音楽

ジェフ・パーカー『The New Breed』トータスのギタリストの名盤が再発!

ジェフ・パーカー(Jeff Parker)の『The New Breed』はジャズとポストロックを極めたギタリストが切り開いた新境地といえるのではないでしょうか。
全ギタリスト必聴です!

はじめに


ジェフ・パーカーは1967年4月4日、米コネチカット州ブリッジポート生まれ、バークリー音楽院出身、シカゴ(1991年~)を経てロサンゼルス(2013年~)を拠点に活動するギタリスト(マルチ奏者)&プロデューサー。

トータス


シカゴ音響派のポストロックバンド、トータス(Tortoise)のギタリスト(1998年~)として知られています。

ディスコグラフィ

The New Breed

2016年にリリースされた名盤『The New Breed』(ザ・ニュー・ブリード)と<rings>の国内盤LP(2022年11月30日)は、先行シングル1曲を含む、全8曲・36分あまり。
HEADZ>の国内盤CD(2017年4月12日、Deluxe Edition:International Anthem)はボーナストラック1曲、マカヤ・マクレイヴンMakaya McCraven)によるリミックス「Logan Hardware Remix」を含む、全9曲・約46分。
2022年10月19日に<rings>から再発された国内盤CDはボーナストラック2曲、「Logan Hardware Remix」と2021年にLP限定でリリースされたジェフ・パーカーのビート集『JP’s Myspace Beats』の収録曲「Change」を含む、全10曲です。

マスタリングはJ・ディラJ Dilla)の2ndアルバム『Donuts』(ドーナツ、2006年2月7日、Stones Throw Records)も手がけたデイヴ・クーリー
革命的ビートメイカーのJ・ディラ、「ビバップの高僧」と称されたジャズピアニストのセロニアス・モンクThelonious Monk)、ヒップホップのサンプリング文化により受け継がれている「バロックソウル」のプロデューサー、チャールズ・ステップニーCharles Stepney)の影響とリスペクトが感じられる、至極の時間を堪能しましょう。

【1】Executive Life


いきなりソウルフルかつファンキーな「ジャン、ジャン」というギターのループから始まりますが、どこかノスタルジックな音色も、もったりレイドバックするリズムも、早くも音響的なおもしろさに満ちあふれています。
さらにドラムとベースが重なり、サックスとギターでテーマ(メロディー)が奏でられ、どこか不穏な雰囲気の漂うブレイクに突入。
この「ジャン、ジャン→テーマ→ブレイク」の流れが微妙に変化しながら繰り返され、アドリブ(即興演奏)的なパートにつながり、カタルシス(精神の浄化)を迎える展開が圧巻です。

【2】Para Ha Tay


1分にも満たないインタールード的な「Para Ha Tay」。
インド音楽のようなエキゾチックなメロディーとマーチングバンドっぽいリズムの対比がおもしろい鍵盤、ゆったりとしたドラム、くぐもったベースが印象的です。

【3】Here Comes Ezra


「Here Comes Ezra」は、ギターのメロディーとベースライン、ドラムマシンとハンドクラップのビートがミニマルに繰り返され、メロウな時間が流れた果てに、サックスとドラムが穏やかに暴れる結末が素敵です。

【4】Visions


「Visions」は、米ロサンゼルス生まれのジャズ・ビブラフォン奏者ボビー・ハッチャーソンBobby Hutcherson、1941年1月27日~2016年8月15日)の同名曲(アルバム『Spiral』1979年、『Medina1980年、Blue Note Records)のカバー。
もったりレイドバックするディラビートっぽい揺らぎによって、至福の境地に誘われます。

ボビー・ハッチャーソン「Visions」

【5】Jrifted


8分近くにおよぶ長尺の「Jrifted」。
温かみのあるホーンで幕を開け、まったりとしたドラムとベースに乗って、ギターが自由奔放に跳ね回り、ボイスサンプリングが近づいたり遠のいたりしたかと思うと、サックスのフリージャズ的な展開が続き、ギターリフがミニマルに繰り返されます。
そのまま幕を閉じたかのような一瞬のブレイクの後に、ビート重視のアウトロが続くところもおもしろいでしょう。

【6】How Fun It Is To Year Whip


「How Fun It Is To Year Whip」では軽快なドラムに乗って、ギター、鍵盤、ベースがテーマを繰り返しながらも縦横無尽に遊び回るところが楽しげです。
フェードアウトしそうになりつつ、またしてもビート重視のアウトロにつながります。

【7】Get Dressed


先行シングル「Get Dressed」(2016年4月4日)。
ドラムループにギターソロが重ねられ、歓声やハンドクラップが効果的にサンプリングされているため、ドレスアップしてジャズバーに出かけた雰囲気に浸ることができるでしょう。

【8】Cliche


アルバム唯一のボーカル曲「Cliche」で歌っているのはジェフ・パーカーの娘ルビー・パーカー、その歌声を録音したのはトータスのドラマー(マルチ奏者)&プロデューサー&レコーディングエンジニアのジョン・マッケンタイアです。
タイトルの「クリシェ」という言葉が文末にあるためか、つんのめった「字余り&早口」のように聴こえるところもディラビート的揺らぎを意識しているのかもしれません。
この「クリシェ」は歌詞では一般的な「決まり文句」という意味で用いられていますが、コード進行をあらわす音楽用語でもあり、実際に後半の鍵盤が「クリシェ進行」になっているところも醍醐味でしょう。
しっとりとしたボーカル、ムード満点のギターやサックスはもちろん、キレキレのスネアドラム、低音ベース、適度な違和感を醸し出す鍵盤まで心地よく、R&B、ネオソウル、ジャズ、ヒップホップ由来のビートミュージックのおもしろさが詰まりまくっています。

【9】Logan Hardware Remix


ボーナストラック1曲目の「Logan Hardware Remix」は、ジェフ・パーカーと<International Anthem>のレーベルメイトで、お互いのアルバムにも参加し合っているドラマー(マルチ奏者)&プロデューサーのマカヤ・マクレイヴンによる、アルバム収録曲のリミックスです。
1曲目「Executive Life」の「ジャン、ジャン」というフレーズが執拗に繰り返され、8曲目「Cliche」のボーカルが重ねられるなど、遊び心にあふれています。

おわりに

  • 1:00~:【1】Executive Life
  • 9:15~:【2】Para Ha Tay
  • 10:45~:【3】Here Comes Ezra
  • 18:10~:【4】Visions
  • 25:30~:Go Away / Suite For Max Brown
  • 31:45~:Metamorphoses / Suite For Max Brown
  • 33:50~:Gnarciss / Suite For Max Brown
  • 41:30~:After The Rain / Suite For Max Brown
  • 48:40~:Max Brown / Suite For Max Brown
  • 1:05:55~:【8】Cliche
  • 1:14:50~:Del Rio / Suite For Max Brown
  • 1:24:30~:【6】How Fun It Is To Year Whip

ジム・オルークJim O’Rourke、1969年1月18日、シカゴ生まれ)やジョン・マッケンタイア(1970年4月9日、オレゴン州ポートランド生まれ)が在籍したポストロックバンドのガスター・デル・ソルGastr del Sol、1991年~1998年)やトータスは、もっと攻撃的かつ実験的なポスト・ハードコアなのかと思っていましたが、そもそもジャズの素養があるジェフ・パーカーはこれほどメロウなビートミュージックに昇華していたのですね。
たとえば米デトロイトにあるソウルやR&B中心のレーベル<モータウン>、ロサンゼルスのジャズレーベル<ブルーノート・レコード>(ともにユニバーサルミュージック系列)などに注目する「レーベル聴き」という方法があります。
そのなかでもポストロックや音響派の聖地シカゴにあるジャズ中心のレーベル<International Anthem>および日本の<rings>(ディスクユニオン系列)が、ジャズ、R&B、ロック、ヒップホップ、電子音楽などのあらゆる流れを踏まえた、最先端の心地いい音楽を提示している現状にようやく気がつきました。
そろそろ騒がしいギターソロを様式美とするオルタナティヴロックや、いかついトラップなどのビートを様式美とするヒップホップの進化もあるかもしれません。
ジェフ・パーカーの名盤『The New Breed』にはあらゆる音響を追求した果ての(実験的な違和感も含めた)心地よさがみなぎっていて、その辺りを言葉ではなく音楽そのもので体現する説得力があるように感じられました。

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渡辺和歌
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