ハファエル・マルチニ(Rafael Martini)の『Martelo』に続いておすすめしたいブラジル音楽がこちら、アバセ(Àbáse)の『Laroyê』(ラロイ)。
といっても、本人はブラジル人ではありません。
それでもブラジル音楽、とくにアフロブラジル音楽の現状と歴史を堪能できる傑作なので、しっかり押さえておきましょう。
Contents
- 1 はじめに
- 2 【1】Exu (Intro)
- 3 【2】Oya (feat Luciane Dom)
- 4 【3】Ile Ye (feat Jadson Xabla, Gabriel Santana)
- 5 【4】Caminhos (for Catoni)
- 6 【5】Agangatolú (feat Jadson Xabla, Gabriel Santana, Dr. Drumah, Fanni Zahár)
- 7 【6】O Fim (feat Tais Feijão)
- 8 【7】Avenida 7 (feat Lulera)
- 9 【8】Ela (feat Jesuton)
- 10 【9】Awo Ossanyin (feat Dofono de Omulu, Afrojazz)
- 11 【10】Ife L’ayo
- 12 【11】Onire
- 13 【12】Guetto (Sou Favela) (feat Fashion Piva, Jadson Xabla)
- 14 【13】Salasiano (feat Dani, Letieres Leite)
- 15 おわりに
はじめに
ハンガリー・ブダペスト出身、ドイツ・ベルリンを拠点に活動するプロデューサー、キーボード奏者(マルチ奏者)、DJのサボルチ・ボグナール(Szabolcs Bognár)率いるコラボレーション・プロジェクト、アバセ(Àbáse:西アフリカのヨルバ語で「コラボレーション」という意味)。
ハンガリー人プロデューサー/マルチ奏者がブラジルに住んで、現地で出会ったアフロブラジレイロに音楽を学びながら共に制作した傑作について取材しました
▷ interview Àbáse – Laroyê: カンドンブレからバイレファンキまで。ブラジルの今を捉えた音によるドキュメンタリー https://t.co/DQ5vgU9OKp
— 柳樂光隆 《Jazz The New Chapter》 (@Elis_ragiNa) October 22, 2022
Laroyê
デビューアルバム『Laroyê』(2021年11月5日、Oshu Records)は先行シングル6曲を含む、全13曲・55分あまり。
国内盤CD(2022年10月19日、Think! Records)は、ボーナストラック「Dossel – Ijexá de Fevereiro (feat Kallee) (Àbáse Remix)」を含む、全14曲です。
2017年、サボルチ・ボグナールは5か月かけてブラジルに旅行し、南東部のリオデジャネイロと北東部のサルヴァドール(バイーア)で出会った音楽家たちとコラボ。
ズーム(ZOOM)のレコーダーを用いて録音し、アルバムに仕上げました。
ÀBÁSE @ Festsaal Kreuzberg | LIVE IN BERLIN
- ファニ・ザハール(Fanni Zahár):フルート
- オリ・ジェイコブソン(Ori Jacobson):サックス
- エリック・オウス(Eric Owusu Sunday):パーカッション
- サボルチ・ボグナール:キーボード、ベル
- ジャコモ・タリアヴィア(Giacomo Tagliavia):ベース
- ジギー・ツァイトガイスト(Ziggy Zeitgeist):ドラム
2022年11月9日にベルリンで開催された、JAW Family主催のフェスティバル・クロイツベルク(Festsaal Kreuzberg)は、マカヤ・マクレイヴン(Makaya McCraven)とアバセのライブ、クートマ(Kutmah)のDJというラインナップでした。
- 00:10 INTRO
- 01:17 SHINING
- 05:47 Greeting Mother Sea
- 08:05 Orbit Sirius
- 17:15 Shango
- 22:39 Destruction Everywhere
2023年リリース予定の新譜に収録される新曲「Orbit Sirius (Sunmo Mi Ee)」「Shango」「Destruction Everywhere」が披露されています。
その新譜を待ったほうがいいような周回遅れのタイミングですが、『Laroyê』はアフロビート、ブラジル音楽、ヒップホップ、ジャズ、ネオソウル、クラブミュージックなどの要素が混然一体となった楽しすぎる名盤!
アフロブラジル音楽の現状と歴史を知るうえでも外せないので、地道に追いかけていきましょう。
【1】Exu (Intro)
- Luciane Dom:ボーカル
- Roque Miguel:パーカッション(コンガ、アゴゴ)
- Pedro Rondon:アディショナル・パーカッション
- サボルチ・ボグナール:キーボード(ローズピアノ、モーグ)、パーカッション(シェイカー)、ドラム・プログラミング
2分あまりのイントロ「Exu」から、早くもサンバに用いられる金属製のアゴゴなどのパーカッション、ボーカル、電子音楽、ビートミュージックが絶妙に絡み合い、太古と近未来が混在するような不思議な世界観に誘われます。
- 歌詞:Genius
【2】Oya (feat Luciane Dom)
- Luciane Dom:ボーカル
- Felipe Chernicharo:ギター
- Rico Manzano:小型ギター(カヴァキーニョ)
- Rodrigo Ferrera:ベース
- Roque Miguel:パーカッション(スルド、アゴゴ、ヘピニキ、シェイカー:ガンザ)
- ファニ・ザハール:フルート、サックス
- Philip Marcel:パーカッション(クイーカ)
- サボルチ・ボグナール:キーボード(ローズピアノ、Roland SH-2000)
サンバのリズムとネオソウルっぽいボーカルの掛け合わせが楽しい「Oya」。
ギターとベースも心地いい存在感を放ち、風に導かれて舞い踊ることで解放感が得られるようなにぎやかなアンサンブルになっています。
- 歌詞:Genius
【3】Ile Ye (feat Jadson Xabla, Gabriel Santana)
- Jadson Xabla:ボーカル、パーカッション
- Gabriel Santana:コーラス、パーカッション
- Karol Freitas:コーラス
- サボルチ・ボグナール:キーボード(ローズピアノ、Prophet、Roland SH-2000)、ドラム・プログラミング、コーラス
1曲目「Exu」と2曲目「Oya」が録音されたのはリオデジャネイロ州リオデジャネイロ市(以下、リオ)南部のボタフォゴ地区でしたが、3曲目「Ile Ye」はバイーア州サルヴァドール・ダ・バイーア市(以下、バイーア)南部のリオ・ヴェルメーリョ地区。
バイーアにはアフリカ系ブラジル人(アフロブラジレイロ)が多いこともあり、アフロブラジル音楽のリズムがクラブミュージックのスタイルに昇華されています。
【4】Caminhos (for Catoni)
- Catoni:ボーカル、ギター
- サボルチ・ボグナール:キーボード(ローズピアノ、シンセベース)、パーカッション、ドラム・プログラミング
第4弾シングル「Caminhos」(2021年9月1日)は、リオを拠点に活動したサンバのSSW&アコーディオン奏者(マルチ奏者)Catoni(1930年5月13日~1999年8月8日)へのオマージュ。
マッドリブ(Madlib)やJ・ディラ(J Dilla)をリスペクトするサボルチ・ボグナールらしいヒップホップトラックに彩られたサンバを堪能できます。
- Bandcamp:Caminhos
【5】Agangatolú (feat Jadson Xabla, Gabriel Santana, Dr. Drumah, Fanni Zahár)
- Jadson Xabla:ボーカル、パーカッション
- Gabriel Santana:コーラス、パーカッション
- Karol Freitas:コーラス
- Dr. Drumah(Jorge Dubman:IFÁ Afrobeat):ドラム
- ファニ・ザハール:フルート
- アントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro):ビブラフォン
- サボルチ・ボグナール:キーボード(ローズピアノ、シンセベース)、パーカッション、コーラス
第1弾シングル「Agangatolú」(2021年6月23日)では、ヒカルド・ヘルツ(Ricardo Herz)&アントニオ・ロウレイロの「Baião de Lacan」(アルバム『Herz & Loureiro』2014年5月26日、Borandá)より、ブラジル音楽ミナス新世代を代表するSSW&マルチ奏者アントニオ・ロウレイロ(出身と2013年頃以降の拠点はサンパウロ)のビブラフォン演奏がループでサンプリングされています。
サンプリング元の「Baião de Lacan」は、ブラジル北東部バイーアで1940年代後半に普及したダンス音楽&リズム、バイヨン (Baião)の人気曲。
そこにブーンバップ(Boom Bap)系ビートメイカーDr. Drumahのドラム、ハンガリー出身のフルート&サックス奏者ファニ・ザハールのフルートなどが加わりました。
ヒカルド・ヘルツ&アントニオ・ロウレイロ「Baião de Lacan」
【6】O Fim (feat Tais Feijão)
- Tais Feijão:ボーカル
- ファニ・ザハール:フルート
- Roque Miguel:パーカッション(シェイカー)
- サボルチ・ボグナール:キーボード(ローズピアノ、モーグ)、パーカッション、ドラム・プログラミング
リオで録音された「O Fim」。
アフロブラジル系のビートやパーカッションに、威勢のいい掛け声、ネオソウル系のボーカル、鳥の鳴き声、ハンドクラップ、鍵盤、フルートが重なり、ミニマルミュージックのようにも聴こえます。
【7】Avenida 7 (feat Lulera)
- Lucio de Paz:ボーカル、ギター
- Leco Lima:パーカッション
- Mátyás Tóth:ギター
- Ernő Hock:ベース、コーラス
- ファニ・ザハール:フルート、コーラス
- サボルチ・ボグナール:ドラム・プログラミング、コーラス
バイーアで録音された「Avenida 7」は、ブルージーなボーカルとアンサンブルの妙が印象的。
【8】Ela (feat Jesuton)
第2弾シングル「Ela」(2021年7月21日)。
UKロンドン生まれ、リオを拠点に活動するSSWジェストンがフィーチャーされ、録音時に窓から聴こえたというリオの街の音も入っています。
- Bandcamp:Ela
【9】Awo Ossanyin (feat Dofono de Omulu, Afrojazz)
- Dofono de Omul:ボーカル、パーカッション(アタバキ:ラム)
- Eduardo Santana:トランペット、コーラス
- Oswaldo Lessa:テナーサックス
- Thiago Queiroz:バリトンサックス
- Felipe Chernicharo:ギター
- Rodrigo Ferrera:ベース
- Roque Miguel:パーカッション
- Daniel Conceição:ドラム
- サボルチ・ボグナール:キーボード(ローズピアノ)、パーカッション(シェイカー)、コーラス
- Luciane Dom、Tais Feijão、Nana Orlandi、Dudu Lacerda、Pedro Rondon:アディショナル・コーラス
第5弾シングル「Awo Ossanyin」(2021年9月29日)は、西アフリカのヨルバに由来する、ブラジルの民間信仰カンドンブレのハーブのオリシャ(神)オサイン(Ossanyin)に捧げられたアフロビート。
Dofono de Omuluはカンドンブレの儀式で用いられるハンドドラムのアタバキ(ラム)を叩き、6人編成のコンテンポラリージャズバンドAfrojazzのほか、ブラジル北東部の伝統芸能マラカトゥ(Maracatu)のグループGrupo Maracutaiaのメンバーがコーラスで参加しています。
【10】Ife L’ayo
- Jadson Xabla:パーカッション
- Gabriel Santana:パーカッション
- サボルチ・ボグナール:パーカッション、キーボード(Prophet、Roland SH-2000)、ドラム・プログラミング
「Ife L’ayo」はクラブミュージック的なインストですが、パーカッションも心地よくなじんでいます。
【11】Onire
サボルチ・ボグナール:キーボード(ローズピアノ、モーグ、Roland SH-2000)、ドラム・プログラミング
「Ife L’ayo」では、ゴアトランスのDJをしている兄や一緒にクラブに通ったという姉の影響が感じられます。
【12】Guetto (Sou Favela) (feat Fashion Piva, Jadson Xabla)
- Fashion Piva:ボーカル
- Jadson Xabla:ボーカル、パーカッション
- Gabriel Santana:コーラス
- Roque Miguel:アディショナル・パーカッション
- サボルチ・ボグナール:キーボード(ローズピアノ、モーグ、Prophet)、ドラム・プログラミング
第3弾シングル「Guetto」(2021年8月11日)。
2000年代に生まれたヒップホップのトラップ、80年代にブラジルのゲットー(スラム、貧民街)ことファヴェーラ(Favela)で生まれたバイレファンキ(ファンクカリオカ)といった歴史の浅い音楽が、サンバのブロコ(チーム)の演奏するバトゥカーダ、テヘイロ(教会)で行われるカンドンブレの儀式音楽といった伝統的なブラジル音楽とつながるところが圧巻です。
- Bandcamp:Guetto
【13】Salasiano (feat Dani, Letieres Leite)
- Daní:ボーカル
- レチエレス・レイチ(Letieres Leite):フルート
- Jadson Xabla:パーカッション(ティンバレス)
- Paulo Giron:パーカッション(コンガ)
- Ernő Hock:ダブルベース
- ファニ・ザハール:アディショナル・フルート
- サボルチ・ボグナール:キーボード(ローズピアノ)、パーカッション(シェイカー)、ドラム・プログラミング
アフロブラジル音楽の巨匠レチエレス・レイチ(1959年12月8日~2021年10月27日)のフルートがフィーチャーされた、第6弾シングル「Salasiano」(2021年10月29日)。
つんのめるリズムと洒脱なダブルベースの組み合わせも楽しいアフロジャズで締めくくられました。
- Bandcamp:Salasiano
おわりに
アルバムタイトルの『Laroyê』(ラロイ)は、カンドンブレの運命のオリシャ、エシュの真言。
あの世とこの世、神々と人間などをつなぐ案内役エシュへの呼びかけの言葉だそうです。
ドイツで暮らすハンガリー人のサボルチ・ボグナールがブラジルを旅したことで、さまざまな文化や新旧の音楽がつながりました。
文化的にも音楽的にも深く掘り下げられていますが、背景を気にせずに聴いてもひたすらおもしろいところが真骨頂といえそうです。
アバセの新譜を楽しみにしつつ、ブラジル音楽の旅も続けていきましょう。
ディスコグラフィ
- 『Invocation』2019年5月23日、Cosmic Compositions / HHV
- EP『Elevate』2019年11月14日、Lekker Collective
- EP『Elevate: Remixes』2020年10月14日、Lekker Collective
- アバセ×ツァイトガイスト(Zeitgeist)『Body Mind Spirit EP』2021年5月7日、Jazz & Milk
リンク
- AllMusic:Àbáse
- Discogs:Àbáse、Laroyê
- Linktree:Àbáse、Think! Records
- Twitter:Àbáse、Think! Records
- Instagram:Àbáse、Oshu Records
- Facebook:Àbáse
- YouTube:Àbáse、Topic、Laroyê、Topic
- Tower Records:Àbáse、Laroyê/国内盤CD、輸入盤LP
- HMV:Àbáse、国内盤CD
- disk union:Àbáse、国内盤CD、輸入盤LP
- DIW PRODUCTS:Àbáse、国内盤CD
- RECONQUISTA(東京・綾瀬):Àbáse、国内盤CD、輸入盤LP
- 芽瑠璃堂(埼玉・坂戸):Àbáse、国内盤CD
- Newtone Records(大阪・西心斎橋):Àbáse、輸入盤LP
- JEUGIA Basic(京都・四条烏丸):Àbáse、国内盤CD
- Banguard(和歌山・御坊):Àbáse、輸入盤LP
- Spotify:Àbáse、Laroyê
- Apple Music:Àbáse、Laroyê
- Bandcamp:Àbáse、Laroyê、Agangatolú、Ela、Guetto、Caminhos、Awo Ossanyin、Salasiano、Oshu Records
- SoundCloud:Àbáse、Laroyê