米津玄師さんのデジタルシングル「Azalea」(読み方:アザレア)は有村架純さん、坂口健太郎さん、生田斗真さんらが出演するNetflixシリーズのドラマ『さよならのつづき』の主題歌として書き下ろされました。その「Azalea」の歌詞の意味を考察、解説します。
<インタビュー>米津玄師 新曲「Azalea」で向き合った、恋愛における“距離”――「愛情」の源にある“剥き身の生”とは https://t.co/DJ0PvIdbsX
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) November 20, 2024
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米津玄師「Azalea」ミュージックビデオ・Music Video・MV・PV・YouTube動画
MVの撮影場所・ロケ地はおそらく千葉の木更津木材港倉庫 E棟、東京・目黒のスタジオEASE・OLD AVENUEと思われます。
衣装の黄色いコートはDries Van Noten(ドリス・ヴァン・ノッテン)のようです。歌詞に出てくる「クリムトの絵」が反映されたのかもしれません。車は日産フーガ(NISSAN FUGA)のようです。
- Dries Van Noten:Show AW 24-25 Men 37
https://twitter.com/NissanGlobal/status/1859159992898605148
米津玄師 – Azalea × 「さよならのつづき」Special MV(フル尺)
Netflixシリーズ『さよならのつづき』とは?
- Netflix:さよならのつづき
- 配信:2024年11月14日~(全8話)
- 出演:有村架純、坂口健太郎、生田斗真 他
- 原案・企画・製作:Netflix
- 脚本:岡田惠和
- 監督:黒崎博
- 音楽:アスカ・マツミヤ
『さよならのつづき』は原作のない、Netflixのオリジナルドラマ。監督は黒崎博さん、脚本は岡田惠和さんが手がけました。撮影場所・ロケ地は北海道・小樽やハワイです。
有村架純さんと坂口健太郎さんの共演は今回のドラマ『さよならのつづき』で4回目。これまでにドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年1月~3月)、映画『ナラタージュ』(2017年10月公開)、WOWOWの連続ドラマW『そして、生きる』(2019年8月~9月)および映画『劇場版 そして、生きる』(2019年9月公開)で共演しています。
『さよならのつづき』は「さよなら」から始まる愛の物語。プロポーズされた当日に恋人・雄介(生田斗真さん)を事故で失った、さえ子(有村架純さん)。雄介の心臓を提供された成瀬(坂口健太郎さん)には支える妻・ミキ(中村ゆりさん)がいます。数奇な運命に翻弄され、雄介の記憶を持つ成瀬とさえ子が出会う物語です。
米津玄師「Azalea」歌詞の意味を考察
- 配信リリース(MP3・RAR):2024年11月18日
- レーベル:Sony Music Labels
- 1番:Aメロ~Bメロ~サビ(Cメロ)
- 2番:Aメロ~Bメロ~Dメロ~ラスサビ(Cメロ)
- サブスク:Spotify、Apple Music(iTunes)
- カラオケ:DAM、JOYSOUND
- 楽譜・コード譜:RinNe(リンネ)
- 中文歌詞:中日歌詞
1番Aメロ:曲名の由来は連想ゲーム
咲いてた ほら
残してった挿し木の花 あの時のままだ
私は ただ
あの時と同じように 君の頬を撫でたAzalea/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
BPM108のミドルテンポが心地いい「Azalea」の作詞・作曲・編曲・ジャケットアートワークは米津玄師さん自身が手がけました。
米津玄師『LOST CORNER』
- RED OUT
- KICK BACK
- マルゲリータ + アイナ・ジ・エンド
- POP SONG
- 死神
- 毎日
- LADY
- ゆめうつつ
- さよーならまたいつか!
- とまれみよ
- LENS FLARE
- 月を見ていた
- M八七
- Pale Blue
- がらくた
- YELLOW GHOST
- POST HUMAN
- 地球儀
- LOST CORNER
- おはよう
米津玄師さんは音楽ナタリーやBillboard JAPANのほか、TBS『THE TIME,』、フジテレビ『めざましテレビ』、日本テレビ『ZIP!』、テレビ朝日『グッド!モーニング』、フジテレビ『ノンストップ!』でもインタビューに応じました。
6thアルバム『LOST CORNER』(ロストコーナー、CDなど:2024年8月21日)収録曲かつ日本コカ・コーラ「ジョージア」タイアップ曲の「毎日」(2024年5月27日)に続き、藤井風さんのプロデューサーでもあるYaffleさんが共同編曲で参加。リリース順は「毎日」が先で「Azalea」が後、制作の順番は逆に「Azalea」が先で「毎日」が後だったそうです。
「Azalea」(アザレア)という花の名前の曲名については、ドラマ『さよならのつづき』の内容から「心臓移植→別の人間が同じものを持つ→ドッペルゲンガー→クローン→挿し木→アザレア」という流れで連想ゲームのように思いついたとのこと。花言葉は意識していないようです。
臓器提供者(ドナー)の雄介役を演じる俳優が生田斗真(いくたとうま)さんということもあり、萩尾望都さんの漫画『トーマの心臓』のほか、ボカロP・トーマさんの1stアルバム『アザレアの心臓』(2013年4月3日、dmARTS)の収録曲「アザレアの亡霊」も連想できるかもしれません。
- 音楽ナタリー:米津玄師「Azalea」インタビュー|愛情ってなんだろう “変化の中にある連続”を見つめて
- Billboard JAPAN:<インタビュー>米津玄師 新曲「Azalea」で向き合った、恋愛における“距離”――「愛情」の源にある“剥き身の生”とは
- ニコニコ動画:トーマ「アザレアの亡霊」
DAOKO×米津玄師「打上花火」
「Azalea」のピアノやコード進行などの曲の特徴は、アニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(2017年8月18日)の主題歌「打上花火」(2017年8月16日、トイズファクトリー)に似ているという考察もあります。
ネタバレは避けたいところですが、ピアノや花火はドラマ『さよならのつづき』のモチーフになっているため意図的に寄せたのかもしれません。
米津玄師「orion」
「打上花火」に関しては推察ですが、実際にあったタイアップ先からのオーダーは、ラブソングなのでTVアニメ『3月のライオン』第1シリーズ第2クール(2017年1月~3月)のエンディングテーマに起用された6thシングル「orion」(2017年2月15日)みたいな曲だったそうです。
「1番Aメロ」は「別れた恋人が残したアザレアの挿し木の花が咲いた」という王道の失恋ソングのようにも感じられます。ただ「Azalea」の語り手は『さよならのつづき』のさえ子(有村架純さん)。
さえ子目線では「事故死した恋人・雄介(生田斗真さん)の残した心臓(花)が移植(挿し木)されて成瀬(坂口健太郎さん)の中で生きていた(咲いてた)」と解釈できます。「あの時」はいつなのかというと「雄介が生きていたとき」、とくに事故にあう直前の「プロポーズのとき」かもしれません。
そうすると「君の頬を撫(な)でた」の「君」は「雄介の心臓を持つ成瀬」なので、果たして雄介なのか、成瀬なのかという混乱が生じます。
1番Bメロ:近い距離で育む愛情
ずっと側にいてって 手に触れてって
言ったよね 君が困り果てるくらいに
誰も知らぬプルートゥ
夜明けのブルーム
仄かに香るシトラス
二人だけ 鼻歌がリンクしていくAzalea/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
米津玄師さんはさまざまなインタビューで「究極的に愛する人は交換可能な存在だけれども、物理的な距離が近くなるという行為を積み重ねることによって、作り上げるのが愛情」といった考え方を提示しています。
「視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚」の五感のうち、「視覚、聴覚」は距離が遠くても感じられますが、「触覚、味覚、嗅覚」は距離が近いときしか感じられません。そのため「手に触れる」という行為(触覚)や「シトラスの香り」を嗅ぐという行為(嗅覚)をクローズアップしたのでしょう。
さらに「聴覚」のなかでも実際の「鼻歌」を聴くためには物理的な距離の近さが必要です。また「二人だけリンクする鼻歌」といえば『さよならのつづき』の重要なエピソードを連想できるでしょう。
ちなみに「プルートゥ」(Pluto)はローマ神話の死後の世界を司る神。「ブルーム」(bloom)は開花。「シトラス」(citrus)は柑橘類のことです。
1番サビ:変化し続ける人間の愛し方
せーので黙って何もしないでいてみない?
今時が止まって見えるくらい
君がどこか変わってしまっても
ずっと私は 君が好きだった
君はアザレアAzalea/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
まるで「時が止まって見える」ような途切れ途切れの歌い方が切ない「1番サビ」。「愛情を育むためには近い距離で行為を積み重ねる必要がある」という米津玄師さんの考え方に従うと、一緒にいながら「何もしない」のも行為のひとつ。とくに『さよならのつづき』では「何もしない」ことが重要な愛情表現として描かれています。
「どこか変わってしまった君」や「挿し木のアザレア」はドラマの「雄介の心臓を持つ成瀬」に相当するだけでなく、米津玄師さん自身の友人にも当てはまるとのこと。そもそも人間は変化し続けながら変わらないところもある存在です。
ドラマでは「さえ子が好きなのは雄介か、成瀬か」という展開が気になりますが、変化しながらも変わらないところがある身のまわりの人や米津玄師さんを愛する方法としても心に染みるサビといえるでしょう。
2番Aメロ:コーヒーに込められた意味
眩むように熱い珈琲 隙間ひらく夜はホーリー
酷い花に嵐 その続きに 思いがけぬストーリー
どうやら今夜未明 二人は行方不明
積み重なるメッセージ そのままほっといてAzalea/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
「珈琲(コーヒー)、ホーリー、ストーリー」や「今夜未明、行方不明」などで踏みまくる韻が耳心地いい「2番Aメロ」。「珈琲」はさりげなく出てきましたが、さえ子はコーヒー会社に勤務しています。コーヒーの温度や味、香りも近い距離で感じるもの。そのため近い距離で育む愛のメタファー(隠喩)とも考えられます。
「酷(ひど)い花に嵐」は「雄介の事故死」、あるいは「雄介から心臓を提供された成瀬の変化」を表現しているのでしょうか。「行方不明になる二人」はさえ子と成瀬、ただし心臓は雄介という状況です。
2番Bメロ:クリムトの絵といえば接吻
目を見つめていて もう少し抱いて
ぎゅっとして それはクリムトの絵みたいに
心臓の音を知ってエンドルフィン
確かに続くリフレイン
ずっとそこにいたんだねAzalea/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
「クリムトの絵」といえば思い浮かぶのは代表作「接吻」(せっぷん)でしょう。キスという言葉を使わず匂わす隠喩や「ぎゅっとして」という現代風の言葉遣いが絶妙です。絵では確かに男女2人が「ぎゅっとして」います。
そのクリムトの「接吻」を想像すれば「心臓」という言葉が出てくるのは自然な流れですが、これまで「心臓=雄介」は「挿し木の花」や「アザレア」というメタファーで表現されていました。ドラマの内容を踏まえるとドキッとするほど直接的な言葉です。
「エンドルフィン」は「幸せホルモン」とも呼ばれる脳内の神経伝達物質、「リフレイン」は繰り返し表現のこと。さえ子と成瀬が「接吻」の絵のように抱き合うことで、雄介の「心臓の音=繰り返し続く鼓動」が聞こえて幸せな気分になり、雄介が「ずっとそこにいた」ことを知る(確認する)展開になりました。
【上映決定!】
『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』
10/19(土)〜10/25(金) 10:00https://t.co/Ouzm2Pj89q pic.twitter.com/T7s0TgIPrj— 下高井戸シネマ (@shimotakacinema) August 26, 2019
2番Dメロ:ラブソングに込めたサウンドの質感
遣る瀬ない夜を壊して
感じたい君のマチエール
縺れ合うように
確かめ合うように 触ってAzalea/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
「マチエール」は「材料、材質、素材、質感、絵肌」といった意味の美術用語。「クリムトの絵」という伏線を回収するような流れです。ここでは「君の肌の質感を感じたい」と解釈できます。
ドラマで「行方不明の二人」が「積み重なるメッセージ」を無視したまま「遣る瀬ない夜を壊して縺(もつ)れ合った」のかどうかについて思いをはせると、やるせない(切ない、つらい、どうしようもない)としか言いようがありません。
雄介は亡くなり、成瀬の中の心臓のみが生きている状態。さえ子は雄介の肌も心臓も触ることができません。成瀬の肌には触れられるものの、成瀬には妻がいます。そして成瀬は……というネタバレは自粛しておきましょう。
絵心のある音楽家・米津玄師さんはJ-POPの王道ラブソングのスタイルをとりながら、サウンドのマチエール(質感)が重要というメッセージを込めた感じもします。
2番ラスサビ:君が君じゃなくても君が好きだったの真意
せーので黙って何もしないでいてみない?
今時が止まって見えるくらい
君がどこか変わってしまっても
ずっと私は 君が好きだった泡を切らしたソーダみたいに
着ずに古したシャツみたいに
苺が落ちたケーキみたいに
捨てられない写真みたいに
そこにいてもいなくても
君が君じゃなくても
私は君が好きだった
君はアザレアAzalea/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
ラブソングはドラマチックになりがちなものですが、誇張を控え、些細な表現を積み重ねることによって増幅する効果を狙ったという「Azalea」。サウンドも歌詞も、嘘っぽくならない真実味のある質感を大事にしたと考えられます。
「苺が落ちたケーキ」などの日常的な描写を重ねた果てにたどり着くのが「君が君じゃなくても 私は君が好きだった 君はアザレア」です。「成瀬が雄介じゃなくても、雄介の心臓を持つ成瀬が好きだった。雄介の心臓を持つ成瀬は挿し木のアザレア」という結末でしょうか。
「変化し続ける人間を愛し続ける方法」のほか、「好きだった」という過去形に着目して「雄介も成瀬も好きという執着を手放した」とも解釈できます。あるいは「雄介の心臓を持つ成瀬が好きということに今気づいた」可能性もあるでしょう。相反する考察すら同時に成立する結末なので、ドラマと照らし合わせながらしっくりくる解釈をお選びください。
おわりに
「Azalea」は米津玄師さん自身がイントロの途中から蛍光灯の音を入れるという物音系にチャレンジしているほか、打ち込みとピアノ(電子音と生音)、ラブソングなのにローテンションなど、相反するものの両立という米津玄師さんらしい特徴が盛り込まれていました。
相変わらずアルバムなどの売上も好調でさまざまなランキングを賑わせている米津玄師さんは、TVアニメ『メダリスト』(2025年1月4日〜)のオープニング主題歌「BOW AND ARROW」も担当。自身初のドーム公演を含むライブツアー『米津玄師 2025 TOUR / JUNK』(2025年1月9日〜2月27日)も開催します。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)-Beginning-』本予告
TVアニメ・ガンダムの新シリーズ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(ジークアクス)に先駆けて、2025年1月17日に公開された劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』の主題歌「Plazma」は2025年1月20日配信です。
https://twitter.com/hachi_08/status/1879893027663290622
ハチ「ドーナツホール 2024 / DONUT HOLE 2024」
- 作詞・作曲・プロデュース:ハチ(HACHI)
- 原案・キャラクターデザイン(GUMI、初音ミク、巡音ルカ、鏡音リン):米津玄師
- 監督:神谷雄貴
- アニメーション制作:Production I.G
- GODIVA × HACHI DONUT HOLE Collection(ドーナツホール コレクション):2024年10月1日~12月31日
ボカロP・ハチさん時代の「ドーナツホール」(2015年11月13日)のMVも新しくなりました。
今回の新MVはGODIVAさんからドーナツホールで商品を出したいというお話を頂いたところから始まりました。直感的に面白そうだと思い立ち、それなら新たに絵を描こうと一念発起してGUMIたちを描き下ろし始めたのですが、次第にどうも「彼女たちが自分の中で成長している」ことに気づきました。… pic.twitter.com/FVZjyuYBdG
— 米津玄師 ハチ (@hachi_08) September 30, 2024
米津玄師「メランコリーキッチン」
ハチさんから米津玄師さんに変わっても、変わらず2ndアルバム『YANKEE』(2014年4月23日)の収録曲「メランコリーキッチン」がベストというファンも多いでしょう。「まずは音像から変えて、軽やかに生きていきたい」という新たなモードに突入した米津玄師さんの今後の変化にも注目です。
『第75回NHK紅白歌合戦』(2024年12月31日)には特別企画として出演。朝ドラ「虎に翼」主題歌の「さよーならまたいつか!」を披露しました。その歌詞考察記事も併せてどうぞ!
『第75回NHK紅白歌合戦』 に特別企画として、出演させて頂く事になりました。
「虎に翼」というかけ値なしに素晴らしいドラマこそ、紅白歌合戦というハレの場に相応しく、わたしが出演することでその一助になるのであればと思い、このたび紅白歌合戦に出場させて頂く運びとなりました。… pic.twitter.com/wu35NYXxNO— 米津玄師 ハチ (@hachi_08) December 20, 2024