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米津玄師「Plazma」歌詞の意味を考察!TVアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』劇場先行版『Beginning』主題歌

米津玄師さんの「Plazma」(読み方:プラズマ)は、2025年1月17日公開の劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』(きどうせんしガンダム ジークアクス ビギニング)の主題歌として書き下ろされました。2025年4月8日深夜・9日放送開始のTVアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』の主題歌にも起用された「Plazma」の歌詞の意味を考察、解説します。

米津玄師「Plazma」ミュージックビデオ・Music Video・MV・PV・YouTube動画

劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス) -Beginning-』概要

機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(以下:ジークアクス)は、TVアニメ『機動戦士ガンダム』(1979年4月~1980年1月、全43話、以下:ファーストガンダム)などの「ガンダムシリーズ」を手がけるサンライズ、TVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年10月~1996年3月、全26話)などの「エヴァンゲリオンシリーズ」を手がけるスタジオカラー初の共同制作による「ガンダムシリーズ」です。

原作は矢立肇さんと富野由悠季さん、監督は鶴巻和哉さん、シリーズ構成・脚本は榎戸洋司さん、共同脚本は庵野秀明さんが手がけました。『ジークアクス』は『ファーストガンダム』の架空戦記(仮想戦記、IF=もしもの世界、パラレルワールド)という位置づけです。

以下、ネタバレ注意

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)-Beginning-』予告


『ファーストガンダム』で描かれた「一年戦争」(ジオン独立戦争、宇宙世紀(U.C.)0079年1月3日~0080年1月1日)では、「地球防衛軍」とスペースコロニー(宇宙都市)群サイド3に建国された国家「ジオン公国」が戦い、勝利したのは「地球防衛軍」、敗北した「ジオン公国」は解体して「ジオン共和国」になりました。

また『ファーストガンダム』で「白いガンダム」といえば、主人公アムロ・レイが搭乗する地球防衛軍のモビルスーツ(MS、人型機動兵器、機動戦士)でした。『ジークアクス』では宇宙世紀(U.C.)0079年9月18日に地球防衛軍から奪取し改修した「赤いガンダム」にジオン公国のシャア・アズナブルが搭乗。宇宙世紀(U.C.)0080年1月3日、「一年戦争」でジオン軍が勝利するという逆パターンが描かれています。

【ネタバレ注意】『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)-Beginning-』Promotion Reel

宇宙に浮かぶスペース・コロニーで平穏に暮らしていた女子高生アマテ・ユズリハは、少女ニャアンと出会ったことで、非合法なモビルスーツ決闘競技《クランバトル》に巻き込まれる。

エントリーネーム《マチュ》を名乗るアマテは、GQuuuuuuX(ジークアクス)を駆り、苛烈なバトルの日々に身を投じていく。

同じ頃、宇宙軍と警察の双方から追われていた正体不明のモビルスーツ《ガンダム》と、そのパイロットの少年シュウジが彼女の前に姿を現す。

そして、世界は新たな時代を迎えようとしていた。

出典:REISSUE RECORDS「Plazma」

「一年戦争」終結から5年後の宇宙世紀(U.C.)0085年、サイド6のイズマ・コロニーが『ジークアクス』本編の舞台。

主な登場人物は、ジャンク屋・カネバン有限公司のクラバ(クランバトル、非合法なモビルスーツ決闘競技)チーム「ポメラニアンズ」所属としてモビルスーツ(MS)ジークアクスに搭乗する女子高生アマテ・ユズリハマチュ、CV:黒沢ともよさん)、戦争難民の少女ニャアン(CV:石川由依さん)、「赤いガンダム」に搭乗する少年シュウジ・イトウ(CV:土屋神葉さん)です。

TVアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』リンク

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』TV Series Promotion Reel

米津玄師「Plazma」歌詞の意味を考察

曲の構成

  • 1番:Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)
  • 2番:Aメロ~Dメロ~サビ(Cメロ)

1番Aメロ:もしもの世界に馳せる思い

もしもあの改札の前で 立ち止まらず歩いていれば
君の顔も知らずのまま 幸せに生きていただろうか

もしもあの裏門を越えて 外へ抜け出していなければ
仰ぎ見た星の輝きも 靴の汚れに変わっていた

寝転んだリノリウムの上 逆立ちして擦りむいた両手
ここも銀河の果てだと知って 眩暈がした夜明け前

Plazma/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

『ジークアクス』は『ファーストガンダム』の架空戦記、もしもの世界のパラレルワールドという位置づけ。そのため米津玄師さんは「選ばなかった選択肢に対する想像」を軸に主題歌「Plazma」を仕上げました。

主人公の女子高生マチュ、戦争難民の少女ニャアン、謎の少年シュウジ、3人の子どもたちの狭い世界(小さな視野)から広い世界(大きな視野)へと飛躍するダイナミズムも表現されています。

「ガンダムシリーズ」の「(宇宙世紀以外の)オルタナティブ」ではなく「宇宙世紀」ものではありつつ、「もしもガンダムに乗ったのがアムロではなくシャアだったら」という世界線。

その流れでマチュとニャアンが「改札」で出会うのが『ジークアクス』ですが、「Plazma」では「もしもマチュとニャアンが改札で出会わなかったら」という「逆立ち」が提示されています。

「リノリウム」は学校の廊下やバレエ教室などで使われる床材のこと。マチュたちが生まれ育ったスペースコロニー(宇宙都市)は円筒型(シリンダー型)で、回転する遠心力により疑似重力を生み出す仕組みです。その円筒の中心が空、円筒の内側360度すべてが地面なので、空を見上げると反対側の地面が見えます。

つまり、マチュたちのスペースコロニーでの「狭い世界」は床の上に寝転ぶだけで逆立ちにもなる(仰ぎ見た星の輝きも、靴の汚れに変わる)「銀河の果て」とも解釈できそうです。

米津玄師「BOW AND ARROW」

気づけば靴は汚れ 錆びついた諸刃を伝う雨
憧れはそのままで 夢から目醒めた先には夢

BOW AND ARROW/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

TVアニメ『メダリスト』オープニング主題歌「BOW AND ARROW」冒頭の歌詞「気づけば靴は汚れ」とシンクロしている感じもします。

もしかしたら「BOW AND ARROW」と「Plazma」は「シャア・アズナブルとシャリア・ブル(緑のおじさん)」、あるいは「マチュとニャアン」や「マチュとシュウジ」のような「M.A.V.」(マヴ、相棒、2機1組の戦術)なのかもしれません。

1番Bメロ:転落して色づく世界

聞こえて 答えて 届いて欲しくて 光って 光って 光って叫んだ
金網を越えて転がり落ちた 刹那 世界が色づいてく

Plazma/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

「もしもあの改札の前で」という頭サビのようなAメロから始まり、間奏を挟んで改めて「もしもあの裏門を越えて」というAメロになる冒頭。

続く「眩暈(めまい)がした夜明け前」の「眩暈」から前につんのめるような(実際に眩暈がしたような、あるいは「感電」してけいれんするような)米津玄師さん特有のボーカルのリズムが始まります。実際、表拍(ダウンビート)を重視したそうです。

そのためBメロは「寝転んだリノリウムの上」からなのか、「聞こえて」からなのか、AメロとBメロの境界が曖昧になっている(なだらかにつながっている、いつのまにかAメロからBメロになっている)感じもします。

「聞こえて〜光って叫んだ」はマチュがジークアクスに乗るときのイメージでしょうか。非合法なモビルスーツ決闘競技「クランバトル」に身を投じる物語が「金網を越えて転がり落ちた」という表現につながります。

ロボットものなのに勧善懲悪ではなく、明るく元気なヒーロー・ヒロインでもない」という掟破り(おきてやぶり=金網を越えた転落)は「ガンダムシリーズ」や「エヴァンゲリオンシリーズ」の真骨頂といえるでしょう。

また、ガンダムシリーズの強火(つよび)ファンのなかには、「Plazma」の曲名や歌詞からTVアニメ『機動戦士Ζガンダム』(1985年3月〜1986年2月、全50話)の主人公カミーユ・ビダン(CV:飛田展男さん)を連想する人もいるようです。

ちなみに徳島出身、1991年3月10日生まれの米津玄師さんは『ファーストガンダム』のリアルタイム世代ではありません。初めて観たガンダムシリーズのTVアニメは『機動戦士ガンダムSEED』(2002年10月~2003年9月、全50話)、1番好きなのはOVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』(1989年3月~8月、全6話)とのこと。

1番サビ:プラズマとは向こう側のキラキラ?

飛び出していけ宇宙の彼方 目の前をぶち抜くプラズマ
ただひたすら見蕩れていた 痣も傷も知らずに
何光年と離れていても 踏み出した体が止まらない
今君の声が遠く聞こえている
光っていく

Plazma/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

曲名にもなっている「Plazma=プラズマ」とは、ジークアクスに乗ったアマテ・ユズリハ(マチュ)がニュータイプゆえに知覚する「キラキラ」。赤いガンダムに乗る少年シュウジが「向こう側」と呼び、グラフィティのモチーフにしている「謎の発光現象」のようです。

それ以前、赤いガンダムに搭載された架空の脳波増幅器サイコミュの暴走事故および謎の現象ゼクノヴァにより、赤いガンダムと共に行方不明となったシャアは「刻(とき)が見える」と表現しました。

2番Aメロ:改札で出会わなかった世界線

改メ口の中くぐり抜け 肌を突き刺す粒子
路地裏の夜空に流れ星 酷く逃げ惑う鼠

もしもあの人混みの前で 君の手を離さなければ
もしも不意に出たあの声を きつく飲み込んでいれば
もしもあの改札の前で 立ち止まらず歩いていれば
君はどこにもいやしなくて 僕もここにいなかった

Plazma/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

改メ口」(あらためぐち)とは天井裏や床下などの点検口(てんけんぐち)を表す建築用語、「粒子」とは電波障害(レーダー妨害)を引き起こす設定の架空の粒子「ミノフスキー粒子」。モビルスーツ(MS)同士の接近戦を描くために設定されました。

まとめると「ミノフスキー粒子の散布により、レーダーに映らない障害が起きるため、モビルスーツ(MS)は、天井裏や床下などの点検口をくぐり抜ける鼠(ねずみ)や路地裏の夜空に流れる星のように、酷く逃げ惑う(ひどくにげまどう)ことになる」イメージです。

米津玄師さんのガンダム体験は、アニメよりゲームが先だったとのこと。そのため小学生の頃に遊んだというPlayStation用ゲームソフト『SDガンダム GGENERATION-F』(2000年8月発売、開発元:トムクリエイト、発売元:バンダイ)も連想できるかもしれません。

まるで頭サビのようだった「1番Aメロ」の冒頭「もしもあの改札の前で 立ち止まらず歩いていれば」に再び「2番Aメロ」でたどり着くまでに、「改札」の偽物(フェイク)のような「改メ口」を「鼠のように酷く逃げ惑った」感じです。

それは「あの改札の前で」の前の「もしも」と、「あの人混みの前で」や「不意に出たあの声を」の前の「もしも」の音程違いでも表現されています。そして「君はどこにもいやしなくて 僕もここにいなかった」という結論にようやくたどり着きました。

これは「もしもマチュとニャアンが改札で出会わなかったら」という仮想世界。もしも『ジークアクス』が描かれなかったら主題歌の「Plazma」も存在しなかったとか、もしも米津玄師さんが漫画家になっていたらアーティスト(僕)とリスナー(君)の関係も成立しなかったなど、「選ばなかった選択肢に対する想像」が無限に広がります。

2番Dメロ:アニメ『フリクリ』オマージュ

あの日君の放ったボールが額に当たって
倒れる刹那僕は確かに見た
ネイビーの空を走った飛行機雲を
これが愛だと知った

Plazma/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

曲調の変わる「2番Dメロ」は、鶴巻和哉さんが監督、榎戸洋司さんが脚本を務めたOVA『フリクリ』(2000年4月〜2001年3月、全6話)へのオマージュ。リッケンバッカーのベースでハル子に殴られ、額(ひたい)に角が生えたナオ太を連想できます。

2番サビ:痛みに気づかず前に進む「超人」

飛び出していけ宇宙の彼方 目の前をぶち抜くプラズマ
ただひたすら見蕩れていた 痛みにすら気づかずに
何光年と離れていても 踏み出した体が止まらない
今君の声が遠く聞こえている
光っていく

Plazma/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

米津玄師さんが音楽ナタリーのインタビューで読んだと語った「浅田彰さんがニーチェの言う「超人」について書いた文章」とは、浅田彰さんと島田雅彦さんの共著『天使が通る』(新潮社、1988年11月1日)のようです。

選ばなかった選択肢を振り返っても、過去の人生や痛みに執着せず、前に進む強さをもつのが「超人」だとすると、マチュの人間性が重なるほか、米津玄師さん自身も身に覚えがある」といった内容でした。

壮大なアニメシリーズの架空戦記、その主題歌でありながら、米津玄師さん自身の現在地やリスナーが現代を生き抜く指針すら提示しているところが「プラズマのような光=希望」となるでしょう。

おわりに

NHK連続テレビ小説『虎に翼』主題歌「さよーならまたいつか!」(2024年4月8日)の大ヒットに続き、6thアルバム『LOST CORNER』(2024年8月21日)をリリースするなど、精力的に活動している米津玄師さん。

日本コカ・コーラ「ジョージア」CMソング「毎日」(2024年5月27日)とNetflixシリーズ『さよならのつづき』主題歌「Azalea」(2024年11月18日)には、藤井風さんのプロデュースも手がけるYaffleさんが共同編曲で参加しました。

こうした流れを経て投下された、アニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』主題歌「Plazma」(2025年1月20日)とTVアニメ『メダリスト』OP主題歌「BOW AND ARROW」(2025年1月27日)。

まるでマヴ(相棒)のような「Plazma」と「BOW AND ARROW」のアニメ主題歌2曲は、米津玄師さんが全部1人で作り込んだDTM(打ち込み)作品です。

ジャズ、R&B、ネオソウルなどのブラックミュージックのリズムを象徴する裏打ちではなく表拍(ダウンビート)にこだわったのも、Yaffleさんとのコラボを経て、ボカロPハチさんとしてのルーツを再確認し、原点回帰しながらも前へ進んだからでしょう。混迷を極める現代だからこそ「超人」のように「軽やか」に生き抜くのが人生のコツかもしれません。

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渡辺和歌
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