q pic.twitter.com/c4a7M6GyHy
— The Quietus (@theQuietus) July 10, 2023
【3】Bloom
第2弾シングル「Bloom」(2023年4月28日)。
発祥した時代の流れとしては「実験音楽~環境音楽」の間に位置するクラウトロックが取り入れられていて、ミニマルなギターリフが実験的なロック魂をあらわしています。
さらにスライドギター、ツィター、タンバリンのようなパーカッション、チェロのドローン、木管楽器などが多層的に重なり、北欧の開花の季節が目に浮かぶようです。
一人で多重録音する実験性に引き込まれるだけでなく、没入型のアンビエントとしても堪能できるでしょう。
Premiere! The day is bright on “Bloom,” the latest single from Blue Lake’s forthcoming "Sun Arcs." Using a hand-built 48-string zither, guitars, cello, woodwinds, & percussion he creates an expansive, resonant landscape glittering beyond the horizon. https://t.co/h0bZAkruAB pic.twitter.com/du98zueHio
— Brad E. Rose / Foxy Digitalis (@foxydigitalis) April 28, 2023
【4】Rain Cycle
第3弾シングル「Rain Cycle」(2023年5月26日)。
ドラムマシンによる規則的なハイハットのリズムは、地面に滴る雨音でしょうか。
オルガンのドローン、チェロやツィター、ギターの即興的な響きは、雨風に揺れる風景そのものを描写しているかのようです。
突然の夕立に雨宿りを余儀なくされているのかもしれませんし、嵐のような土砂降りのなかでも雨粒のきらめきを見出すような繊細な美しさが感じられます。
‘Rain Cycle’ is the latest single from Blue Lake, taken from the new album – Sun Arcs – which releases in full in just a few weeks on June 23. All inspired by nature's cyclical events.
Video by @alex_kozobolis #bluelake #tonalunion #sunarcs pic.twitter.com/f0gsSaBuJ4
— Tonal Union (@TonalUnion) June 1, 2023
【5】Writing
「Writing」は、ポロロンと指を滑らすハープのグリッサンドのようなツィターの響きが印象的。
音と光が同化して、キラキラ輝く大自然を想像することもできそうです。
「曲を書く=音楽を作る」という行為は、個人的な自我や人間の欲望を超越するほど尊いことなのではないかと信じたくなります。
Blue Lake ~ Sun Arcs https://t.co/7kI6FDdsXE
— a closer listen (@acloserlisten) June 22, 2023
【6】Fur
ジェイソン・ダンガンはスウェーデン・アンデルサボに旅行中、曲作りに没頭し、愛犬との森への散歩と空の太陽の軌跡のみで時間感覚を得ていたそうです。
その愛犬が隣の床で眠る様子が表現されたという「Fur」。
そう言われてみると、クラリネットのソロ、ポンプオルガン、ギターのレイヤーは犬の寝息のように響き、ドラムのリズム、ツィターのソロは夢の中で犬が走り回るイメージが湧いてきます。
まるでじゅうたんみたいに寝そべる姿が「毛皮=ファー」っぽいという話なのかもしれません。
飼い主とペットの仲睦まじい雰囲気まで伝わってくるようです。
[PRE-ORDER] Blue Lake – Sun Arcs
自作の琴、ドローン、クラリネット、スライド・ギター、ドラム・マシーンなどを織り交ぜたコペンハーゲンを拠点に活動するJason Dunganによるプロジェクト。
Pitchforkで8.3(Best New Music)に選出された話題盤。https://t.co/DDul8B8o4P— p*dis / Inpartmaint (@pdis) June 29, 2023
【7】Sun Arcs
タイトル曲「Sun Arcs」は、ツィターのソロと高音のスライドギターによって、太陽の輝きそのものが降り注ぐかのようです。
前衛音楽の前衛性や実験音楽の実験性、あるいは環境に溶け込むという意味での環境音楽さえも超越し、環境を生み出す音楽というか、いつどのような場所にいても自然と一体化する感覚に導かれるサウンドになっています。
もはや究極の音楽と呼びたくなる領域に達しているのではないでしょうか。
ロンドン〈Tonal Union〉より、ツィターやスライドギターなど弦楽器を軸に、フォークやジャズをジャーマン・ロック〜ポスト・ロックの視座から融合した美しいアルバム、Blue Lake『Sun Arcs』が登場。ピッチフォークをはじめ各所で高評価を獲得。早めのLP確保がおすすめです。[TOMC] pic.twitter.com/ZG08vpJmqF
— Kankyōrecords (@kankyorecords) August 26, 2023
【8】Wavelength
ジェイソン・ダンガンのアーティスト名ブルー・レイクは、米オクラホマシティで生まれ、スウェーデンに移住したジャズトランペット&コルネット奏者(マルチ奏者)ドン・チェリー(Don Cherry、1936年11月18日~1995年10月19日)のライブアルバム『Blue Lake』(1974年、BYG)に由来します。
約9分と長尺のラスト曲「Wavelength」は、そのドン・チェリーのアルバム『Blue Lake』、およびカナダ出身のアーティスト、マイケル・スノウ(Michael Snow、1928年12月10日~2023年1月5日)監督による構造映画(実験映画、前衛映画)『Wavelength(波長)』(1967年)からインスピレーションを得たそうです。
ドン・チェリーの無駄を省いたパフォーマンス精神、マイケル・スノウの45分かけて部屋に飾られた写真にズームインするという境界のないミニマルな実験性にインスパイアされたのでしょう。
「ツィターのソロ~オルガンのドローン~アルトリコーダーのソロ~ツィター&アルトリコーダー~ツィターのソロ」と限られた楽器が多層的に連なる構成で、光り輝くような音の波長が表現されています。
フォーク(アメリカーナ)、ジャズ、アンビエントといったジャンル、あるいは北欧とアメリカという国の境界にとらわれないジェイソン・ダンガンらしい自画像が描かれていたのではないでしょうか。
ドン・チェリー「Blue Lake」
コペンハーゲン拠点のアーティストBlue Lakeによる最新アルバムが、Adam Heron主宰レーベルTonal Unionよりアナログで登場!自作のチター、ドローン、スライドギター、ドラムマシンを織り交ぜて作り上げた親密かつ牧歌的で広々としたインスト系アンビエント・フォーク作品!https://t.co/8b0BKR8SfK pic.twitter.com/dch5l2r9uQ
— Meditations (@_meditations_) August 24, 2023
おわりに
ジェイソン・ダンガンは、ドイツのフリージャズ・サックス奏者ペーター・ブロッツマン(Peter Brötzmann)とオランダのフリージャズ・ドラマー、ハン・ベニンク(Han Bennink)のデュオアルバム『Schwarzwaldfahrt』(意味:シュヴァルツヴァルト断層、1977年、FMP)、米メンフィス出身の実験音楽家(作曲家&楽器製作者&演奏家)エレン・フルマン(Ellen Fullman)が開発した長弦楽器(Long String Instrument、LSI)の影響も受けているとのこと。
Ellen Fullman performs at MOCAD
ピッチフォークなどでも大絶賛された『Sun Arcs』はブルー・レイク名義の4枚目のアルバムで、それ以前の3作を聴くと、より実験的、前衛的なニュアンスが強いように感じます。
コアなアンビエントファンは、さかのぼって青い湖の底を目指したくなるのではないでしょうか。
ライブではカルテットなどのバンド編成とソロの両方でパフォーマンスするそうなので、一人多重録音の作品がどのように演奏されるのかを含め、今後の展開も楽しみです。
Blue Lake will play live in London at @cafeoto with a Quartet on October 9th
➜ Get Tickets: https://t.co/Y5f8w4MjoV#bluelake #tonalunion #cafeoto pic.twitter.com/Q2B9Ly8SAr
— Tonal Union (@TonalUnion) September 26, 2023
ディスコグラフィ
リンク
- AllMusic:Blue Lake、Sun Arcs、Tonal Union、Adam Heron、p*dis
- Discogs:Blue Lake、Sun Arcs、Sun Arcs、Tonal Union、Adam Heron、Inpartmaint、p*dis
- Website:Inpartmaint、p*dis
- Tempo:Sun Arcs/輸入盤LP
- Linktree:Blue Lake
- Liinks:Tonal Union
- X(Twitter):Tonal Union、Adam Heron、Inpartmaint、p*dis、Tempo
- Instagram:Blue Lake、Tonal Union、Adam Heron、Inpartmaint
- Facebook:Tonal Union、Inpartmaint、p*dis
- Link:Sun Arcs、Tempo
- Songwhip:Sun Arcs
- YouTube:Blue Lake、Topic、Sun Arcs、Tonal Union、Inpartmaint
- Tower Records:Blue Lake、Sun Arcs/輸入盤LP/Black Vinyl、輸入盤LP/Sun Yellow Vinyl
- HMV:Blue Lake、Black Vinyl、Sun Yellow Vinyl
- disk union:Blue Lake、Black Vinyl、Sun Yellow Vinyl
- Kankyō Records(東京・三軒茶屋):Blue Lake、輸入盤LP
- Meditations(京都・河原町丸太町):Blue Lake、Sun Yellow Vinyl
- STEREO RECORDS(広島・中町):Blue Lake、Sun Yellow Vinyl
- Spotify:Blue Lake、Sun Arcs、Tonal Union、Inpartmaint
- Apple Music:Blue Lake、Sun Arcs、Inpartmaint
- Bandcamp:Blue Lake、Sun Arcs、Tonal Union、Inpartmaint
- SoundCloud:Blue Lake、Tonal Union、Adam Heron、p*dis