音楽

藤井風(Fujii Kaze)「Hachikō」歌詞&和訳の意味を考察!3rdアルバム『Prema 』リード曲

藤井風(Fujii Kaze)さんの「Hachikō」(ハチ公)は2025年9月5日発売の3rdアルバム『Prema』(読み方:プレマ、意味:サンスクリット語で愛)のリード曲かつ先行配信曲。2022年4月、米LAでコライトセッション(共同作曲・制作企画)に参加したことがきっかけとなり生まれたという日本語交じりの英語詞曲「Hachikō」の歌詞&和訳の意味を考察、解説します。

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藤井風「Hachikō」歌詞の意味を考察

クレジット

  • 藤井風(Fujii Kaze):作詞、作曲、ボーカル
  • Tobias Jesso, Jr(トバイアス・ジェッソ・ジュニア):作曲
  • Sir Nolan:Nolan Lambroza(サー・ノーラン:ノーラン・ランブローザ)、250(イオゴン):プロデュース
  • Alexander Sowinski / BADBADNOTGOOD(アレックス・ソウィンスキー / バッドバッドノットグッド):ドラム
  • KOBY SHY:小林修己(コビーシャイ:Naoki Kobayashi):ベース
  • 飯場大志(Daishi Iiba)@ABSレコーディングスタジオ(ABS RECORDING STUDIO):レコーディング
  • 小森雅仁(Masahito Komori)@ABSレコーディングスタジオ(ABS RECORDING STUDIO):ミックス
  • 渡邉湧咲(Yusaku Watanabe)/ バーディハウス(birdie house):アシスタントエンジニア
  • Randy Merrill(ランディ・メリル)@Sterling Sound(スターリング・サウンド):マスタリング

曲の構成

  • 1番:(頭サビ)~Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)
  • 2番:Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)~ラスサビ

1番Aメロ:ハチ公は風タリアン

Take you anywhere I’m ready
Give you anything I’m carefree
Seems like I’m the only thing that you need
It’s easy, not so hard to make you happy

【和訳】
どこへでも連れて行くよ 準備はできている
何でもあげるよ 気楽なもんさ
君に必要なのは僕だけみたいだね
君を幸せにするのは簡単さ そんなに難しいことじゃない

Hachikō/作詞:Fujii Kaze 作曲:Fujii Kaze・Tobias Jesso, Jr

英語詞の「1番Aメロ」に入る前に、40秒ほどのイントロがあります。この冒頭で展開されるのが、「Doko ni ikō Hachikō」(どこに行こう ハチ公)という頭サビのようなコーラス。冒頭では歌詞としては表記されていませんが、Bメロからサビに移るパートではブリッジのようにかっこつきで表記されています。

「どこ、行こう、ハチ公」という3段落ち的な脚韻でボーカルを音響(音の響き)化するおもしろさ(日本語がわからなくても言葉の響きだけで耳心地いい)、「どっこに行、こうハチ公」という3連(符)系リズムによりシャッフル(スウィング)するビートを刻むというグルーヴ(ノリ)のおもしろさが詰まったパンチラインです。

しかも、藤井風さんのファンやリスナー、すなわち風民(かぜたみ、かぜみん)もしくは海外勢発ベジタリアン由来のKazetarian(カゼタリアン、風タリアン)を忠犬ハチ公になぞらえ、藤井風さんがリスナーに対して「どこに行こう」と呼びかける物語も想像できます。

続く「どこに」という掛け声や「1(One=日本語の犬の鳴き声ワン)23(にさん)5(ご=Go=行く)」というカウントも単なる言葉遊びに終始せず、犬であるハチ公とどこに行こうか模索する(=藤井風さんと共同制作者やリスナーと新たな音楽を模索する)意図が伝わる遊び心です。

イントロや頭サビっぽいコーラスのラストは「Ah ah ah ah Go ×3 Go go go」。これは2020年代のアメリカではリバイバルブーム的にロックより主流になりつつあるR&B(リズム&ブルース)やネオソウルの掛け声(合いの手)と思われます。

TikTokでバズりがちな踊ってみたショート動画、あるいは流行りのダンスミュージックを大胆に取り入れるK-POPを意識しつつ、R&Bやネオソウルを上質なポップミュージックにうまく昇華したイメージです。

ブラックミュージックのR&Bやネオソウルは、J-POPでは宇多田ヒカルさんを筆頭に、Nulbarich(ナルバリッチ)、Suchmos(サチモス)、Official髭男dism(ヒゲダン)、King Gnu(キングヌー)辺りが挑戦しつつ、なかなか浸透しにくいジャンルかもしれません。

ただ、2020年に新型コロナのパンデミック(世界的流行)が本格化し、2022年にロシアのウクライナ侵攻という戦争が始まるなど、絶望の時代ともいえる2020年代において、ハウスというダンスミュージックを取り入れたR&Bやネオソウル、ヒップホップがアメリカのポップミュージック界で大ヒットするのも象徴的な現象のような気がします。

何かに依存して生活や人間関係に支障をきたすほどスピるのはヤバいとしても、癒しの音楽が求められる時代ではあるので、ならばスピリチュアルな音楽家が本領を発揮せずにどうすると思っていたら、藤井風さんがとうとうやってくれたといったところでしょうか。

音楽家がリスナーを幸せにするのはそれほど簡単なことではないはずですが、藤井風さんは「Hachikō」で今の時代を象徴する本気でおもしろいポップミュージックを作り上げました。しかも気楽にという脱力感がR&Bやネオソウルのグルーヴ、ディスらないヒップホップ感、踊りすぎないダンスミュージック感を醸し出していて最高です。

1番Bメロ:チルアウトして風を感じよう

While everybody’s screamin’ shoutin’
We’re so chill out here just vibin’
Tryin’ to spread this peacefulness with y’all

Our holiday’s just getting started
Just be kind and open hearted
Feel the breeze and let God bless us all

【和訳】
みんなは大声で叫んだりしてるけど
僕らはここでリラックスしてノリを楽しんでいる
この平和をみんなと分かち合いたいよ

僕らの休日は始まったばかり
ただ優しく 心を開いて
風を感じて 神の祝福を浴びようよ

Hachikō/作詞:Fujii Kaze 作曲:Fujii Kaze・Tobias Jesso, Jr

チルアウト(chill out)はもともと「冷静になる」という意味ですが、「くつろぐ、ゆっくりする、のんびりする、落ち着く、まったりする」といったスラングとして使われます。また、電子音楽のジャンル名にもなっていて、ダウンテンポ、ローファイ・ヒップホップ、アンビエントに近い、ゆったりとしたサウンドを表します。

クラブのメインフロアでハウスやテクノといったバキバキのダンスミュージック(アップテンポ:BPM140〜)で踊った後、サブフロアのチルアウトやアンビエント(スローテンポ:〜BPM90)でまったりするイメージです。

電子音楽はジャンルの細分化が進んでいるので、メインやサブの区別のないこぢんまりとした小箱(クラブ、イベントスペース)で、踊らないIDMやエレクトロニカ、轟音のノイズやドローン、エクスペリメンタル(実験音楽的)な物音系サウンドを浴びて棒立ちといった現象も起きています。

スクリーム(scream、意味:叫ぶ、悲鳴を上げる)はいわゆるデスボイス(和製英語)を用いるメタル、ラウド、ハードコア系、シャウト(shout、意味:叫ぶ、大声を出す)はロックなどの音楽ジャンルを連想できるほか、たとえ正論であっても過熱しすぎるとうるさく感じられる批判合戦も思い浮かぶでしょうか。

2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』(2022年3月23日)リリース後に起きたスピ批判もどこ吹く風とばかりに、神の祝福(God bless)を浴びて、風(空気の流れの風と藤井風さんのダブルミーニング)を感じようと呼びかけています。

1番サビ:なぜハチ公なのか

(Doko ni ikō Hachikō…)

You’ve been patiently waiting for me
You’ve been patiently waiting for me
Doko ni ikō Hachikō
This time I’ll never let you go
Doko ni ikō Hachikō
This time I’ll never let you go
You’ve been patiently waiting for me

【和訳】
(どこに行こう ハチ公)

君は辛抱強く僕を待ってくれた
君は辛抱強く僕を待ってくれた
どこに行こう ハチ公
今度こそ君を離さない
どこに行こう ハチ公
今度こそ君を離さない
君は辛抱強く僕を待ってくれた

Hachikō/作詞:Fujii Kaze 作曲:Fujii Kaze・Tobias Jesso, Jr

サビは「冒頭でも展開されたコーラスのDoko ni ikō Hachikō、R&Bやネオソウルらしく歌い上げるYou’ve been patiently~、歌い上げるDoko ni ikō Hachikō」の3段構え。非常に贅沢というか、微妙に変化させつつ同じフレーズを繰り返すことでグルーヴ(ノリ)が生まれるミニマルミュージックのようなおもしろさも堪能できるでしょう。

そもそも「なぜハチ公なのか?」というと、2022年4月に米LAで行われたコライトセッション(Co-write session)に藤井風さんが参加し、カナダ・バンクーバー出身のSSW・Tobias Jesso, Jr(トバイアス・ジェッソ・ジュニア)に「日本語の入った曲をやろう。渋谷にいるあの犬の名前は何?」と提案されたことがきっかけだそうです。

その場で、Justin Bieber(ジャスティン・ビーバー)やSelena Gomez(セレーナ・ゴメス)も手がけた米LAのプロデューサーSir Nolan(サー・ノーラン)ことNolan Lambroza(ノーラン・ランブローザ)がビートを作り、数年後、藤井風さんが映画『ハチ公物語』(1987年8月1日公開、配給:松竹富士)を観て、ビート先行で作詞・作曲。

最終的に、K-POP第4世代の韓国の5人組ガールズグループNewJeans(ニュージーンズ、뉴진스)も手がけた韓国のプロデューサー・250(イオゴン)と共にブラッシュアップして完成させたとのこと。

カナダ・トロント出身のジャズトリオBADBADNOTGOOD(バッドバッドノットグッド)のドラマーAlexander Sowinski(アレックス・ソウィンスキー)やベーシストのKOBY SHY(コビーシャイ)さんこと小林修己(Naoki Kobayashi)さんが生楽器で参加しているので、チルいダンスミュージックでありながらジャズっぽいグルーヴが生まれています。

2番Aメロ:魂を満たすネオソウル

Went through everything to reach you
There’ so many ways to please you
You can pick whatever you’d like to do
Anything that satisfies your soul

【和訳】
君にたどり着くためにすべてを乗り越えてきた
君を喜ばせる方法ならたくさんある
何でも好きに選んでいいんだよ
君の魂を満足させることなら何でも

Hachikō/作詞:Fujii Kaze 作曲:Fujii Kaze・Tobias Jesso, Jr

秋田犬の忠犬ハチ公(1923年・大正12年11月10日~1935年・昭和10年3月8日)は飼い主の東京帝国大学教授・上野英三郎さんが1925年・大正14年5月21日に脳出血で死去した後、約10年間も渋谷駅まで飼い主を出迎えに行きました。飼い主の帰りを10年間待ち続けたハチ公自身も亡くなったので「ようやく天国で会うことができた」という結末です。

「君にたどり着くためにすべてを乗り越えてきた僕」はもともと「君=飼い主、僕=ハチ公」の実話でしたが、「Hachikō」の歌物語としては「君=ハチ公・リスナー、僕=藤井風さん」のようにも考えられます。

「満ちてゆく」の歌詞にもあるように「生死を超えて繋がる」ことが「魂を満足させる=満ちてゆく」ことだと解釈するとスピリチュアル(精神的)な話のようですが、楽曲やアルバムをネオソウルのグルーヴで満たすと捉えると音楽的な話のようにも響く、ダブルミーニングになっているのではないでしょうか。

2番ラスサビ:スローテンポで構わない

Doko ni ikō Hachikō
This time I’ll never let you go
We don’t need to rush, take it slow
This time, I’ll never let you go

Doko ni ikō Hachikō
This time I’ll never let you go
We don’t need to rush, take it slow
This time, I’ll never let you go

【和訳】
どこに行こう ハチ公
今度こそ君を離さない
焦ることはない ゆっくりいこう
今度こそ君を離さない

どこに行こう ハチ公
今度こそ君を離さない
焦ることはない ゆっくりいこう
今度こそ君を離さない

Hachikō/作詞:Fujii Kaze 作曲:Fujii Kaze・Tobias Jesso, Jr

1番と同じ歌詞のBメロとサビが繰り返された後に続く「2番ラスサビ」。「We don’t need to rush, take it slow=焦ることはない ゆっくりいこう」という歌詞も「ハチ公の実話、リスナーをハチ公になぞらえた藤井風さんの物語、アップテンポではなくスローテンポの曲で構わないという音楽的な話」の3本立てになっているようです。

ジャズ、R&Bやネオソウル、ヒップホップなどのブラックミュージックも、チルアウトやアンビエントまで含めたダンスミュージック(非ダンスミュージック)も、微妙な音色やノリ(グルーヴ)によって好みが分かれます。J-POPの枠組みで、耳の肥えた音楽通を満足させるのは非常に難しいはずですが、藤井風さんは気楽に成し遂げてしまいました。

おわりに

個人的に2025年6月時点でのJ-POPの最高傑作と思われる「Hachikō」がリード曲、全編英語詞という3rdアルバム『Prema 』は2025年9月5日リリース。忠犬ハチ公と化した私たちリスナーをいったいどこへ導いてくれるのか、非常に楽しみです。

藤井風『Prema 』

Disc 1『Prema』

  1. Casket Girl
  2. I Need U Back
  3. Hachikō
  4. Love Like This
  5. Prema
  6. It Ain’t Over
  7. You
  8. Okay, Goodbye
  9. Forever Young

Disc 2『Pre: Prema』初回限定盤のみ

  1. grace
  2. Feelin’ Go(o)d
  3. Workin’ Hard
  4. It’s Alright
  5. 満ちてゆく
  6. 真っ白
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渡辺和歌
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