音楽

The fin.「Sapphire」歌詞を考察!サファイアのきらめきが詰まったチルウェイヴ

世界的に活躍する、日本の2人組インディーロックバンドThe fin.(ザ・フィン)「Sapphire」(サファイア)の歌詞を考察します。

はじめに


The fin.は「インディーロックシンセポップインディーポップ(70年代後期~)→ドリームポップ(80年代中期~)→シューゲイザー(80年代後期~)→チルウェイヴ(2000年代中期~)」の流れを踏襲する2人組ロックバンド
また「アンビエント(20年代~70年代後期~)→ニューエイジ(60年代後期~)→ダウンテンポ(80年代中期)→エレクトロニカ(90年代後期~)→オルタナティブR&B(2000年代中期~)」といった電子音楽R&Bの要素も感じられるところが魅力です。

  • 左→右:Kaoru Nakazawa(ベース)、Yuto Uchino(ボーカル、シンセサイザー、ギター)

Sapphire (Acoustic Version)


2010年、フロントマンのYuto Uchinoさん1991年6月5日生まれ)を中心に、兵庫県・宝塚市出身の幼なじみで結成。
メンバーは2012年4月から4人、2017年5月から3人、2019年3月から現在の2人体制になりました。
2016年9月からUKロンドンを拠点に活動していましたが、2019年11月に帰国してYuto Uchinoさんが東京にプライベートスタジオを設立しています。

アルバム

EP

Night Time


1stアルバム『Days With Uncertainty』(2014年12月)の収録曲「Night Time」(SoundCloud:2013年9月)は世界的な注目を集め、元AKB48の前田敦子さん(2012年8月卒業)がTwitterで反応したことでも話題になりました。

Outer Ego


今回、歌詞を考察するデジタルシングル「Sapphire」(2020年11月27日)は、3rdアルバム『Outer Ego』(デジタル・CD:2021年11月24日、LP:2021年11月27日、意味:自我の外側、自己超越)の収録曲。
全12曲のアルバム音源ではYuto Uchinoさんがほぼ1人で作・プロデュース・ボーカル・演奏からレコーディング・ミックスまで手がけ、5曲目「Old Canvas」(2021年7月9日)と9曲目の表題曲「Outer Ego」の2曲のみ、UKのコレクティブ、ミロ・ショットMiro Shot)に所属するトモ・カーターTomo Carter)がサポートドラマーとして参加しています。
テーム・インパラTame Impala)に近いスタイルですね。

https://twitter.com/sensajp/status/1505499397043339266
さらに2022年4月13日、アコースティックバージョンもデジタルシングルとしてリリースされました。


フジロックには2014年(ROOKIE A GO-GO)、2017年(レッドマーキー)に続き、2022年の出演が決定!
参戦者も居残り組も、予習・復習を兼ねて「Sapphire」の歌詞の意味を深めましょう。
https://twitter.com/_thefin/status/1509805013480386563

Sapphire (Lyric Video)

The way it’s in the breeze
I chase it to save its freedom
I don’t know how
I’m on the wheels
No clouds and worries
It feels like falling down

出典:Sapphire/作詞:Yuto Uchino 作曲:Yuto Uchino

3拍目にアクセントが置かれたビートに、風の音が表現されたシンセサイザー、楽器のように響くボーカル、ディレイの効いたギターなどが多層的に重なり、幻想的な雰囲気に包まれるサウンドです。
アルバム全体や表題曲のテーマが「(わがままな)エゴの消滅」なので、「Sapphire」の歌詞も詩的になっています。
冒頭で描かれているのは「答えは風の中にあるはずだ。僕は自由を守るために、風を追いかける。方法はわからない。僕は車に乗っている。雲も心配もない。それは沈み込む感覚に似ている」といった内容です。
この楽曲制作のきっかけとなったのは、Yuto Uchinoさん自身の子どもの頃の思い出。
「車に乗っていたときに感じた風や自分の心は純粋そのものだったけれど、大人になった今では風に純粋さを感じることはあまりない」などと思ったそうです。
そのため「子どもの頃の自分に語りかける=風を追いかける」作業を試みています。
この「沈み込む感覚」とは、自分の内側に深く潜るように「内面を見つめる」ことでしょう。

Windows down
I breath its purity
I don’t know how to breath out as it is
I don’t know how
I’m already out
What the sun chases is us
The warmth I used to hold in me is the key
I don’t know why

出典:Sapphire/作詞:Yuto Uchino 作曲:Yuto Uchino

続くパートは「窓を開けて、ピュアな風を吸い込む。そのまま息を吐く方法はわからない。わからない。いつのまにか外に出ていた。太陽が僕たちを追いかける。あの頃、心に抱いていた温もりがカギだ。理由はわからない」といったニュアンス。
Yuto Uchinoさんは「自分が体験した一瞬の記憶を、3~4分の楽曲に落とし込む」など、「時間の概念や性質を変えるような音楽を表現したい」と考えているそうです。
「Sapphire」では、「子どもの頃の自分」から「今の大人の自分」までの時間経過が描かれています。
かすかな記憶として残っている心の温もりをヒントに、自然の美しさをありのまま受け止める純粋な感覚を呼び覚まそうとしているのではないでしょうか。

Sapphire (Acoustic Version)

I can’t see the stars
I know they’re twinkling above us
We wait for the time
Anywhere I go
They’re burning above us
We wait for the time

出典:Sapphire/作詞:Yuto Uchino 作曲:Yuto Uchino

星が見えない。空にきらめいていることはわかっている。時間を待つ。どこへ行こうとも。星は空で燃えているはずだ。時間を待つ」と解釈できるこのパートから、大人の自分が混ざり始めたようです。
星になぞらえているのは、タイトルの「サファイア」。
実際にはさまざまな色がありますが、「サファイア」といえば青い宝石やレコード針が連想できます。
この楽曲では「きらめくほど純粋な心」や「空、風、海の青さ、若さ」などの象徴として描かれているでしょう。
「サファイアのようにきらめく純粋な心はどこかにあるはずだから、どれほど時間がかかっても取り戻せるまで待つ」といった熱い思いが表現されています。
海に潜るように自分の内面を深く見つめると同時に、空や宇宙へと広がるイメージで燃える星を探し、自我を燃やしながら自己超越に至ることができそうです。

I can’t reach the clouds
Some part of me won’t talk to me
Tell me why
Everything I lost
It keeps telling me now
That you’re not alone

出典:Sapphire/作詞:Yuto Uchino 作曲:Yuto Uchino

雲に届かない。僕の一部は、僕に話しかけるつもりはない。理由を教えてほしい。僕の失ったものすべてが今、僕に語り続ける。君はひとりじゃないよ、と」、このパートでも自我が拡張して薄くなり、全体と一つになる「沈み込む感覚からの浮上」が体感できます。
過去の自分に語りかけても、失った純粋さは戻らないかもしれません。
それでもかすかに残る心の温もりを手がかりにすると、空、風、海などの自然と一体化するような感覚を味わえるのではないでしょうか。
音楽によって孤独を共有することで、逆に孤独ではないと実感するような希望が感じられます。

BloomHour 音楽と暮らしの彩り #01

  1. Sapphire (Acoustic Version)
  2. Outer Ego (Acoustic Version)

I can’t see the stars
Tell me why
Anywhere I go

出典:Sapphire/作詞:Yuto Uchino 作曲:Yuto Uchino

ラストで「星が見えない。理由を教えてほしい。どこへ行こうとも」というフレーズが繰り返されます。
今の大人の自分に戻ると、子どもの頃の「サファイア」のような純粋さはないと再認識するばかりです。
ただ、ピュアな感覚の喪失を自覚すると、新たに思うところもあるでしょう。

おわりに


全12曲のアルバム『Outer Ego』は3曲ずつ4つのフェーズ(段階)に分かれていて、「社会的な自我→インナーチャイルドとの対話→精神的な自我→内面との対話」と展開し、また始まりに戻ってループする構成です。
10曲目の「Sapphire」は4つ目のフェーズ「内面との対話」の始まりで、この後さらに内面に潜る11曲目「Safe Place」、無意識の心象風景が描かれた12曲目「Edge of a Dream」へとつながります。
アルバム全体を繰り返し聴くことで、心が癒されるのではないでしょうか。
https://twitter.com/_thefin/status/1524352248167698433

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渡辺和歌
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