『Betsu No Jikan』は元・森は生きている、岡田拓郎(Takuro Okada)さんの集大成ともいえる快作。
音楽理論を深めたい人、濃密な時空間を漂いたい人におすすめです。
Contents
はじめに
岡田拓郎さんは1991年8月22日、東京・青梅生まれ、福生育ちのSSW&ギタリスト(マルチ奏者)&プロデューサー。
本日LPのリリースが発表された、岡田拓郎のソロ作『Betsu No Jikan』についてインタビュー!
作品には、細野晴臣、ネルス・クラインら国内外の名手たちも参加。即興演奏を軸に独自の音世界を創造した。
その美しい音像ができるまでの話を聞いていこう。https://t.co/sYzO7AbTb6@outland_records
— ギター・マガジン (@guitarmagazine1) October 18, 2022
森は生きている
カントリーやソフトロックなど多様かつジャンルレスで、「はっぴいえんどとジム・オルーク(Jim O’Rourke)の融合」とも称された6人組バンド森は生きている(2012年~2015年)を経て、ソロや即興トリオ發展(Hatten)のほか、優河さん、前野健太さん、吉田ヨウヘイgroup、South Penguin(サウスペンギン)などのプロデュース、ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)、柴田聡子さん、never young beach(ネバーヤングビーチ)、安藤裕子さん、大貫妙子さんなどのサポートや演奏参加、文筆業といった多岐にわたる活動を展開しています。
- Ta_Utah(タユタ)さんのnote:岡田拓郎のこと。そのルーツと人
- 松永良平さんのブログ:森の話 mori no hanashi その1
ディスコグラフィ
- AL『Lonerism Blues』2014年12月15日、Sound Emphasizing Stillness Records
- AL『mujo』2016年12月16日、White Paddy Mountain
- AL『ノスタルジア』2017年10月4日、only in dreams
- EP『The Beach EP』2018年8月17日、only in dreams
- AL『都市計画(Urban Planning)』2020年5月20日、Newhere Music
- AL『Morning Sun』2020年6月10日、only in dreams
- AL『Guitar Solos』2021年7月27日
A_o「BLUE SOULS」
- 岡田拓郎:ミュージックステーション(2021年7月9日)でギター演奏
A_o 「BLUE SOULS」
AiNA THE END
三船雅也
岡田拓郎
西池達也
Marty Holoubek
竹内悠馬
大田垣正信#A_o #BLUESOULS #aina_the_end #rothbartbaron #三船雅也 #mステ pic.twitter.com/OG4kO7WbRa— 三船雅也 M a s a y a M i f u n e (@bearbeargraph) July 9, 2021
坂東祐大 feat. 塩塚モエカ(羊文学)「声よ」
Betsu No Jikan
- レコーディング:葛西敏彦、本田ゆか(元チボ・マット)、ジェシー・ピーターソン(Jesse Peterson)
- ミックス:岡田拓郎、葛西敏彦
- マスタリング:デイヴ・クーリー(Dave Cooley)
元はっぴいえんどの細野晴臣さんやジム・オルークなど、総勢14人のアーティストが参加したアルバム『Betsu No Jikan』(別の時間、デジタル・CD:2022年8月31日、LP:2022年11月30日、Newhere Music)は、先行シングル1曲を含む、全6曲・約43分です。
マスタリングは、J・ディラ(J Dilla)の2ndアルバム『Donuts(ドーナツ)』(2006年2月7日、Stones Throw Records)のほか、ジェフ・パーカー(Jeff Parker)の名盤『The New Breed』(2016年6月24日、International Anthem)、マカヤ・マクレイヴン(Makaya McCraven)の8thアルバム『In These Times』(2022年9月23日、International Anthem / Nonesuch Records / XL Recordings)も手がけた、デイヴ・クーリーが担当。
コロナ禍の2年間に、「即興演奏→エディット(編集)→即興演奏→エディット、サウンドコラージュ(切り張り、引用、サンプリング)、オーバーダブ(多重録音)」といったリモート作業込みのポストプロダクション重視で制作されました。
V.A.『Outro Tempo』
アルバムタイトルの由来は、コンピアルバム『Outro Tempo』(2017年3月20日、Music From Memory)。
「別の時間とはどういう意味なのか?」と想像しながら、耳を傾けてみましょう。
音楽と言葉のあいだでーー岡田拓郎と原雅明の対話。https://t.co/d3MyWKwruO
石若駿、サム・ゲンデル、細野晴臣らも参加した3枚目のソロ作『Betsu No Jikan』を、ギタリストとしての視点から掘り下げる。即興演奏とジャズ、ギター、言葉をめぐって語り合った。@outland_records @masaakihara
— CINRA (@CINRANET) December 4, 2022
【1】A Love Supreme
- 岡田拓郎:ピアノ、シンセサイザー、ギターシンセ(BOSS SY-300)
- サム・ゲンデル(Sam Gendel):アルトサックス
- 石若駿(Shun Ishiwaka):ドラム、パーカッション
先行シングル「A Love Supreme」(2022年8月10日)は、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)のアルバム『A Love Supreme(至上の愛)』(1965年1月、Impulse! Records)のカバー。
といっても、そもそも「カバーしよう!」という発想だったわけではなく、「土取利行さん(ガムラン)+トニー・ウィリアムス(Tony Williams)」という岡田拓郎さんのアイデアにより、石若駿さんに即興演奏してもらったところ、1楽章「Acknowledgement(承認)」の後半ではジョン・コルトレーン自身が「ア・ラーブ・ストリーム」と歌っているメロディー(テーマ)が聴こえてきて、実はカバーが少なく、いつかはカバーしたいと思っていたことから挑戦したそうです。
アルバムのほとんどで「岡田拓郎さんの即興演奏+石若駿さんの即興演奏」が基本となり、さらにゲストが加わる編成になっていて、1曲目ではサム・ゲンデルがアルトサックスでテーマを奏でています。
https://twitter.com/shunishiwaka/status/1574682920916512768
ジョン・コルトレーン『A Love Supreme』Platinum Collection
【2】Moons
- 岡田拓郎:作詞・作曲、ボーカル、ギター、ピアノ、シンセサイザー
- 谷口雄(Yu Taniguchi):ピアノ
- 石若駿:ドラム、パーカッション
- 細野晴臣:ログドラム(Log Drum、スリットドラム)
全6曲のうち唯一、歌もの楽曲の「Moons」。
石若駿さんのほか、元・森は生きているの谷口雄さんと細野晴臣さんが参加していて、細野晴臣さんの15thアルバム『MEDICINE COMPILATION(メディスン・コンピレーション)』(1993年3月21日、Epic/Sony Records)へのオマージュになっています。
曲名の由来は、ブラジル・ミナスの6人組バンド、ムーンズ(Moons)。
ボサノバ、エチオピアのピアニストのエマホイ・ツェゲ=マリアム・ゴブルー(Emahoy Tsegue-Maryam Guebrou)、「第四世界」という音楽概念を提唱した米メンフィス出身のトランペット奏者ジョン・ハッセル(Jon Hassell)など、さまざまなイメージが内包されています。
- 歌詞:AWA
細野晴臣『MEDICINE COMPILATION (2020 Remastering)』
ムーンズ『Dreaming Fully Awake』
エマホイ・ツェゲ=マリアム・ゴブルー『Ethiopiques, vol. 21: Emahoy (Piano Solo)』
ジョン・ハッセル『Fascinoma』
【3】Sand
岡田拓郎さんと石若駿さんの即興演奏もさまざまな方法が試みられていて、2人が一緒に演奏したのは基本的に「Sand」のみ。
時空を超越する民俗音楽のようなリズムに、グレイトフル・デッド(Grateful Dead)のジェリー・ガルシア(Jerry Garcia)を彷彿とさせる12弦ギター、アフリカ・ジンバブエの伝統楽器ムビラなどが重なり、異次元へと誘われます。
【4】If Sea Could Sing
- 岡田拓郎:作曲、ギター、ギターシンセ、ペダルスティール
- 大久保淳也(Junya Ohkubo):アルトサックス
- マーティ・ホロベック(Marty Holoubek):ダブルベース
- 石若駿:ドラム
「If Sea Could Sing」には元・森は生きているの大久保淳也さんと、石若駿さん率いる4人組バンドSMTK(エスエムティーケー)のメンバーで、ermhoi(エルムホイ)さんの夫でもあるマーティ・ホロベックも参加。
ただ、大久保淳也さんのアルトサックスについては、6曲目「Deep River」のアウトテイクを岡田拓郎さんが編集したそうです。
ペダルスティールなどのギターの音色も印象的で、ゆったりとしたアンビエントに緊張感の漂うスピリチュアルジャズが紛れ込むような仕上がりになっています。
じゅんじゅん、アルバムを締め括る「Deep River」で素晴らしい演奏を残してくれました。本当にありがとう!カルロスさんのお墨付きでした。
余談ですが「Deep River」のアウトテイクを編集して同アルバム収録の「If Could Sea Sing」という曲のサックス・トラックを作りました。 https://t.co/AuNsXYJadT— Takuro Okada inf (@outland_records) September 24, 2022
【5】Reflections / Entering #3
- 岡田拓郎:作曲、ギター
- ネルス・クライン(Nels Cline):ギター
- サム・ゲンデル:アルトサックス
- 山田光(Hikaru Yamada):アルトサックス
- 大久保淳也:アルトサックス
- ジム・オルーク:ダブルベース、シンセサイザー
- マーティ・ホロベック:ダブルベース
- ダニエル・クオン(Daniel Kwon):バイオリン
- 香田悠真(Yuma Koda):チェロ
- 石若駿:ドラム、パーカッション
- カルロス・ニーニョ(Carlos Niño):パーカッション
- 増村和彦(Kazuhiko Masumura):パーカッション
森は生きている解散後の2015年~2016年に原型やバージョン違いの「#2」を録音し、今回のアルバム制作の起点になったという「Reflections / Entering #3」。
元・森は生きているの増村和彦さんのほか、カントリーロック&エクスペリメンタルバンド、ウィルコ(Wilco)のギタリストでジャズも演奏し、元チボ・マットの本田ゆかさんの夫でもあるネルス・クライン、サム・ゲンデル、ジム・オルーク、ニューエイジ・リバイバルの旗手カルロス・ニーニョなど、多彩なゲストが参加しています。
約10分の長尺で、自然をさまようような前半から宇宙と交信するような後半へとなだれ込む展開が圧巻です。
【6】Deep River
- 岡田拓郎:作曲、ピアノ、ギター
- 大久保淳也:作曲、アルトサックス
- 鹿野洋平(Yohei Shikano):ラップスティール
- 香田悠真:チェロ
- マーティ・ホロベック:ダブルベース
- 石若駿:ドラム、パーカッション
- カルロス・ニーニョ:パーカッション
- 増村和彦:パーカッション
ラスト6曲目はカバーではありませんが、アルバート・アイラー(Albert Ayler)のアルバム『Swing Low Sweet Spiritual』(1971年、Osmosis Records→再発『Goin’ Home』1991年6月14日、Black Lion Records / 1994年10月25日、Freedom)や『On Green Dolphin Street』(2016年1月18日、Chard)にも収録されている、黒人霊歌「Deep River(深き河)」と曲名が同じです。
最後に登場したラップスティールの鹿野洋平さんは米ロサンゼルスを拠点に活動していて、岡田拓郎さんとネルス・クライン、カルロス・ニーニョ、サム・ゲンデルをつないだ立役者とのこと。
大久保淳也さんのアルトサックスが尺八のように聴こえるのもおもしろいですね。
アルバート・アイラー「Deep River」
アナログ盤のリリースも決定した岡田拓郎『Betsu No Jilkan』について書きました。コルトレーンで始まりアイラーで締め括られる、そして即興演奏の録音をフィールド・レコーディングのように捉えた、しかしあくまでポップス的感性に根差した、とにかく素晴らしい作品です。https://t.co/agkTmwGooN
— 細田成嗣 (@HosodaNarushi) October 20, 2022
おわりに
「別の時間」とは、アルバム制作の方法を含めた音楽理論の話であり、日常生活の過ごし方と捉えることもできるでしょう。
「新世代ジャズ、音響派、ミナス音楽、ニューエイジ・リバイバル」など、いま注目の要素が濃密に詰まっているのに、ジャンルによる分類が不可能というか、たとえばアンビエントというジャンルを超越した「自然環境の音楽」とポップに表現したくなるほど、別次元の「別の時間」に連れて行かれた気がします。
さまざまな音楽理論についてはリファレンス(参照、参考文献)、記事中のリンク、動画などにディープな世界が広がっていますので、そちらでも音楽の本質に触れる深淵な「別の時間」に飛んで行ってください。
岡田拓郎さんへのインタビューの後編です。はっぴいえんどから富樫雅彦へと話は進んで行きました。それなりに情報はありますが、情報がたくさん詰まったインタビューではなく、「余白=別の時間」がある話として受け止めていただけたらいいなと思います。https://t.co/STHUAaD5HM
— Masaaki Hara 原 雅明 (@masaakihara) December 9, 2022
リファレンス
- Newhere Music:Betsu No Jikan
- Mikiki:岡田拓郎、〈言語〉と〈編集〉の先の音楽を追い求めて――『Betsu No Jikan』をめぐるロングインタビュー
- TOKION:岡田拓郎の新作『Betsu No Jikan』はいかにして作られたのか 対話からその真相に迫る
- ギター・マガジンWEB:Interview|岡田拓郎“自分の好きなこと”を追求したソロ作『Betsu No Jikan』
- ele-king:岡田拓郎 Betsu No Jilkan
リンク
- AllMusic:岡田拓郎
- Discogs:岡田拓郎、Betsu No Jikan
- Website:SPACE SHOWER MUSIC、Newhere Music、only in dreams、森は生きている
- Twitter:岡田拓郎、SPACE SHOWER MUSIC、Newhere Music、only in dreams、森は生きている
- Instagram:岡田拓郎、Newhere Music
- Link:Betsu No Jikan
- YouTube:SPACE SHOWER MUSIC、SSM/岡田拓郎、Newhere Music、only in dreams、岡田拓郎(Okada Takuro)/Topic、岡田拓郎(Takuro Okada)/Topic、Betsu No Jikan/Topic、Okada Takuro + duenn/Topic、森は生きている
- Tower Records:岡田拓郎、Takuro Okada、Betsu No Jikan/CD、LP
- HMV:岡田拓郎、CD、LP
- disk union:岡田拓郎、CD、LP
- Takechas Records(北海道・札幌):LP
- PICKUP(北海道・別海町):岡田拓郎、CD
- Sound Channel(岩手・盛岡):岡田拓郎、LP
- more records(埼玉・大宮):岡田拓郎、CD
- 芽瑠璃堂(埼玉・坂戸):岡田拓郎、CD、LP
- ハワイレコード(大阪・中津):岡田拓郎、LP
- FLAKE RECORDS(大阪・南堀江):岡田拓郎、CD
- JET SET(京都・東京):LP
- fastcut records(兵庫・加古川):岡田拓郎、LP
- Spotify:岡田拓郎、Betsu No Jikan、森は生きている
- Apple Music:岡田拓郎、Betsu No Jikan、森は生きている
- SoundCloud:岡田拓郎
- Bandcamp:岡田拓郎、Newhere Music、Sound Emphasizing Stillness Records、White Paddy Mountain(Chihei Hatakeyama)