音楽

Creepy Nuts「Mirage」歌詞の意味を考察!TVアニメ『よふかしのうた Season2』OP主題歌

Creepy Nuts(クリーピー・ナッツ)の「Mirage」(読み方:ミラージュ、意味:蜃気楼、幻想)はTVアニメ『よふかしのうた Season2』の主題歌(オープニングテーマ)として書き下ろされました。
タイアップの影響もあり、海外の反応もいい「Bling-Bang-Bang-Born」や「オトノケ」といった人気曲を大ヒットさせ、ONE MAN TOUR『LEGION』などのライブも絶好調のCreepy Nuts。
ヒップホップというジャンルを軸としながらも、スペインのフラメンコなのか、アルゼンチンのタンゴなのか、ラテン音楽の雰囲気や異国情緒が漂うアフロビーツの曲調を取り入れた「Mirage」の歌詞の意味や元ネタを考察、解説します。

Creepy Nuts「Mirage」ミュージックビデオ・Music Video・MV・PV・YouTube動画

Creepy Nuts「Mirage」Shibuya Scramble Crossing

Creepy Nuts「Mirage」×TVアニメ『よふかしのうた』Collaboration Music Video

Mirage (Instrumental)

TVアニメ『よふかしのうた Season2』概要


『よふかしのうた』とはコトヤマさんによる漫画(連載『週刊少年サンデー』2019年8月28日〜2024年1月24日、小学館)。
漫画のタイトルはCreepy Nutsのデジタルシングル「よふかしのうた」(2018年12月12日)に由来します。

Creepy Nuts「よふかしのうた」


Creepy Nutsの「よふかしのうた」はニッポン放送のラジオ番組イベントツアー『オードリーのオールナイトニッポン 10周年全国ツアー』(2018年6月9日〜2019年3月2日)の公式テーマソングとして書き下ろされました。
メジャー1stミニアルバム『よふかしのうた』(2019年8月7日)にはタイトル曲(表題曲)として収録されています。

Creepy Nuts「堕天」


TVアニメ『よふかしのうた』(Season1、全13話)は2022年7月8日〜9月30日、フジテレビ・ノイタミナ枠ほかで放送されました。
Creepy Nuts「よふかしのうた」がエンディングテーマとなり、オープニングテーマとしてCreepy Nutsが「堕天」(Daten、読み方:だてん、デジタル配信:2022年7月8日、CD:2022年9月7日)を書き下ろしました。

Creepy Nuts「ロスタイム」リリックビデオ


TVアニメ『よふかしのうた Season2』は2025年7月4日からフジテレビ系列・ノイタミナ枠ほかで放送。
Creepy Nuts「ロスタイム」(Losstime、CDシングル『堕天』・3rdアルバム『アンサンブル・プレイ』収録、2022年9月7日)はSeason1に続き、Season2でも挿入歌として起用されました。

TVアニメ『よふかしのうた Season2』ノンクレジット・オープニング映像 ♪オープニング・テーマ:Creepy Nuts「Mirage」


主人公は中学2年生の男子、夜守(やもり)コウ(CV:佐藤元さん)。
「好きとか恋とか、よくわからない」という理由で、告白された女子を振ったところ、その女子の友だちから責められ、不登校・不眠症になりました。

家は小森団地(モデル:田島団地@埼玉県さいたま市)、両親は離婚していて、シングルマザーの母・夜守ケイは水商売で朝帰り。
初めて夜中にこっそり家を抜け出したコウは、ヒロインの女性吸血鬼・七草(ななくさ)ナズナ(CV:雨宮天さん)と出会います。

ナズナに血を吸われたコウが人間のまま、吸血鬼にならないのは恋をしていないから。
人間は恋した吸血鬼に血を吸われることで、その吸血鬼の眷属(読み方:けんぞく、意味:一族、従者)、すなわち吸血鬼になるという設定です。

ただし、初めて血を吸われてから1年以内に吸血鬼にならなければ一生、人間のまま、吸血鬼にはなりません。
コウは「夜が好き」という理由で吸血鬼になりたい、ナズナの眷属になりたい(ナズナに恋したい)と望みます。

登場人物はコウの幼なじみで友だちの中学2年生(女子)朝井アキラ(CV:花守ゆみりさん)と中学2年生(男子)夕真昼(せきまひる、CV:小野賢章さん)。
吸血鬼の桔梗(ききょう)セリ(CV:戸松遥さん)、平田ニコ(CV:喜多村英梨さん)、本田カブラ(CV:伊藤静さん)、小繁縷(こはこべ)ミドリ(CV:大空直美さん)、蘿蔔(すずしろ)ハツカ(CV:和氣あず未さん)、星見(ほしみ)キク(CV:佐藤利奈さん)など。

Season2では、カブラを眷属にした吸血鬼・七草ハル(CV:内田真礼さん)とナズナの関係、吸血鬼の全滅を企む探偵・鶯餡子(うぐいすあんこ、本名:目代キョウコ、CV:沢城みゆきさん)とナズナの過去など、さまざまな経緯(けいい、いきさつ)が描かれています。

  1. 第1夜「それは僕らの時間じゃない」2025年7月4日
  2. 第2夜「会いたかったよ」2025年7月11日
  3. 第3夜「おばけ屋敷にはおばけいない」2025年7月18日
  4. 第4夜「走れるようになりたいかい?」2025年7月25日
  5. 第5夜「あなたと過ごした数年間」2025年8月1日
  6. 第6夜「クオリティーを聞いてるんじゃねぇよ」2025年8月8日
  7. 第7夜「七草さん馬鹿だから」2025年8月15日
  8. 第8夜「先輩が初めてっすよ」2025年8月22日
  9. 第9夜「夜守くん、君はどうしたい?」2025年8月29日
  10. 第10夜「せめてお前に」2025年9月5日
  11. 第11夜「んちゅ」2025年9月12日

TVアニメ『よふかしのうたSeason2』ノンクレジット・エンディング映像 ♪エンディング・テーマ:Creepy Nuts「眠れ」

Creepy Nuts「Mirage」歌詞の意味を考察

クレジット

  • R-指定(R-Shitei):作詞、ボーカル
  • DJ松永(DJ Matsunaga):作曲・編曲、プロデュース
  • 磯貝一樹(Kazuki Isogai) / SANABAGUN.(サナバガン):ギター
  • 真船勝博(Katsuhiro Mafune):ベース
  • Erik Madrid:ミックス
  • Mike Bozzi(マイク・ボッツィ)@Bernie Grundman Mastering(バーニー・グランドマン・マスタリング):マスタリング

曲の構成

  • 1番:頭サビ~Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)
  • 2番:Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)

1番頭サビ:3本立てのいきさつ(ミラージュ)

明かりの灯ったmidnight
エゴと欲と未練が行き交う
雨にぼやけた視界
ネオンがなぞる濡れた輪郭
Until morningまだ醒めないで
時が引き裂く

呆れた顔でgoodnight
追いつけたと思えばmirage
あの日のままで触れたい
とっくに脱ぎ捨ててた品格
あっという間に起こる間違い yeah
夜は短く…
ガス切れのライターが照らす
いきさつ

Mirage/作詞:R-指定 作曲:DJ松永

2023年4月以降、音楽活動に集中するようになってからのCreepy Nutsの進化ぶりはまさに無双状態といえるでしょう。
「Bling-Bang-Bang-Born」(2024年1月7日)だけでも1アーティストが生涯に1曲、叩き出せれば大成功なキャッチーさや強度を誇る楽曲なのに、「オトノケ」(2024年10月4日)を畳みかけて上回る離れ業を成し遂げました。

もちろん、大人気アニメの主題歌というタイアップがあり、TikTokダンス(踊ってみた動画)がバズったおかげで大ヒットにつながったと考えられます。
ただし、音楽そのものは高速ラップと5つ打ちのジャージークラブ。
ヒップホップというジャンル自体、J-POPや邦ロックをメインストリームとする日本の音楽業界ではオルタナティブなのに、そのなかでもCreepy Nutsとして今、現在進行形でやりたい音楽を貫き、ド直球で真っ向勝負したかたちでした。

「音楽の専門家としてアーティストがやりたい音楽、おもしろいと思う音楽」と「売れる音楽、幅広く大衆に響く音楽」は必ずしも一致しません。
内心「おもしろい音楽と売れる音楽は別物(売れている音楽はおもしろくない)」と諦めている音楽好きのリスナーも多いでしょう。
ところがCreepy Nutsは「Bling-Bang-Bang-Born」と「オトノケ」で「おもしろい音楽だから売れる」という、本来は当たり前のはずなのになかなかままならない偉業を成し遂げたのです。

その後のシングル「doppelgänger」(ドッペルゲンガー、2025年1月24日)ではR-指定さんのラップスキルが重視されたようです。
「Bling-Bang-Bang-Born」と「オトノケ」の後だったので、ラップのおもしろさを究極まで追求することができたのでしょう。
ただ、大衆的なわかりやすさよりやりたい音楽に振り切ったというか、ヒップホップや音楽的なおもしろさが際立ち、爆発的にヒットするには先鋭的すぎた、エッジが効きすぎていたのかもしれません。

こうした流れに続くシングルがTVアニメ『よふかしのうたSeason2』の主題歌2曲、オープニングテーマの「Mirage」とエンディングテーマの「眠れ」です。
とくに「Mirage」は(ヒットしがちなアップテンポかスローテンポではなく)ミドルテンポのアフロビーツ。
メロディアスなボーカルが特徴的で、ヒップホップやラップの要素もありつつ、ディアスポラな異国情緒が漂うハウス交じりのR&B、ネオソウルといった雰囲気を醸し出しています。

  • アフロビート(Afrobeat):1960年代~1970年代、西アフリカ:ナイジェリア、ガーナ(ヨルバ音楽、ハイライフ、フジ)+アメリカ(ジャズ、ソウル、ファンク)、創始者:Fela Kuti(フェラ・クティ)
  • アフロビーツ(Afrobeats):2000年代~2010年代、西アフリカ:ナイジェリア、ガーナなど(アフロビート、ヒップライフ=ハイライフ+ヒップホップ+レゲトン、パンロゴ、ジュジュ、ンドンボロ、パームワインミュージック)+イギリス(ハウス)+諸々(R&B、ダンスホール、ソカ=ソウル+カリプソなど)

アフロビーツはフェラ・クティのアフロビートとは別物。
ジャージークラブに続いてアフロビーツに目をつけたところが、DJ松永さんらしい音楽性といえるでしょう。
グラミー賞を最高峰とする世界の音楽シーンではR&Bやネオソウル、ヒップホップ、K-POPなどが台頭していますが、その世界的なトレンド、アフロビーツが取り入れられました。

DJ松永さんによるトラックにはスティールパンやフルートのサウンドが入り、SANABAGUN.(サナバガン)の磯貝一樹(Kazuki Isogai)さんがギター、真船勝博(Katsuhiro Mafune)さんがベースで参加しています。

テンポ(速度、BPM)のみならず、何事においても中間(ミドル)、中庸を保つのは地味なことなので、「Bling-Bang-Bang-Born」などでジャージークラブを取り入れたときほどの派手さはないかもしれません。
ただ、「Mirage」でアフロビーツを取り入れたことにより、Creepy Nutsは音楽的にさらなる次元へ進化したと考えられます。

音楽的に凝ったことをすればおもしろい音楽になるものの、大衆に幅広く受け入れられるわかりやすさも兼ね備えていなければ爆発的なヒットにはなりません。
その塩梅を踏まえ、深く考えたい人にも、何も考えたくない人にも同時に刺さる繊細なバランスが構築されたように思われます。

イントロにはライターっぽい音が印象的に入っていますが、これは「ガス切れのライターが照らすいきさつ」という歌詞の伏線。
「ガス切れのライター」は探偵の鶯餡子(うぐいすあんこ)こと目代(めじろ)キョウコの持ち物で、もともとは……といった経緯(いきさつ)がTVアニメ『よふかしのうたSeason2』の主なエピソードの1つといえるでしょう。

曲名の「Mirage」(読み方:ミラージュ、意味:蜃気楼、幻想)はこのパンチラインの「いきさつ」と韻を踏んでいて、実際に曲中でさまざまな経緯(いきさつ)が示唆される仕掛けになっています。

ちなみに、TVアニメ『よふかしのうた』Season1のオープニングテーマ「堕天」(だてん:空に落ちる=falling:吸血鬼やその由来のコウモリのように空を飛ぶ)は「again(アゲン)」をはじめ、「次元(じげん)、螺旋状(らせんじょう)、摩天楼(まてんろう)、カーテンコール、エデン」などと韻を踏んでいるので、「堕天→again」のように「Mirage→いきさつ」という点を踏襲したようです。

  1. Creepy Nutsと漫画・アニメ『よふかしのうた』の経緯(いきさつ)
  2. R-指定さんと夜の経緯(いきさつ)
  3. TVアニメ『よふかしのうたSeason2』の経緯(いきさつ)

大まかに上記3本立ての「いきさつ」に注目して、「Mirage」の歌詞を考察していきましょう。

1番Aメロ:よふかし歴20年のR-指定と夜のただれた関係

ちょっと待ってや Huh…
俺にゃ家庭があって
生活があってやな…
放っとかんて uh-huh
俺が嘘つく前にとっくに跨ってら
la di la di la la…
今日も鼻歌混じり開いたカギ穴
本当勝手やな
確か20年前もこんな始まり方
あぁ選ばなきゃ大事な日向
甘美な暗闇かどっちか
「もっと書いて…」
「もっと歌って…」
欲張って笑う

Mirage/作詞:R-指定 作曲:DJ松永

3本立ての「いきさつ」のうち、1つめの「Creepy Nutsと漫画・アニメ『よふかしのうた』の経緯(いきさつ)」については見出し「TVアニメ『よふかしのうた Season2』概要」の項目で触れました。

ラジオ番組『オードリーのオールナイトニッポン』の10周年を記念した全国ツアーの公式テーマソングをオードリーの若林正恭さんが直接Creepy Nutsに依頼したのが始まりです。
そのテーマソングとしてCreepy Nuts「よふかしのうた」がリリースされ、その曲名に由来する漫画が生まれ、TVアニメ『よふかしのうた』のテーマソングにもなりました。

さらに今回のTVアニメ『よふかしのうた Season2』まで、オープニングテーマ、エンディングテーマ、挿入歌、そのすべてをCreepy Nutsが担当しています。
原作の漫画家コトヤマさんに跨(またが)られたような流れで、アニメのために「もっと書いて、もっと歌って」と頼まれるCreepy NutsおよびR-指定さんの姿も想像できるでしょう。

Creepy Nutsや漫画・アニメ『よふかしのうた』のファンにとっては周知の経緯ですが、「Bling-Bang-Bang-Born」などからの新規リスナーやフジテレビのローカル放送だったTVアニメ『よふかしのうた』Season1をリアルタイムで観なかった人にとっては、一般的なアニメ主題歌とは異なる流れがあることを知るきっかけになるはず。

コアな層にだけ伝わればいいという自己満足に陥らず、大衆的なわかりやすさも意識されています。
そのうえで大衆的なわかりやすさのみに留まらず、コアなCreepy Nutsファン、コアな『よふかしのうた』ファンに向けたおもしろさが込められているところが醍醐味です。

Creepy Nuts「よふかしのうた」

12オクロックから丑の刻まで
初めてお前を跨いだのは、
いや跨ったのは確か14

よふかしのうた/作詞:R-指定 作曲:DJ松永

「Mirage」で描かれているメインの物語は、2つめの「R-指定さんと夜の経緯(いきさつ)」。
「夜12時(0時)を過ぎて、翌日に持ち越す」ことを「日を跨ぐ、日付を跨ぐ」といいますが、「よふかしのうた」の時点でR-指定さんは夜更かし(よふかし)することを「夜を跨ぐ」とか「夜に跨る」と表現しています。

夜を擬人化し、女性に跨る男性を連想させるような下ネタをおもしろがりつつ、14歳で初めて夜更かししたことを語っているだけという初心(うぶ)なところは、R-指定さんやCreepy Nuts、漫画・アニメ『よふかしのうた』に共通するテイストといえそうです。

ところがR-指定さんは2022年12月12日に江藤菜摘さんと結婚し、2023年に第1子、2024年に第2子が誕生しました。
TVアニメ『よふかしのうた』Season1の頃とは夜との関わり方が変わったR-指定さん。
『週刊少年サンデー』のインタビューによると、「Mirage」では「夜をどう捉えるか」という点に苦労したそうですが、夜と折り合いをつけられないSeason2の大人たちともリンクする内容になったとのこと。

3つめの「TVアニメ『よふかしのうたSeason2』の経緯(いきさつ)」についてはネタバレにならないように忍ばされている感じです。
「鼻歌混じり開いたカギ穴」という歌詞だけでも、吸血鬼のナズナが人間のコウの首筋に嚙みついた跡やSeason2のさまざまなシーンを連想できるでしょう。

さらに「大事」と「甘美」の歌詞の譜割りが「確か20年前もこんな始まり方、あぁ選ばなきゃだ、いーじな日向か、んーびな暗闇かどっちか」となっていて、フロウ(節回し)のおもしろさも堪能できます。
R-指定さん自身の物語を展開しつつ、漫画やアニメのファンもCreepy Nutsや音楽好きも楽しめる内容になっているところが秀逸です。

1番Bメロ:恋の列車は止まらない

お前の計画通り溶けていく明日 wo
どうでもいいや wo
この通り

もう止まんねーや… ha ha ha

Mirage/作詞:R-指定 作曲:DJ松永

TVアニメ『よふかしのうた』Season1では「よふかしのうた」がエンディングテーマとなり、オープニングテーマとして「堕天」、挿入歌として「ロスタイム」を書き下ろしたCreepy Nuts。
R-指定さんはキョーヘー、DJ松永さんはマツナガというほぼ本人役でゲスト声優も務めました(Season1:第6夜「楽しい方がいいよ」2022年8月12日)。

さらに4thアルバム『LEGION』も2025年2月5日にデジタルリリース、同年3月12日にCDリリースした後のTVアニメ『よふかしのうた Season2』という流れになりました。
Creepy NutsやR-指定さんとしては夜にまつわる曲を書き尽くし、夜との関わり方も変わり、アルバム制作に全力を注いだ後のタイミングだったので、アニメ『よふかしのうた』の計画通りに明日が溶けていく感覚になったのかもしれません。

楽曲のメインの物語としては「お前=擬人化した夜」なので「夜の計画通りに明日が溶けていくけれども、夜更かしはもう止まらない」と解釈できます。
書き尽くしたはずの夜をテーマにした楽曲制作、『よふかしのうた Season2』の主題歌制作も結局、依頼されたら「もう止まらない」のでしょう。

さらに、少々ネタバレになりますが、コウの友だちの真昼(まひる)が「恋の列車は止まらない」と語るものの、人を好きになるとか恋する感覚がわからないコウはぽかんとするばかりといったシーン(Season2:第2夜「会いたかったよ」2025年7月11日)も連想できそうです。
この後「1番頭サビ」の後半「呆れた顔でgoodnight〜いきさつ」が「1番サビ」として繰り返されます。

2番Aメロ:チュパカブラは本田カブラの匂わせ?

血がのぼったら始まっちゃう
共食いしてる
Chupacabra blah blah…
日が昇ったら灰になっちゃう
棺桶にフタしてDracula la la…
血がのぼったら始まっちゃう
共食いしてる
Chupacabra blah blah…
日が昇ったら灰になっちゃう
棺桶にフタして…

Mirage/作詞:R-指定 作曲:DJ松永

アニメ尺の1番に2番が加わり、フル尺となっています。
吸血鬼の英語はVampire(バンパイア)。
Dracula(ドラキュラ)はアイルランドの作家ブラム・ストーカーによる怪奇小説のタイトル、およびその小説の登場人物であるトランシルバニアの貴族かつ吸血鬼の名前(ドラキュラ伯爵)です。

そのドラキュラと韻を踏んでいるChupacabra(チュパカブラ)は、プエルトリコなどで目撃されている吸血UMA(未確認生物)。
いずれも実在しない(少なくとも実在が確定していない)架空の存在、つまりMirage(ミラージュ=蜃気楼、幻想)です。

さらに創造上の物語のなかでも「吸血鬼は日が昇ったら灰になる」(蜃気楼のように消える)という設定が多く見受けられます。
漫画『よふかしのうた』の読者には連想される印象的なシーンがあるはず。

ただ、『よふかしのうた』に登場する吸血鬼の名前は春の七草にちなんでいるので、チュパカブラといえば吸血UMAより本田カブラ。
カブラは野菜(根菜類)の「スズナ」(鈴菜、菘)こと「カブ、カブラ」(蕪)に由来するでしょう。
その本田カブラと七草ナズナのいきさつがSeason2で描かれています。

2番Bメロ:人間が吸血鬼化する途中のいきさつ

たとえお前がまだ途中でもhaha
その手を振り解いて「またな」
いや、もう会わない「サヨナラ」
最後にこいつを書き上げたら
そしてまた お前の中
ペンを突き立てる柔肌
戻るただ 平凡なパパ
隠す首筋の歯形yeah yeah

Mirage/作詞:R-指定 作曲:DJ松永

「2番Bメロ」の歌詞「途中」についても、トリプルミーニング的に意味合いが重ねられていると思われます。

  1. 「Mirage」という楽曲における音楽的な途中
  2. 漫画『よふかしのうた』のアニメ化の途中
  3. 漫画・アニメ『よふかしのうた』の物語の途中

「2番Aメロ」では「血がのぼったら~、日が昇ったら~」というフレーズがミニマルに2回繰り返されましたが、その途中、2回目の「Dracula la la…」に入る前に「2番Bメロ」の「たとえお前がまだ途中でも」が始まりました。
これが1つめの「音楽的な途中」です。

2つめの「アニメ化の途中」については、漫画『よふかしのうた』は完結したものの、アニメのSeason2はまだ途中ということ。
そもそもCreepy Nutsの「よふかしのうた」という楽曲に由来して漫画が生まれた経緯(いきさつ)があるので、これまですべてのアニメ主題歌、挿入歌をCreepy Nutsが担当してきましたが、R-指定さんもパパとなり、擬人化した夜とは「もう会わない」というか、Season2で楽曲を担当するのは「最後」かもしれないという思いが見え隠れします。

3つめの「物語の途中」に関しては「人間が吸血鬼化する途中」などが考えられますが、せっかくネタバレにならない程度にほのめかされているようなので、半吸血鬼などの経緯(いきさつ)については「首筋の歯形のように隠す」としましょう。

【MV】Creepy Nuts – 眠れ

  • R-指定(R-Shitei):作詞、ボーカル
  • DJ松永(DJ Matsunaga):作曲・編曲、すべての楽器・機材
  • 高根晋作(Shinsaku Takane)@E-NE Studio:ボーカルレコーディング
  • Alex Tumay@Do What Sounds Good NYC:ミックス
  • Kai Tsao:ミックスアシスト
  • Mike Bozzi(マイク・ボッツィ)@Bernie Grundman Mastering(バーニー・グランドマン・マスタリング):マスタリング

「Mirage」の「2番サビ」も「1番サビ」と同じ、「1番頭サビ」の後半です。
「goodnight、触れたい、間違い、ガス切れのライター」と「mirage、品格、短く、いきさつ」で韻を踏みまくっています。

韻を踏んでいる点はヒップホップやラップ的ですが、フロウ(節回し)や歌い方はメロディアスなR&Bやネオソウル的で、もはやラップというよりボーカル。
トラックメイク(ビートメイク)でアフロビーツなどオールジャンル対応可能となると、ヒップホップを軸としながらも音楽性が無限に広がるため無双状態といえるでしょう。

Creepy Nuts「眠れ」×TVアニメ『よふかしのうた』Collaboration Music Video

あと少しだけ…
あと一曲だけ…
あと一つだけ…yeah

あと少しだけ…
あと一曲だけ…
あと一つだけ…

分かち合えるときまで

眠れ/作詞:R-指定 作曲:DJ松永

さらに「Mirage」のサビの「呆れた顔で、あの日のままで、あっという間に」の「あ」の頭韻は、Season2のエンディングテーマ「眠れ」にも引き継がれ、Season1のオープニングテーマ「堕天」を彷彿とさせます。

そもそもの発端「よふかしのうた」ではコンプライアンス的にエッジの効きすぎた歌詞もありましたが、むしろアニメ『よふかしのうた』のエンディングで「眠れ」と歌ってしまうエッジの効かせ方のほうがクリエイティブ

Season2までの楽曲提供はCreepy Nutsが「独り占め」にしたので、アニメ『よふかしのうた』がラストを迎えるまで他のアーティストには「譲れない」という意味で、他のアーティストに対して「眠れ」と言っているのかもしれません。
現時点ではCreepy Nutsが「夜を勝ち取っている(夜更かししている、夜を乗りこなしている)」とも考えられます。

あるいはパパになったR-指定さんが(夜守コウや小森団地、吸血鬼の由来的な)コウモリのように「逆さまに寝転がる」子どもを寝かしつけるための「眠れ」でしょうか。
アニメの視聴者やCreepy NutsのリスナーにSeason3が始まるまでは「眠れ」と語りかけている可能性もありそうです。

いずれにしてもCreepy Nutsも大人になったということかもしれませんが、総合的に余裕すら感じさせる音楽的な進化があまりにもエモい「Mirage」と「眠れ」でした。

おわりに


「Mirage」のアフロビーツ「la di la di la la」(レディラディララ)は「Bling-Bang-Bang-Born」(ブリンバンバンボン)の5つ打ちジャージークラブほどの派手さはないかもしれません。
TikTokで踊ってみた動画がバズるなどのトレンドには入らないとしても、コアな漫画・アニメファンやCreepy Nuts・音楽ファンには革新的な進化が刺さっているはず。

また、R-指定さんはレゲエDJ・775(ナナコ)さんの「捻くれ者 feat. R-指定」(2025年8月27日、Azito Music Innovation)にゲスト参加。
タイアップ曲以外でも、自身の最高を更新し続けるCreepy Nutsの無双状態はもう止まりません。

Kvi Baba(クヴィ・ババ)「I Like It (Remix) feat. R-指定」

Kvi Baba / I Like It (Remix) feat. R-指定 -Live at NIPPON BUDOKAN-

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渡辺和歌
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