音楽

tofubeats『REFLECTION』突発性難聴やコロナ禍と向き合った5thアルバム

tofubeats(トーフビーツ)さんの『REFLECTION』を聴くと、困難を共有しつつ、未来を輝かせることができるのではないでしょうか。

はじめに


tofubeats(本名:河合佑亮)さんは1990年11月26日生まれ、兵庫県神戸市出身、関西学院大学卒業の音楽プロデューサートラックメーカー)&DJ。


5thアルバム『REFLECTION』と初の著書『トーフビーツの難聴日記』(2022年5月18日)には、前作『RUN』(2018年10月3日)以降の約4年間で、tofubeatsさんが経験した突発性難聴(2018年末)、上京(2019年7月頃)、結婚(2020年5月末発表の数か月前)、コロナ禍といった変化が記録されています。
先行シングル6曲、ゲスト参加4曲を含む、全16曲(歌もの9曲+インスト7曲)・約1時間4分。
ポップスとクラブミュージックの架橋となる秀作を聴き込みましょう。

【1】Mirror


アルバムのテーマ「鏡、反射」が掲げられたオープニング。
2018年末、福岡のビジネスホテルに滞在していたtofubeatsさんが突発性難聴を発症した際、なぜか鏡が気になったことから「自分と向き合う」というテーマが生まれ、同じホテルに泊まった2019年3月にジャケットのアートワークの元になった鏡の写真を自撮りしたそうです。
「OKです」や「ドアが閉まります」のサンプリングは、tofubeatsさんが東京・日比谷の駐車場で壊れて鳴りやまない機械やエレベーターの音声をフィールドレコーディングしたもの。
tofubeatsさんのボーカルには全曲オートチューンがかけられていて、さらに「Mirror」ではライブでの再現を想定せず半音下げる加工が施されており、あえて元に戻れないようにする「不可逆性」が表現されています。

【2】PEAK TIME


第5弾シングル「PEAK TIME」(2022年3月25日)は15曲目のタイトル曲「REFLECTION」と共に、アルバムの軸となる楽曲。
コロナ禍の日常、音楽や時間との関わり方をイメージさせられる言葉の繰り返しにより、歌もの(ポップス)とインスト(クラブミュージック)の両方が混ざり合ったテイストに仕上がっています。

【3】Let Me Be


もともと「Let Me Be」は2曲目「PEAK TIME」とつながった1曲でしたが、アルバムの流れを楽しむ仕掛けとして別曲に区切られました。

【4】Emotional Bias


「Emotional Bias」は2分半あまりのインタールード的なインスト曲。
突発性難聴を発症してから治るまでが直線的に表現された4部構成のアルバムで、混乱状態の2曲目「PEAK TIME」から笑顔を取り戻そうとする5曲目「SMILE」までのあいだには、感情バイアスがかかった(現実を受け入れられない)時期があったのかもしれません。

【5】SMILE


第2弾シングル「SMILE」(2021年6月18日)も、2曲目「PEAK TIME」のように同じ言葉が繰り返される手法が用いられています。
ポップスのメロディ(歌)やハーモニー(ピアノやギターのコード進行)を追う習慣が身についている人も、ラップのノリを楽しむことによってリズム(クラブミュージック)に親しみやすくなるのではないでしょうか。

【6】don’t like u feat. Neibiss


第6弾シングル「don’t like u」(2022年4月29日)では、hyunis1000ヒョンイズセン)さんとratiffラティフ)さんからなる神戸在住の2人組ヒップホップユニット、Neibissネイビス)が作詞とラップを担当。
歌詞に出てくる「ヒョン君」はhyunis1000さん本人。
コロナ禍ですれ違う恋人同士を「クオンタイズが合わない」と表現したり、「グリッチ」(故障、ノイズ、エレクトロニカのサブジャンル)などの音楽・映像用語が混ざったりしているところにも、tofubeatsさんが投げかけたお題に対する「反射」が感じられます。
https://twitter.com/_ratiff_/status/1530381223289552896

【7】恋とミサイル feat. UG Noodle


神戸在住のSSW、UG Noodleユージー・ヌードル)さんをゲストに迎えた「恋とミサイル」。
tofubeatsさんから送られたボサノバ調のデモ音源に「さわやかさと狂気」を感じ取ったUG Noodleさんが、タイトルを含む作詞とボーカルを担当しています。
タイトルはフリッパーズ・ギターの2ndシングル「恋とマシンガン」(1990年5月5日、2ndアルバム『CAMERA TALK1990年6月6日)へのオマージュでしょう。
UG Noodleさんが所属し、神戸・塩屋の旧グッゲンハイム邸を拠点に活動するバンドsumahama?スマハマ?)のTakashi Kusuda(楠田タカシ)さんとseizoセイゾー)さん(コーラス)、サックス奏者Ecco中西悦子)さん(ソプラノサックス)の生演奏に吹き替え、tofubeatsさんがミックスするスタイルで制作されました。

【8】Afterimage


「Afterimage」は3分足らずのインタールード的なインスト曲。
ポップス寄りの前半を締めくくるイメージでしょう。

【9】Solitaire


3分あまりのインスト曲「Solitaire」(ソリティア)はひとり遊びのゲーム音を彷彿とさせるハウス。
クラブミュージック寄りの後半の幕開けでしょう。

【10】VIBRATION feat. Kotetsu Shoichiro


香川県高松市(瀬戸内)在住のプロデューサー&ライターなどのKotetsu Shoichiro小鉄昇一郎)さんがMCとラップを披露している「VIBRATION」。
イントロの「トーフの一部がHOT!HOT!」は音楽バラエティ番組「THE夜もヒッパレ」(1995年4月~2002年9月)のDJ赤坂赤坂泰彦)さん風のMCで、藤井隆さんのギャグをもじっています。

音楽ってもうダメなのかなー?
そんなことないって言ってくれよ
Babyちゃん TBちゃん 言ってくれよー

出典:/作詞:tofubeats・Kotetsu Shoichiro 作曲:tofubeats・Kotetsu Shoichiro

「音楽ってもう~」の元ネタはECDさんの「ECDの”東京っていい街だなぁ”」(2ndアルバム『WALK THIS WAY』1993年7月15日)です。
その元ネタは左とん平さんの「東京っていい街だな」(1stシングル「とん平のヘイ・ユウ・ブルース」カップリング曲:1973年11月21日スチャダラパーが1stアルバム『スチャダラ大作戦』収録曲「スチャダラパーのテーマ PT.2」でサンプリング:1990年5月5日)。
また「TBちゃん」ことtofubeatsさんは笠井紀美子さんの「バイブレイション」(アルバム『トーキョー・スペシャル』1977年9月21日)をサンプリングしています。

tofubeats「ディスコの神様 feat. 藤井隆」

【11】Not for you


「自分の姿を客観的に見ることはできない」という事実に改めて気づかされるインストです。

【12】CITY2CITY


第3弾シングル「CITY2CITY」(2021年8月27日)は、NEXCO中日本中日本高速道路名二環名古屋第二環状自動車道)全線開通(2021年5月1日)のCMソングとして書き下ろされました。

【13】SOMEBODY TORE MY P


第1弾シングル「SOMEBODY TORE MY P」(2020年3月20日)は、ミニアルバム『TBEP』(デジタル:2020年3月27日→12インチレコード:2020年8月19日)の収録曲。
岡山市出身の洋画家、国吉康雄(くによし やすお)さんの代表作「誰かが私のポスターを破った」(1943年、油彩)をテーマに制作されたインスト(ブレイクビーツ)です。

TBEP online release party 2020/7/3

  • 0:00~:OP
  • 2:40~:DJ
  • 1:04:28~:live
  • 1:25:01~:SOMEBODY TORE MY P
  • 1:51:15~2:27:05:OUTRO

【14】Okay!


約8分と長尺の4つ打ちのインスト「Okay!」にも1曲目「Mirror」のような「OKです」の音声が使われているものの、最初のフィールドレコーディングではなく、シンセサイザーによる話し声という違いがあります。
「Mirror」のアウトロと「Okay!」のメインループは同じですが、アルバムの流れで聴くとニュアンスが変わるところにも、元に戻らない「不可逆性」が感じられるでしょう。

【15】REFLECTION feat. 中村佳穂


中村佳穂さんをゲストに迎えた、第4弾シングル&タイトル曲の「REFLECTION」(2022年2月25日)。

溺れそうになるほど 押し寄せる未来
すれ違いばかりだって また会いたい気分
憂鬱な朝でも 差し込む光
ふたたび輝きだす よそ見させないほど

出典:REFLECTION feat. 中村佳穂/作詞:tofubeats 作曲:tofubeats

ジャングルドラムンベースのビートに乗り、「鏡を通して自分と向き合うことで、止まった時間が動き出し、再び未来が輝き出す」というカタルシスを迎えます。

【16】Mirai


「校舎」から「(誰だって)そうだ」まで韻を踏み続けるラストのラップが衝撃的な「Mirai」。

誰もが知ってる 未来まだ止まらない
いい大人になっても思い出してる校舎
思いとどまらせることばかり でもしない降参
離れ離れになってもいつかはまた交差
いつまで経っても人生誰もが皆 走者
時間が追いかけてくるし 止められない動作
大丈夫 君なら少しくらいの遭難

背負ってるのは
誰だってそうだ
誰だってそうだ
誰だってそうだ

誰だってそうだ

出典:Mirai/作詞:tofubeats 作曲:tofubeats

15曲目「REFLECTION」の「押し寄せる未来」という中村佳穂さんのフレーズがループされているほか、1曲目「Mirror」から16曲目「Mirai」までを総括する構成になっています。
「ミラー(鏡)と未来」は響きが似ているものの同じではないところでも元に戻らない「不可逆性」が表現されていて、「鏡(Mirror)→反射(REFLECTION)→未来(Mirai)」と直線的に進む「時間の流れ」を感じられたのではないでしょうか。

おわりに

https://open.spotify.com/album/3YLJWusLf7BKhZU5Wmff1I
コロナ禍の日常をがっつり掘り下げるアルバムがリリースされるほど、非常事態が長引いている現状を思い知らされます。
tofubeatsさんのように体調の異変やタイミングの悪さが重なった人はさぞかし途方に暮れているはず。
今回のアルバムにはシングル「Keep on Lovin’ You」(2019年5月24日)や「クラブ」(2020年3月13日、『TBEP』)が収録されず、クラブミュージック色が抑えられているところにも現場のクラブになかなか足を運べない現状が反映されています。
不透明な先行きは不安を増長させがちですが、それでも未来に希望をもつ明るさが今を生き抜く秘訣になるでしょう。

「REFLECTION」online release party 2022.05.26

  • 0:00~:開場~BGM
  • 30:00~1:32:15:本編

中村佳穂さんらゲスト4組が総出演!
自宅がクラブになるライブ映像をお供に、明るく踊り続けましょう!

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渡辺和歌
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