米津玄師さんの「BOW AND ARROW」(読み方:ボウ・アンド・アロー、意味:弓と矢、弓矢)はTVアニメ『メダリスト』の主題歌(オープニングテーマ)として書き下ろされました。羽生結弦さん出演のMVも話題の「BOW AND ARROW」の歌詞の意味を考察、解説します。
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米津玄師「BOW AND ARROW」ミュージックビデオ・Music Video・MV・PV・YouTube動画
米津玄師 Kenshi Yonezu – BOW AND ARROW / 羽生結弦 Yuzuru Hanyu Short Program ver.
米津玄師 × 羽生結弦 – BOW AND ARROW対談
TVアニメ『メダリスト』概要
テレビ朝日系・NUMAnimation枠のTVアニメ『メダリスト』(2025年1月4日深夜・5日〜)の原作は、つるまいかださんの同名漫画(連載:『月刊アフタヌーン』講談社、2020年7月号〜)。アニメのキャッチコピーは「人生ふたつぶん懸けて、叶えたい夢がある!」です。
フィギュアスケートに憧れ独学で学んでいた少女・結束いのり(ゆいつか・いのり、CV:春瀬なつみさん)、挫折を経験した元フィギュアスケート選手で指導者(コーチ)となる青年・明浦路司(あけうらじ・つかさ、CV:大塚剛央さん)、この2人がタッグを組んでメダリストを目指します。
TVアニメ「メダリスト」ノンクレジットオープニング映像|米津玄師「BOW AND ARROW」
米津玄師「BOW AND ARROW」歌詞の意味を考察
- リリース:2025年1月27日
- レーベル:Sony Music Labels
- サブスク:Spotify、Apple Music(iTunes)
- カラオケ:DAM、JOYSOUND
- 楽譜・コード譜:U-フレット、RinNe(リンネ)
- Wikipedia(ウィキペディア)
- ピクシブ百科事典(pixiv)
- 音楽ナタリー:米津玄師「Plazma」「BOW AND ARROW」インタビュー|あの頃の気持ちで、軽やかな自分で 今解き放つ2つのアニメ主題歌(2025年2月1日)
- Real Sound(リアルサウンド):『メダリスト』の物語に収まらない米津玄師の巧みな隠喩表現 「BOW AND ARROW」が真に描くものとは?(2025年2月12日)
曲の構成
- 1番:Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)
- 2番:Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)
1番Aメロ:「え」の韻で紡ぐ、僕と君の憧れと夢
気づけば靴は汚れ 錆びついた諸刃を伝う雨
憧れはそのままで 夢から目醒めた先には夢聞こえたその泣き声 消えいる手前の咽ぶソワレ
憧れのその先へ 蹲る君を見つける為BOW AND ARROW/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
『メダリスト』のアニメ化に際し、原作漫画ファンの米津玄師さんが自ら打診して主題歌を担当することになり、制作された「BOW AND ARROW」。ジャケットのアートワークには米津玄師さん自身が描いた、『メダリスト』の主人公・結束いのり(ゆいつか・いのり、以下:いのり)のイラストが使われています。
スケートは靴のブレードの2本のエッジで滑る。インサイドエッジとアウトサイドエッジ。この2本の使い分けを覚えるのがスケーティングの第1歩。
これはアニメ『メダリスト』の第1話(score01)「氷上の天才」で、小学5年生のいのりのコーチとなる26歳の元選手・明浦路司(あけうらじ・つかさ、以下:司)が「フィギュアスケートの美しい進み方」として語ったセリフです。ブレードは刃、エッジは刃の端、氷との接地面のことで平らではなく、逆U字型のくぼみがあります。
つまり、歌詞に登場する「汚(よご)れた靴」は「スケート靴」、「錆(さ)びついた諸刃(もろは)」は「ブレードの2本のエッジ、インサイドエッジとアウトサイドエッジ」を表しているでしょう。ハイリスク・ハイリターンや一長一短を意味することわざ「諸刃の剣、諸刃の刃」も連想できるかもしれません。
この諸刃ともいえる2本のエッジから「コーチの司と選手のいのり」の2人も連想できそうです。「BOW AND ARROW」の語り手「僕」は司、「君」はいのり。曲名「BOW AND ARROW」の「弓と矢」には「コーチと選手」=「司といのり」=「僕と君」が重ねられています。
司は、オリンピック金メダリストで元フィギュアスケート選手の夜鷹純(よだか・じゅん、CV:内田雄馬さん)に憧れ、中学時代にフィギュアスケートを始めたものの、シングルの選手を断念して20歳から24歳までアイスダンスの選手として活躍。選手引退後はアイスショーの面接に落ち続けるという挫折を経験していました。
そこで司はいのりと出会います。いのりは姉と比較され、母に反対されてフィギュアスケートを習いたいと言い出せず、泣きながらズルをしながら独学でフィギュアスケートを学び、「金メダリストになりたい」という夢を抱えていました。
歌詞の「ソワレ」は演劇、ミュージカル、バレエ、オペラなどの舞台興行の昼公演・マチネに対する「夜公演」のこと。フィギュアスケートのアイスショーを連想することもできそうです。しかし、ここでは単純に「夜会」という意味で、いのりの「夜泣き」の隠喩(メタファー)になっていると考えられます。
「1番Aメロ」の語尾、文末は「気づけ、汚れ、雨、憧れ、そのままで、夢、目醒め、聞こえ、泣き声、消え、手前、ソワレ、その先へ、見つけ、為」と「え段」で韻を踏みまくっています。ミニマルなリズムの繰り返しと共に展開される言葉遊びは今後も続くものの、「1番Aメロ」では「僕(司)と君(いのり)」の「憧れと夢」が印象的です。
1番Bメロ:インパルスから連想される音響や軌道
行け 行け 追いつけない速度で 飛べ インパルス加速して
行け きっとこの時を感じる為に生まれてきたんだBOW AND ARROW/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
「1番Aメロ」で「憧れ、夢」に象徴された「え段」の韻は、「1番Bメロ」で「行け、飛べ」へとつながります。その「飛べ」に呼応する「インパルス」(Impulse)は「衝動、衝撃」という意味です。まず思い浮かぶのは、航空自衛隊に所属するアクロバットチーム(曲技飛行隊)第4航空団飛行群・第11飛行隊の愛称「ブルーインパルス」でしょう。
さらに、室内音響やフィギュアスケートのジャンプの軌道にも適応される「インパルス応答=システムにインパルス(時間的幅:無限小、高さ:無限大のパルス)信号を入力したときの出力値」、ひだのぶこさんのフィギュアスケート漫画『ブルー・インパルス 青い衝撃』(若木書房、1972年)も連想できそうです。
「BOW AND ARROW」のMVに出演した羽生結弦さんは、エフェクトのかかった「生まれてきたんだ」の部分で叫ぶようなリップシンクをしました。これは「弓と矢、コーチと選手、司といのり」の「矢、選手、いのり」側の声のような気がしたからだそうです。つまり「弓と矢=米津玄師さんと羽生結弦さん」という構図も成立します。
1番サビ:「ピースサイン」のアンサーソング?
未来を掴んで 期待値を超えて 額に吹き刺す風
今に見なよ きっと君の眩しさに誰もが気づくだろう
相応しい声で 視線追い越して 虚空を超えて行け
見違えていく君の指から今 手を放すBOW AND ARROW/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
「憧れ、夢」や「行け、飛べ」と紡がれた「え段」の韻は、「1番サビ」で「風、声で」から「超えて行け」へと収束し、「手を放す=え段の韻を手放す=矢を放つ」展開です。「未来、期待値、額(ひたい)」でも韻を踏んでいて、こちらは「君(いのり)の眩(まぶ)しさ」に対する「僕(米津玄師さん)の眩しさ」といえるかもしれません。
米津玄師「ピースサイン」
いつか僕らの上をスレスレに
通り過ぎていったあの飛行機を
不思議なくらいに憶えてる
意味もないのに なぜかピースサイン/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
「BOW AND ARROW」が主題歌に決まったきっかけは米津玄師さん自身の要望でしたが、その後のアニメ『メダリスト』側の要望は「ピースサインのような曲」だったそうです。
「ピースサイン」(Peace Sign、2017年6月21日、Sony Music Records)といえば、米津玄師さんの7thシングル表題曲かつTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』(第2期・第1クール)のオープニングテーマ。
こうした経緯を踏まえると、「1番Bメロ」の「インパルス」は「ピースサイン」の「あの飛行機」と重なる気もします。
もう一度
遠くへ行け遠くへ行けと
僕の中で誰かが歌う
どうしようもないほど熱烈にピースサイン/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
「ピースサイン」では「弓と矢、コーチと選手、司といのり」の「矢、選手、いのり」側だった「僕」が、「BOW AND ARROW」では「遠くへ行けと僕の中で歌う誰か」=「弓、コーチ、司」側になったイメージです。
2番Aメロ:弓と矢の不思議なシンクロ
気づけば謎は解かれ 木目ごと見慣れた板の上
あの頃焦がれたような大人になれたかなそう君の苦悩は君が自分で選んだ痛みだ
そして掴んだあの煌めきも全て君のものだ僕は弓になって 君の白んだ掌をとって強く引いた
今君は決して風に流れない矢になってBOW AND ARROW/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
YouTubeで公開された「米津玄師 × 羽生結弦 – BOW AND ARROW対談」動画によると、「僕が弓になり、君が矢になる」という歌詞の内容から曲名が「BOW AND ARROW」となり、MVに羽生結弦さんが出演することが決まったのはその後だそうです。
ただ、羽生結弦さんの名前には「弓」が入っていて、しかも「僕が弓になる=米津玄師さんの玄に弓を足すと、羽生結弦さんの弦になる」というシンクロぶり。コーチとなっていのりの背中を押す司の心情が描かれていますが、米津玄師さんと羽生結弦さんのコラボも運命的な邂逅になったようです。
2番Bメロ:推し活の連鎖によるド直球な応援歌
行け 決して振り向かないで もう届かない場所へ
行け 行け 君はいつだって輝いていた!BOW AND ARROW/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
「BOW AND ARROW」が「ひねりのないド直球な応援歌」となっているのは「ピースサイン」の時点で約束されていたのかもしれません。
『メダリスト』の原作者つるまいかださんは、漫画家になる前の会社員時代からいのりのCVを務めた声優・春瀬なつみさんのファンでした。ファンレターを受け取った春瀬なつみさんも『メダリスト』を読み、お互いの夢が叶った状態です。
そもそも米津玄師さんは漫画『メダリスト』のファンでした。さらに、つるまいかださんも羽生結弦さんもボカロPハチさん時代から米津玄師さんのファンという「推し活の連鎖」が指摘されています。
ラストに繰り返される「1番サビ」もド直球。ハチさん名義の楽曲を振り返るとストレートすぎるかもしれませんが、「振り向かずに前進あるのみ」という結末でした。
おわりに
「追いつけない速度」で大型タイアップ曲を連発する米津玄師さん。しかも羽生結弦さん出演のMVまで生み出してしまう「眩(まぶ)しさ、煌(きら)めき」です。そのうえ『KENSHI YONEZU 2025 WORLD TOUR / JUNK』で上海、台北、ソウル、ロンドン、パリ、ニューヨーク、ロサンゼルスにて公演(2025年3月8日〜4月6日)。たしかに「もう届かない場所で輝いている」ので振り向いている暇はなさそうです。