RAD(ラッド)ことRADWIMPS(ラッドウィンプス)の「賜物」(読み方:たまもの、意味:贈り物)は今田美桜(いまだ みお)さん主演、中園ミホさん作(脚本)の朝ドラことNHK連続テレビ小説『あんぱん』の主題歌として書き下ろされました。絵本やテレビアニメなどの『アンパンマン』の原作者やなせたかしさんと妻・小松暢(こまつ のぶ)さんをモデルとしたオリジナルドラマを踏まえ、野田洋次郎さんが作詞・作曲した「賜物」の歌詞を考察、解説します。
<インタビュー>RADWIMPSが語る原点回帰――連続テレビ小説『あんぱん』主題歌「賜物」の制作秘話 https://t.co/3F5ADTRvnP #RADWIMPS#賜物#朝ドラあんぱん @RADWIMPS @YojiNoda1
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) April 22, 2025
Contents
RADWIMPS「賜物」ミュージックビデオ・Music Video・MV・PV・YouTube動画
NHK連続テレビ小説・朝ドラ『あんぱん』概要
『あんぱん』は2025年前期(2025年3月31日放送開始)、第112作目のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)。逆転しない正義(飢える人を助ける)を体現するヒーロー『アンパンマン』の生みの親・やなせたかしさんと妻・小松暢(こまつ のぶ)さんをモデルに、中園ミホさんが脚本を手がけたフィクションのオリジナルドラマです。
主人公(ヒロイン)は走ることが大好きなハチキン(高知・土佐弁:男勝りな女性)朝田のぶ→柳井のぶ(あさだ のぶ→やない のぶ、演:今田美桜さん、幼少期:永瀬ゆずなさん、リンクするアンパンマンのキャラクター:ドキンちゃん)。
1927年(昭和2年)9月、8歳ののぶは絵を描くことが大好きな柳井嵩(やない たかし、演:北村匠海さん(DISH//)、幼少期:木村優来さん、キャラ:しょくぱんまん?)と出会います。人生の荒波を乗り越え、夢を追い続けた2人が『アンパンマン』にたどり着くまでの愛と勇気の物語です。
登場人物
- のぶの父:朝田結太郎(あさだ ゆうたろう、演:加瀬亮さん、キャラ:おむすびまん)商事会社勤務→1927年(昭和2年):心臓発作で急死
- のぶの母:朝田羽多子(あさだ はたこ、演:江口のりこさん、キャラ:バタコさん?)朝田パン開業
- のぶの妹、次女:朝田蘭子(あさだ らんこ、演:河合優実さん、幼少期:吉川さくらさん、キャラ:ロールパンナ)
- のぶの妹、三女:朝田メイコ(あさだ メイコ、演:原菜乃華さん、幼少期:永谷咲笑さん、キャラ:メロンパンナ)
- のぶの祖父:朝田釜次(あさだ かまじ、演:吉田鋼太郎さん、キャラ:かまめしどん)朝田石材店:三代目・石工、釜じい
- のぶの祖母:朝田くら(あさだ くら、演:浅田美代子さん、キャラ:いくらどんちゃん?おくらちゃん?)くらばあ
- 釜次の弟子:原豪(はら ごう、演:細田佳央太さん、キャラ:アンパンマン号?)石工
- 嵩と千尋の母:柳井登美子→登美子(やない とみこ、演:松嶋菜々子さん、キャラ:ばいきんまん?ドキンちゃん?)
- 嵩と千尋の父:柳井清(やない きよし、演:二宮和也さん、キャラ:?)出版社・新聞社勤務→1926年(大正15年):中国・アモイで病死
- 嵩の弟、寛・千代子夫妻の養子:柳井千尋(やない ちひろ、演:中沢元紀さん、幼少期:平山正剛さん、キャラ:アンパンマン?)
- 嵩の伯父、清の兄:柳井寛(やない ひろし、演:竹野内豊さん、キャラ:?)診療所・柳井医院:院長・町医者、嵩と千尋の育ての父
- 嵩の伯母、寛の妻:柳井千代子(やない ちよこ、演:戸田菜穂さん、キャラ:チョコレートパンマン?)嵩と千尋の育ての母
- 柳井家の女中:宇戸しん(うと しん、演:瞳水ひまりさん、キャラ:うどんちゃん?)おしんちゃん
- のぶの同級生・幼なじみ:小川うさ子(おがわ うさこ、演:志田彩良さん、幼少期:中野翠咲さん、キャラ:ウサ子?)
- 高等女学校・教師:山下実美(やました みみ、演:ソニンさん、キャラ:みみせんせい?)のぶとうさ子の担任
- 女子師範学校・教師:黒井雪子(くろい ゆきこ、演:瀧内公美さん、キャラ:黒雪姫?くろゆき姫?ゆきんこゆきちゃん?)
- 嵩の同級生:辛島健太郎(からしま けんたろう、演:高橋文哉さん、キャラ:カレーパンマン?)福岡出身
- 東京高等芸術学校・教師:座間晴斗(ざま はると、演:山寺宏一さん、キャラ:メガネざるくん?)嵩の恩師、実在モデル:杉山豊桔(すぎやま とよき)さん、アニメCV:めいけんチーズ、ジャムおじさん(2代目:2019年8月16日~)、かまめしどんなど
- 風来坊のパン職人:屋村草吉(やむら そうきち、演:阿部サダヲさん、キャラ:ジャムおじさん)ヤムおんちゃん(ヤムおじさん)・ヤムさん
- 小倉連隊・上等兵:八木信之介(やぎ しんのすけ、演:妻夫木聡さん、キャラ:ヤギおじさん?やぎ画伯?やぎ先生?ヤギオ?やぎの果物屋さん?)
- 作曲家:いせたくや(演:大森元貴さん、キャラ:?)実在モデル:いずみたくさん
リンク
- Wikipedia(ウィキペディア):あんぱん、アンパンマン、それいけ!アンパンマン、アンパンマンの登場人物一覧
- 公式サイト
- X(Twitter)
- ピクシブ百科事典(pixiv)
- 音楽ナタリー:北村匠海「僕はRADWIMPS信者なので…」ヒロイン・今田美桜に代わり「あんぱん」主題歌への愛語る(2025年3月10日)
【会見レポート】北村匠海「僕はRADWIMPS信者なので…」ヒロイン・今田美桜に代わり「あんぱん」主題歌への愛語るhttps://t.co/xfcXeWZI0d#朝ドラあんぱん #今田美桜 #北村匠海 #RADWIMPS
— 音楽ナタリー (@natalie_mu) March 10, 2025
RADWIMPS「賜物」歌詞の意味を考察
- リリース:2025年4月18日デジタル配信
- レーベル:Muzinto Records・voque ting・UNIVERSAL MUSIC
- サブスク:Spotify、Apple Music(iTunes)
- カラオケ:DAM、JOYSOUND
- 楽譜・コード譜:U-フレット、楽器.me、RinNe(リンネ)
- Wikipedia(ウィキペディア)
- 公式サイト
- X(Twitter):RADWIMPS、野田洋次郎
- ピクシブ百科事典(pixiv)
- Real Sound(リアルサウンド):RADWIMPS、2つの新曲「賜物」「命題」に秘められた問い 既存のフォーマットを更新し続ける挑戦的な姿勢(2025年4月2日)
- Billboard JAPAN:<インタビュー>RADWIMPSが語る原点回帰――連続テレビ小説『あんぱん』主題歌「賜物」の制作秘話(2025年4月22日)
- Real Sound(リアルサウンド):RADWIMPS「賜物」に凝縮された20年の歩み “日本の音楽”への接近、人間讃歌としての深みを紐解く(2025年4月30日)
曲の構成
- 1番:Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)
- 2番:Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)
- 3番:ラスサビ(Dメロ)
1番Aメロ:原点回帰したファンクパート
涙に用なんてないっていうのに やたらと縁がある人生
かさばっていく過去と 視界ゼロの未来
狭間で揺られ立ち眩んでいるけど「産まれた意味」書き記された 手紙を僕ら破いて
この世界の扉 開けてきたんだ
生まれながらに反逆の旅人賜物/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
2001年結成、2005年メジャーデビュー。2024年10月17日、桑原彰さん(ギター)脱退により、野田洋次郎さん(ボーカル&ギター)と武田祐介さん(ベース)の2人体制になったRADWIMPS初のシングル「賜物」。
ドラムの山口智史さんは2015年9月23日よりジストニアのため無期限休養中。サポートドラマーとして森瑞希(Mizuki Mori)さんと繪野匡史(Masafumi Eno)さん、サポートギタリストとして白川詢(Jun Shirakawa)さんが参加しています。
メジャーデビュー20周年イヤーの2025年。RADWIMPSとして活動中のメンバーは2人になったものの、ツインギター、ベース、ツインドラムの5人編成に、合唱やオーケストラなども加わり、曲調がころころ変わる混沌とした組曲が放たれました。
RADWIMPS「おしゃかしゃま」
『アンパンマン』の原作者夫妻をモデルとした朝ドラ『あんぱん』の主題歌というお題に対して、「前前前世」や「なんでもないや」ではなく、「おしゃかしゃま」や「DADA」をぶつけてきたような違和感を覚えた人が多いのではないでしょうか。
RADWIMPS「DADA」
野田洋次郎さんが影響を受けた2大ロックバンドといえば、Thom Yorke(トム・ヨーク)率いるレディヘことRadiohead(レディオヘッド)、John Frusciante(ジョン・フルシアンテ)らのレッチリことRed Hot Chili Peppers(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)。
Red Hot Chili Peppers「Give It Away」
そのうちレッチリといえば、日本ではロックやパンクにファンクやラップ(ヒップホップ)のブラックミュージックを融合したミクスチャーロック(和製英語)というジャンルを確立したバンドとして根強い人気を誇ります。
冒頭の「アッ!ウッ!」というシャウト(叫び、掛け声、唸り声)は、ファンクの帝王JBことJames Brown(ジェームス・ブラウン)やレッチリへのオマージュでしょう。続くサウンド面でも、ミクスチャーロックバンドとしてのRADWIMPSに原点回帰(生まれながらに反逆の旅人)しているようです。
「1番Aメロ」はAメロが2回繰り返される構成で、テレビ尺は1回目のみ。フル尺で加わった2回目に出てくる「手紙」という歌詞は、東京高等芸術学校に通う嵩(北村匠海さん)が高知の女子師範学校に通うのぶ(今田美桜さん)に送り続ける手紙を連想できます。
さらに、のぶの母・羽多子(江口のりこさん)が夫の故・結太郎(加瀬亮さん)からお見合い結婚後に受け取った無数のラブレターも彷彿とさせるなど、朝ドラ『あんぱん』のさまざまなシーンが重なるでしょう。
ドリーミング「アンパンマンのマーチ」
なんのために 生まれて
なにをして 生きるのか
こたえられない なんて
そんなのは いやだ!アンパンマンのマーチ/作詞:やなせたかし 作曲:三木たかし
ドリーミングが歌うテレビアニメ『それいけ!アンパンマン』のオープニング主題歌「アンパンマンのマーチ」(1988年11月21日、VAP)。原作者やなせたかしさん自身が作詞した歌詞は、そのまま朝ドラ『あんぱん』第3週「なんのために生まれて」と第4週「なにをして生きるのか」のタイトルになり、セリフとしても描かれました。
忘れないで 夢を
こぼさないで 涙
だから 君は とぶんだ
どこまでもアンパンマンのマーチ/作詞:やなせたかし 作曲:三木たかし
2025年3月31日に放送が始まった『あんぱん』。RADWIMPSが主題歌を担当することに決まったのは2024年春、野田洋次郎さんが楽曲制作に取りかかったのは2024年5月頃、それから2025年に入ってもアップデートを重ねたそうです。その制作過程において、少しずつ届く脚本が「手紙」のようだったとのこと。
やなせたかしさん夫妻は戦争を経験した世代なので「涙に縁がある人生」として歌詞に反映されていると考えられます。「手紙」には赤紙こと召集令状も重なるでしょう。ただ『あんぱん』自体が実在の人物をモデルとしたフィクションなので、「賜物」には「涙に縁があるRADWIMPSの物語」も描かれていると思われます。
1番Bメロ:乱高下する人生を体現したラップパート
人生訓と経験談と占星術または統計学による
教則その他、参考文献 溢れ返るこの人間社会で
道理も通る隙間もないような日々だが 今日も超絶G難度人生を
生きていこう いざ賜物/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
音程の乱高下(らんこうげ)により、荒波のような人生を表現しているラップパートです。「手紙」のように送られてくる『あんぱん』の脚本ややなせたかしさんに関する参考文献に目を通して作詞する野田洋次郎さんの人生も反映されているでしょう。
『あんぱん』の脚本家・中園ミホさんの波乱万丈な人生も重なります。10代で両親を亡くし、未婚の母になった34歳で脚本家として生きる決心をしたそうです。それまでは広告代理店勤務、コピーライター、四柱推命の占い師などをしていたとのことで、「占星術または統計学による教則」辺りは中園ミホさんを連想できます。
体操競技の技(わざ)は2025年現在、A難度からJ難度まであるものの「G難度」もじゅうぶん「超絶」というか、「人生訓」(じんせいくん)から始まって「超絶G難度人生」(ちょうぜつじーなんどじんせい)を経て「いざ」に至る「ざ行」の響きが秀逸。「いざ」の後に「あいあいあ~」と歌いたくなるままに歌う感じも盛り合わせ的なお得感満載です。
1番サビ:凪のように穏やかなサビ
いつか来たる命の終わりへと 近づいてくはずの明日が
輝いてさえ見えるこの摩訶不思議で 愛しき魔法の鍵を君が握ってて なぜにどうして? 馬鹿げてるとか 思ったりもするけど
君に託した 神様とやらの采配 万歳賜物/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
「1番Bメロ」の「超絶G難度人生」は、RADWIMPSの6枚目のアルバム『絶体絶命』(2011年3月9日、EMI Music Japan)収録の「G行為」とリンクしているのか否かと考える間もなく、穏やかなサビに突入。楽曲ごとにも、「賜物」のパート(セクション)ごとにも、「本当に同じバンド?」というほど「摩訶不思議」(まかふしぎ)なミクスチャーぶりです。
「死に近づくはずの未来が輝いてさえ見える」といった死生観は『アンパンマン』、『あんぱん』、RADWIMPS、いずれにも共通します。それらの「愛しき魔法の鍵を握る君」はアンパンマンであり、のぶでしょうか。
物語の作者は「神様」的な視点で全体を俯瞰し、「采配」(さいはい)を振る(振るう)存在です。そのため「君=アンパンマン、神様=やなせたかしさん」の『アンパンマン』、「君=のぶ、神様=中園ミホさん」の『あんぱん』の両方に「万歳」(ばんざい)と喜ぶ野田洋次郎さんが目に浮かびます。
また「神様」や「万歳」といった歌詞から透けて見えるのは、『アンパンマン』誕生の背景や『あんぱん』の物語に潜む戦争。涙なくしては語れないエピソードばかりでも、輝く未来へと昇華する「采配」、あるいは「終わりがある命は尊いと思わせてくれる神様的な存在の采配」にも「万歳」(フレー)とエールを送っている(応援している)ようです。
RADWIMPS、2つの新曲「賜物」「命題」に秘められた問い 既存のフォーマットを更新し続ける挑戦的な姿勢https://t.co/4EYgSIV9Xi#RADWIMPS #賜物 #あんぱん #命題 #newszero
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2番Aメロ:ファンク~シティポップ~童謡パート
この風に乗っかってどこへ行く
生まれたての今日が僕を呼ぶ
「間違いなんかない」って誰かが言う
「そりゃそうだよな」とか「ないわけない」とか堂々巡れば悲しいことが 悔しいことが この先にも待っていること
知っているけど それでも君と生きる明日を選ぶよ
まっさらな朝に 「おはよう」賜物/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
テレビ尺は1番「Aメロ(1回目)〜Bメロ〜サビ」。それに「1番Aメロ(2回目)」と2番「Aメロ〜Bメロ〜サビ」、「3番ラスサビ」が加わったのがフル尺です。ただ、便宜上「2番Aメロ」としたパート(セクション)は1番(Aメロ×2回)とは異なり、ファンクっぽいAメロで始まるものの、1回目のラストがシティポップ風、2回目が童謡テイストになります。
毎朝テレビで流れる部分ではないところでも、朝ドラを観る幅広い層に受け入れられるための工夫をしたようです。「君と生きる明日を選ぶ」ということで、アンパンマンや暢さんと生きたやなせたかしさん、アンパンマンやのぶと生きる嵩、『アンパンマン』を踏まえた『あんぱん』と生きる野田洋次郎さんおよびRADWIMPSの覚悟が伝わってきます。
2番Bメロ:アンパンマンはファンクやヒップホップの歴史とも重なる
感情線と運命線と恋愛線たちが対角線で
交錯して弾け飛び火花散り 燃え上がるその炎を燃料に
一か八かよりも確かなものは何かなんて言ってる場合なんか
じゃないじゃんか いざ賜物/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
「感情線、運命線、恋愛線」はいずれも手相(てそう)の掌線(しょうせん、てのひらの線)。「1番Bメロ」の「占星術」と同じく占いの一種ですが、『あんぱん』の脚本家・中園ミホさんは、生年月日と出生時間をもとに占う四柱推命の占い師でした。「四柱推命、占星術、手相」はそれぞれ別の占いであり、占いの種類は異なります。
ただ、占い師経験者の中園ミホさんから手紙のように送られてくる脚本は「感情、運命、恋愛」が交錯して燃え上がる物語だったのでしょう。その脚本を受けて、「結果は運任せ」の「一か八か」(いちかばちか)よりも「確か」な楽曲に仕上げたいという野田洋次郎さんの葛藤と決意が感じられます。
『あんぱん』は1927年(昭和2年)から始まる物語。言葉遣いは時代劇ではなく現代劇、ただし標準語ではなく高知・土佐弁などの方言が多く使われています。こじゃんと(とても、すごく、たくさん、見事に)、どういて(どうして)、どういたがで(どうしたの?)、もんてきてよ(戻ってきてよ)、たまるか!(わぁ!すごい!)など。
朝ドラの主題歌らしからぬ「〜じゃんか」という現代的な東京弁・首都圏方言(若者言葉)を使っているのも、「超絶G難度人生」の「ざ行」の響きに通じる、意図的な挑戦と考えられるでしょう。
1950年代にアメリカで生まれたロックは「白人のカントリーと黒人のブルースの融合」、あるいは「黒人のR&B(リズム・アンド・ブルース)の白人化」という位置づけ。また、アメリカ生まれのブラックミュージックのなかでも、1960年代に始まったファンク、1970年代に始まったヒップホップは比較的新しい(歴史の浅い)ジャンルです。
やなせたかしさんの『アンパンマン』の誕生が1960年代後半から1970年代にかけてなので、奇しくもファンクやヒップホップの歴史とも重なります。何度も改良を重ねたという「賜物」のうち、Bメロのラップパートは初めからあった(意図していた)とのこと。
最も朝ドラの主題歌らしくないと思われるラップパートが他のパートとも調和し、ミクスチャーロック(ロック+ファンク+ヒップホップ)に原点回帰したいRADWIMPSの自己満足(G行為)に陥っていないところがおもしろいです。
2番サビ:のぶに負けないパワフルな楽曲
どんな運命でさえも二度見してゆく 美しき僕たちの無様
絶望でさえ追いつけない 速さで走る君と二人ならば「できないことなど 何があるだろう?」
返事はないらしい なら何を躊躇う
正しさなんかに できはしないこと この心は知っているんだ
There’s no time to surrender賜物/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
まず「二度見」はNHK総合で朝8時からと昼12時45分からの15分間、1日2回放送する朝ドラのフォーマットを示唆しているようです。1日2回「二度見」するためには「二度寝」せず、2番Aメロ・童謡パートのように毎朝「おはよう」と起きる必要があります。
「絶望でさえ追いつけない 速さで走る君」は「走ることが大好きなハチキンののぶ」。「僕たち」は「嵩とのぶ」や「野田洋次郎さん(RADWIMPS)とのぶ」、あるいは「朝ドラ視聴者とのぶ」も考えられるかもしれません。
さらに「手紙を出すのは東京の嵩、高知ののぶから返事はなし(返事がないのは元気な知らせ)」というエピソードが重なるでしょう。「There’s no time to surrender」(降伏する時間はない)ということで、のぶに負けないパワフルな曲を作るしかない(できないことはない)と自らを鼓舞する野田洋次郎さんも連想できます。
「この心は〜、There’s no time」のシンコペーションのリズムや英語の歌詞でも「絶望でさえ追いつけない速さ」や「正しさなんかにできはしないこと」が表現されているようです。
3番ラスサビ:ABBA風コーラス入りのフィリーソウルで幕
時が来ればお返しする命 この借り物を我が物顔で僕ら
愛でてみたり 諦めてみだりに思い出無造作に
詰め込んだり 逃げ込んだり
せっかくだから 唯一で無二の詰め合わせにして返すとしよう
あわよくばもう 「いらない、あげる」なんて 呆れて 笑われるくらいの
命を生きよう
君と生きよう賜物/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
「3番ラスサビ」にはオーケストラや合唱が入っていますが、朝ドラらしいアカデミックな大団円バージョンでいったん録音したものの、楽曲全体のファンクっぽいグルーヴを重視するため、ABBA(アバ)風のコーラスが入ったフィリーソウル(フィラデルフィアソウル)的なバージョンに作り変えたそうです。
ABBA「Dancing Queen」
『あんぱん』には借り物競争ではなくパン食い競争をするシーンがありましたが、「命=借り物=賜物(たまもの)=贈り物」という結末になりました。
MFSB feat. The Three Degrees「TSOP (The Sound of Philadelphia)」
朝ドラという国民的な場を借りた主題歌なので、「唯一で無二の詰め合わせにして返すとしよう」という意味の「賜物」だったようです。たしかに「唯一で無二の詰め合わせ=ミクスチャーロック」に仕上がったのではないでしょうか。
嵩がのぶに渡しそびれた東京・銀座土産の(アンパンマンの鼻や服のように)赤いハンドバッグという「賜物=贈り物=プレゼント」も象徴的。「高知の学校で軍国主義の教えに染まるのぶ」と「東京の学校で自由を知る嵩」のすれ違いやケンカなど、涙の名場面が多い『あんぱん』を体現した楽曲でした。
「1番サビ」のテレビ尺ラスト「神様とやらの采配 万歳」というパンチラインが軍国主義を想起させると物議を醸していますが、『あんぱん』の物語をさまざまな角度から反映していると考えることもできるはず。
野田洋次郎さんは「おしゃかしゃま」の時点で「神様」を「あらゆる宗教や思想を超越した存在」と捉えている感じです。「賜物」でもフル尺のラストパート「3番ラスサビ」まで聴くと「命=時が来れば(神様に)お返しする借り物=賜物」としています。
やなせたかしさんの弟は戦死したので、『あんぱん』の視聴者は「2番Aメロ」の童謡パートのように「悲しいことが待っていることを知っている」状態です。それでも「3番ラスサビ」までフル尺で聴くと自我の超越(自己超越)的なカタルシスが訪れるでしょう。
おわりに
朝ドラの主題歌らしからぬ違和感のある楽曲とわかったうえで、他にも候補はあったものの、あえて「賜物」を選び、老若男女に刺さるよう工夫を凝らしたという流れです。半年という『あんぱん』の放送期間で、歌詞から連想できるシーンも増えるかもしれません。
また、ドラマを観るたび繰り返し主題歌を聴くことにより、違和感も薄れるはず。むしろラップっぽいBメロの音程の上下がクセになる人もいるのではないでしょうか。
野田洋次郎『WONDER BOY’S AKUMU CLUB』
illion(イリオン)ではなく、本名の野田洋次郎さん名義でのソロ作『WONDER BOY’S AKUMU CLUB』(ワンダー・ボーイズ・アクム・クラブ、2024年9月25日、EMI Records)は電子音楽、ビートミュージック寄りのJ-POPでした。
Peterparker69, 野田洋次郎「Hey phone」
Peterparker69(ピーターパーカーシックスナイン)とのコラボ曲「Hey phone」(2025年2月19日、Peterparker69)もリリース。
Peterparker69「Flight to Mumbai」
ちなみにPeterparker69はApple Japan・App StoreのCMソング「Flight to Mumbai」(2022年2月18日、CHAVURL)で注目を集めた、JeterさんとY ohtrixpointneverさんによるプロデューサーデュオ。野田洋次郎さんならではの唯一無二の音楽的展開が刺激的です。